表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉛弾はキスの味  作者: G4
第二章 Equation to victory
16/28

痕跡調査

 自然の中に残った痕跡から情報を得る技術、その名も「スカウト」

 様々な危険地域に足を踏み入れる者達ならば殆どが取得している技術。


 ソフィアは今それを駆使して情報となる手掛かりを探していた。

 車輪の幅、溝の形、荷台を牽引する生物。その他、自動車特有のブレーキの跡。

 様々なものに目を凝らし、違和感のあるものを探す。


「ソフィアさん、何か見つかりました?」


 町から数キロ離れて数時間――――

 バラック平原にてウィントはソフィアへと呼び掛ける。


 ヴィジョンズドロップを使用したのは良いが、やはり普通の一般人である彼には手掛かりを見つけることは難しかった。

 どの跡を見ても、どれが怪しいものなのかはさっぱり分からない。

 そこで、しばらく無言のまま黙々と粗探しをしていたソフィアに声を掛けたわけなのだが、


「……ウィントさん、ここを見てください」


 薄くなっている車輪の跡を指差しながらソフィアはウィントを呼びかける。


「――? 私には他のものと変わりない普通のタイヤ跡にしか見えないのですが」

「本当にそう思いますか? ほら、この場所をよ~く見てください」


 目を凝らしてソフィアの言われた場所に焦点を合わせる。

 一見普通に眺めるだけならただの自動車のタイヤ跡。しかし、よくよく見れば溝がその場所だけ、不思議と強い摩擦が掛けられた形になっている。

 ――これはブレーキ跡だ。


 ここバラック平原は車道も広く見晴らしも良い。土の質も馬車や自動車が通るのに適した文句のつけようの無いものだ。

 ではなぜ、特に大きなカーブの無いこの場所でブレーキ跡があるのか。


「ここだけじゃないですよ。先を辿っていくと他にも変な場所でブレーキをかけた痕跡があります」


 ソフィアが言うようにウィントがその跡を目で追っていくと、確かにいくつもの不自然な摩擦跡が残っている。

 ここまで言われると、さすがにウィントでもこれは何かがおかしいと感じ始めた。

 でも、これが事件にどう結び付くのだろうか。これが自分の娘を誘拐したかもしれない奴への手掛かりとなるのだろうか。

 考えれば考える程ウィントは難しい表情へと顔の形を変えていく。


「でも、このブレーキ跡がどうしたっていうんですか? 私にはこの跡が何を意味するのかよく理解できません」


 ウィントがソフィアに答えを教えてくれと詰め寄る。

 すると彼女はある話に例えて物事を説明しだした。実際にそっちの方がいきなり答えを言われるよりも納得してもらいやすいだろうからだ。


「ウィントさん。貴方が動かす馬車または自動車に私が熱いものを飲みながら座っていたとします」

「は、はい……」

「あっ大変、飲み物を溢してしまいました。――膝の上に掛かって私は隣で騒ぎ始めます。さぁウィントさんならこの状況でまず先に何をしますか?」

「……う~ん、私だったら多分ビックリして先ずはブレーキを踏むかも……――――! まさか!」


 自分がそこまで口に出したところでウィントがハッと察しがついた様子を見せる。


「理解が早くて助かります」


 様々な地点で不規則につけられたブレーキ痕。

 ブレーキが掛けられる瞬間はカーブや障害物に対処するためのスピード調整時。――――または外的要因によって運転を妨害されてしまった時。


 こんな見晴らしも良く、走行に何の支障もきたさないバラック平原では、まず前者はほぼ考えられない。となれば、考えられるのは後者。


 仮にハルが自動車に乗せられていたとしよう。

 そこで今まで途絶えていた意識が急に戻ったら、年端もいかぬ少女である彼女ならまずパニックに陥るだろう。

 ビックリして窓ガラスを叩いたり、慌てて運転手に詰め寄ったりすれば、そこできっとブレーキが踏まれる。エスカレートして他の同乗者が無理やり彼女を押さえつけようとすれば尚更だ。

