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異世界侍  作者: 黒銘菓
6/9

侍VS女神 1

「むぅ、外見もさることながら内装も拙者の知る城と全くの別物だな。」

 拙者はデコリック殿の教えてくれた道を走っていた。

 拙者の知る城とは似ても似つかぬとは外から見た時も思っていたが、内側も同様であった。

 先ず豪華絢爛である。見上げる天井には太陽の如く大きく眩しい灯篭。石で出来た壁から床から華美な模様が施されており、窓にはギヤマン(硝子)が嵌め込まれ、同じくギヤマン製の灯篭が廊下を照らしていた。

この国は余程栄えているのだろう。

拙者の国も栄えている方ではあったがこのような装飾は無かった。城がまるで一つの美術品であるかのように美しく、輝いていた。

そんな風に周囲の様子を見ながら一つ、腑に落ちないことが在った。

「兵がおらん。」

そう、先程から侵入者、つまり拙者を阻む者が居ないのだ。

前の城壁には見張りが居た。拙者のことは城中に知れ渡っている筈。これだけの城なら拙者を捕らえようと兵がわらわら出てくる筈なのに、誰も居ない。気配もない。

「何故だ?」

何かの罠か、はたまた全員で王の元へ集って守りを固めているかといぶかしんでいると。

「くっ!」

ギヤマンの窓が割れ、そこから黒い何かが拙者に向かって襲い掛かってきた。

幸い用心していたから避けられたものの、黒い何かが当たった灯篭は石で出来た壁ごと砕けて炎を撒き散らした。

「何奴!?」

黒い何か。墨のように黒く、泥のようにドロリとした何かの元凶。窓の上に居るであろう何かに問いかける。

「…………………………………」 窓の上から黒い塊がナメクジのように這ってきた。

天井に張り付き、表面を波打たせている。

「貴様も特別近衛なるものの仲間か?拙者の連れを知っているか?」

「…………………………………」 何も答えない。天井に張り付いたまま波打たせている。

その表面から鍾乳石のように黒い泥が滴り、拙者目掛けて飛んできた。

「まぁ良い。貴殿が知ろうと知るまいと、通す気がないならば押し通るまで!!」

黒い鍾乳石を弾き、黒塊に告げる。

「拙者は無刃流の雨月宗右衛門。拐われた連れを奪還すべく、押し通させてもらう!!」


黒塊と拙者の闘いが始まった。



「破!!」

蛸のように伸びた黒塊を拙者が斬る。手応えが無く、斬られた先端は支えを無くしたように解けて床に飛び散る。

「…………………………………」

天井から飛び降りた黒塊の本体と思しき者は形を変え、蛸のように自分の周囲に手足のようなものを作り出した。

「…………………………………」

そのまま拙者に向かって飛び出してきた。

「ぬぅ!」

蛸は飛び出しながら、身体を捩って回転させてきた。手足を鞭のようにしならせ突撃する。

直撃は不味い。そう思った拙者は真一文字に斬りかかる。

「せい!やぁ!」

掛け声と共に迫る蛸は真っ二つになる。

筈だった。

突然回転蛸は空中で引っ張られるように後ろに下がりつつ、鞭を伸ばして拙者に叩きつけてきた。 「ぐ!!」

間一髪、迫る鞭を避ける。危うく目をやられるところであった。 「一体何を?」

空中で下がった理由は直ぐに解った。蛸を見るとその後方に黒い鍾乳石があった。そこに蛸が触手を巻き付けていた。

成る程。前の鍾乳石を支えにして回避したか。斬った後に液化したから大丈夫と高を括ったのは間違いであったか。なれば。

「斬らずに倒すまでよ。」


焦熱


斬り上げるさいに床が真っ赤に溶け、その際の熱風が黒塊に襲い掛かる。

水のような身体。なれば蒸発すれば良い。

中に人が居る場合を考えてやや弱めに撃ったが、それでも何度も撃てば直勝負は着く。

「…………………………………」

そうはいかない。蛸は姿を変えると真っ黒な甲冑に身を包んだ人間になった。手には槍と盾。灼熱は盾により防がれた。

「フフフ、考える頭は有るようだな。」

剣と槍。基本的に剣より槍の方が強い。槍の方が間合い的に有利なのだ。狭い場所なら話は別だがここまで広いとそれは考えずとも良い。

つまり、拙者は圧倒的不利。窮地である。

「良し。それでこそである。それでこそ越え征く甲斐がある。」

その時の拙者の顔は笑っていただろう。

「…………………………………」 無言で槍を突き出す黒兵。それを避けながら斬りかかるが、拙者の一刀は盾に阻まれる。火花が散り、刀が弾かれる。その隙を文字通り槍で突いて追撃する。

