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鉛弾はキスの味  作者: G4
第一章 Bad Children's
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捜索二日目

 昨日の悪魔鰐デビルアリゲイターとの戦闘から一夜明け、今日は捜索二日目。

 今日から冒険者と賞金稼ぎはそれぞれに分かれて各自の仕事をこなしていく。


「やっぱり中流部は少し足場が悪いな」

「新しいブーツが欲しい。買って」

「自分で買え」


 本日捜索を行っているのは中流部。

 昨日の下流部と比べ茂みは深くなり、木本植物の数も増えている。いくら冒険者ブーツを履いていても、地面を這う木の根に足を取られるなんて事にもなりそうだ。


 今日のところはまだ昨日の悪魔鰐のような危険な魔物に遭遇はしていない。だが昨日の下流部に比べ、魔物やモンスターの巣穴になりそうな場所が増える中流部からは、いつ遭遇してもいいように構えておかなくてはいけない。ましてや今は二人で行動しているのだから。


「――!」

「急に止まってどうした――――むぐっ!??」

「ストップだ、姿勢を低くしていろ」


 茂みを一度抜けて再び川辺へと出ようとしたところで、サムがソフィアの口を押さえ地面へと伏せさせる。


「――ぷはっ! なに!? 一体どうしたの!?」

「騒ぐな、あれを見てみろ」


 小声で睨み付けてくるソフィアを静止すると、サムはゆっくりと川辺の方を指差した。正確には川の水周りに植生している植物と言うべきか。


 長いツルを鞭のようにしならせ、周りに肉眼で見える程の黄色い花粉をまき散らし、その植物は動いていた。風に揺られている訳でも無く自ら。


「あれは……貪食植物グリードリィフローラ……」

「そうだ。奴に捕まったら貪り食われちまうぞ」


 貧食植物グリードリィフローラ。長い蔓を触手のように器用に操り獲物を捕らえて捕食する魔物だ。

 人間の背丈ほどの大きさで、頭頂部には目立った綺麗な色をした花を咲かせる。

 甘い香りの花粉には幻覚効果があり、近づいてきた獲物にこの花粉をかがせて捕らえる習性を持つ。ツルを使って移動することも可能で、音にも反応するという感覚が鋭い厄介な植物だ。

 食性は雑食で鳥類、魚類、昆虫など、様々なものを捕食。人間が捕食されたという報告も例外ではない。


「あんな植物のエサになるなんて嫌だ……」

「ならば少し迂回してから広い場所に出よう。花粉なんて嗅がされたら堪ったもんじゃないからな。――ホラ、立つんだ」


 見た目からしてアレには生理的嫌悪感を抱く。とにかく気持ちが悪い。

 貧食植物がこっちへと注意が向いていないのを確認し、サムはソフィアの手を握り立ち上がらせる。――よし、大丈夫だ。向こうは全然こっちに気付いていないな。

 二人は速足でその場を離れると、大回りをしながら広く安全な川辺を探した。


 貧食植物を上手くかわし、少し大回りをすること数分。ようやくサムとソフィアは安全な広い川辺へと出る。

 別に川辺だけにこだわる必要はなかったのだが、いざ遭難した時などに川は目印になることもあり、位置の把握も兼ねて適切だと判断したのだ。


 手頃な大きさの石に腰を下ろすと、二人は一度息をつく。

 

「ちょうど昼頃だな……よし。ソフィア、昼食を取ろう」

「うん、分かった」


 背中に担いでいた携帯用バッグを降ろし、サムは中から携帯食料を取り出す。

 食料は麦から作られたバンというものだ。本来のバンは香りも良く、様々な味を楽しむことが出来るのだが……ハッキリ言って携帯食料としてのバンは論外だ。

 特に味は無く、ただ空腹を凌ぐだけの食べ物と言っていい。コストが安いとはいえマズい、マズすぎる!