 つまりこの不規則なブレーキ跡は当時の彼女の抵抗具合を示していると捉えられるのではないだろうか。


 そう考えればこの辻褄は合ってくる。いや、むしろ合う合わない以前に現状ではそのように考えるほかない。


 ソフィアはウィントに向き直ると、目を見ながらハッキリ言う。


「おそらく彼女はもうこの町にはいない……。既に遠くへと離れているでしょう」

「そ、そんな……。となると今娘はどこに……」


 ウィントが絶望に染まった顔をソフィアに向ける。

 バラック山岳地帯やバラック湖など、そんな場所には絶対車では近づけない。となれば車で町を出たとなれば、それはバラック地域を離れたという事と同じだ。

 一度バラック地域を出てしまえば他の地域にはいくつもの都市や街がある。その中から絞り出すなんて相当骨が折れてしまう。生きてる間に見つけられないかもしれない。


 それでもソフィアはニコリと笑うと、膝を地面につけて絶望顔のウィントへと目の高さを合わせる。


「そんな心配そうな顔を向けないでください。まだ行方不明になってからそう時間は経っていません。それならまだ手の打ちようはあります」

「本当ですか……?」


 タイヤの跡に指を這わせると、ソフィアは小さく「なるほど……」と呟く。

 彼女は今度は一体何をしているんだろう。

 ウィントが不思議そうに再び彼女の行動を見つめる。


「タイヤの幅は約225mm、そしてこの独特の波打つ模様が特徴の跡からすると……この車についていたタイヤはアシュマーと呼ばれるものですね」

「このタイヤ跡だけでどこのものか分かるんですか?!」

「あくまで予測ですけどね。――アシュマーを履く車と言えば大体限られてきます。ここからは一度事務所に戻って当てを探しましょう」


 帰る前にソフィアは現場のタイヤ跡をスケッチブックに描写すると、共に二人はサムの待つ事務所へと引き返していった。




 ◆ ◆ ◆


 手に入れられた情報をもとに、事務所へと着いた二人は分析を開始していた。


 この世界では魔法を使えば殆どの事が可能である。火を点けたり水を出したり発電を行ったりと、数え出せばきりが無い。

 しかし、魔法がかなり有用だからといって産業技術が遅れている訳でも無い。


 現に今は分析を行うにあたってコンピューターが使われている。

 キーボードをカタカタと鳴らし、スケッチした画像をもとに出所となった発祥地を探す。


「で、どうなんだソフィア。そのアシュマーを履いた車は特定できたのか?」


 眼鏡を掛けながらパソコンに向き合っているソフィアへと、サムが飲み物を口に運びながら問いただす。


「粗方ね。調べた結果『デューク』『デニマー』『ダン』の三種がアシュマーに対応した車種だったわ。他にも対応したのはあったけど可能性としてはこれらが一番高いところね」

「超高級車か……。でも確かにその推測は間違って無さそうだな」


 デューク、デニマー、ダン。

 車業界では音は静かで振動も無く、燃費も良すぎることから現在の最先端自動車とも呼ばれている。

 人口が一万人いるかいないかのこのバラックの町では乗り手が何人いるか。


「で、でもそんな高級車だったら逆に目立ちませんか? ちょっとでも不審に思われていれば町を出る前に正門で引っかかりアウトだと思いますけど」


 なぜそんな目立つ高級車でリスクを冒すような真似をするのか。もし誘拐ならできるだけ目立たずに、そこら辺にたくさんあるような車を使うべきなのではないだろうか。

 自分が誘拐犯ならきっとそうする。わざわざ存在感を出すより、少しでも自分の存在を薄くすれば大きな危険性は減るだろうからだ。

 そう思いながら、ウィントは腑に落ちない様子で二人に質問を投げ掛ける。


「知ってるか? 裏の仕事では、誘拐にはハイスペックな車両を使えって言葉があるんだ」


 いつも被っているハットを指でクルクルと回しながらサムが言う。


「確かに高級車は目立つ車だ。だが内部の音漏れ防止機能と、ウィンドに貼られたスモーク。多少中で誰かが大声で暴れようが、これらのおかげで外には様子が分からないだろうな。そう考えれば目立つ反面、逆に誘拐するにはもってこいな車だ。所詮外見なんて改造すりゃいくらでも変えられるしな」


