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M-095 ブリーフィング


 プライベート区画にある展望デッキはジャグジーの奥だけではないらしい。

 俺達が休んでいた50階の広い回廊が膨らんだ場所にも展望デッキが作られていた。

 体育館並みの広さだが、リビングルームとして使われていのだろうか? 壁の一角にはカウンターバーのようなものまで作られている。


 アリスにデッキの展開をお願いすると、装甲板が横にスライドして、デッキが張り出した。

 デッキの奥行きは10m程だが室内と床の高さが同じになるから、案外広く感じる。

 この場所でパーティでもしたんだろうか?


 夕日を見ながらの食事は、サンドイッチ主体のお弁当を何倍も美味しくしてくれるし、ここなら食後の一服を楽しめるな。

 ポットのスープは暖かだし、今日はそれほど寒くも無い。

 荒れ地に沈む太陽は幽玄な姿を俺達に見せてくれる。


「陸上艦のデッキで眺める夕暮れよりも綺麗ね」

「ちょっとした山の上から見る形になるからだろうね。ここで暮らすなら、この光景を毎日見られそうだ」


 エミーも目を細めて見てる。

 あまり目を酷使しない方が良いんじゃないかな?

 確かサングラスがあったはずだ。エミーに渡しておこう。


 カテリナさんから頂いたカプセルをコーヒーで流し込む。

 様子を見ていた、カテリナさんがジッと見ているんだけど……。


「やはり異常はないみたいね。あの薬剤の調合では、その場で泡を噴き出してもおかしくは無いんだけれど……」


 尻つぼみの言葉だけど、カテリナさんも信じられなかったということなんだろうか?

 とりあえずは何も無いようだ。

 やはりアリスの言葉通りということなんだろう。


「間取りが大体分かったから、明日は個別にセッティングをしたいんだけど……」

「それは、夕食後にやって欲しいな。リバイアサンの制御室に仕官候補生達を配置して動かしてみようと思っているんだ。

 指揮官区画に3人でいて欲しい。全体の指揮を行う人がいないと動かすのが難しそうだ」


「リオ君はどうするの?」

「連装砲の砲弾装填を、マニュアルを見ながらなんとか教えたいと思ってます。巡洋艦から下士官が来てくれましたから、その後の訓練は任せたいですね。

 それに輸送船の連中に周辺監視をお願いしなくちゃなりません」


 できれば何人か残って欲しいところだ。

 そうでないと、2個中隊規模の乗員がやってきた時に、また同じことをしなければならない。

 

 残念そうな顔をしているけど、時間はたっぷりあるんだから暮らしやすい雰囲気の空間にして欲しいな。

 それぐらいはフレイヤも分かっているんだろうけどね。


 マイネさんに、もう1杯コーヒーを入れて貰い、星空の下でタバコを楽しむ。

 ベンチが欲しいところだ。荷物を梱包した木材で作れないかな?

