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鉛弾はキスの味  作者: G4
第一章 Bad Children's
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バウンティハンター

 夕陽は大地へと淡い光を放ち、黄昏の風景が出来上がっている。

 そこにいくつかの人影が立ち並ぶ。二つの少数の人影と、それに向き合う多数の人影。それぞれは対立する姿勢を取りながらお互いに睨み合っていた。

 その場にいる各々おのおのの手には殺傷性のあるナイフや銃、そして剣。

 その中で夕陽をハットで上手く遮断している男が口を開いた。


「さあ年貢の納め時だぜ。ここで大人しく捕まるか、それとも三途の川を泳ぎに行くか選びな」


 男の手には銀の輝きを放つ拳銃リボルバーが握られており、銃口が向かい合う集団へと向けられている。

 対し向こうもただ黙って銃を向けられている訳ではない。同じようにハットの男へと銃を向け、刃物を輝かせる。

 口を開いた男の隣にある人影は一つだけ。比べ向こうは十近い人数の人影が夕陽によってつくられている。

 普通こんな光景をみれば、誰もが人数の多い集団の方に有利と見えるだろう。しかし、焦りを見せている方は多人数の方だ。目の前で対峙しているのはたった二人の男女だというのに。


「クソッ! くそぉお! 初めからテメエ等が相手だと知ってりゃ、こうなる事なんてなかったのに!」


 スーツを着こなした集団の頭と言える人物が、苛立ちを見せながら血眼で目の前の男女を睨み付ける。その額には大粒の汗を見せ、冷静という言葉はどこを探しても見つからない。


「そりゃすまなかった。サプライズは苦手だったか?」

「サム、そんな風に相手を刺激するようなことを言わない。逆上させて面倒事になったらどうするの?」


 ハットの男の隣に立ち、彼をサムと呼んだ女。彼女は名をソフィアという。

 茶色のメキシカンポンチョを着こなし、拳銃を片手に持つサム。それに対し、ワインレッドの服の上に紺色のロングコートを羽織り、腰に刀をぶら下げるソフィア。

 男は二十代後半、女は丁度二十歳ぐらいの年頃であろうか。男はもじゃもじゃとした黒髪を黒色のハットで抑えつけ、女の方はセミロングの茶髪に紅い眼をしているのが、それぞれの外見的特徴と言えるだろう。


 向こうの男達は、そんな二人の余裕たっぷりな会話の様子を見て頭に血が上り始めていた。


「このガキどもめ! ――おい野郎共やっちまうぞ、こうなりゃ強行突破だ! 目の前にいるのが賞金稼ぎバウンティハンターだろうが構う事はねぇ! 行くぞオラぁ! 蜂の巣にしろ!」


 スーツの男が大声を上げると、その周りにいる銃を持つ者達が一斉にサムとソフィアへと向かって引き金を引こうと指に力を入れる。

 サムはその光景を見ると口角を上げながらこう言った。  


「ハハッ! 当たりだビンゴ


 彼がそう口にした直後には、何十発という銃声が夕陽に照らされた荒野を駆けていった。




 ◆ ◆ ◆


 ここは冒険者の集う町の一つ、その名もバラック。

 早朝、この町の中心地にあるギルドは今日も依頼をめぐる冒険者たちや商人などで賑わいを見せていた。

 冒険者というのは名前の通り、数々の未知なる地を冒険し謎を解明したり、人々の依頼を請け負って生計を立てる人の事だ。冒険者に登録が出来るようになるのは十三歳から可能であり、人の役に立ちたいという者や腕に自信がある者など幅広い人層が存在する。

 そしてギルドというのはその冒険者たちや商人を支援をする機関の事だ。上納金を納める事で、仕事の情報提供などサポートを行ってくれるのが特徴である。その他にも酒場や宿を運営していたり、町民の暮らしやすい町づくりを進めるなど多面的な役割を担っている。そのためか「困った場合はギルドへと向かえ」という言伝が世には広がるくらいであった。


 ギルドにいる冒険者は、今日はどんな依頼が来ているのだろうか、と思いを馳せながら依頼掲示板の周りに密集する。依頼にあるのはモンスター討伐から素材採集、フィールド調査など様々なものだ。

 商人はその様子を見ながら冒険者達へと、出発前の道具アイテムを次々と売りさばく。依頼掲示板が更新されるのは早朝だ。その為、朝に依頼を受注し、そのまま準備を済ませて冒険へと出発する者が多い。そのせいで朝はいつも混雑しているのが日常茶飯事であった。


 勿論大変なのは冒険者や商人達だけではない。このギルドの職員だってそうだ。早朝の日が昇る前から掲示板の更新を行い、更新後は依頼の受注に来る数多くの冒険者たちの相手をしなければいけない。

 ギルドの職員の一人であるラピスという女性は、この忙しさをこらえながら、押し寄せる冒険者たちの波に必死に対応していた。

 

