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M-098 ドラゴンブレス


 1300時から測距離儀の操作を教えて、1500時より砲塔区画へ向かう。

 魔撃槍に良く似た大砲の弾丸装填と制御室からの射撃管制射撃と砲塔区画からの個別砲撃を行ってみた。


 巡洋艦の搭載砲よりは口径が小さいけれど、巡洋艦から来てくれた下士官の話では、軍の同サイズの魔激槍よりも砲弾が低進することに驚いている。

 それだけ初速が高いということなんだろうが、アリスによると秒速千km程度らしい。

 魔方陣で強化された木造軍艦なら船体を貫いてしまうんじゃないか?


 どうにか訓練1日目の日程が終了した時には18時を過ぎていた。

 夕食を取りに士官候補生達がドックに向かい、俺達はプライベート区画に引き揚げて

ワインで乾杯する。

 何とか終わった感じなのは、皆も一緒なんだろうな。

 夕食は、あっさりしたスープにリゾットのような代物だった。あまりお腹は空いてないんだけど、夜食はビスケットだけだからね。

 それに、食べられるときに食べるのは騎士団の基本でもある。


「9000スタム(13,500m)の距離で、あの岩に当たるとは思わなかったわ。照準が凄いのね」

「砲塔区画からの直接照準だと、一気に命中率が落ちてしまうのは、あの測距離儀のせいなの?」


『長距離砲撃では距離だけでなく、緯度、外気温、風向風速による補正が必要です。火薬を使った大砲では、更に補正項目が増えますから、直接照準の精度が落ちるのは仕方がありません』


「その補正計算を、火器管制盤で行っているのよね。軍が欲しがるでしょうね」


 カテリナさんには理解できるのかな? 補正する項目は更に増えるはずだ。リバイアサンと目標が動いていた場合は、着弾時の移動距離まで考えねばならない。

 それに引き換え、現場での照準は勘でそれを補正することになる。

 あれだけ砲塔があるんだから、一斉に放てば1発ぐらいは当たるかもしれないけどね。


「明日の予定は?」

「速度を上げてみるつもり。それに移動時の地上からの距離は6スタム(9m)程度だったでしょう? 

 自動運行ではなく、手動であれば10スタム(15m)ほどに上げられるみたい。砂の海は平らに見えても起伏はあるのよ。少しでも高い方が丘を回避する必要が無くなるわ」


 それによる動力炉出力が、どの程度変化するかも興味があるってことだな。

 あまり変化は無さそうに思えるんだけどね。


 食後のコーヒーを飲みながら、ピルケースからカプセルを1個取り出す。

 コーヒーで流し込んだら、マイネさんがポットからコーヒーを注いでくれた。

 まだ20時にもならない。

 昨夜と違って、今夜はのんびりできそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 自動制御でリバイアサンを動かすよりも手動操作を組み合わせた方が、いろんな

設備機器の動作時間を短縮できることが分かってきた。

 巡航速度を時速6スタム(9km)から10スタム(15km)ほどに上げることができたし、航行時の地上高は12スタム(18m)にも達した。

 短時間なら、更に無理が効くとカテリナさんが言っているけど、そこまでしなくとも十分に思える。


 士官候補生も、訓練が終われば部下を持ち陸上艦を動かすことになる連中だから、最初は戸惑っていた設備機器の操作も5日足らずで何とか動かせるまでになっている。

 現在は南に向かって航行中だ。


「動力炉の出力があまり変わらないの。8割近い余裕があるのはおかしいと思わない?」

「大きなエネルギーを必要とする機関が別にある、ということですか?」


「アリス。主砲はまだ使えないの?」

『制御システム及び電路の点検は終了していますが、メカニズムは未実施です。低出力で試射を行い、メカニズムの確認を推奨します』


 カテリナさんがニマっと怪しい笑みを浮かべる。

 やってみるつもりだな。

 カテリナさんは主砲と言っていたが、アリスが話していたのは荷電粒子砲のことに違いない。反応弾を撃ち出すレールガンは隠蔽するということを守ってくれたようだな。

 この世界で荷電粒子砲を見たなら、それが主砲だとカテリナさんも納得するに違いない。


「あら? 乗り気じゃないの」

「射程の最低距離が約10カム(15km)以上というのは、色々と問題がありそうですけど」


「そうねぇ……。でも、検証は必要よ。使う必要性が無ければ良いんだけど、万が一にも使う時がきたら困るでしょう?」


 そうきたか! 何か押し切られそうだ。

 フレイヤも、乗り気なのか俺に顔を向けて頷いている。


「監視班に連絡。10カム以上の距離にある試射の目標となる物を確認せよ」

「了解! 監視班。距離10カム以上の砲撃目標を見つけ次第連絡せよ。主砲の試射を行う。繰り返す……」


 エミーの指示をロベルがインターホンを測距離儀室に切替えて指示を出す。


「監視班の了解を確認しました!」

「ありがとう。これで試射できますね」


 エミーも乗り気だったのか!

