develop/Explorer 探索者 [3 ahead]
□Notification! [return place;]
帰り道。
森から出て、人界であるおおたかの森へと戻った自分達は、安心した帰路についていた。
「おおたかの森」というのは千葉県の一地区の名称であり、「森」ではない。確かに自然豊かな地と言えなくもないが、多くは住宅街である。時流からしてよろしくない名称ではあるが、古く馴染んだ名前であるため、反発を覚える者はいなかったようだ。
「ところで狐さん。私がいない時って羅生さん達はどうしてるんです?」
「逃げてますよ。それ以外に手がないからね」
ドルイドである彼女は何故か羅生に襲われない。更にはドルイドの近くにいる人間も同様に襲われなくなる。羅生に襲われないにも関わらずあの校舎に展開されている羅生避けの結界は、彼女自身のためのものではなく、自分のために作られたものだ。
「エクスプローラーさんは大変ですね。ドルイドになればいいんじゃないですか?」
「それができたら苦労ないよ」
くすり、と笑う。
思えば彼女は森の侵食がはじまった二年前より、もっと前からドルイドであったように思う。勿論その能力が露見したのは森の侵食以降となるが、それ以前にも能力の片鱗を幾度となく見てきている。
雨乞いと雪乞い。てるてるぼうず一つで天候を左右できる呪が、彼女の特技であった。他にも、待ち合わせも連絡もなしに遭遇することができるシンパシーを持っていた。
なぜ彼女がそうしたドルイドの力を得ることになったのかは今をしてわからない。
先天的なものであるか、後天的なものであるか。自分は、後者であると考えている。彼女は、人界を侵食した森が現れるまではちょっとスピリチュアルな森ガールでしかなかった。
ドルイド系女子とは、山ガールなどと同じく森ガールの一つの進化形態なのではないだろうか。
「狐さん狐さん」
無心に空を眺めながら、バイクを押していた自分の服の裾をつまんで、問いかけてくる。
「明日って空いてますか?」
「空いてますよ。バイトは休みで一日暇です」
ほうっ、と意外そうなリアクションをとられる。
「狐さんは多忙人なイメージがあるのですが、珍しいですね」
「そんなことはないよ。忙しかったら、週末にわざわざこんな所まで来ていないですしね」
実際、普段からそう忙しくしているわけではないが、彼女から多忙だと思われていることは多かった。
「それでは明日、おおたかの森の駅に10時でどうでしょう」
自分はそれを了承する。彼女にはドルイドとしてのシンパシー能力があるので、待ち合わせという行為に実質的な意味はないが、森が侵食した頃から、こうして待ち合わせは行うようにしていた。
特技と能力。この差は大きなものである。
彼女は、日常的にドルイドの能力を使うことは避けていた。ほぼあり得ないことではあるが、万が一ドルイドの能力が世間に知れようものなら面倒事は避けられないからだ。
「どうかしましたか?」
シンパシーのことを考えていた為か、少しだけ上の空だったようだ。彼女が首を傾げる。
「ごめん、なんでもないよ。待ち合わせは大丈夫」
彼女は一瞬だけ不思議そうにしたが、特に気にならなかったようで「じゃあ、また明日ですね」と静かに言った。
おおたかの森の住宅街。もう彼女の家のすぐ近くまで来ていた。
「うん、おやすみ」
しんとした夜の空気を感じながら、彼女を見送った。