「はい次の方どうぞ。今回はどういたしましたか?」

「依頼の受注だ。ジャイアントフットの討伐に向かう、すぐに手続きを済ませてくれ」

「かしこまりました。では手続きを行いますので身分証明書ギルドカードの提示をお願いします」

 

 丁寧な言葉を心掛け一つずつ仕事をこなしていくラピス。幼さが若干残り、未だ歳は二十にも満たされていない様子だというのにも関わらず、その働きぶりは驚くほど手際が良いものだ。

 冒険者の対応をすること約一時間。朝の受注ラッシュは峠を越え、数々の冒険者は依頼へと出発の準備を行っていた。

 ここまでくれば今日の仕事の一番忙しい時間は終了だ。後は依頼人の相手や、遅出の冒険者の対応と事務の仕事を済ませていくのが主となる。


「う~ん、やっと一段落着いた~」


 金色の髪を揺らしながらラピスはカウンターの向こうで背伸びをする。

 先程に対応した冒険者たちを横目で見ながら、休憩がてらに「コーチャ」という飲み物を口に運ぶ。仕事の後のこの一杯がたまらない。

 至福のひと時を味わっていると、カランカランと扉の開く音が響いた。出発準備をしている冒険者達が賑わうこのギルドに、新たな人影が二つ入ってきたようだ。

 それらは賑わいのあるギルドの中を通ると、ラピスの元へとやって来る。

 

「よっ! ラピちゃん、朝早くからお疲れさん!」

「昨夜町はずれで砂蛇団から押収した武器と魔薬を持ってきたわ。そちらで処分をお願いするよ」


 ラピスの元へとやって来た二人の男女は、いくつかの厳重にロックされたアタッシュケースをカウンター越しに受け渡す。


「サムさん、ソフィアさんお疲れ様です! 聞きましたよ昨日の活躍! 十人近い数で構成されている砂蛇団を相手に全員を取り押さえたって。いや~やっぱり賞金稼ぎバウンティハンターっていうだけあって凄いなぁ~」


 そう言ってラピスは二人へと憧れと尊敬のまなざしを向けてきた。


 ――賞金稼ぎ、またの名をバウンティ―ハンター。

 それは犯罪者や逃亡者を捕まえてお金を稼ぐ者達を言う。 

 世の中にはどんなことがあっても犯罪というものは絶えない。勿論それは人々のあこがれの的である冒険者達の間でも発生する。

 例えば裏では闇ギルドに精通し、魔薬や臓器売買に関係する者達。冒険先にてモンスターによるパーティの全滅に見せかけた快楽殺人を行う者。私怨による殺人依頼を承諾した殺し屋冒険者。

 そういったものが冒険者の間では少なからず存在している。他にも奴隷商人や盗賊団など様々なものがおり、こういった連中を捕まえるのが二人の仕事なのである。

 今回二人が捕まえたスーツの集団。通称:砂蛇団も、犯罪に手を染めてしまった冒険者パーティであった。罪科は魔薬と一般人へ武器の密輸である。こんな事に手を染めなければ彼らに刑務所行きになる未来は訪れなかっただろう。


「フッ、俺達の手に掛かれば朝飯前よ。――そんなことよりラピちゃん、この後俺と朝ご飯でもどうだい? もちろん二人っきりでだ。仕事終わりで丁度暇を持て余しているんだ」

「えっ…朝ご飯ですか…?」


 カウンターに肘を突くとサムは精一杯のイケメンボイスを出して、ラピスへとナンパを行う。すると、そこへ一発『スコーン』と鞘に納められた状態の刀が振り下ろされた。


「朝から何ナンパしてるの。バカじゃない?」


 サムの行動に呆れた顔を向けるソフィア。その目はまるで汚物を見下すものに等しい。

 実を言うとサムは自分のストライクゾーンに入る女性に対して目が無く、このようにいつも何かある度にナンパを仕掛けているのだ。成功するか否かは別として。


「痛っ、ソフィアお前何するんだ。俺とラピちゃんの邪魔をする気か? なぁ、ラピちゃんもこいつに”邪魔をするな”と言ってやりなよ」

「あ…えっと、ソフィアさんありがとうございます。実はこういうグイグイ来る人って苦手で……」

「そうそう……俺たち二人の間の邪魔をするな……って何ィ!?」


 朝の食事を断られるどころか、性格まで否定されてしまったサム。彼は目を丸くしながら氷漬けのように固まってしまった。

 ソフィアは一人で放心状態へと陥ってしまったサムを無視して、今回の仕事の完了手続きを済ませていく。

 ――銀貨二十枚、まぁあの程度の集団ではこれくらいが妥当か。

 ラピスが手渡してきた今回の報酬が入った麻布を見ながらソフィアは頷く。


「以上で賞金首逮捕バウンティハントの完了手続きは終了です。お疲れ様でした」

「ありがとうラピス、また近いうちに顔を出すと思うから宜しくね。――ほらサム、いつまで抜け殻みたいになっているの? 朝食を食べに行くよ。私お腹空いた」


 金銭の入った麻布を内に仕舞うと、ソフィアはサムを引きずるようにその場を去っていく。傍からればナンパから今までの流れはただのコントだろう。

 ラピスはそんな彼らを見ながらクスリと笑い、”本当に仲が良いんだから”と微笑みの視線を送っていった。



 しばらく広いギルドの中を移動していると、いつもの行きつけの集会酒場が見えてくる。まだ朝だというのに、その場に近づけば冒険者や商人、加工屋などの多くの人達が賑わいを見せていた。

