冒険者と賞金稼ぎ
「さ~てどうすっかな~」
昨日の天ぷら採集から一夜明けた昼。
ダニーに紹介された仕事を遂行するために、今日一日は盗賊団に対抗する対策を練っていた。
盗賊とは、人目につかない場所で夜遅くに行動し、様々な武器の扱いに長けている者だ。特に短剣やナイフなど短い刃物に関しては盗賊自身が小回りが利くこともあり人一倍扱いが上である。もし鉢合わせした時に、短い武器を持っていれば厄介な事になる。そして混乱・変化に強く順応性が高いというのも脅威だ。
だが今挙げた事よりも一番の問題となるのは、どうやってその盗賊と遭遇するかだ。
生憎ではあるが、サムとソフィアは意外と顔の知られている賞金稼ぎだ。目撃情報があったバレッタ山岳地帯に行ったとしても向こうが警戒して出てこない可能性が高い。そこでどうするかだ。
一つの案として挙がったのが野宿を行いながら、向こうのアジトそのものを見つける事だ。簡単に言えば、警戒して出てこないならこちらから出向こうという作戦である。
しかし、この作戦には問題がある。アジトを探っている間にモンスターや魔物と戦う羽目になってしまった場合だ。
今は魔物やモンスターの活動期。まして奴らは夜が一番の活動時間帯である。野宿をするという事はそれだけ敵との遭遇率も高くなる。
加えて二人は賞金稼ぎであり冒険者ではない。魔物やモンスターの急所位置も完璧に把握も出来ておらず、どんな特徴を持ち、どんな行動をするかだって冒険者のように知っている訳ではないのだ。一応昨日のように敵の対処ができない事はないが、魔物とモンスターばかり相手にしていて、盗賊とまともに戦うことが出来なかったなんて事になれば洒落にならない。
「う~ん、なんかいい作戦でも思いつかないものか」
「そうね。タイミング悪く活動期と重なるなんて困ったものだわ。緩和期に戻った頃には盗賊なんて場所を変えているでしょうし」
隣同士で広場のベンチに座りながらサムとソフィアは空を見上げる。――雲一つない綺麗な青空だ。
考えるのは良いがこれといっていい作戦が思いつかない。たまらず二人はボーっと青空を眺めてしまう。
飛び込めるならあの大空の無きに飛び込みたいと思っていれば、どこか聞き覚えのある歩き声が近づいてきた。
「――――いや、僕はやっぱりこの前の店にまた行きたいな」
「ハハハ、よし今回の依頼が終わったらそこに行くか。…………ってアレ? もしかしてそこにいるのはソフィアとサムか?」
その歩き声の主達はサムとソフィアの傍までやって来ると、二人の名前を呼んでくる。
「――え? 誰かと思えばイザベラとツルギじゃない。どうしたのそんな沢山の荷物を持って」
聞き覚えのある声の正体は昨日バレッタの森ですれ違った冒険者、白き双栄剣の二人だった。冒険での鎧を外し、ラフな格好をしている二人ではあるが、冒険者としての雰囲気は失われていない。
「これか? これは明日からの依頼の準備だ。お前達こそどうしたんだ? 普段着を着たままベンチに座ってるなんてデートでもしていたのか?」
「デート? 私がこんな奴と? フフッ面白い事言うね」
クスクスと笑いながらソフィアはイザベラの言葉を否定する。
お前本人が隣に座ってるのによくそんな度胸ある事言えるな。
サムは空を見上げたままボーっと胸の中でソフィアにツッコミを入れる。
「そういうイザベラ達だってデートの最中? 随分楽しそうにお喋りしながら歩いていたようだけど?」
「な、な、な!? そんな事はない、これは依頼に向けお互いのモチベーションを高めるためのコミュニケーションだ!」
それってデートじゃん。
否定しているのにもかかわらず顔を真っ赤に染まらせているイザベラへと、今度はソフィアが口には出さずツッコミを入れる。
その様子を一部始終見ていたツルギは苦笑いするしかなかった。
「今回はどんな依頼を受けたんだ? そんだけ道具を整えているって事は長丁場な依頼なんだろう?」
「よく分かったね。実は明日からバレッタ山岳地帯で、数日間生態系調査を行うんだ。王国の生物研究者の依頼でね」
ほほう、バレッタ山岳地帯で生態調査か。という事はこの二人も俺達と同じ場所に用がある訳だな。……ん? それだったら……。
ツルギが依頼の内容を説明したところで、ふとサムの中で閃きが起こる。
「その依頼、俺達も同行させてくれないか?」
「え? どうしたんだい一体?」
突然の同行願いに白の双栄剣の二人は困惑する。いや、正確にはソフィアを含めての三人だろう。
