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鉛弾はキスの味  作者: G4
第一章 Bad Children's
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捜索最終日

 森の茂みを六つの黒い衣をまとった影が走り抜ける。

 走っているというのに大きな物音は立たず、森の生き物たちも寝静まったまま目を覚まさない。

 そのままの勢いで影は中流部を抜け、下流部まで下り、冒険者が拠点として建てていたテントを目指す。

 

 そして走ること数分。

 六つの影は冒険者が寝静まっているであろう拠点へとたどり着いた。


 焚火は消えており、見張りは無し。テントの中からは人の気配が少数。呼吸に合わせてリズムよく聞こえてくる寝息。

 ほんのわずかな時間で六つの影が状況を見計らうと、それぞれが手で合図などを出し合いながら各地へと探し物をするかのように散っていく。


 影の一つはテントの入口へと近づき、中を確認しようと手を伸ばす――――。



「――――動くな」


 入口の幕に手を触れようとした時に、後頭部に冷たい感触。そして、低い男の声。思わず影の体がビクンと跳ねる。

 その瞬間、影は自分が背後を取られ拳銃の銃口が頭に当てられているのだと即座に判断した。


「黒ずくめの盗賊団だな。お尋ね者として指名手配書が出ているぜ」

「……チッ、貴様、賞金稼ぎか?」


 黒ずくめの一人が舌打ちと同時にゆっくりと両手を上げる。

 同時に仲間の様子に気付いたのか残りの黒ずくめの者達がこの場へとやって来た。


「おおっと、これは中々の人数だな。だが、これで全員じゃないだろう? ボス居場所アジトまで案内してもらおうか」


 サムは銃口を当てている一人を人質のように盾にしながら、他の盗賊達に呼びかけてみる。

 口元を覆っていて顔はしっかり見えないが、内心焦っている事は間違いないだろう。何せ奇襲をしようとして失敗に終わったのだから。そうサムは思っていた。


 しかし、その言葉を発した後に目の前に立つ盗賊の目尻がほんの一瞬下がった。まるで、”その程度の事を予期していないとでも思っていたのか”と笑うように。


「サム・ゲイナー・ジェイデン……。貴様がいたとは予想外だ。……だが、甘かったな」

「なに? ――――うおっ! コイツは!?」


 余裕を見せている盗賊にサムが疑問を持つと、突如として人質にしていた一人が砂のように崩れ去っていった。先程の人の形をしていたものは消え去り、代わりに足元で砂の山が出来上がる。

 その瞬間「やられた」と小声で呟くサム。


「土属魔法で土人間みがわりを作っていたとは驚いたぜ」

「賞金稼ぎに褒めてもらえるとは光栄だ。――さて、気付かれた以上しばらく戦闘不能になってもらおうか」


 この中でリーダーと思わしき盗賊がサムへと向けて言葉を吐くと、刃物をサムに向けて投擲してくる。


「――甘いのはそっちも同じだぜ。ほら、後ろに注意しな」


 投げられた刃物を拳銃で払いのけ、盗賊の後ろへと指をさす。それと同時に盗賊の背後から奇襲をかけるようにソフィアが飛び出してきた。

 完全に意識がサムへと向いていた事もあり、素早い盗賊といえど回避が間に合わずに防御の姿勢を取る。

 刃物同士の金属がぶつかり合う音が響き渡り、直後に盗賊の一人が吹き飛んだ。

 それを見て「一丁上がり」と、手応えを感じた様子でソフィアが口にする。


「チィッ! ソフィア・リエットか! 噂に聞いてはいたが、なんて気配の消し方だ」

「それはありがとう。ドッキリ大成功って感じ?」

「ほざけ!」


 仲間を一人やられたことで盗賊側の目尻から笑みが消える。不意を突く筈が逆に突かれてしまい、計算が少し狂ったのだろう。

 

 盗賊の言葉を最後に、互いは一定の距離を保ちながら無言の睨み合いが続く。

 そして一瞬の夜風が吹いた時、盗賊が動きを見せた。先程と同じように刃物の投擲してくるが、今度は数が違う。六本ものナイフが一度に襲い掛かってきた。


 サムは拳銃の引き金を引く。刃物が弾丸によって弾かれ、軽快な音が鳴る。

 こんなもの敵の牽制だと言う事くらいすぐ分かる。刃物を全部弾き飛ばすと、次に狙うのは盗賊の体だ。 サムの持つ銀のリボルバー、通称「白鳥スワン」の装填数は六発。打ち切った弾を再び銃に込め直し、盗賊目掛けて発砲する。

 

 火薬の炸裂音と共に弾丸は真っ直ぐに飛んで行き、盗賊の腹部に命中――――したのだが、


「馬鹿め! それも身代わりだ!」


 再び土人形が砂のように崩れ去っていく。

 土属魔法の土人間は、術者の技量によって限りなく人間に近づけることが出来る。その気になれば気配すらも発せさせることも可能だ。本来は魔物やモンスターからの逃走の際に囮として使ったりするものだが、人間を騙すことも出来る。


 ――この男は再びまんまと引っかかりやがった。後はその余裕をぶっこいている顔を泣き面に変えてやる。

 囮を使っている間にサムの背後へと回り込んだ盗賊が笑みをこぼす。手には先程の小型の刃物ではなく、今度は少し大きさのある刃物、マチェットを持ち、がら空きの背中目掛けて振り下ろす――――。


当たりビンゴ! 甘いぜブラザー」

「――――っ! 何ィ!?」


 再び火薬の炸裂音。直後に宙へとマチェットが飛ぶ。

 リーダーらしき盗賊からは苦痛に歪んだ顔と困惑に満ちた表情。同時に、背後からの一撃の後に追撃を行おうとしていた残りの盗賊の動きが止まった。

 