 明日、輸送艦に行った時にでも頼んでみよう。


 1930時を過ぎたところで、兵員居住区へと足を運ぶ。

 歩く距離が長いのが嫌になるな。

 10分前に士官候補生達の部屋のある通路に到着し、先に休憩所の掃除をしようと奥の部屋に入ったのだが……。

 綺麗に片付けられ、塵一つない。

 どうやらこの部屋も掃除をしてくれたようだ。


 本来ならテーブルや椅子があるのだが、とりあえず床に座って貰おうかな。

 あまり長話をすることにはならないはずだ。


 約束の時間が近づいたので休憩室を出ると、通路に士官候補生達が整列していた。時間前に集まれと教育を受けているのだろう。さすがは職業軍人の卵達だ。


「集まってくれたな。この部屋に入ってくれ。綺麗に掃除をしてくれて助かるよ」


 俺の声に一斉に体を回して、班ごとに整列して部屋に入っていく。

 士官候補生の態度に、思わず目を丸くしてしまったのを見たのだろう。ライドが小さく頷いて俺の横を通り過ぎていく。

 通路に残ったのが俺一人と気が付いて、急いで休憩室へ入った。室内でもきちんと整列している。


「全員揃っております。ブリーフィングをお願いします!」

「御苦労。それでは始めるが、その前に座ってくれないか。本来なら椅子を用意すべきだが、生憎とこのような部屋だ床に座ってくれ。俺も座りながら説明したい」


「全員座れ!」


 ライドの号令でザザッと音を立てて座ったが、その後は俺に注目してくれた。

 俺も床にあぐらをかいて座ると、バッグから投影装置を取り出す。


「魔道具だ。これを使うと……、このように画像を映し出せる。ここで暮らす上で戸惑うことが無いように、先ずは機動要塞、リバイアサンの概要から説明する……」


 何度も説明しているから、慣れたものだな。

 アリスが俺の説明に合わせて画像を切り替えてくれるから助かってしまう。


「ここまでが概要だ。10分間の休憩を取る。ワインを飲んでも構わんぞ。タバコも、ここでなら楽しんでいい。換気能力が高いから問題はあるまい」

 

 そう言って、バッグからカップとワインのボトルを取り出した。

 ボトルは6本あるから、カップに半分程度は飲めるんじゃないかな。


 ライドが苦笑いをしているけど、先ずは飴を与えておこう。

 

「残ったら、適当に飲んでも構わんぞ。今までのところで質問があれば答えるが?」

 

 タバコに火を点けていると、1人が手を上げる。

 彼を指差すと、立ち上がって問い掛けてきた。


「リオ閣下が起動要塞を見付けたということですが、私にも見つけて、所有することは可能なのでしょうか?」

「答えは、イエスでありノウでもある。

 俺が見つけたのは偶然の要素が高い。となれば君でも可能だろう。イエスと言うことになるな。だが、機動要塞に入る方法は通常なら不可能だ。

 俺は31階にある離着陸台を開くことができた。その方法は魔石通信ではない電気、雷の一種である電波を使い、かつ古代帝国時代の信号を送ることで可能とした。

 その技術はこの世界に現時点で持つ者は俺1人だ。だから所有は不可能、ノウということになる」


 ガヤガヤと場が騒がしくなってきた。

 その技術の出所は? ということなんだろうが、カテリナ博士の名前を誰かが呟くと少しずつ納まってくる。

 いろんなところに名前が売れてるんだな、と感心してしまう。


「そろそろ本題に入るぞ。話を聞いてくれれば良いから飲食は自由で構わない。

 君達をいくつかの班に分けた。これはリバイアサンを動かすための指揮系統に関わってくる。

 大きくは、射撃目標との距離を正確に測るための観測班、輸送船の乗組員にも手伝って貰うつもりだ。

 次に航海班。操舵はこの班で行う。火器管制班は遠隔射撃と各砲塔の個別射撃目標の管制を行う。かなり変わったシステムだから、軍に戻っても役立たないが、リバイアサンでは重要な班になる。最後に機関班になるが、これは今回設置しないことにした」


 最初に各班の役割を記載した表を使って説明する。

 次に、映し出したのは制御室の全景だ。陸上艦のブリッジとはまるで異なっているから、身を乗り出して見ている者もいる。


「制御室はこのように区画化されている。窓はどこにも無い。正面の大型スクリーンで周囲を見ることになる。

 次に現場の連装砲塔の担当だ。口径80セム(120mm)連装砲塔がリバイアサンには72基設けられている。火薬を使った後装式だが、魔激槍に似た魔道科学も取り入れられている大砲だ。

 ハーネスト同盟に対し威嚇射撃を行う。この取り扱いを習得して欲しい。担当者には砲塔1基辺り1人にしたいところだが、砲弾の装填や照準もある。何人で可能かはやってみないと分からないところだ。

 明日から練習を始める。同盟軍が動くかどうかは分からないが、大艦隊の前に姿を現して威嚇射撃をするってことは痛快だと思うぞ。

 そのためにも、努力して習熟してくれ。場合によっては威嚇では済まない事態も想定される 以上だ!」


 士官候補生達が全員立ち上がり拳を上げる。


「「ウオォォー!!」」と叫んでるのは感激してるってことかな?