 サムとソフィアは朝食を食べる人や、朝っぱらから酒に浸るような人層をかき分け、カウンター席へと腰を下ろす。


「よぉ、そろそろ来る頃だと思ってたぜ。”甘ったるい弾丸キャンディ・バレッド”のお二人さんよ。朝食だろ? 何を食う?」

「相変わらずだなダニー。俺はいつも通り、熱めのミールクとホットトックを頼む。おっと、ミールクは出来るだけ甘くしてくれ」

「私はサラダの盛り合わせ、それとスグランプルエックをお願いします」


 カウンター席に座った二人に声を掛けてきたこの男の名はダニー・マーカス。この酒場のマスターだ。

 酒場と聞けば誰もがアルコールをイメージするかもしれないが、別にそれだけではない。料理に関しても品ぞろえは豊富であり、小さい子供から老人まで誰でも楽しく活用することが出来る。


 ダニーがサムとソフィアへと向けて言った”甘ったるい弾丸キャンディバレット”。それは賞金稼ぎとして活躍している二人のチーム名である。冒険者の間でもチーム名があるのと同じだ。チームの人数が増え、パーティが結成されるようになれば〇〇団なんて呼ばれたりするようにもなる。

 甘ったるい弾丸キャンディバレットというチーム名は、もともとはサムが愛銃の弾に用いる火薬ガンパウダーに寝ぼけて砂糖菓子を配合してしまった事がきっかけだという。それを見ていた子供が面白がってネーミングしたとか。


「朝の情報誌見たぜ。お前達、砂蛇団捕まえたんだろう? 相手がCランク冒険者達とはいえ、よくそんな大人数の集団を捕まえられたな」

「あぁ……まぁな……」

「……ん? どうした元気ないな」

「マスター、いつもの事ですよ」


 ソフィアがダニーへと向けてそう言うと、「何だまたフラれたのか!」と笑い声をあげる。サムは先程ラピスに言われたことから立ち直れてはいなかったのだ。ナンパを吹き掛ける度胸はあるくせに、いざ断られたときは大きなショックを受けてしまうという謎のメンタル。それがサム・ゲイナー・ジェイデンという男なのだ。

 そんな彼を笑いながらカウンター越しで会話をしていると、ダニーから朝食が前に出される。朝のエネルギー源を口に運びながら、仕事を終えて暇になった今日一日をどうやって潰そうかと考える。

 賞金稼ぎは冒険者のように掲示板から依頼を受注をして仕事をこなすのとは違う。町中で張り出される指名手配者の目撃情報があった時や、街中で暴徒が暴れ出すなどといった大事でも起きなければ、特に仕事というものはないのだ。イレギュラーな場合として稀にギルドが直々に仕事を依頼してくることがあるが。


「そういや、二人は今日暇だろう? 仕事でしばらく町を離れるなんて事もなさそうだし、ちょっと頼みを聞いてはくれんか?」

「頼みだって? 面倒事じゃないだろうな?」

「へへへ、なぁに心配するな。ちょっとバラックの森で山菜取りをしてきてほしいんだ。食材が丁度切れてきてな」

「何で俺達なんだよ。こういう時こそ冒険者様に頼るってもんだぜ」


 ダニーからのお願いにサムが面倒くさそうに答える。賞金稼ぎというのはあくまで事件や人的問題といったものを主体に行動する。そのため冒険者のようにフィールドワークに優れている訳でない。

 

「悪いな、最近は冒険者に依頼する時間が無くてな。朝食代はまけておくから頼むぜ」

「しょうがねぇな~。ソフィア、準備しておけよ。たくさん採って今日の夕飯は山菜の天ぷらでもつくるか」

「やった、私も久しぶりに食べたいと思っていたんだ。マスターの為にも私達の為にも頑張りますか」


 朝食を食べ終わると二人はダニーから必要な山菜リストを受け取る。集会酒場を後にする前にダニーの特徴であるスキンヘッドを視界に納め、その後で山菜取りへと向かうのであった。

 

一度こういう作品を手に掛けてみたいと思いまして、今回投稿させていただきました。

週一のペースでゆっくり投稿していこうと思いますので宜しくお願いします。

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