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M-097 ベンチを作って貰おう


 昼食の確認と、作ってもらいたいものがあったから先に輸送船に向かうことにした。

 高速輸送艦は駆逐艦よりも一回り大きく、武装を取り去っているから大型のカーゴ区画を持っている。その上に魔方陣で内部空間を広げているから、2千t以上の荷物を積載できるようだ。

 欠点は、燃費が悪いらしい。

 おかげで使っているのは軍隊だけのようだ。巡洋艦並みの速度は、一般の貨物輸送には必要ないってことだろうな。

 乗員はブリッジクルー以外に、機関要員、貨物要員、それに生活要員なのだが、機関要員は酷使する魔道タービンの保全もこなしている。

 要するに、何でも屋が揃っているということになるんだよね。


 ドックに向かうと、桟橋をランニングしている乗員達を見掛けた。

 軽く挨拶をしてすれ違ったのだが、長い桟橋に一隻だけの停泊だから誰に気兼ねをすることも無い。

 ストレス解消にも効果があるんじゃないかな。


 俺がやってくる姿をブリッジから見たのだろうか? 輸送船と桟橋を結ぶ橋に、船員が立っていた。


「昼からだと思ってましたが?」

「昼食が気になって、先に来たんだ。船長に合いたいんだけど?」

「ご案内します」


 アレクのような筋肉質の体をした船員の後ろに付いて輸送船に入る。

 ヴィイオラの陸上艦より艦内が狭く感じるのは仕方がない。桟橋をランニングするのも、この船内の反動なのかもしれないな。

 

 甲板より2つ上階が操船を行うブリッジのようだ。

 10m四方ほどの部屋の中央前方に舵輪がある。 最後尾が船長席でその後ろの壁までは俺がどうにか通れるほどの幅しかない。


「午後だと聞いてましたが? どうぞお座りください」


 案内してくれた船員が折り畳み椅子を用意してくれた。

 席に座ったところで、用件を伝える。

 周辺の監視に昼食をとる方法、そしてベンチを作って欲しい……。

 最初の2つには頷いていたけど、最後の頼みを聞いて船長が笑みを浮かべた。


「途中でご覧になった通り、船内で暮らす1か月は長すぎます。外を見ることができる周辺監視は願っても無いこと。

 2つ目は、こちらの桟橋にテーブルを並べましょう。折り畳みのテーブルとイスは150人分用意してきました。

 最後の頼みは、梱包用の木材を使えば可能でしょう。ドワーフ達がおりますから、粗末な作りとはならない筈です。ところでお幾つ製作すれば?」


「出来るだけ……、ということでお願いいたします。この酒でどうでしょうか?」


 蒸留酒だけど、アレクがワインに混ぜているぐらいだから安い酒ではないはずだ。纏め買いしたから、値段は分からないけど20本はある。10脚は作ってくれるんじゃないかな。


「ほう、果実の蒸留酒ですか。数本頂ければ10脚以上作ってくれるでしょう。数はだいじょうぶですか?」

「お願いします。できたなら士官候補生に渡してくれませんか?」


 笑みを浮かべて右手を伸ばしてくれた。

 交渉成立。互いに握手を交わす。


「それで監視の方ですが?」

「リバイアサンの最上階になります。双眼鏡の数は?」

「ブリッジ要員が全員。それに予備が3つありますから十分に対応できます。昼夜ということになるのでしょうね?」


「夜間航行は当分行いませんが、現在地が問題です。周辺は大型魔獣が跋扈する場祖ですからね」

「2直3交替のシフトを組みましょう。それでは、何人か集めますから監視場所に案内願います」


 協力的な船長で助かった。船長としても閉鎖空間だから船員たちのストレスの解消を考えていたのかもしれない。

 だけど、士官候補生の監視よりは安心できる。本職だからね。


 先ほどの船員が走り回って10人程の船員が集まってくれた。航海長に船の指揮を委任して船長も同行してくれるようだ。

 早めに、作業場所と連絡手段を教えて士官候補生を食事に行かせてあげよう。


 通路を歩き、道を間違えないように何カ所かに張り紙をしておく。輸送船への道順を矢印にしてあるから、逆を辿れば目的地に向かえるはずだ。

 

 エレベーターで40階に向かい。そこから別のエレベーターで50階に向かう。

 面倒だけど、兵員室の位置を考えればこれで良いのかも知れない。

 最上階のエレベーターを出ると、仮眠室やトイレがある。階段を上った先出た瞬間。船長達からため息が漏れる。


四方がガラス張りだ。どうもガラスでは無さそうなんだが、船長達にはガラスと言っておいた方が無難だろう。


「周囲は厚さ30cmのガラス製です。50mm徹甲弾程度なら魔方陣の強化により傷もつかない筈です。

 ここでの監視をお願いしたい」


「いやぁ……、驚く限りです。確かに双眼鏡が必要でしょうな。地上からの高さは?」

「約、300mというところです。砂の海にはこの高さを越える山はあり合せんから、眺めは最高ですよ」


 俺の説明に船長は頷くばかりだった。

 しばらく外を眺めていたが、やがて船員を集めて俺に顔を向ける。


「やりがいのある仕事になりますな。我等一同感謝いたします。たまに他の船員を同行させても構いませんか?」

「船長の責任でお願いします。この中央に変わった設備があるのですが、その操作は士官候補生に任せるつもりです。精密な光学機器ですので、見学は構いませんが触らないように注意してください」


