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鉛弾はキスの味  作者: G4
第一章 Bad Children's
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捜索一日目

 現在の時刻は午前五時。

 昨日から一夜明け、今日は捜索一日目。そして白の双栄剣プラチナ・メエーチの二人にとっては生態系調査一日目。

 賞金稼ぎと冒険者の二組を乗せた馬車はバレッタ山岳地帯を目指し町を出発した。空はまだ暗く、天空の星々たちが自分の存在を誇張するように輝きを放っている。


「くおあぁぁ……眠すぎるぜ。ちょっと出発するの早すぎたんじゃないのか?」


 サムが大あくびをしながら共に運転台に座るツルギへと話しかける。眠たそうに目をこするサムに対しツルギは全然平気そうだ。


「申し訳ないけど僕達にとっては生態調査だからね。朝昼夜の調査記録を取らないと依頼主が怒ってしまうよ」

「あー……そうだったな。冒険者って大変だな、俺達にはとても真似できそうにない。凄いもんだよ」


ツルギへ向けてサムが口にすると、彼は一度クスリと笑いながら言葉を返す。


冒険者こっちからすれば賞金稼ぎきみたちだって十分凄いように思えるけどね。一昨日バレッタの森で君達とすれ違ったのを覚えているだろう? あの時、僕達の依頼がどんな内容だったか分かるかい?」


 一昨日のバレッタの森。それはサムとソフィアが集会酒場のダニーに頼まれて山菜採集に向かった日だ。

 山菜採集に来たはずなのに、ゴブリンとトロールに囲まれて酷い目にあったというのをサムは覚えている。

 思い返せば白の双栄剣の二人に出会ったのは森を出ようとしている最中であった。彼らは街へ戻ろうとしているサムとソフィアとは逆に、今から仕事を始めようとしている最中だった。


「ツルギ達が仕事を始めようとしていたのは丁度夜になりかけようとしていた時だったな。もしかして、何かの討伐依頼を請け負っていたとか?」


 魔物やモンスターは活発期・緩和期に関わらず夜に一番動きが大きくなる。その時間に仕事を始めるとなれば、何かを倒しに行くと考えるのが一番妥当だ。


「うん、大体正解かな。正確にはゴブリンやトロールに奪われた武器を取り返してきてくれというものだったんだ」


 ほほう、そんな依頼を受けていたのか。……ん? いやまてよ、あの時俺達を囲んできた奴らに剣を持っていたゴブリンがいたような……。

 サムがその時の記憶をたどっていると、隣にいるツルギが再び笑みを見せる。


「そう、君達が戦った場所から依頼されていた剣が見つかったよ。魔物やモンスターよりも対人戦を専門にする賞金稼ぎだというのに、あの群れと戦って無傷だなんて御見逸れするよ」


 そう言いながらツルギがサムの背中をポンポンと叩いた。


「おいおい、あの群れを蹴散らしたのはほとんどがソフィアだぜ。女だってのに恐れ入るよ」

「ハハ……その気持ちよく分かるよ。イザベラだって討伐依頼の時にはいくら返り血を浴びようが、気にせず攻撃していくからね。そこらの男より怖い時があるよ」

 

 男二人は運転台に座り、馬車を引く二匹の馬を見ながらパートナーの話をネタに談笑を続ける。話が始まれば先程の眠気は今となってはもうほとんど感じない。普段の相方の様子や、我が儘に付き合わされること。その他にも沢山の事。サムとツルギはお互いに男の辛さとして共感しあっていた。

 

 ――楽しそうに話す後ろより、自分たちの元へ荷台の中から魔の手が迫っている事を知らずに。


「恐れ入る女で悪かったね…」

「ツルギ……私の事がそんなに怖いか?」


 突如後ろからそれぞれの耳元でささやかれた言葉にサムとツルギの心臓が一気に跳ね上がる。

 バ、馬鹿な! コイツ等寝ている筈では!?