 サムがウィントに向けてその理由を説明すると、彼は驚いた様子を見せた。

 ――高級車だったから逆に通過できたのか。 

 人々が快適に乗るために作られた高級車が、そんな悪い様に使われる道があったなんて今まで考えもしなかった。

 もし普通にその辺にある自動車を使っていたとなれば、逆に騒ぎが漏れて町を出る前に捕まっていたんだ。


「タイヤの跡を見つけた時点で察しはついていましたが、町を易々と抜けるとなると相手は相当の手練れだとも考えられますね」


 ソフィアの最後にそう言い放つと、ウィントは「凄い人達だ……」と呟いた。

 それと同時に娘に会うための希望、そしてとんでもないのが相手なのではないかという恐怖が自分の胸を押しつぶそうとしていく。


 今まで時間をかけてギルドが捜索してくれていたが、中々手掛かりは見つけることは出来なかかった。しかし、彼らはたったの一日で粗方の目途をつけてくれた。

 まだ若いというのに頼もしさを覚える。――自分も負けるわけにはいかない、恐怖に押しつぶされてたまるか。

 そう意気込みながらウィントは握りこぶしを作った。 


「よし、じゃあ行くとするか」


 掛け声と共にサムはソファーから立ち上がると、事務所の外にあるガレージに向けて歩いて行く。

 ソフィアもパソコンの電源を落とすと、フレーム付きの眼鏡を外し、髪をほどいた後でいつもの紺のコートを手に取った。


「え? 行くってどこに行くんですか!?」


 立ち上がって準備をし始めた二人を不思議そうに見つめるウィント。そんな彼に向けて二人はこう口にした。


「決まってるだろう? 高級車が発祥となる場所と言えば、技術と金の街”アリーア”さ。いや、”ドワーフ”の街と言った方が分かりやすいか?」 

「さぁウィントさんも準備してください。時間がありませんよ」


 その言葉を耳にすると急いでウィントは支度を始めた。

 彼を待つ間にソフィアは商売道具の刀を手に取ったりしていると、外からエンジンの始動音が鳴り響く。数秒後にはサムが事務所の前に、ガレージから一台の黒いオープンカーが持って来られた。

 これはサムとソフィアが遠出をするときに使用するMyCarだ。排気量は6000ccで最高時速は300キロ。 一応はオフロードにも対応できるようにサムがいじくりり回した特注品である。性能は文句無しといってもいいが燃費が悪く、とてつもないほどにコストがかかるのが欠点だ。


 町を出るならば馬車でも良いが時間が掛かる。もし馬車で向かうなら軽く二日はかかるところを、これを使用すれば一日で到着する。

 後ろの荷台にまとめた道具を詰め込むと、ウィントは後部座席、ソフィアは助手席へと乗り込んだ。


「ソフィア、お前達が事務所を出ている間に俺が取りに行ってきた物だ。今回出番があったら使うといい」


 サムは運転席に乗り込む前にソフィアへと”大きな釣竿ケース”を手渡す。サムの持ち手を見る限り、そこが大分しなっているため、かなりの重いものが中に入っていることが予想できる。


「分かった。大物相手以外には使うつもりは無いけどね」


 ソフィアがそれを受け取ると、いつも携行している刀の隣へと置く。釣竿ケースは隣の刀なんかよりも遥かに大きい。ドワーフの街では魚釣りでも今は流行っているのだろうか。

 その様子を後ろから不思議そうにウィントが見つめる。

  

「そうだ、コイツもついでに持っておいてくれ」


 サムは手に持ったアタッシュケースをソフィアに手渡し、運転席に座る。それを見てさらにウィントが不思議そうな顔をした。いや興味深そうな表情といった方がいいのかもしれない。

 娘を探していくのに釣竿? そして謎のアタッシュケース。一体あの中には何が入っているんだろうか。


 そう考えている内に三人を乗せた車はエンジン音と共にゆっくりと進みだした。

中々こういう推理していくものを書くって難しいですね…

頑張っていこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