「あれですな。確かに大きいですな。失礼ですが、何に使われるのでしょう?」

「機動要塞に搭載された艦砲の照準器です。狂いが出ますと長距離砲撃で着弾点が変わってしまいます」


 ちょっと驚いているようだ。まじまじと測距離儀を眺めていたが、両端に張り出した腕に大きなレンズが付いていることで納得したみたいだな。

 実際には少し違うんだけど、照準を定める装置の一部だから嘘にはならないだろう。


 再び、輸送船まで長い通路を歩くことになる。

 途中途中の張り紙を船長達が確認しているから、次は俺が同行することも無いんじゃないかな。


 ドックに戻った時には、少しほっとした表情を船長が見せてくれた。

 それぐらい長い距離を歩いたということになるのだろう。


「これで、失礼します。……そうそう、忘れてました。輸送船には魔石通信機が付いてましたね。チャンネル「00」で俺達と交信できます。それと、監視要員にこれを渡してください」

 

 小型の魔石通信機を渡しておく。

 これで最上階とドックの交信もアリスを介して可能になるはずだ。

 直接交信ができれば、アリスは介入しないだろう。


 さて、今度は休憩所だな。

 通路を進みながら、時計を見ると1140時になろうとしている。先に昼食を取らせよう。


「アリス、フレイヤ達の様子はどうだい?」

『現在、士官候補生が舵輪を握っています。カテリナさんを介して火器管制装置の使い方をレクチャー中。砲弾の装填はありませんが、片舷の一斉砲撃が可能であることを確認しました。午後に砲弾の装填が行われれば試射が可能です』


 かなり習得が進んでいるということなんだろうか?


「とりあえず昼食にしようと思う。リバイアサンの停止操作を指示してくれ。ロベルに昼食は桟橋で取ることになったと伝えて欲しい。休憩所で合流したいが、道順が分からなければ、迎えに行く。その時は連絡して欲しい」

『了解です!』


 もう過ぐエレベーターホールだ。

 10分も掛からずに、休憩所に到着できるだろう。


 休憩所に入ると、班ごとに床に座ってマニュアルを眺めていた。

 下士官が私に気が付き全員を断たせようとしたので、慌てて止めさせた。


「そのままで良いよ。昼食の時間だが食事は桟橋で取って貰う。制御室に向かった連中が合流するまで待つことになるから、それまでは自由にして欲しい」


 下士官を呼び寄せ、一緒に休憩所の外に出た。

 外周通路に張った張り紙を見せて、途中途中に張り紙をしておいたことを話すと嬉しそうな顔をしてくれた。


「助かります。表示はあるんですが我等には読めませんからね。かろうじて数字を覚えたぐらいです」

「こっちも考えが足りなかった。慌てて作ったものだから、字が下手なのは許して欲しいな」


「それぐらい……」と話していると、カテリナさんに連れられたロベル達がやってきた。やはり張り紙をしといた方が良かったな。


「お恥ずかしい限りです。全員揃っております」

「こっちも不注意だった。桟橋までは張り紙をしてあるから分かると思うよ。制御室までの道順も表示しておくよ」


「ありがとうございます。休憩所に残った候補生達は、まだ中ですか?」

「直ぐに通路に呼びます!」

 

 下士官が慌てて休憩室に入っていく。

 全員が揃ったところで、ドックに向かったがちゃんと行けるだろうか? 一応、曲がる場所や押すボタンに張り紙をしておいたんだけどねぇ……。


「あの張り紙を張ったの?」

「そうでもしないと迷子になってしまいます。展望室まで同じような表示をしてますから、輸送船の船員にも迷子にならないと思いますよ」

「やはり案内板が必要かもしれないわよ。少し考えてみましょう」


 カテリナさんとプライベート区画に向かう途中でそんな話になってしまった。

 確かに必要かもしれないな。

 次にやって来るのは数百人だろうし、更に人数が増えていく。

 捜索隊を作っておくことも考えなくてはなるまい。


 朝食を取った区画に行くと、デッキが作られていた。

 装甲板を開いても10cmほどの透明な板が下りてくるようだ。その端に分厚い扉が設けられているのは、あのデッキで指揮を執ることもあるのだろうか?

 とりあえず明るい空の元で食べる昼食は、サンドイッチだろうが美味しく食べられる。

 切り分けた果物はリンゴに似ているけど、味はオレンジだった。

 

「何とかなりそうかい?」

「指揮官は全てを見ないといけないんですね。ロベル様が後ろで指示を告げてくれましたから助かりました」


 やはり大声で怒鳴るのが一番だということか。

 ロベルは退役するような話だったが、リバイアサンに残ってくれると助かるな。


「午後は大砲に砲弾を装填してみるよ。その前に測距離儀の使い方を教えないといけないから、それが終わったら制御室で試射してくれないか?」

「もちろん良いわよ。でも、そうなると目標が欲しいわね」


 何を目標にするか、フレイヤが悩み始めた。

 変なところでこだわるんだよなぁ……。


 マイネさんにベンチを頼んできたと報告したら、嬉しそうに頷いてくれた。

 ベンチを3つも並べればテーブルになるだろうし、その周囲にベンチを並べて食事もできる。

 どんなベンチになるか、受け取るのが楽しみになってきた。


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