刺激には限度がある
「ふぅ‥‥‥」
タバコの煙を吐くと同時にため息がでるのを俺は感じた。
このバイトを始めてもう2年がたつ。大学進学で一人暮らし、それと同時に始めたバイト、いつしか変わらない刺激のない日々となってしまった。
「いつバイト辞めようか?」なんて思う日が続く毎日。つまらない‥‥‥
大学入学当時はあんなに輝いていたキャンパスライフも、アルバイトも、今では昔の話になってしまった。 そんなことを思いながら、今日もバイト先の喫煙所で煙をふかす俺、田澤俊介がいた。
喫煙所から休憩室に戻ると、店長が面接をしていた。すぐにわかった。新しいアルバイトの採用である。
面接だったら客席でやってほしいと思った。
「あ、田澤くんお疲れ様。」
「お疲れ様です」
俺は無意識に顔を覗く。
店長は俺の視線に気が付いたらしい
「新しく採用が決まった二人だよ。いろいろ教えてあげてね」
俺は軽くうなずいた。
「ほら!自己紹介して」
やけにテンションが高い店長。理由は明白だった。採用した二人は女だったからだ。
この女好き店長が!
「伊藤真冬です。王徳学院大学に通っています。よろしくお願いします。」
雰囲気はお嬢様だった。比較的小柄であり、おしとやかで物静かなイメージを植え付ける白い肌、優しそうな大きな眼をしていた。
「植田悠希です。私も王徳学院大学です。」
雰囲気は大人の女性だった。身長は女にしては高く、少しキツい顔立ちをしているがスタイルはよく、綺麗な印象だった。
「愛和大学の田澤です」
と軽く自己紹介を済ませた。
王徳学院大はここからも俺の大学とも近いな、まぁどうでもいいか。
「じゃあ、俺帰りますわ」
「おぉ!もうそんな時間か。気を付けてかえってね。二人も明日からよろしくね」
「はーい」
俺を含めた三人は同じタイミングで店を出た。
店から出た俺は、急ぎ足で家に向かった。なぜなら、あの二人店と一緒にを出されたからである。別に女嫌いというわけではないが、仲良くなろうとも思わなかった。できるだけ話しかけられないようにしよう。
‥‥が、しかし二人は俺の後を追うかのようについてくる。二人の会話の声が常に聞こえてくる。大学が近いから家も近い可能性はあるが、もう少しで到着するのにまだついてくるとはどういうことだ。俺は、黙って歩を進めた。
なんだかんだで俺の住むアパートに到着した。流石に、と思い後ろを振り返った時、彼女たちは俺の後ろに立っていた。
「ふぇ?!」思わず変な声が出た。
「田口さんでしたっけ?田口さんのアパートもここなんですか?」
植田はキョトンとした顔で言う。
「田澤だよ」
「も、ってお前らここに住んでるのか?」
「はい」
二人は口をそろえていった。
「はー!?何階だよ?」
「7階です」
と伊藤が言う
俺は唾をのんだ
「部屋‥‥番‥は?」
「715号室です。」
伊藤の告げた部屋番で俺は言葉を失った。なぜならその部屋は‥‥
俺の隣だったからだ。
「田口さんは?」
と伊藤は問う
すごく答えずらかった。てか誰だよ!
「だから田澤だって!‥‥716だよ」
とそっぽ向いて答えた。
「えー、私たちの隣じゃないですか!」
植田は細い眼を大きくして驚いた。
伊藤はあまり表情がかわらない。いやなのか?
「お前ら一緒に住んでるの?」
「はい!今流行りのシェアハウスってやつですね」
植田は嬉しそうに言う。
伊藤はあまり表情が変わらない。いやなんだな、俺もだけど‥‥
伊藤真冬と植田悠希
今の今まで赤の他人だった人間が壁を挟んで生活しているなんて‥‥
多くの人が共感してくれると思うが存在を全く知らない人よりも、存在を認知している程度の人間が近くにいるほうが、辛い。
俺は頭を抱えて、しゃがみ込んだ。
「どうかしました?頭でも痛いんですか?」
バカな質問をしてくる植田
俺は立ち上がるのに時間がかかった。
ここで俺は3つのことを確信した。これから面倒なことになること。プライベートな空間がなくなること。そして刺激のない日々は終わったことを。
でも俺が求めていたのはこういう刺激じゃない!
この物語は、彼女らの秘密を知り、彼女らに振り回され、そして巻き込まれていく一人の男の悲惨な物語である。