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槍縛りのクラス転移  作者: わたし
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【二章】花蓮迷宮06

 

 スイside


 スイは彼岸花の化身を見据え、ジリジリと間合いを図っていた。


「さてサポートは頼みますよ、ノルン。僕は茜さんの様に圧倒的な技術は持ち合わせていないので、ノルンのサポートが頼りです。」


『ふふん!スイには、わたしが必要だからね!』


 ノルンはスイに頼られることが嬉しい様で、得意げに鼻を鳴らした。

 ノルンに鼻があるのかはわからないが。

 そしてスイは彼岸花の化身と間合いを取り合っているが未だに攻撃する機会を掴めずにいた。


「隙がないですね...どうしましょうか」


『うーんわたしには隙とかはわからないけど、ないなら作るしかないんじゃない?』


 ノルンがさも当たり前の様に、そう告げる。

 実際のノルンが言った言葉は、一部正しいのだ。基本的に対人戦というものは実力に差がある場合は、相手の隙をついて最小の行動で相手が最も嫌がる行動を選択していけば負けることはあり得ないのだ。

 もちろんこの世界ではスキルや樹法があるのでその限りではないこともあるが、実力が拮抗してる相手との戦闘では、隙を見つけるのではなく、フェイントなどを織り交ぜ、自分のペースに持ち込み隙を作るのだ。


「それもそうだね、最近対人戦をしていないので忘れていましたよ...全く茜さんの言う通りですね。今の僕は明らかにスキルに頼りすぎていました。」


『でも、しょうがないんじゃない?スイがこの世界に来てから、獣ととしか戦う機会がなかったんだし...』


 ノルンは少し遠慮がちにスイに告げる。


「それでも、僕が対人戦の鍛錬をしていないのは僕の至らなかった点だよ。そうだね、認めようか今の僕は地球にいた時に比べ、明らかに錆びている。」


 スイは少し悔しそうな顔をしながらノルンにそう告げた。

 ただすぐにスイは表情を引き締め、槍を構える。


「もし今ここで僕の鍛錬不足により、死ぬことになったら僕は僕を一生許せない。だから僕はこの戦いで負けません」


 スイはそう言ってから、彼岸花の化身に向け、雷の様な速さで突貫する


『ちょっと!スイ大丈夫なの!』


 ノルンは慌てながら、スイにそう質問する


「わからないよっ!でも勝つしかないでしょ!少し集中するから黙るよッ」


『ああもうっわかったわよ!サポートはわたしに任せて!』


 スイは突貫している最中だからか、いつもより口調が荒い。

 ノルンの言葉を信頼しているのだろう、頷くだけの返事を返す。スイの突貫は寸分のブレもなく彼岸花の化身を捉えているが、彼岸花の化身は紙一重でひらりと躱す。

 が、躱されることもスイは百も承知とでも言う様にそのまま高速の突きを三度繰り返す。

 しかし彼岸花の化身はその突きも総て躱す。


 そして彼岸花の化身はスイに拳を突き出す。

 その突きは茜と戦った個体と同じく技術の伴ったものであった。

 スイはその突きを躱そうとするが、彼岸花の化身の纏っていた赤が肘より先のみに纏われており、その赤がスイの右の肩の肉を削ぎ、肩から血が吹き出す。


 そうして吹き出した血もまた、鮮烈な赤であった。


 一旦スイは彼岸花の化身から距離を取り、もう一度彼岸花の化身を睨め付ける。


「なるほど、あの赤い気の様なものをある一定の箇所に集まると実態を持つのですね...ノルン傷口をふさげますか?」


 スイは彼岸花の化身を見つめたまま冷静に観察した。

 そしてノルンに傷口を塞げるかどうかの疑問を投げかける


『治すことはできないけど、木の浸食を少し進めれば傷をふさぐことはできるわ。だけど浸食を進めすぎるとスイの無事な部位もじきに左手や足と同じになるよ?それでもいいの?』


 ノルンはいつもの砕けた口調ではなく、いつになく真剣な様子でスイに真実を告げた。


「それで僕の自我がなくなることなどは、ないでしょう?もしなくなるなんてことがあるならば遠慮しますが...」


『そんな事にはならないと思うわ。もちろん前例が無いからはっきりとは言えないけど...おそらく木の様に食欲がなくなったりするくらいだと思うわよ。性欲と言うより繁殖欲求は生物である以上なくならないから、わたしと結婚しても子供は作れると思うわよ!」