 サムとツルギからは冷や汗が流れ出てくる。普段かく汗とは違い、背筋を凍てつかせる成分でも交じっているのか体の動きが鈍くなる。


「いつから起きていた…?」

「最初から」

「僕たちの話聞いていた?」

「ああ、一言一句しっかりとな」


 出発前にソフィアとイザベラは荷台の方で寝ると言っていた。それならば、彼女らが寝ている間に男同士で日頃のパートナーについて愚痴り合っても構わないだろう。――そう二人は考え、さっきまで談笑していた。

 

 怒りをあらわにした薄ら笑いがサムとツルギへと向けられ、目的地に到着していた時には二人の頭にはたんこぶが出来上がっていた。



 ◆ ◆ ◆


 この世界の一時間は六十分。二十六時間で一日が経過する。

 目的地に着いた頃は時刻八時になろうとしていた。暗かった景色には光が入り、様々な動物たちの鳴き声が耳へと届く。


 魔物やモンスターの奇襲を受けない安全地帯にテントを設営し、いよいよこれから仕事が始まる。

 本来ならば冒険者と賞金稼ぎで別れてそれぞれの仕事をこなしたいところだが、初日は現地の状況把握を兼ねて一緒に行動することになった。

 

「よし、みんな準備が整ったようだね。では今日一日の説明をするよ」


 テントから出発する前にツルギは一枚の紙を広げる。このバレッタ山岳地帯の地形図だ。


「今僕達がいるのは川のあるココだ。今日はこの川の下流部付近を周ろうと思う」

「分かった。先頭は冒険者そっちに任せる。賞金稼ぎおれたちは後ろからついて行こう」


 地図をなぞりながら今日動き回るルートを確認すると、四人はキャンプ地を後にする。

 

 下流部は水の流れが穏やかで見晴らしも良い。時間があればのんびりと釣りでもしたいところだろう。

 ここは木本植物よりも草本植物が多く、背丈の高い植物はあまり見られない。下流部の段階では動きを制限されることは少ないと予測される。

 明日からはそれぞれの仕事をこなす為に別行動になる。当然、中流部・上流部と徐々に足場や見晴らしの悪い場所へ飛び込むことになる筈だ。それを想定すると今のように景色をゆっくり見ている暇も無くなるだろう。


 しばらく川の付近を四人で回っていると、先頭を進んでいた白の双栄剣が足を止めた。それに気付いた甘ったるい弾丸キャンディ・バレットも足を止める。――一体どうしたのだろうか。

 サムとソフィアが不思議そうに前を歩いていた冒険者の様子をうかがうと、彼らは調査用紙を取り出して向こう岸を眺めはじめた。


 前を歩く二人の視線の先を見ると何やら動く物体が見える。肉眼で見る限り何か羽のようなものがついているようだ。


「あれは確かミズベチョウという鳥だな」


 イザベラが調査用紙にペンを走らせながらそう口にする。

 ミズベチョウ。名前の通り水辺に生息し、黄色い羽に覆われた小さな鳥だ。

 警戒心が強く、比較的静かな場所を好むという。


「バラック地域ではバラック山岳地帯ここでしか生息しない鳥だ。なかなか可愛らしい姿だというのに町で見かけられないのが残念だ。ソフィアもそう思うだろう?」

「ええ、そうね。どっかの誰かさんもあれくらい可愛かったらいいのに」

「なんだと?」


 自分に向かって薄ら笑いを浮かべてくるソフィアにサムは不愛想な表情を返す。自分の顔に自信がある訳ではない。しかし本人に聞こえるようにそんな事を言われれば少し気になってしまう。