「中々堅いな。なれば。」


無刃流二の二 鎌鼬籠目


槍に刀を合わせて後ろに下がりつつ、何度も鎌鼬を撃ち込む。

間合いが不利ならこちらは飛び道具を使えば良い。

「…………………………………」 盾を構えて防御の構えをとる黒兵。火花が散り、盾には傷一つ付かない。


無刃流三の二 嵐槌


すかさず次の一手を撃ち込む。 黒兵は守りに徹していた事が仇になった。

風の槌が盾に直撃し、丁度風を受けた帆のように黒兵は吹き飛んでいく。

「…………………………………」 その隙を突くために走り出す。

雲雀


耳鳴りが起きて刀の斬れ味は増す。

鎧が間合いに入った。

「貰った」

鎧に刃が通る瞬間、兜が溶けて鎧の正体が明らかになった。自分の相手に気が付いた。

「エリ殿!?」

自分をこの世界に呼び出し、今まさに拙者が助け出しに来ている筈の女神がそこにいた。

一瞬の躊躇が致命傷に繋がった。

「!」

空中で黒兵が槍を振るう。

隙だらけの脇腹を抉られた。痛みが走り、血が流れる。

「えりどの…なぜ」

力の入らない掠れ声で問いかける。しかし、黒い甲冑から見える彼女は虚ろな目をしているばかりで何も答えてくれなかった。

「…………………………………」

何も答えず槍を片手にこちらに向かって来るエリ殿。

「何故だ、何故貴殿が。」

抉られた傷よりも目の前の光景が痛い。


雲雀


槍を受け流しながら耳鳴りの剣で槍を斬ろうとする。しかし、次の瞬間。槍は形を変え、大鎌に変わった。槍の一撃が鎌の一撃に変わる。

「ぬぅ!」

押し切られてよろめく。

そうしている間にエリ殿は少女に似合わない大鎌を振るって拙者の命を刈り取ろうとする。

「エリ殿、何故だ?何故貴殿がこのようなことをする?拙者だ!雨月だ!エリ殿!」

【無駄サ。】

エリ殿の口から突っぱねるような声が聞こえた。しかし、その声はエリ殿の者では無かった。

「何奴?……さては貴様がエリ殿の言う邪悪かっ!!エリ殿に何をした!?」

痛みと怒りで顔が強張る。

【オイオイ、俺は何も悪さはしてないゼ?ただ、このお嬢ちゃんの願いを叶えてやっただけサ。むしろ良いことをしたんダ。褒め称えても貶すのは無しだゼ。】

何かの声は面白可笑しく話続ける。

【このお嬢ちゃんが何願ったか知ってるカ?力が欲しいだとサ。何も出来ないのはイヤらしいゼ。だから力をやっタ。】

「その結果何故?」

【馬鹿かお前モ?力をやる願いを叶えてやったんダ。こっちも願いを叶えてもらわにゃ勘定が合わねえだろうサ。つまり…この女の身体は俺が貰ったって訳サ。】

 「下衆めが!叩き斬ってくれる!」

【ハハハハハハハハハ、やってみナ。俺はここにいるゼ】

エリ殿の口が開き、その中からイカ墨と泥を混ぜたような塊が出てきた。その塊から不気味な黒い眼と口が生えてきた。どうやらアレが本体のようだ。

「!」


無刃流五 翡翠


脇腹の血と痛みに構わず突きを喰らわせる。狙いはあの黒い塊。一撃で砕き斬る!

しかし、拙者の一撃は虚しくも止められた。大鎌がドロリと蠢いて盾になり突きを止めた。

【ハハハハハハハハ。残念だったナ。あと少しだったのにナ。しかし、臆病な俺はこのお嬢ちゃんの体内に潜り込んでしまおウ。俺を倒したくばこの嬢ちゃんの心臓を斬るんだな。その近くにオレは潜ってるからヨ。さぁ、お前に出来るかナ?】

盾から触手が伸び、出血した脇腹に突きを食らわせ吹き飛ばす。

その間に黒い目玉はエリ殿の口の中にまたしても入っていった。

【さぁ、いざ尋常に勝負ってカ?ハハハハハハハ。】

エリ殿に似合わぬ下衆な笑いをして鎌を持ったエリ殿が突進してくる。

【ホラホラホラ。ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラ!何もしなけりゃ死んじまうゼ?ホラホラさっさと攻撃しな。俺はここだゼ。】

鎌を振り回して挑発する黒目玉。腹立たしいがこの状態では何もできない。一度立て直す

方が先である。


無刃流三の二 嵐槌


鎌が鎧に変わる。嵐槌の反動と防御の隙をついて距離を取る。

 とはいったものの。脇腹を抉られ、実質人質を捕られ、相手はその人質の体の中。

 助けようとすればこちらも危うい。しかし、選択肢は一つ。

 「エリ殿。暫し待たれよ。必ず助ける。」

 刀を黒目玉に突きつける。貴様を絶対斬る。そして彼女を絶対殺しはしない。


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