 ノルンは最初は、先ほどの新館なトーンで話していたが次第に面倒臭くなって来たのかいつものトーンに戻した様だ。


「ノルン...それぐらいならむしろ利点なんじゃなかな?まだ血は止まらないし、それなら木の浸食を増やしても大丈夫だよ。最後のは良く分からないけど...」


 スイはノルンの話を聞いて傷をふさぐことを決めたみたいだ。


『わかったわ。それじゃあ浸食を進めるから』


 ノルンがそう言った瞬間肉の削がれた肩の傷痕から花弁が舞い散り花弁が収まった頃には肉の削がれていた部分はローズウッドの様な色になっており、傷口は完全に塞がっていた。


「あれ?痛いかと思い少し身構えていましたが、全く違和感も感じませんでしたね...」


 スイはノルンに眼球から宿られた時を思い出したのか、少し苦笑いしながら安心したかの様に少し眉を下げながらノルンにそう言った。


『当たり前でしょ、あの時に比べたら浸食を進めるのなんて私にかかれば楽勝よ!』


 ノルンは心外だとでも言いたいのか、怒る様な感情がスイに流れ込む


「すいません...あの時は本当に地獄の様な痛みだったので、少し怖かったのですよ。」


「ただこれで、気兼ねなくあいつを倒せそうです。ノルンありがとうございました」


 彼岸花の化身はスイとノルンが話している間もただ静かに観察する様な視線をスイ達に向けているだけで、動きを見せなかった。


 スイは傷口が塞がり違和感がなくなったことを確認してから、じりじりとすり足で彼岸花の化身に対して間合いを詰める。そうして彼岸花の化身を槍の間合いに入れた瞬間突きを胸に向けて放つ。


 彼岸花の化身はスイの突きを避けようともせずに、ただ槍の穂先を横から軽く押すそれだけで槍は大きく横に逸れた。


 しかしスイもこの突きはただの囮に使っただけであった。槍の大きく横に逸れる動きに逆らわず、そのまま体を一回転させ遠心力を乗せた横薙ぎ石突きで殴打を彼岸花の化身の頭に向かって繰り出す。


 彼岸花の化身は遠心力の乗った殴打を受けるのは危険と判断したのか、しゃがみ横薙ぎの線から体を外す。そしてしゃがんだまま赤を纏った蹴りをスイの足に向けて放った。それは先ほどの拳での突きと同じく被弾すると大きい損傷を負うのは分かりきっていた。


 スイは大きく隙のできる横薙ぎの後でこのままでは避けることはできないと分析し、槍から手を離しバク転で蹴りを避け彼岸花の化身から距離を取るそして、〈ミスティルティア〉と唱えた。

 すると、先ほど手を離し彼岸花の化身の近くに落ちていた槍が一瞬で花弁を舞い散らす。それが収まった時にはすでにスイの手に槍が収まっていた。


 そしてスイは何かに気づいたのか、脳内でノルンに質問を投げかけた。そしてノルンから可能だとの返事を返されると、そのまま槍を彼岸花の化身に向け投擲した。


 彼岸花の化身は、投擲された槍を立ち位置を少しずらすだけで避ける。が投擲された槍が一瞬で数多の花弁になり、その花弁が彼岸花の化身に纏わり付いた。

 そうして花弁に纏わり付かれ視覚を封じられた彼岸花の化身は刹那の硬直を生んでしまう。


 ただそのまま彼岸花の化身は硬直が解けることはなく、自壊を始めた。なぜならスイが彼岸花の化身の背後から槍を突き出しており、心臓を貫いていたためである。


「ふう...なんとか勝てましたね、先ほどの人型の時とは比べ物になりませんでしたよ。」


 残心を解いたスイは大きく息を吐き出し、緊張を解いた様だ


「スイさんお疲れ様でした、大きな被弾は一度きりで無事勝てた様で良かったです。ただやはり対人戦の修行不足ですね、まあ一応合格という事にしてあげましょう」


 すでに戦いを終えた茜はスイにそう話しかけた


「茜さん...流石ですね僕の半分ほどであいつを倒してしまうなんて...僕はノルンに助けてもらってやっとでした。」


「いえ、ノルンさんはスイさんの力の一部ですから頼るのは間違いではありませんし、自分の力を全て使うのは正しい事です。ただ私が言っているのは、あの横薙ぎですあれは明らかな悪手です。」


『なんで?綺麗に円を描いていてとても格好良かったわよ?』


 ノルンは能天気に茜にそう返した


「格好良いなどというものは、舞の時だけでいいのです。そもそもあの横薙ぎをしなければ、蹴りを避ける際にわざわざ槍を手放さなくても良かったのです。ミスティルティアは手元に戻ってくるかもしれませんが、普通の槍では手から離した時点でゴミです。」


