無理ゲー
「この者も魔法がない世界の人間のようです。魔力がまったく感じられません。見たところ体力もあまりなさそうです」
玉座の男に一番近い鎧の男が言う。位置的に偉い地位の人間だろうか。
「今回もハズレか」
そう言うと玉座の男は残念そうにため息をつく。
(ハズレってひどいこと言うなぁ。まぁ魔力も体力もないんじゃ仕方ないんだろうけど・・・。確か今回も、とか言ってたな・・・ということは俺以外にも誰か召喚していたということか?)
そう考えを巡らせる俺をよそに、玉座の男がしゃべりだす。
「よし、始めよ」
「はっ、仰せのままに!」
魔術師の集団がそう答えると、呪文らしきものを唱え始めた。それと同時に俺の足元に魔方陣が展開される。
「おぉ!?魔方陣だ。すげぇ・・・」
本物の魔法を見て少し興奮する。いや、俺でなくてもこれは興奮するだろう。
しばらくすると魔方陣から赤い霧が湧き出でて、そのまま俺の体に入り込んできた。
(お~霧が体に入ってくる・・・あ~すっごい)
別に気持ちよさはないが、この新しい感覚にしばらく身を任せていた。
すると術が終わったのか魔法陣がすっと消えていった。
(今のってもしかして、俺を強くする魔法・・・異世界物でよくあるチートを授けてくれたのか!?)
ゲームができないのは悲しい。だが、チートを使って俺TUEEができるとなると話は変わってくる。
(チートがあれば悪者なんかばったばったとなぎ倒せるし、女の子からは強いから好かれるだろうし、あれ、俺また世界を救っちゃいました?とかイキったりもできるし!最高じゃないか!)
これからのことに期待を膨らませた結果、俺のテンションが急激に上がった。
「いいか、お前にはこれから魔王を倒しに行ってもらう」
普通なら困惑どころではないことを言われたが、俺が動じることはなかった。
チートを授けたということは、何かしらの討伐を言い渡されるのは予想ができたからだ。
(うーん魔王か。もっと強そうなやつが良かったけども・・・まぁしょうがない。チートを得たこの最強の俺が、この世界、救ってやりますか!)
「任せて下さい、必ず魔王を倒して見せますよ」
俺はここぞとばかりにイキる。
「ほう、頼もしいな。それと、さっきお前に3年後に死ぬ呪いをかけた。死にたくなければ魔王を倒してこい。そうすれば呪いを解いてやる」
その言葉を聞いた瞬間、俺の表情は固る。そして心の中の将来のビジョンが音を立てて崩れ落ちていった。
「・・・うそでしょう?」
もはやこの可能性に期待するしかない。
「うそではない。お前より前に召喚したやつが魔王を倒しに行かずに、近くの村でのんきに暮らしておったものでなぁ。気に入らんから次から呪いを掛けることにした。もちろんそいつにも呪いを掛けてやったわ」
どうやら前に来たやつはスローライフを楽しんでいたところを見つかってしまったらしい。
そいつのせいでこんなことになったのだが、魔王を倒すなんて無理だったのだろうと思うと、攻める気持ちにはなれなかった。
それよりも今大事なのは、俺の今後である。
(このままじゃ力も魔法もない俺は確実に死ぬ。そんなことはこの人も分かってるはず。さっきハズレって言ってたし・・・ならやっぱり)
「もしかして、このあとチート的なものを授けてくれたりします?」
「そんなものあるわけなかろう」
玉座の男は鼻で笑う。
どうやら俺はハズレの異世界を引いてしまったらしい。