「でもミズベチョウは可愛いだけじゃないんだよ。彼らは時に僕達へと危険を知らせてくれる鳥でもあるんだ」


 ミズベチョウがつがいを成して飛ぶ姿を見ながらツルギは口にする。


「普段は温厚にしている彼らだけど、周囲に危険な気配を察知したら一斉に騒ぎ出すという習性があるんだ。そのおかげで冒険者にとっては危険を回避する合図ともなるんだよ」


 ツルギからの冒険者知識を聞いたサムとソフィアは、そうなのかという感想が頭の中で浮かんだ。   

 ミズベチョウの記録を取ると、四人は再び歩みを進める。

 川辺の次は草むらに入り、その後は岩場の近く。続いて水源地帯。特に詰まるようなことはなく、淡々と調査は続く。


 一日というものはあっという間であり、気付けば日は傾き、美しい夕陽が四人を照らしていた。

 午前の最初に見つけたミズベチョウをはじめ、調査自体は数多くの生物データを得ることが出来たであろう。

 しかし、サムとソフィアにとっての目的である盗賊の居場所とつながるような手掛かりは何一つ見つからなかった。痕跡さえないとなれば、おそらく下流部にはいないと考えるのが正解かもしれない。

 やはりいるとなれば、中流部か上流部。そこのどこかにいる可能性が高い。明日は中流部での活動となる。本格的になるのはここからと言うべきだろう。


 今日のところはこの辺で切り上げ、キャンプへと戻ることになった。

 歩いてきた道を引き返し、キャンプに着いたら夕飯の支度をしなくてはいけない。



 ――しかし四人がちょうど踵を返したその時、茂みの多い中流部の方から何か動きが起こった。


「――しッ! ……今の聞こえたか?」


 サムの声にソフィア、ツルギ、イザベラの三人が黙って頷く。三人も今のに気が付いたらしい。

 動物が茂みで動くのは珍しい事じゃない。今日の昼間にはいくらでも見て来た。でも今回の茂みの気配はは何かが違う。何が違うかって聞かれれば上手くは答えられないが、長年の勘が自分達に警告音を出していた。

 ゆっくりではあるが腰のシリンダーに納められている銃へと手が伸びる。三人も腰にぶら下げている刀剣をいつでも抜けるように臨戦態勢へと移る。


 警戒状態を維持していると茂みからの気配……。それは先程まで遭遇してきた温厚な生物とは明らかに違うものだった。

 自分達の縄張りテリトリーに近づいてきた者には容赦しない。まさにそう表現するべき殺気が向けられる。


 相手の姿はまだ茂みの中で分からない。しかし目的の盗賊だという可能性もある。むやみに背中を向けてこの場を去るという事は危険だ。

 四人が奇襲に備えたまま息を呑んでいると、向けられてくる殺気の数が次第に増えてきた。

 それはまるで獲物を捕らえようと群れを成すように。


 ――そして茂みが一気に震えたと思えば、それらは一斉に飛び出してきた。



「――! 悪魔鰐デビルアリゲイターか!」


 ツルギが自分へと襲い掛かって来た魔物の名を叫ぶ。


 悪魔鰐デビルアリゲイター。強靭な爪と恐るべき牙を生やした大顎の鰐である。筋肉が異常発達し、短距離であれば二足歩行が出来る魔物だ。

 非常に獰猛かつ群れを形成し、特に脅威となるのが跳躍からのワニの必殺技と言える噛みつき回転デスローリング。これにより、年間多くの死傷者の報告が相次いでいる。


 今回飛び出してきた悪魔鰐の数は十五匹だ。


「チッ、一応こうなる事も予測して多く弾を持って来ておいてよかったぜ」


 サムは拳銃リボルバーの引き金を引いて一匹一匹ワニの頭へと弾をぶち込んでいく。

 しかし相手は爬虫類。固い鱗に覆われ、いくら頭部に弾丸を当てようがダメージには程遠い。


「所詮は鱗。そんなもの私には皮と変わらない」


 ソフィアの一撃が跳躍してきた鰐の胴体を切断する。上半身と下半身が別れを告げ、切断面からは内臓や魔物特有の青い血液があふれ出す。切断した本人でさえ返り血まみれでその場は血の海だ。

 どうやら銃撃よりも剣撃の方が相性が良いらしい。


「ソフィア、中々やるじゃないか。相変わらずの腕前だな」

「なに言ってるの。私が一匹倒してる間に貴方は二匹も始末しているじゃない。そっちこそ凄腕じゃん」


 イザベラの動きを例えるなら、水が流れるように敵を仕留めていくと表現するべきだろう。敵の攻撃を見極め、回避と攻撃を同時に繰り出す。そこには剣を持ち、踊るような美しさが垣間見える。飛び散る血でさえなぜか美しく見えてしまう不思議だ。

