世話焼きピリカ
「朝よ、早く起きて。学校行くんでしょ」
布団で眠っていた俺はピリカの声で起こされる。
「んん、起こしに来てくれたんですか・・・ありがとうございます、ピリカさ・・・ん」
目の前にはかわいい女の子がいた。年は一緒くらいだろうか。
整った顔立ちでスタイルも良く、クラスにいたら男子からの人気ナンバーワンは間違いないだろう。
状況的に彼女こそがピリカで間違いない。
(あんな重そうな鎧着てて、力も強かったし、てっきりゴリラかと思ってたけど・・・なんだよ、結構かわいい顔してんじゃん)
意外すぎて少し見とれていたが、急に恥ずかしくなり始めた。
なぜなら俺は今まで女の子と部屋で一緒にいたことがないからである。
気づかれるのも嫌なので適当に話をすることにした。
「きょ、今日は鎧を付けてないんですね。ピリカさん」
「あれは何か特別なことがあった時につけるものなの。普段から付けてたら死んじゃうわ」
「重そうですもんね・・・へへ」
「そんなかしこまらなくてもいいわよ。普通でいいわ。年も近そうだし」
「そ、そっか」
(まぁ一応俺客人だし、もう敬語とかさん付けとかしなくてもいいはずだよな・・・)
「ほら、あなたの制服よ。先生に余ってる物を貰ってきたわ。早く着ちゃいなさい」
相変わらずの世話焼きである。
「お、おう。ありがとな、ピリカ」
その後、軽い食事を取り学校へと向かった。
◇
「着いたわ。ここが学校よ」
案内されたところはでかい建物があるだけで、校庭や体育館などは見当たらない。
ひたすら魔法だけを教え込んでいるのだろう。
「まずは魔法の基礎についての授業を受けましょう。途中からになるけど、前の部分は私が教えてあげるわ」
授業の補完もしてくれる。さすが世話焼きのピリカだ。
「ああ、悪いな」
「別にいいわ。さ、行きましょ」
ピリカに付いて行き、俺は教室へと向かった。
◇
「失礼します」
教室に入ると、そこには小学生くらいの子供たちが先生から授業を受けていた。
その光景に俺はきょとんとする。
「あら?新しいお友達?」
「ほら、エイト」
ピリカが俺を小突く。
「あ、山田エイトです。よろしくお願いします・・・」
俺は恥ずかしそうに答える。
「エイトくんね。みなさーん、これからみんなと一緒にお勉強をする、山田エイトくんでーす。みんな仲良くしてあげてね~」
《はーい!》
先生の呼びかけに子供たちが元気よく答える。
(まぁ魔法の基礎を教えてる訳だし、俺くらいの年の奴がいる訳ないよな・・・でもこれはさすがに恥ずかしい・・・)
そのまま空いてる席へと案内され、俺達は席に着く。
(とりあえず真面目に授業を受けてみよう。もしかしたら本当に魔法を発明できるかもしれないし、恥ずかしがってる場合じゃないよな)
俺はそう意気込み授業を受けることにした。
授業内容は魔法が出る仕組みを子供でも分かるように説明したもので、俺でもすんなりと理解できた。
ここまでで学んだことを整理すると、
まず人には魔力の器というものがって、そこに溜まっている魔力を使って魔法を発動する。
魔力をそのまま放出すると魔弾となり、放出前に体内で変換することにより火や氷なんかの魔法に変わる。
だが変換には多少の魔力と時間が掛かるため、属性が通りやすい敵の場合は変換した魔法を使い、基本的には魔弾で戦うようだ。
「なぁピリカ、大体のことは分かったしもう基礎はいいんじゃないか?」
「ダメよ、基礎は大事なんだから。完璧にしなくちゃ。ほらここの文字は――」
「あ、ああ・・・」
子供たちに囲まれ、女の子から文字を教わり、基礎の授業を受ける。
人によっては天国かもしれないが、俺にとってははずかしめ以外の何物でもない。
しかし完璧にしないとピリカは帰してくれそうにないので、俺は耐えるしかないのであった。
(誰か・・・変わってくれ~い)
・・・どうやら俺の心の叫びは誰にも届かないらしい。