 あまり気乗りはしないけど、あるものは使えともいうからなぁ。俺だけ反対しても押し切られそうだ。


「主砲発射の準備を開始してください」

「火器管制班、主砲発射準備はじめ! 砲塔区画の装甲板閉止、砲塔区画要員は待機室へ退避せよ!」


 エミーの指示でロベルが次々に該当する班へ指示を伝える。

 砲塔区画の要員を退避させることに驚いたが、ロベルとしては主砲の試射と聞いて、可能な限り被害の低減を考えているのだろう。


「ドラゴンヘッド外部展開シーケンス作動。装甲板を開きます」

「右舷装甲板、開きました。現在ドラゴンヘッドの展開中……」


 火器管制区画から、怪しげな言葉が聞こえてくる。

 カテリナさんの説明で、主砲は伝説の火龍のブレスのようなものだと説明したから、何時の間にか主砲の名前がドラゴンヘッドになってしまった。

 そこから放たれる荷電粒子の一撃は、ドラゴンブレスと付けられたようだ。

 ドラゴンブレスとはねぇ。荷電粒子砲の威力はそんな感じだろうな。


「ドラゴンヘッド展開終了。エネルギー充填開始します……」

「機関班から報告! 動力炉出力が15%上昇、更に上昇しています」


 カテリナさんが笑みを浮かべて成り行きを見守っている。

 自分の推測が当たったという事に満足しているのかもしれない。


「機関班から報告。動力炉出力37%をピークに現在下降を開始……、報告!24%で安定しました」

「火器管制班より報告。射撃準備完了。バレル形成電磁コイル異常なし、照準装置連動に異常なし、イオン形成装置内の圧力異常なし……」


「後は目標を見付けるだけね。大砲を試射した時には、たくさんあったんだけど……」

「南に移動してますからね。それだけ起伏も少ないんでしょう」


 正面の大型スクリーンに映る画像を見ていたカテリナさんが文句を言い始めた。

 早く見つけてくれないと、目標を作れなんて無茶を言いかねない。


 それにしても、指示を出して発射の準備が整うまでに30分ほど掛かっている。発射も直ぐにとはいかないだろうから、実際に発射するまでに要した時間も計測しておいた方が良さそうだ。


「そうか! 了解した。……指揮官殿。右舷24度、距離約12ケム(18km)に岩山を発見したそうです。約横幅40m、高さ20m、駆逐艦より小型になります」


 ロベルの報告にエミーが小さく頷き、フレイヤが自分達の前に表示されたスクリーンの映像方向を変えた。

 正面左の大型スクリーンに、測距離儀が捉えた映像がゆっくりと左方向に流れていく。


 正面の大型スクリーンには、長方形の岩が横たわっている。

 あれを目標にするのか?


「報告! ドラゴンヘッドを目標に指向できません。ドラゴンヘッドの左右展開範囲は左右共に15度までです」

「進路変更、目標を正面に……」


「おもぉかぁぁじ、20!」


 ロベルの大声が制御室に木霊する。

 直ぐに舵を握った女性士官候補生が高い声で復唱し、舵輪を右に力一杯回し始めた。

 あんなに回す必要があるんだろうか?

 手元にアナログ式の表示器があるようだから、それを見ながらの操作なんだろうけど。


 ゆっくりと正面の大型スクリーンの画像が左に流れていく。右のスクリーンと同じ映像に近くなれば、ドラゴンヘッドと目標の軸線を合わせることができるだろう。


「火器管制班より報告! ドラゴンヘッドの軸線調整範囲に入りました。照準合わせ開始。ドラゴンブレス発射準備シーケンス再スタート!」

「機関班より報告。動力炉出力上昇中、現在30パーセント」


「イオン形内圧力上昇、1000を越えています。プラズマ形成が始まりました!」

「エミー、いつでも試射できるわよ!」


「ドラゴンブレス発射を許可。カウントダウン開始!」

 カテリナさんに負けないくらいの声で、エミーが発射を指示した。

 大きく頷いたフレイヤがカウントダウンを開始する。10秒前からなのはお約束なのかな?


「……3、……2、……発射!」

 

 その瞬間、外部を映していた画像が一瞬真っ白になった。

 ゆっくりと画像が元に戻ったんだが、中央スクリーンに映し出されていた岩が跡形もなく消え去っている。

 その手前に長い溝が岩に向かって伸びていた。


「出力は低かったのよね?」

「最大値の30%です……。それで、あれですか!」


 フレイヤが呆然とした表情で画像を見ながら返事をしている。


「各班の点呼と設備の点検を指示して欲しい。制御室の被害は無さそうだが、他の連中が心配だ!」

「各班は人員点呼と設備の点検を開始。その結果を報告せよ。繰り返す……」


「ありがとうございました。少し呆然としておりました」


 ロベルが俺に頭を下げる。

 まあ、分からなくもない。だが一番驚いているのは測距離儀のある監視室にいる連中だろうな。

 たぶん、ドラゴンブレスの光を見たはずだ。銅の地金1つがプラズマ化して撃ち出す光景はどんな風に見えたのだろう。


「驚いた……。戦艦の主砲の直撃を受け立って、残骸は残るはずよ」

「あまり使いたくはありませんね。それに進路変更時間を差し引いても、発射までに1時間近く掛かってますよ」


 威力は絶大だけど、使うにはちょっと面倒だ。

 それに相手が動いて、外れた場合は再発射までに同じぐらいの時間が掛かるんじゃないかな?

 エミー達も今回の試射を見ているから、使いどころが難しいことを感じたに違いない。

 強力な兵器を持っている。それを確認したところで、今日のところは十分だろう。


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