 そんなバンをサムがソフィアに手渡すと、彼女は「いただきます」と口にして味のないバンを食べだした。


「……」

「……うん、やっぱり味しねぇなコレ! ガムかこりゃ?!」


 無言で食べるソフィアに続いてサムもバンを口に運ぶが、やはり美味しくはない。彼女も同じ感想だろう。

 天ぷらを食べていた時とは大違いだ。こんなただ単に口だけ動かすなんてものでは本当の食事とは言わない。


「ソフィア、食事っていうのは楽しむものだ。そうだろう?」

「そうだけど、急にどうしたの?」

「フフフ、お前があんまりにも美味そうに食わないもんだから良いものをプレゼントしてやろうと思ってな。――ジャーン、こりゃなんだ??」


 サムは小瓶に入った黄色い液体をポッケから取り出した。


「えっ、それってまさか!?」

「そう甘いものが、だ~い好きなソフィアさんの為に俺が持ってきた”ミツハチ”だ。ほれ、使いたいだけバンに使え。遠慮をすんな」


 小瓶に入ったミツハチをソフィアへと渡すと嬉しそうな顔をみせるが、次第に困惑の表情へと変わっていく。

 理由は簡単。普段サムは高価な物をソフィアにプレゼントする事なんて滅多にないからだ。あるとすればせいぜいギャンブルで勝った時ぐらいだろう。


「どうしてミツハチなんて高級品を私に? この量だと金貨一枚は値が張るでしょう?!」

「気にすんなって。お前今日誕生日だろう?」

「――あっ!」


 誕生日という言葉でソフィアはハッと思い出した様子を見せる。

 賞金稼ぎや冒険者には旅で各地を回っていることもあり、自分の誕生日を忘れてしまう人も少なくはない。


「以前言った事を覚えていてくれたんだ……」

「おいおい、パートナーなんだから当たり前だろう。さっ、早く食っちまえ。俺はミツハチアレルギーなんだ」


 そう言ってサムは再び味のないパンを口に頬張り、リスのように頬を膨らませた。

 クスッ……ミツハチアレルギーなんて持ってないくせに。

 ミツハチをかけてソフィアもバンを口に運ぶ。――味の無かったバンに蜜いっぱいの甘みが広がりとても美味しい。


 ソフィアが心で思うようにサムはミツハチアレルギーなど持っていない。本来ならば自分も食べてみたいという気持ちだってあるはずだ。

 しかし彼は男であり、ナイスガイを目指す一人。女の前でカッコをつけたい時だってあるのだ。

 ソフィアはそれを察して、あえて野暮な事は言わずに黙ってミツハチの甘みを堪能した。


「フッ……随分かわいらしい顔も出来るじゃないか」

「誰かさんのおかげでね」

「そりゃよかった。……こんな仕事の真っ最中で悪いが、二十一歳おめでとう」

「…………ありがとう」


 サムはニカッと笑い、クシャクシャッとソフィアの茶色い髪を撫でまわす。普段こんな事をすれば彼女は「汚い手で撫でるな!」なんて暴言を吐くのが日常茶飯事だ。しかし今日に限っては嬉しそうな表情を崩さず、まんざらでも無さそうであった。




 ◆ ◆ ◆


「それで、そっちはどうだった? 何か収穫はあったかい?」

「ん~特にこれといって無かったな。そっちはどうだったんだ?」

「ああ、こっちは昼から魔物と戦ってばかりだったよ。悪魔鰐は出てくるし、貧食植物だって出てきた」

「ハハッ! 面倒な奴等と戦ったんだな。ご苦労なこった」


 ――深夜二時。


 日が落ちて捜索二日目は終了し、サムとツルギの二人は見張りを兼ねて火を囲みながらお互いの出来事を話し合っていた。

 相変わらず冒険者の方は魔物と対峙しながらも調査は進んでいるようだが、賞金稼ぎの方は未だに盗賊への有力な手掛かりというものは見つからない現況だった。中流部を探索したのは良いが痕跡というものは一切なし。無駄な疲れだけが体を襲う一日だった。

 夜が明ければ最終日。盗賊団の居場所を突き止める最後のチャンスだ。


「いよいよ上流部だね。中流部に比べるとさらに視界も遮られ、足場も悪くなる。おまけに魔物の群れも多くなるだろうね。注意して行動するんだ」

「ああ、分かっている。無茶はしない、俺もソフィアも心得ているつもりだ」


 静かな夜の闇に二人の声が吸い込まれるように消えていく。

 明日は最もつらい日になるであろう。そのためにも相方にも頑張ってもらわなくてはいけない。その意味を込めて女二人が眠るテントへと男二人が流すように視線を送る。 

 

 夜が明けるまであと数時間。

 それまでもう少し見張りを頑張らなくてはいけない。いくらテントを張った場所が下流部の安全地帯でも、冒険というものには何が起こるか分からないからだ。


 眠気覚ましにゴーヒーというカフェインの入った飲み物をすすりながら時間が過ぎるのをゆっくりと待つ。騒がしい場所も悪くはないが、こういった静かな雰囲気も嫌いじゃない。サムはそう思う。

 その後はツルギと特に言葉を交わすことも無く時間は過ぎて行った。





 ――そして夜明け数時間前。


 静かな空間を満喫していたサムの顔が急に曇り始めた。表現するならば楽しく聞いていた音楽が急にストップした時に似ていると言えば分かりやすいだろう。

 先程の様子から打って変わってサムは座っていた石から腰を上げるとツルギへと向かって口を開く。


「…………どうやら、やっと仕事の時間が来たようだ。ツルギ、お寝坊さんのレディ二人を起こして来い」

「分かった。それにしてもこんな時間にか……予想外だ」

「ああ。まさか向こうから直接出迎えてくるとはな。冒険者を狙うってのは本当のようだ」


 サムは焚火を蹴とばし、明りを消すと、自分の武器えものへと弾を込めていく。

 一方ツルギはサムに言われた通りテントの中で眠りについているソフィアとイザベラを起こしに行く。


「イザベラ、ソフィア入るよ!」


 テントを開けると、状況を既に察していたのかソフィアはいつものように黒のロングコートに袖を通して準備を整えていた。同じようにイザベラも装備を身に着け、行動が出来るように支度を行っている。ソフィアと違ってイザベラに関しては少し眠たそうな顔をしているのはソフィアに起こされたためだろう。

 意外にも自分が起こす前に準備を整えていた事にツルギは頼もしさを感じる。


「状況は分かるかい?」

「ええ。おそらく人数は五、六人。中流部の方から気配が近づいてくる」


 中流部の方は暗闇で何も見えない。しかし確信に満ちた表情を崩さずにソフィアは言う。

  

「よし、全員起きているようだな。気付いていると思うが盗賊団らしきものがこっちへ向かって疾走中だ。窃盗・恐喝等イタズラをされたくなかったら協力してくれ」


 焚火を消して暗闇となったテント前に、サムがランタンを一つ手にして戻ってきた。


 サムの言葉に冒険者二人は二つ返事で返す。突発的な事態だというのに、その落ち着き様はさすがベテラン冒険者と言ってもいいだろう。改めて賞金稼ぎ二人も白の双栄剣プラチナ・メエーチは肝が据わっていると認識する。


 刻一刻と近づいてくる集団。

 月明りとただ一つ手にするランタンの光を頼りに、四人は行動を開始した。


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