「な、なぜ……俺の動きを読んでいたのか……?」


 苦しそうに腕を押さえながら、盗賊は声を発する。


「読むも何も、長年の勘ってやつだな。俺が何年賞金稼ぎやってると思うんだ? 舐めて貰っちゃ困るぜ」


 頭にかぶるハットを調整し、ニヤリとサムが笑って見せる。

 その姿を見てリーダーらしき盗賊からは舌打ちの音が発せられた。


「くっ……少し舐め過ぎていた。――おい、一度ここは引くぞ! 相手が悪い!」

「――簡単には逃がさないぜ」

 

 仲間に対し指示を出す盗賊に、サムはもう一発銃弾を浴びせる。

 ――しかし、弾丸が当たった直後に、今そこで喋っていた奴が再び土人形となって崩れ去った。


「なにっ! また身代わりか。さっきから魔法発動の呪文が聞こえないって事はどこか遠くに術者を配置してやがったな」


 残りの盗賊達の方へと振り返ると、黒煙玉で完全に夜の闇へと溶け込んでいく。目視で視認することは出来ない。


「ソフィア!」

「無理! 全員四方八方に散っていって後を追えない!」


 後を追うにもこれでは道に迷ったり魔物やモンスターと遭遇する危険があり、手の打ちようがない。

 サムは舌打ちをすると、くるくるとガンスピンをして拳銃をホルスターへと納めた。


 黒煙玉の煙が消える頃には再び静寂が広がり、騒ぎの前と同じ環境へと戻っていた。




 ◆ ◆ ◆


 夜明けの時刻。

 太陽がゆっくりと顔を出し、ミズベチョウのさえずりが聞こえはじめる。その音にようやく朝が来たのだと実感する。

 盗賊達との戦いから数時間。四人はテント前で、最終日のやることを話し合っていた。


「夕べは僕達、本当に寝息を立てて寝たふりをしていただけでよかったのかい? 戦う事だって一応は出来たと思うけど」

「ああ。あんたら二人があの場面で出てくれば、俺と言葉を交わす間もなく退却していただろうからな」

「いや、そんな事言ってるけど結局逃げられたじゃないか。何か手は打ってあるのかい?」


 ツルギがサムに向けて指摘をする。

 彼の言うように戦闘を行って盗賊達に痛手を負わせたのは良いが、結局は何一つ得るものなく取り逃がしてしまったといっていい。

 普通の人達なら絶好のチャンスを取り逃がしてしまったと喚いてしまうことだろう。

 しかし、サムとソフィアこと甘ったるい弾丸キャンディバレットはプロの賞金稼ぎバウンティハンターである。万が一相手を取り逃がしてしまうという事は常に想定済みだ。ましてや盗賊団のような素早く身軽な連中なら尚更である。  


「もちろん、手は打ってあるさ。――そうだな、ちょっと空気の匂いをかいでみな」


 サムはツルギとイザベラに大きく鼻で深呼吸をしてみろと指示してみる。

 最初は何故こんな事をさせるんだと困惑気味だった二人ではあるが、実際言われた通りにすることで何かに気付いた様子を見せた。


「――! 甘い果実の香りがする。それも山岳の奥地へと続くように」


 イザベラが不思議そうな表情をしながら、これは一体何なんだと賞金稼ぎへと問いかけてくる。

 対し、サムは一つの子袋を取り出すと、その中からある物を取り出した。

 ここへやって来る前にマネッジの店から買い取ったもの。――芳香の実だ。それを一つ手に取り、冒険者二人へと手渡した。


「匂いの正体はこの芳香の実だ。コイツは謎の良い香りを閉じ込めている実でな、深呼吸をして初めて匂いを感じれるという不思議な果実なんだ。一般ではあまり使い道の無い物だが、中身をすり潰して調合するとマーキング弾をつくることが出来る。山岳の方から匂いがするのはこのマーキング弾を当てた盗賊がそっちへと逃げていったからだな」


 一発マーキング弾の見本を取り出し、ツルギとイザベラに見せる。

 正確にはマーキング弾とは芳香の実と、さらに超弾力樹皮を混ぜ合わせて作られる非殺傷のゴム弾である。当たっても死ぬことはまずないだろうが、凄まじく痛い。

 夕べこれをお見舞いされた盗賊がマチェットを落とし、苦しそうにしていたのが何よりの良い例だろう。


 マーキング弾の効果は約一日。

 打つ手はまだ残っていることを確認すると、それぞれが最終日に行う事を決める。 


 賞金稼ぎはこのままマーキングの匂いを辿って盗賊の本拠地を目指す。

 冒険者は引き続き最後の生態調査の仕上げを行う。

 どうせならば全員で盗賊の本拠地へ向かって、一気に叩き潰すという考え方もあるだろう。しかし、賞金稼ぎには賞金稼ぎの仕事、冒険者には冒険者の仕事というものがある。

 今回サムとソフィアは冒険者に一緒に同行させてもらっているだけで、同じ仕事をこなしている訳ではない。やむを得ない場合や、お互いにやることが一致している場合ならともかく、それぞれの別の仕事に首を突っ込むというのはナンセンスだ。

 ラーメン屋が寿司屋の仕事に首を突っ込んだところで、どうなるかは目に見えているだろう。それと同じだ。


 今日一日の内容を把握すると、四人は各々の仕事へと取り組み始める。 

 今日は危険度が高い場所に足を踏み入れることになる。気を引き締めていかなくてはならない。

 朝の食事を済ませると、それぞれは上流部へと向けて足を運んで行った。


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