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M-094 先ずは寝る場所を確保して


 大きな船員バッグを足元に置いて、士官候補生が桟橋に整列する。

 すでにドックの扉の閉止シーケンスが作動しているから、斜路は格納されて装甲板がスライドを始めた。

 まだ周囲を戦機と巡洋艦、駆逐艦で警備をしてくれているが、装甲板が閉じればすぐ北にある隠匿空間に向かうはずだ。


 改めて士官候補生達を眺める。

 全員が18歳程度らしい。若者らしい表情には、野望さえうかがえる。


「先ずは班ごとに荷物を持て。各班に台車が3台用意されているはずだ。01番の梱包を開ければ出て来るぞ!

 次に02番の梱包を開き、荷を台車に乗せる。

 残った台車には夕食と明日の朝食を乗せる。03番の梱包だ。班の人数をきちんと確認するんだぞ。

 以上。始め!」


 士官候補生達が6つの班に分かれて荷物を分類し始めた。

 士官候補生の監督であるラルドの荷物は、最初に乗船した下士官が3人が残ってくれたので、彼等が運んでくれるみたいだな。


「兵員室は遠いのでしょうか?」

「ここからかなり上だよ。エレベーターがいくつかあるから、それを使っての移動になる」

「それにしても、違和感が凄いですね。何千年も前の構築物とは聞きましたが、最先端の軍の工廟を見るようです」


 一度文明が滅んだからだろうな。リバイアサンをカテリナさん達は作れるのだろうか?

 たぶん無理だろうし、再現するには更に年月が必要だろう。


「先任伍長殿、準備完了です!」

「御苦労。それでは移動を開始する。よそ見をして迷子になるんじゃないぞ。千を越える部屋があるらしい。探しだす前に餓死してしまうぞ!」


 ラルドの声に、士官候補生達が力ない返事をしている。

 まだ実感がないのだろうが、今話したことは現実としてあり得る話だ。

 もっとも、触ったら危ないような設備がある部屋はアリスが封印しているだろうけどね。


「王家より、エメラルダ王女を降嫁して頂いたリオだ。一応男爵位を持ってはいるが、騎士として接してくれれば十分だ。

 今から、兵員室に案内するが、先ほど先任伍長の言った通り、長い年月が経っている。残骸などもあるはずだから、その辺りは部屋の連中で片付けてくれればありがたい。ゴミは一部屋に纏めて欲しいが、その前にゴミを出さぬよう注意してくれ。

 輸送船の方は艦長の指示に従って欲しい。桟橋内を動くのは構わないが、好奇心で設備に触らないようにお願いする。

 何分、俺にも全容が分からない部分があるから、責任を持てない。輸送船の乗組員の役目は明日の昼には伝えるつもりだ。

 それでは、出発するぞ!」


 ドックから通路を通り周回通路へと向かう。

 四分の一ほど周回した場所にある通路を今度は中心付近に歩くとエレベーターホールに出た。

 


「このエレベーターで30階に移動する。25階から30階が兵員室だ。階高を示す数字は今使われている数字ではない。数字については、現在使われている数字に直した表を各班に配る。間違えるなよ。エレベーターを出たら、ホールで待機してくれ」


 たぶんアリスがモニターしていてくれてるだろう。

 間違った階の番号を押しても、目的地に到着するんじゃないかな。

 とは言え、きちんと伝えておけばここでの暮らしも少しはましになるはずだ。


 最初の班がエレベーターに乗り込む。4台設置されているから、案外移動はスムーズだ。

 エレベーターの扉の上に表示されたエレベーターの動きも、今のところは問題ない。

 士官候補生達が全員移動したことを確認したところで、俺達もエレベーターに乗り込む。


 エレベーターから出ると、士官候補生達が各班ごとに整列していた。

 この辺りはエルドの訓練の賜物に違いない。

 再び周回通路に進み、同じように途中にある通路に入った。


「ここが兵員室だ。左右に扉があるが、大きさを考えると20人程が休める場所に思える。一番端のこの部屋をゴミ置き場として使ってくれ。各班で1つもしくは2つの部屋を使うように。

 とにかく埃が凄い。【クリーネ】で掃除をしてから荷物を広げるべきだな。

 現在の時刻は15時を過ぎたところだ。2000時にこの通りに集合してくれ。明日からの作業についてブリーフィングをしたい」


「皆、分かったな! この部屋に俺と巡洋艦から来ていただいた下士官が住む。リオ殿とは魔石通信機で連絡が取れるから分からない時には聞きに来い」

「そうそう、忘れるところだった。トイレとシャワー室は通路の突き当りの左右にある。突き当りには扉があるが、非常時用だ。通常は開かないが万が一の場合は反対側に抜けられる。以上だ」


 さて、フレイヤ達の様子を見に行ってみるか。

 6人分のお弁当は貰っているから、忘れ物は無いはずだ。


「それでは2000時にやってきます。埃が酷いですから驚かないで下さい」

「そのままでも問題ないが、とりあえずやっておこう。特に注意することは無いか?」


「今のところは……。分からない時には連絡ください。魔石通信機のチャンネルは?」

「軍の通信機だが、00番を使いたい」

「だいじょうぶです。こちらで対応できますよ。それでは後ほど!」


 軽く手を振って周回通路へと向かう。

 プライベート区画への移動は少し面倒なんだよな。

 一端40階に移動して、制御室近くのエレベーターホールから直通のエレベーターに乗らなければいけない。

 かつてこの機動要塞で暮らしていた指揮官は、余り中を動き回らなったんだろうか?