急にコイツは何を言い出すんだ。ソフィアはいまいちサムの考えている事が呑み込めない。無意識に「はぁ?」と声が漏れそうになる。
サムが閃いたものはこうであった。
冒険者と一緒に行動すれば盗賊のアジトを安全に探れるのではないだろうか。モンスターの特徴を把握している彼らならば、敵と遭遇した時の対処も容易なものとなる。遭遇率(危険度)が高くなる夜でも無事に乗り越えていけるだろう。
そして二人が冒険者という事で、運が良ければ盗賊が狙いをつけてコチラヘと現れるかもしれない。
賞金稼ぎだけでは難しいなら、冒険者に協力してもらえばいいのだ。
サムは今閃いたことを、目の前で困惑している三人へと説明し、その旨を白の双栄剣へと頼み込んだ。
「成程な。盗賊団の場所を突き止めるために一緒に同行してくれと言う事か」
「盗賊団の住処が分かるなら俺たち二人でどうにでもなるが、居場所が分からない以上、捜索中に魔物等との交戦は避けられないと思う。盗賊団自体は俺達が何とかする、だからそれまで協力を頼む」
頭にかぶったハットを取り、サムは冒険者へと頭を下げる。
ソフィアも今の話の内容を聞くと、それが一番の方法だと納得する。いや、それ以上にいい作戦が思いつかない以上さぜるを得ない。そう決まれば自分自身も素直に頭を下げなくてはいけまいと、同じ姿勢を取る。
「頭を下げるなんてやめてくれ、職は違えど僕達は仲間だろう? 二人の言いたい事は分かった。僕達でよければ協力しよう」
「ああ、私もそう思っていた。二人は冒険者じゃないのというに腕が立つ。こちらとしても万が一の事が起きた時に、お前たちが共にいると安心というのがあるからな」
冒険者の二人から了承を得た事にサムとソフィアは感謝の言葉を述べる。
出発は明日の早朝。馬車に乗り、約三時間をかけてバレッタ山岳地帯へと向かう。
滞在期間は約三日間。この三日間という間で、サムとソフィアは盗賊団をどうにかしなくてはいけない。もしこの期間で盗賊団と遭遇することが出来なければ、また作戦の練り直しか、別の賞金首を探すという事になる。限られた時間の中で仕事をこなさなくてはいけない。バウンティハントというのはそれだけ難しい事なのだ。
その後、こうしてはいられないと、サムとソフィアも明日の準備を行うためにツルギとイザベラに別れを告げて、広場を後にした。
広場を出て向かった先はある人物が仕事をしている場所だ。
バラックの町の北部に位置する小さな一軒家。どこにでもあるような特徴のない家にその人物がいる。しかも、訳の分からない商品をたくさん揃えながら。
「マネッジ、居るかー?」
目的の場所へ着くとサムが店の中で声を上げる。すると、奥から耳の尖ったハーフエルフことマネッジが出てきた。
彼はサムとソフィアが来たと知るとニコリと微笑みを向けてくる。
「フフ、そろそろ来ると思っていましたよ。必要な商品は何ですか?」
「話が早くて助かるぜ。芳香の実と火薬の実、そして超弾力樹皮が欲しい。後は冒険用セット一式だ」
「ふむふむ、いいでしょう。代金は銀貨三枚ってところですね」
麻袋の中から銀貨を取り出すと、それをマネッジへと手渡す。
芳香の実、超弾力樹皮は他の店ではあまり並べられない商品である。芳香の実は謎の匂いを閉じ込めた果実であり、超弾力樹皮とはここから遥か北にある長寿の神木から採る事の出来る素材だ。どちらもこのバッラク地域の周辺では手に入れる事は出来ず、ましてや一般ではあまり使い道が無い物として、この町では人々に扱われる事はほとんどない。
火薬の実は発火作用があり、土木作業用や解体工事用として使用されている。当然、日常で一般人が使用するなんてことは無いだろう。
普通用いられることのないような道具を店の商品として扱う。それが、マネッジが訳の分からない商品を並べる商人と言われる理由だ。
「マネッジさん、明日から三日間、白の双栄剣と共に町を出ます。留守の間、町の事をお願いします」
「分かりました。それにしてもツルギ君とイザベラさんと共に出発とは珍しい。良い情報を持って帰って来ることを期待していますよ」
最後にマネッジとそう言葉を交わすと、サムとソフィアは店を出た。
その後は食料と馬車の手配などといった事を行い、出発準備によって今日一日はあっという間に過ぎ去っていった。
活動報告にて次回の更新予定日を記載しておくことにしました。
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