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鉛弾はキスの味  作者: G4
第一章 Bad Children's
9/28

勝利への執念

 ハッキリ言えばガンマンは盗賊相手には非常に相性が悪い。ガンマンの苦手とする近距離戦に簡単に持ち込んできて銃の動きを封じてくるからだ。

 それでもサムはやけに落ち着いていた。――だったら絶対に近づけさせなければ良いだけじゃないか、と。


「子供だましは何度も通じないぜ?」


 背中目掛けて黒短剣を突き出すノアにではなく、正面の何もない場所へ目掛けてサムは一発銃弾を放つ。

 すると、「くっ!?」という唸り声と共に何も無かった場所から黒い霧が霧散するようにしてノアの体が現れた。同時に後ろではパラパラと砂が崩れ去る音。先程動いていたノアにそっくりだった”土人形”が砂へと形を変えていった。


 驚愕の表情を隠せないままノアがサムへと向かって声を上げる。


「なぜ土人形だけでなく、あたしの本当の居場所さえ分かったんだ!? 今まで一度たりとも見破られたことが無かったのに?!」

「言ったろう? 女性を見る目は自信があるって」


 まるで答えになっていない返事に苛立ちを覚えながらノアは再び加速した。先程よりももっと速く――。

 黒短剣の能力なのかノアの速度は段々と視認することさえ難しくなってきている。ひょっとしたらこの時点でそこらの魔物よりも数段スピードが上かもしれない。

 しかしサムは笑みを崩さない。それどころか口笛を吹きながらサムは右側面へと銃弾を二発放つ。


「うあっ!??」


 再びノアの唸り声が上がると、サムの偏差射撃によって加速していたノアが勢いよく地面に倒れ込んだ。地面にある小さな石が彼女の皮膚を傷つける。スピードがかなりついていたため今の転倒はかなり痛いはずだ。

 立ち上がろうと地面に手をつくノアに向かってサムが口を開く。


「無詠唱による土人形の作成、そして体が霧が消えるように見せる影移動シャドウムーブ。いくらその黒短剣が魔力を与えてくれるとはいえ、無理しすぎだぞ」


 少しでも耳に届いてほしいと再び忠告を発するサム。今までノアのような人間は何人と見て来たから言うのだ。

 だが再びその忠告もノアの疑問によって打ち消された。

 なぜだ? なぜ最初のように奴に近づけないんだ?スピードを利用して攪乱中に土人形を無詠唱で生み出し自分は影移動で身を潜める。あとは土人形を囮に影移動を利用してサムの体をナイフで突く。たったそれだけの事だというのになぜ上手くいかない? なぜこっちの位置が簡単にばれているんだ?

 ノアにはその現実がまるで理解が出来なかった。


「……この、舐めるな!」


 理解が追い付かないままノアはサムへと矛先を向ける。そして――、


「黒短剣、力を貸せ! もっと沢山の……アタシに奴を倒せるほどの力を!」


 彼女がそう口にして強く願うと、黒短剣が呼応するかのように黒きオーラを発し始めた。

 その禍々しさ溢れるオーラは次第に衣となるように、ノアの体を包み形を変えていく。ゆっくりとそれがノアの体全身へと巡ると、まるで目視できる覇気と言っても過言ではないくらいの力が彼女から発せられる。もう雰囲気が違うなどという次元ではない。


 ノアの様子を見るとサムからは「クソッ」と少し厄介なものを相手にした表情が生まれる。サム自身ももう余裕をこいてはいられない。 


「力が沸いてくる……いける、これほどの力を引き出せればサムだろうがソフィアだろうが殺すことが出来る……!」

「おい、それ以上力を求めるとやばいぞ! 少し抑えろ!」

「さっきからアンタはうるさいんだよ。その減らず口がもう二度と開かないようにしてやる、今度こそ死ね!」

「このガキッ、ちっとは俺の話に耳を傾けろッ!」


 今度はサムがノアに向かって大声を張り上げた。何で近頃のガキどもは感情任せで冷静さを保つことが出来ないんだと、少し嫌気が走る。

 その直後、ノアがサムを睨んだかと思えば姿が消え去った。


「なにっ!??」


 これは影移動などではない。無詠唱呪文とはいえ発動時には必ず魔力が感じ取られる。しかし、それが微塵たりとも感じられないという事は、これはただの加速。超速移動だ!