 そして魔術騎士であるイザベラの特技――


「――電荷分離・伝導・前方範囲、――――ボルトショック!」


 呪文の後に前方に向けられた手の平から発せられる雷属魔法。青白い閃光が一瞬光ったと思えば、バリバリと感電音のようなものが鳴る。二匹の悪魔鰐は変な奇声を発しながら痙攣したかと思えば受け身も取らず地に伏せていく。

 感電死。その光景はデンキナマズによって殺される鰐によく似たものだった。


「おいおい、男の俺らが遅れを取ってるぞ! 情けねぇ!」

「ハハ、いやここからが本番さ。残りの敵は全部こっちを向いているよ。それとサム、奴に銃弾は効かないといっていい。ダメージを与えたいなら肉質の柔らかいところを狙うんだ」

「よっしゃ分かった!」


 迫りくる悪魔鰐にサムは拳銃を向けると、今度は眉間から少しずらした場所へ銃口を向け発砲する。固い鱗がある限り、まともに発砲したって無駄だって事はもう知っている。

 発射された弾丸は悪魔鰐の眼球に直撃し、悪魔鰐は大口を開けて低いうめき声をあげる。そして開いた大口の中へともう一発。――よしビンゴだ!

 サムが内心手応えありと感じると、二足歩行で迫って来た悪魔鰐は背中から地面へと倒れていった。


 いくら固い鱗をまとっていても、眼球の瞼くらいはぶち抜ける。そしたら時間稼ぎも出来るし、口を開ければ直接体内に鉛玉をプレゼントできる。戦闘不能にするには少しテクニックがいるが、考えて実行するにはサムには朝飯前だった。


「……ふうー」


 ツルギはというと目を瞑ったまま、大きく息を吐いた。ギリギリまで悪魔鰐を引き付けると武器に手を掛ける。悪魔鰐の攻撃が自分へと届きそうになる―――今。

 先程のソフィアが横切りで両断したのであれば、ツルギの場合は縦切りでの両断であった。線対称の図形のように胴体が真ん中から別れたイメージと言ってよい。

 しかし彼の攻撃はこれだけでは終わらない。いや、ここからが本番であった。


 ツルギの攻撃は加速しながら次の敵へと向かって行く。一振りすればまた加速、一匹仕留めればまた加速。徐々に上がるスピードに翻弄されるがまま、残る悪魔鰐は成す術も無く両断されていった。

 彼の攻撃は加速するだけでなく攻撃力も上がって行く。まるでギアを上げて戦うような様から、ツルギは狂騎士と呼ばれる。――本人はあまりこの呼ばれ方は好きでは無いらしいが。



 ――襲い掛かる悪魔鰐を全滅させると四人は一息をついた。

 辺り一面は絵の具を溢した以上に汚れてしまった。血だというのが大分タチが悪いが。


「ようやく一段落だぜ……疲れたぞ……」

「まぁ良い運動になったかな」

「確かにいい運動にはなったが、とんだハプニングだったな」

「ハハ……みんなお疲れ様。とりあえず一度キャンプに戻ろう。日も傾いている、ここでさらに連戦になるのは危険だ」


 傾く夕日を眺めると四人は撤収の準備に移る。

 一日目はここで終了だ。下流部といえどこれ以上ここに長居しても危険が増えるだけである。ここからは夜の時間。魔物たちの時間がやって来る。


 いざ歩き出そうとした時、サムは先程倒した悪魔鰐の体に何かを発見した。

 ――一体なんだこれは。

 サムはそれを手に取り眺めてみる。ボロボロの布切れ。そこに何かのマークのようなものが描かれている。


「サム! 行くよ、魔物のエサになりたいの?」

「すまん今行く!」


 ソフィアの呼びかけにサムは返事すると、見つけたものをポケットに入れて四人の元へと戻っていった。


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