「すいません...」


『まあそうだけどさあ...いいじゃん戻ってくるんだし』


「違うよノルン茜さんが言いたい事は、人相手の対人戦の場合武器が制限されることもあるでしょう?その時の話ですよ」


『なるほどね〜支給された武器で戦わないといけないこともあるかもしれないしね。』


 ノルンは納得がいった様でそれ以上は何も言わなかった


「スイさんその通りです。わかっているならばこれ以上は言いません。ただあの投擲は良かったですよ、あの槍の性質を良くわかっている上での奇策ですね」


『当たり前でしょ!私とスイの協力技なんだから!』


「茜さん、ありがとうございます。あれはミスティルティアを呼び出す時に花びらが舞うので目くらましにならないかな、と思ってやってみたんですがうまくいって良かったです」


『急にスイから脳内で舞い散る花びらを多くできないかなんて質問されてびっくりしたよ!もちろんできるんだけどね〜』


「なるほど...ミスティルティアはノルンさんの半身なので細かい調整ができると。」


 茜は理解した様で、小さくうなずいていた。


「そういうことです。さてそろそろ、先に進みますか?」


「それもそうですね」


『おっけ〜』


 スイ達は先に進むため部屋の先にある扉に手をかけた。が、スイだけが扉に弾かれた


「おっと、僕はなぜか通れない様ですね」


「どうしましょうか...スイさんが通れないとなるとこれ以上進んでも意味はなさそうですね...」


『なんでスイだけ通れないんだろう?』


 ノルンがそう疑問を残すと扉の前に文字が浮かび上がった。




 挑戦者のお三方ご機嫌はいかかがでしょうか?


 お三方の戦い、異界の武術を我が主君である姫様が大層お気に召した様です


 これは大変光栄なことなのです。人族が姫様のお目に掛かる事は滅多にございません。


 いえ、人族と称して良いのか分からないお方もいらっしゃる様ですが。


 まあその様な事はせんなき事、これよりわたくしが姫様より承ったありがたい言葉を伝えさせていただきます。


 異界の武人達よ、そなた達の戦い聞かせてもらった。

 小さき者は武人として完成されておるが、大きい者は未だ莫大な伸び代がある様だな

 そこでだ、妾はある程度の実力のある武人が挑戦してきた場合この先に通しておるが、そなた達の戦いは興味深い。

 特に大きい者そなたの完成された武を見て見たいのだ。ならばここで殺すのは惜しいと思っての、そなたをここから通すわけにはいかぬ。わかってもらえるかの?小さきものの獲物は貧弱な様だから、武器を授けてやろう。

 そうして完成されたそなた達に再び相見えることを待っておるぞ。


 以上が姫様より承った全文でございます。転移樹法陣を発動させておきますそちらからお帰りになってください。

 それと武器も転送しておきます。


 それでは。


 扉の前に魔法陣の様なものと、布に包まれた2mほどの包みが現れていた。


「これは帰るしかなさそうですね...」


 スイは文章を読み上げた後に幾ばくかの時間思案した後、その結論を出した様だ


「確かに...ここは一度地上に戻ってから、また来ましょうか...」


 茜も同じ結論を出した様だ


「この包みが茜さんの槍ですかね?茜さんの体にはちょうどいい様に思いますが...」


「そうですね、帰る前に確認して見ますか...」


 茜が包みを手に取り、布をほどき槍を確認する


 その槍は漆色の柄にきらびやかな螺鈿(らでん)が施されており、30cmほどの穂先はからりの業物であることがをわかる。


「これは...かなりの業物ですね」


 茜がそう呟くと、解いた布から紙がひらりと落ちた。

 茜はそん紙を拾い上げ内容を確認した


「この紙に書かれたのは、槍の銘の様ですね。この槍は〈漆月(うるしのつき)〉という様ですね。」


「それだけの業物ですから、もらっておいて損はないでしょう」


「それでは地上に帰りますか?」


 茜がそうスイに聞く


「そうですね、僕の実力がついてから、もう一度この迷宮に来ましょう」


『さっ帰ろ帰ろ〜』


 スイ達は転移樹法陣に乗り迷宮から脱出した。





 そして彼岸花は咲き誇り新しい挑戦者を座して待つのである。

 未だ花は真に枯れることを知らず。






【二章】花蓮迷宮            了















頑張って伏線を引いているので回収を待っていてくださいね。

次話は一週間の間に出したいと思っています。

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