 そう気づいた時にはサムの目の前に、ノアが一瞬にして姿を現した。

 

「――やべっ!」

「遅い!」


 近距離はガンマンの弱点。ようやく焦りを見せたサムに対して、ノアの表情に笑みが浮かぶ。

 ――勝った。そう確信してサムへとノアは腹部目掛けて一撃を突き出した。

 

「この、クソッたれ」


 ノアが腹部目掛けて一撃を突き出そうとする直前で、サムは銃口を足下に向けて引き金を引いた。その直後、パリンという音と共に辺り一面に閃光が走る。


「なっ、何だ!?」


 強力な光により、サムへとあと一歩だったノアの動きが止まる。その隙に今度はサムがニヤリと笑みをつくって、彼女から距離を取った。

 困惑の中、閃光の光が治まるとノアはサムが銃弾を放った場所に視線を移す。その場所を見た途端、ノアの表情は再び苦虫をかみつぶしたようなものへと変わる。


 光石。

 穴倉の中を照らすこれは中に強い光を蓄えている石であり、衝撃を加えて破壊すると強い光を一面に放つという性質がある。

 銃声と共に閃光が一面に走ったのは、サムはあらかじめ万が一の事を想定して、気付かれないように足元に置いていた光石を破壊したためだ。

 間一髪助かったところでサムは汗を拭う。だが、一度知られたからにはもうこの手は使えないだろう。


「本当にしぶとい奴だ……何なんだアンタは一体。絶対今ならアタシの方が身体能力が上なはずなのに、なぜ攻撃が当てられない!?」

「そりゃ簡単だ。大体の事が読めるからな。どうせ今の攻撃が失敗した次ならば、多くの土人形でも作って数で攻めてやろうとか考えてるんだろう? おまけに銃弾程度では壊れないくらい土人形の強度も上げてな。影移動に関しちゃ魔力の消費が激しすぎるから、今は温存といったところか。どうだ図星だろう?」


 サムの言葉にノアは舌打ちで返す。――――彼の言った事は全部図星だ。

 まるで読心術をされているのではないかという気持ち悪さに、目の前のたった一人の賞金稼ぎには小細工なんて何も通用しないという事をノアは痛感させられる。


 ノアはずっと甘く見ていた。

 冒険者、そして賞金稼ぎ。いくら腕が立つと言えど、この盗賊団の仲間で多くを蹴散らしてきた。当然少しは面倒な連中がいた事はあるが、脅威になる程の敵ではなかった。

 だから今回の相手が名の知れた賞金稼ぎである甘ったるい弾丸キャンディバレットといえど、少し苦戦するかもしれないが上手くいくだろうと思っていた。

 だが今になって現実の厳しさというものを初めて知らされた。

 ――深夜の奇襲の返り討ち。

 ――アジトの特定。

 ――滝のトラップを無理やり打破した正面サム頭上ソフィアの強行突入。

 ――身体能力をした相手にものともしない適応力。

 これが本当の賞金稼ぎか、と。


 もう小細工などが通用しないなら本能に任せて攻撃するしかない。


「本当にアンタが憎いよ。そこまで考えが読めてなぜあたし達の気持ちが読めないんだろうか、とね」

「そりゃすまないな。そう言う事は世間に訴えてくれ。ただし、俺達を倒せたらだけどな」

「ああ……必ず殺して見せるさ。アタシ達には待つ人たちがいるんだから」


 これがおそらく最後の攻撃になるだろう。サムにとってもノアにとっても。

 両者は互いに距離を一定に保っていると、今度はサムが最初に動いた。


 一定の距離を保ちつつノアに向かって一発発砲。先に動かれれば厄介だ。ならば牽制しなくてはいけない。しかしノアも甘くはない。銃弾を必要最低限の動きで避けると、サムの動く方向へと懐のナイフを一本投げつける。


「おおっ!?」


 ナイフでサムは動きが止まってしまう。それを見逃さずノアが今までで最速のスピードで彼の元へと接近する。もはやその速度は肉眼では捉えきることはできない。


「範囲指定脚部、拘束状態維持、――――スパイダーネット!」


 ノアの呪文と共にサムの足元で黒い蜘蛛の糸のようなものが出現すると、それは動きを止めていた足へとキツく巻き付いた。最初に土の塊で足を封じられた時よりも厄介だ。サムがもがいて足を動かそうにも今度は全然動かない。