 思わず笑みがこぼれてくる。


「資料の用意もしたい。明日は1000時にここに集合だ。最初は制御室、午後は砲塔のある区画に班を案内する」


 ライドに顔を向けると、小さく頷いてくれた。


「リオ殿に敬礼! ありがとうございました!」

 

 拳を胸に当てた連中に、片手を小さく上げて応えると、休憩室を後にした。

 明日は忙しくなりそうだ。カテリナさんがいるから、早めにカテリナさんに役目を渡して現場に向かおう……。


 プライベート区画に到着したのは22時前になってしまった。

 どこにいるのだろうと探していると、最初に見つけた場所に5人が集まっていた。

 どこに何を配置するかで、熱い議論をしていたようだ。


「あら! 終わったの?」

「どうにか、イントロだけを話してきました。明日は10時からになりますが、カテリナさん達は先に制御室に移動していてください」


 ちらりと俺に顔を向けて頷いてくれたけど、再び配置の議論に加わってしまったから、明日の朝に再度頼めば良いだろう。

 マイネさんがグラスにワインを注いでくれたから、ありがたく味わうことにした。


 それにしてもそんなに熱くならなくても良いように思えるけどねぇ。区画を決めて担当者を決めれば良いように思えるんだけど……。


「今夜はここまでにしましょう。続きは明日の夕食後にね!」

 

 カテリナさんの宣言で4人が頷いた時には、グラスのワインが無くなっていた。


「リオ君も戻ってきたんだから、汗を流して良い夢を見ましょう。マイネ、明日は8時に起こしてくれない?」

「分かったにゃ。お休みにゃ!」

 

 2人が手を振って自分達の部屋へと歩いて行った。

 お風呂に入らないのかな? それとも、すでに入ったとか……。


「ほら、いつまでもグラスを持ってないで、こっちよ!」


 フレイヤに手を引かれながら向かったのは、この移動要塞の指揮官に部屋だ。

 そう言えばベッドは用意したと言ってたな。

 部屋に入ってびっくりした。コテージにあったベッドよりも大きいんじゃないか!

 これならフレイヤに蹴られても落ちる心配はなさそうだ。


「大きいでしょう。王宮の客室から一番大きなベッドを運んで来たそうよ。作ってはみたものの誰も使ったことが無いんですって。引き取ってくれて嬉しいとヒルダが言ってたわ」


 絶対、俺達で遊んでいるに違いない。

 4人どころか5人が一緒に寝られそうだ。


 だけど、ベッドの大きさは案外部屋の大きさに合ってるんだよなぁ。スケールが違い過ぎるのが問題だけど……。


「バッグやトランクは次の間にあるクローゼットに置いたわ。パウダールームだから私達にも都合が良いでしょう? それじゃあ、入りましょうね」


 その奥に、プライベートのお風呂があったんだよなぁ。

 パウダールームの奥の扉を開くと湯気が立ち込めていた。

 ベッド並に大きい湯舟だからこのまま皆で入ろうということなんだろうか?

 

 フレイヤ達がさっさと衣服を脱いでバスルームに向かう。カテリナさんに無理やり脱がされたから急いで湯船に飛び込んだ。その後からカテリナさんが入って来る。


「やはり大きなお風呂は良いわね。ジャグジー機能もあるらしいんだけど、明日にでも確認しましょう。フレイヤ、そのスイッチを押してごらんなさい」


 フレイヤが身を乗り出してスイッチを押すと、装甲板が開いていく。

 ここは露天風呂気分が味わえるんだよなぁ。デッキで体を冷やしながらワインを飲みたいところだ。やはりベンチとテーブルは早めに運んでもらわないといけないな。


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