 長い距離を移動して、やっと大きな青銅の扉の前にやってきた。

 たぶん50階にいるはずだから、長い回廊を奥へ進み階段を上る。

 大きなスクリーンを見た時には正直ほっとした感じだ。

 スクリーンには海中の光景が映し出されている。画像なんだろうけど水族館にいるような錯覚になってしまう。


「さてどこにいるんだ?」

『ナビゲートします。そのまま歩いてください』


 自分の部屋の中でナビを使うのもおかしな話だけど、右手のバングルが動いたのだろう。小さな仮想スクリーンが現れた。緑の輝点が3つ一カ所に集まっている。もう一カ所に2つあるのはフレイヤ達とマイネさん達が別行動をとっているということになるのだろう。

 そのまま歩いて行くと、部屋の大きなコーナー部分にフレイヤ達がシートを広げてお茶を飲んでいた。


「あら、下は終わったのかしら?」

「とりあえず兵員室に案内してきました。2000時にブリーフィングを兵士の休憩室で行う予定です」


 フレイヤが座るように手で合図を送って来る。

 大きな部屋でピクニックをしようとは思わなかったな。


「本当に何もないのね。マイネさん達が偵察に向かってるけど、呆れて帰って来るんじゃないかしら」

「残っていたらこっちが驚くよ。そもそもこのリバイアサンが動くことの方が驚くんだけどね」


「生活用品の劣化は激しいんだけど、設備機器に劣化が無いの。だから動いてるのよ」

「照明も光球を使った物ではないみたい。天井自体が光ってる感じなのよ」


 フレイヤの言葉にカテリナさんが頷いている。

 色々と不思議なところがあるけど、一応ヴィオラ騎士団の旗艦だから、あまり文句を言わないことにしよう。


「お弁当を頂いてきたよ。明日の朝までらしいけどね。マイネさんに渡せば良いのかな?」

「それで良いはずよ。マイネ達の最初の一言が面白かったわ。『自走車がいるにゃ!』だもの」


 カテリナさんが思い出し笑いをしているけど、俺もそう思っている一人だ。

 自走車のカタログを調べてみよう。案外、リバイアサンに適したものがあるんじゃないかな。


「それで、今夜はこの辺りで寝るんですか?」

「とんでもない。ちゃんとリオ君の部屋にベッドを備えたわよ。マイネ達に一番外れの部屋を上げたけど問題ないでしょう?」


 たくさんあるからねぇ。このフロア―に部屋があるなら掃除もきちんとしてくれそうだ。


「ひょっとして、全員一緒とか……」

「もちろんよ。コテージでも一緒だったでしょう。将来は変るかもしれないけど、今回は問題ないわ」


 倫理観が俺と合わないのは諦めるべきなんだろうな。

 それより問題なのは、話の後にカテリナさんが取り出したピルケースの方だ。

 頂いた瞬間、その重さにカテリナさんに顔を向けてしまった。


「プラチナ製よ。細密画が綺麗でしょう? 裏に番号があるけど、王宮から送られた博士としての報酬になるのかな? 陸港の待ち時間に探したんだけど、ようやく見つけたわ」


 それって栄誉を誇れる品ってことじゃないのかな?

 貰っても良いんだろうか。


「そのピルケースは少し変わっているの。彫刻の女性の胸に指を乗せて3つ数えなさい。

……終わったかしら。そしたら胸にもう1度指を乗せなさい。ほら! ロックが解除されたわ」


ちょっとセクハラをしているように思えるのは気のせいなんだろうか? フレイヤに良く似た女性像なんだよなぁ。

 蓋を開けて、再度驚いた。

 この世界にもカプセルがあったんだ!

 紫色だというのが怪しいんだけど、形はカプセルそのものだ。やはり歪な形で魔道科学が発展していることを感じてしまう。


「夕食後に1つ飲んで頂戴。アリスの指示で作ったんだけど、私達が服用したら明日の朝日を見ることができないわ。それがそのピルケースの理由よ」


 詳しく聞いてみると、重金属やヒ素まで入っているらしい。薬の色が怪しいのも間違えて飲まないようにとの配慮かもしれないな。

 だけど、俺には害がないのか?


『マスターに不足している成分です。この世界では「毒耐性」という言葉もあるようですから、問題なく飲んでください』


 アリスが言うなら間違いは無さそうだ。

 頭の中に直接聞こえてきたから、3人には聞こえてないだろうな。


「ありがたく頂きますけど、高価なものなんでしょう?」

「気にしないで頂戴。それ以上の価値をリオ君は私に与えてくれるし、リオ君が大事に持っててくれるんだから、私が持ってる必要もないはずよ」


 なんだか突き返したくなってきたけど、アリスの話もあることだし……、ここはありがたく頂戴しておこう。


 そんなことをしているところに、マイネさん達が帰ってきた。

 やはり、目が大きくなっているから、呆れてるんだろうな。


「大体分かったにゃ。エミー様達と一緒に考えるにゃ」

「早くしないと、フェダーン好みになるかもしれないわよ」


 フレイヤ達にカテリナさんが脅しをかけている。

 そう言えば、そんなことを言ってたような気がするけど、俺達で考えてるなら遠慮してくれるだろう。


「やっぱり、あの像と、鎧は貰っとくにゃ。この辺りに……」


 2階層の部屋の図面を取り出して、フレイヤ達と早速相談を始めたんだが、いきなり鎧が出てくるようでは、フェダーン様と大差ないんじゃないかな?

 フレイヤに期待したいところだけど、貴族舘に憧れてるところがあるから、どんな調度品が採用されるか分からなくなってきた。

 俺の部屋だけでも、シンプルにして貰おうかな。


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