 まだこんな呪文を隠し持っていやがったのかと、たまらずサムが舌打ちをする。

 動きは封じられ、光石を破壊してももう逃げる時間はない。

 

 サムは偏差射撃の姿勢をつくり、攻撃ルートの予測場所に一発引き金を引こうとした――――が、


「――――遅かったな。どうやらアタシの方が上手だったようだ」


 時すでに遅し。気が付いた時には目の前にはノアの姿がそこにあった。火薬の爆発音はなることはなく、宙にはサムの白い拳銃が回転しながら舞っていった。


 厄介な銃を無力化して本当に確実性のある攻撃で息の根を止める。それがノアの狙いだった。

 どうせ一撃では仕留められないなら二回でも三回でも攻撃する。サムが動きを読むようにこっちだって動きは読めるのだ。銃を出すタイミングくらい察知することが出来る。

 一撃目でサムの手から拳銃が離れた事を確認すると、二撃目で本体を狙い黒短剣を突き出した。


「――――くたばれ、サム!」


 今度こそこれで終わりだ。今までの中で一番の手応えを感じながら、ノアは黒短剣がサムの体に吸い込まれていくのを見る。



 ――――しかし彼女の視界の端ではサムの口角が上がっているのが一瞬だけ映った。


「――――甘すぎるぜスイート・ベイベー


 ――――えっ……?

 ノアはその言葉を聞くと同時に、もう耳にすることはないだろうと思っていた銃声に五感を奪われた。


 


 ◆ ◆ ◆


 ――――穴倉前の滝。


「……どうやら、向こうも決着がついたみたいだね」


 滝の前にてソフィアは手に持つ刀を鞘に仕舞うと、大きく背伸びをする。

 周りには九人もの下っ端盗賊達が横に倒れ、その真ん中にてソフィアだけが無傷で平然と仁王立ちをしていた。

 倒れている中には深夜のリーダーらしき盗賊もおり、その事が逃走の失敗をハッキリと意味をしている。


「まったく、大人しくしていればこんな手荒な真似なんてしなかったのに。子供に手を出すのなんていい気分しないよ」


 地に横たわる盗賊達の顔をソフィアが見れば、どれもこれも思春期真っ盛りな年頃の少年少女達。まさかローブの下にはこんな顔が隠れていたとは、手配書を見た時点では考えもしなかった。


 大きく息をつくいたソフィアは腰に付けたポーチの中から拘束用のロープを取り出し、盗賊達の手を縛っていく。賞金首たるものロープを使って人を拘束するのは慣れているが、やはり子供が相手となるといい気分はしない。

 その気持ちを飲み込みながらも手際よく進め、残ること最後の一人。

 

「なぜ……こんなにも俺達に神は微笑んでくれないのだろう?」


 リーダー格の盗賊の手を縛っていると、ソフィアの耳元にボソッと喋った言葉が聞こえる。

 出来る限り全員の意識を断ち切ったとは思ってはいたが、どうやら最後のこの男だけはまだ口を開くことが出来たようだ。

 

「貴方は神を信じているの?」


 ロープを結び終えると、ソフィアは今口を開いた彼に向かって訪ねてみる。


「昔聞いた事があるんだ……。神を信じ続けた者には幸福が訪れるって……」


 盗賊は少し悲しそうな顔をしながら答える。

 その悲しそうな顔は信じ続ける神が応えてくれない故の表情なのか。それともまた別の意味があって作った表情なのか。

 ソフィアには分からない。しかし、神を信じ続ける彼らへと向けて彼女にはハッキリ言えることがあった。


「私は神が憎いよ。もし存在するなら私は迷わず斬り殺すだろうね」


 自然とソフィアに握りこぶしができる。強者と弱者が牛耳るこの世界で、神を信じ幸福が得られるなら、この世に弱者は存在しない。


「信じ続けたところで幸福が訪れるのはいつだろう。明日? それとも死ぬ間際? 所詮そんなものさ。神なんて名ばかりで、碌なものではないよ」 


 それだけはハッキリとソフィアが言いきれる事であった。誰が何と言おうと。

 彼女がそう言ったところで盗賊は「そうか」とだけ答えると、意識が保てなくなったのかガクリと頭を地に落とした。

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