【二章】花蓮迷宮05
咲き誇っていた二輪の彼岸花が萎び、枯れ、再びヒトガタの何かが生まれては、そのヒトガタは自壊を始め、崩れ折れ伏す。
そしてまた彼岸花が咲き誇り、枯れる。
人型が生まれる。
自壊。
咲く。
枯れる。
人型が生まれる。
自壊。
咲く。
それを繰り返すうちに彼岸花はより可憐に咲き誇っているのだ。
さすがに異質さに気づいたのか、茜が多少狼狽えながら声をあげる
「何か様子がおかしいですね...しかも花が少しずつ大きくなってます」
スイも茜の意見に同意のようで、槍を構えたまま無言で頷き肯定の意を示した。
「これは...何か、そうまるで進化しているかのようですね輪廻を繰り返し、進化しているとすれば、あの人型は人にでもなるつもりなんでしょうか?」
槍を構えたまま、口を噤んでいたスイも茜に対して言葉を発する
「おそらくその通りですね。もうすでにあの人型は先ほどまで『ヒトガタのナニカ』から『人間のようなナニカ』に変わりつつあります。おそらくもう少しで進化の過程を済ませ、僕達とさして変わらない存在になるでしょうね」
『うへぇ、なにあれなんか怖くない?スイあれどうなっちゃうんだろ...』
「まあおそらく、あれが進化を終わらせたら先ほどのように楽に倒せることはなさそうですね、相変わらずスキルは使えませんし」
「こちら側の世界に来てからスキル頼りのスイさんにはいい修行になりそうですね。私の教えた槍の技を信頼していないみたいでなんだか私は悲しいです...」
よよよ...とでも言いたげな目で、茜はスイの方に視線を向ける
「い、いや別に槍術を信頼していないわけではないんですが、スキルを使うと獣を倒しやすいので...もちろん槍術が使えないとかそういう訳ではなくてですね、そのどちらかというと茜さんに教えていただいた技術は対人用と言いますか...」
「ふふっそんなに慌てなくても大丈夫ですよ、もちろん私が教えた槍術は人に対するものであってこの世界の獣とやらに通用する様に出来ていないのは百も承知ですから。」
『スイ慌てすぎでしょ〜確かに獣に対しては、茜に教えてもらった槍の技術もある一定の効果はなかったけどさ、むしろ!私の、ミスティルティアの方が役に立ってたよね〜』
ノルンがあからさまに茜に対しての挑発の言葉を発する。それに対し茜は澄ました顔をしているが、明らかにこめかみには青筋が立っており、その形のいい唇の端は引きつっている
「ノルンさん...何か言いましたか?私に聞こえる様に、もう一度言ってくださいませんか?」
「ちょ、ちょっとノルンなんで茜さんにそんなに食ってかかるの?僕は茜さんに教えてもらった技術に助けられてるし使えないなんて、一言も言ってないんだけど...」
「スイさん口調が崩れてますよ、それにそこまで気にしておりませんから...私の教えた技術が獣に対しても有効でなかったのがいけないのですから」
『めっちゃ気にしてるじゃん!』
「うぅ...」
「ノルン!挑発しない。それにそろそろ話している暇も無くなりそうです、あの人型だいぶ人間に近づいています」
スイの言う通り彼岸花の輪廻が終わり、人型がついには人といっても過言ではない姿になっていた。
もちろん、話している間もスイと茜は一度も人型から視線を外さず常に動きを観察していた
その人の様な何かは、鮮烈な赤を纏い、異質な気配を発している
「これは、またすごいですね、彼岸花の化身の様だあの男性に聞いた話を知らなかったら思わず付いて行ってしまいそうですよ...」
「この形態になってからは、先ほどの様に圧倒的なまでに魅了されることはなさそうですね、しかし言い換えれば戦闘に無駄なものを排除していると言うことです。気を付けてくださいねスイさん。スキルは使えないのです、自分の技術を信じて戦いなさい。」
茜は鋭い視線を化身に向けたまま、スイに対して忠告を飛ばした。
「わかっています」
『スイには私もついてるし大丈夫!』
「そうですね、それではスイさんのサポートを任せますよノルン」
『任せなさいっ!』
「それでは、二手に分かれて倒してしまいましょう」
「わかりました、それでは茜さん気をつけて」
「スイさんこそドジを踏まない様に」
茜の言葉を最後に二人と一本の木は彼岸花の化身との戦闘を始めた。
茜side
彼岸花の化身は今はもう武人の様に茜と間合いをはかり合っている茜が円を描く様に間合いを取りながら、足を運べば彼岸花の化身も鏡合わせの様に円を描きながら相対する。
「なるほど先ほどの戦いで、私の動きから学習したのですか...厄介ですね」
「ッシ!!」
茜は彼岸花の化身の上段頭に向けてのフェイントを掛けてから胸に向けて高速の突きを放つ。
が、彼岸花の化身はフイントにかかる様子もなく、胸絵の突きを難なく紙一重で避けるそのまま茜に対して武を感じさせる正拳突きを放つ。
「っと、油断も隙もないと、技術を伴った正拳突き。これまた厄介な...」
正拳突きを流水の様な動きで躱した茜は距離を取り、そうひとりごちる。
そのまま凛とした構えから脱力、目に倒れこむ様にしながら加速そのまま突きを放つが彼岸花の化身彼岸花の化身は冷静に槍の穂先を見ながらバックステップバックステップを踏み避ける。
茜は彼岸花の化身がバックステップするのを目視してから、一瞬槍を握る手を緩め持ち手をずらし、握り込み、ぎゅるりと音が聞こえそうなほど槍を捻る。
それにより、10cmほどのびた槍の間合いが彼岸花の化身の体を捉える。
「isgfegr!?」
彼岸花の化身は何が起きたのかわからず、うめき声をあげる。槍の捉えた箇所はバックステップを踏んでいたこともあり、ちょうど胸の中心を捉えていた。その傷口からは透明の血液の様なものが流れており、彼岸花の化身は少し苦しそうにしていた
「未確認の技術は通用すると...それに、人間に近づいたことにより、先ほどのマネキンの様な時よりも急所が人間に似通っている...なるほどこれはどうにかなりそうですね」
茜はそう呟き、未だうめき声をあげながら苦しそうにしている彼岸花の化身に、猟犬の様な追い討ちをかけた。
「ihfwlbg!!」
彼岸花の化身は茜の追い討ちを少しずつ躱していくが、避けきれずに槍を掠めた傷口から透明の液体をはらはらと流している。茜の追撃は終わらず、執拗に彼岸花の化身を追い詰めていく。
「knwrgu!」
槍が掠める
「rgbrwig」
槍が体を捉える
「febg」
再度体を捉える
彼岸花の化身は息も絶え絶えの様子で槍を避けるが、
「連樹葬」
と茜が呟いた瞬間に後ろの地面が盛り上がり4本の太い木の枝の様なものでできた木槍が両手両足を貫き、身動きの取れなくなった所を茜に頭、胸、鳩尾を高速で突かれ、ボロボロと崩れながら自壊を始めた。
「さて無事に勝てましたが...彼岸花も咲きませんし、もう復活はしない様ですね...スイさんはきちんと戦えているのでしょうか」
茜は残心を解き復活する気配のない、化身の自壊したなれの果てをちらりと流し見てからスイが戦っている方に歩いて行った。
そして茜には見えていないが、去った後には彼岸花が辺り一面に咲き誇っていた。
それは一種の悪夢の様なものなのだ。
克服したものには、現実を
敗れたものには抜け出すこと叶わぬ迷宮を
新しき賓客に歓迎を
花は未だ真に枯れることを知らず




