チュートリアルはないんですか
「魔法も使えないし、運動もダメな俺が魔王なんて倒せませんよ!」
「分かっておる、だから期待なぞしとらんから安心しろ」
「・・・それなら家に帰して下さい!」
「倒したら帰してやる」
「そんな・・・」
勝手に召喚しといて俺には帰る権利がない。
ひどい話だ。
「ほら、軍資金だ。受け取れ」
金貨数枚が乱雑に俺の前に投げられる。
「後は全部自分で何とかするんだ。いいな」
「後はって、何をすればいいのか・・・」
「よし、説明は終わりだ。そいつを城の外に連れ出せ!」
「はっ仰せのままに!」
鎧の奴らが俺の両腕を抱え込む。
「ちょっと待って下さい!」
そんな言葉には耳を貸さず俺を城の外へ連れ出し始める。
このままでは俺も死ぬことになる。
とにかく連れ出されないようにしなくてはいけない。
俺は彼らに自分をアピールすることにした。
「俺の世界では義務教育ってのがあって、実はすごい頭がいいんですよ!」
義務教育は本当だが、頭がいいのはウソである。
授業中はゲームのことしか考えていなかったからだ。
しかしそんなことはこの際どうでもいい。
「前に召喚した奴もそんなことを言っていたな」
「それなら、学校か何かに通わせてもらえれば強くなるかも!」
「前の奴は文字が読めんかったぞ。お前が読めるとは思えん」
「で、ではどなたか文字を教えてくれる方を付けてもらえれば!」
「そもそもお前は魔法が使えないではないか。そんなやつが勉強したところで意味がないのだよ」
「魔法は使えませんが、何かすごい魔法を発明するかもしれませんよ!ここで俺を野放しにするなんて勿体無いと思いませんか?」
とにかくここに留まれるよう必死に言葉を見つけ出す。
「あーもーうるさいやつだ!さっさと連れて行かんか!」
玉座の男は怒ってしまった。
こうなってしまったらもう俺の話は聞いてもらえないだろう。
これ以上言うよなら殺されるかもしれない。
しかし、このままでもどうせ死ぬ。
ならばいっそのこと俺を勝手に召喚したこいつらに暴言でも言ってやろうか。
そう思い始めた時だった。
「恐れながら、この者の言うことにも一理あるかと思われます」
玉座の男に一番近い鎧の男が言う。
「そうとは思えん!理由は何だ!」
「異世界の人間の彼なら、我々とは違う魔法の見方ができるかもしれません。
それに頭も良いようです。新たな魔法を発見する可能性は十分にあるかと」
「発見できなければどうする?」
「発見できなかったとしても大した出費にはなりませんし、やってみる価値はあると思います」
玉座の男は少し考え込むが、
「もうよい、そやつの処分はお前に任せる。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
めんどくさくなったのか、そう言い残すと奥の部屋へ引っ込んで行った。
「よし、そいつを離してやれ」
解放され俺は床にへたり込む。どうやら俺の寿命は少し延びたらしい。