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M-093 ドックを開く


 11時過ぎにサンドイッチを運んできてくれた士官に、一足先にリバイアサンに向かうことを告げた。

 サンドイッチはリバイアサンで頂こうと、カテリナさんがハンカチに包んで自分の装備バッグの中に入れている。

 魔法の袋が入ってるはずだから、何時もの白衣も入っているに違いない。


「それじゃあ、出掛けてくる。フレイヤ、後を頼んだよ。マイネさん達もよろしくお願いします」

「2時間後には会えるはずよ。それじゃあね」


 フレイヤが残念そうな顔をしているけど、こればっかりはねぇ……。

 士官に案内されて甲板へと足を運ぶ。


「まさか、ここから飛び下りるわけじゃないですよね?」

「そんな訳無いでしょう? 直ぐに分かるわ」


 後ろから聞こえてくる会話を無視して、アリスを呼んだ。

 直ぐに空間を割ってアリスが甲板に出現したから、士官は驚いているに違いない。


 アリスが胸部装甲板を開き、身を屈めながら腕を下ろしてくれた。

 手が甲板に届くと同時に俺とカテリナさんが飛び乗ると、コクピットへと俺達を運んでくれた。


「アリス、頼んだよ!」

『了解です。現在、西の離着陸台の展開シーケンスを実施中です』


 その場から上空に飛び立つ。

 甲板には呆気にとられた仕官がアリスを見上げているのが見えた。

 戦機は地上を進む物ぐらいの認識なんだろうな。


 真っ直ぐにリバイアサンへと向かう。

 速度が段違いだから、直ぐにリバイアサンの上空に達した。

 下を見ると、離着陸台が張り出しているのが見える。シーケンスは完了しているのだろう。


 ジョイスティックを操り、離着陸台へと降下すると駐機場にアリスを移動させた。

 1人では寂しそうだから、コクーンの解凍が終了した戦機の近くにあるハンガーにアリスを固定する。

 アリスのコクピットを出る前に、ドックの装甲扉を開放するようアリスに頼むことにした。


『制御シーケンスを作動させました。状況監視を行います』

「桟橋から下りる作業台は作業台で制御できるんだよね?」


『制御モードを現場に切替えました。装甲扉の開放も現場に切替えましたから全て桟橋の制御盤もしくは作業台の制御盤で可能です。このまま制御シーケンスを継続しますが、万が一の時には、現場制御盤の赤いボタンを押してください』


 現状に問題は無いようだ。

 後は現場に行って作業台を下せば良いだろう。ドックの大型装甲板と違って作業台の方は小さいからね。

 作業台で状況を見守ることもできるだろう。


 カテリナさんと駐機場から回廊へと移動する。エレベーターホールまでは距離があるのが難点だ。

 エレベーターでドックの桟橋に移動すると、今度は桟橋の端まで歩く。

 大きいことは良いことだけじゃないんだよなぁ。

 小型の自走車が欲しくなってしまう。


「たしか、これでしたね。先ずは装甲板を開きますよ」

 

 現場の操作盤は余りスイッチが付いていない。なるべく操作を簡略化したいということなんだろうな。

 操作盤のスイッチを押すと、ランプの色が赤から緑に変わり、機械音がドックに響く。

 目の前の壁がゆっくりと外にせり出していく。

 かなりの高さだけど、作業台の向こう側だ。その上作業台には頑丈な金属の柵が俺の近くまであるから恐怖心はそれほどない。

 だけど、風が吹き込んでくる。強風時には注意しないといけないな。


 3m程外に飛び出した扉が、今度は横にスライドしていく。

 外が良く見えるようになってきた。柵に掴まりながら外を見ると、遠くに艦隊の姿が見える。2時間も掛からずにやって来るに違いない。それまでにドックへの受け入れ作業が終わっているかは微妙なところだ。


「今の内に昼食にする?」

「そうですね。1時間以上余裕はありそうです」


 カテリナさんが絨毯のように分厚いシートをバッグから取り出した。1.5m四方だから、2人で座るには十分だ。

 サンドイッチの包を広げると、シェラカップのようなカップを取り出してポットからコーヒーを注いでくれた。

 外の景色を見ながらの昼食は、やはり気持ちが良い。


「ちょっと多かったかしら?」

「これぐらいは食べられますよ。今夜のお弁当を忘れて来ないか、心配になってるぐらいです」


 ちゃんと運んでくれないと、携帯食の夕食になってしまいそうだ。

 魔石通信機を持たせると言ってたから、ちゃんと確認しといた方が良いだろうな。


「今日は荷下しと補給船の収容で終了よね。明日から動かすの?」

「制御室要員の訓練は明日行いましょう。砲台要員は荷物の片付けをして貰います。それに寝る場所と食事の場所の確保は必要でしょうから、それもお願いするつもりです」


 兵員室で十分だと思うんだが、2段ベッドの残骸なんかがあるようだから、1日で終わらないかもしれないな。


 昼食を終えると、作業台に乗ってリバイアサンの斜面へと移動した。

 これでタバコが楽しめる。

 高さがあるから魔獣の脅威はまるでないし、飛行する魔獣が近づく時にはアリスが警告してくれるはずだ。


 左手を見ると、ドックの開口部が開き始めたのが見えた。大きな音がするかと思っていたんだが、それほどでもないし、振動で作業台が揺れることも無い。

 古代科学の精密な機械加工によるものだろう。カテリナさんも感心して見ているようだ。


「呆れた。甲板で手を振ってるわ!」

「なら、こっちも振ってあげましょう」


 俺達が手を振ると、向こうも勢いよく手を振り出した。疲れないのかな?

 改めてフレイヤに感心してしまう。


「そろそろ、下に下りた方が良いんじゃない? 輸送船の誘導担当も、この作業台に乗り込むんでしょう」

「そうですね。それじゃあ、下ろしますよ」


 制御盤の下降スイッチを押すと、ゆっくりと作業台が斜面を滑り降りていく。

 ワイヤーが付いているわけじゃないんだけど、ちゃんと斜面を上下できるようだ。作動原理は理解できないけど、機能を理解していれば十分だろう。


 地上20mほどの場所で、巡洋艦の接近を待つ。すでに2km以下になっているようだから、もう直ぐ到着だ。


 接近した巡洋艦の甲板の高さに合わせて、少し作業台を上昇させる。

 作業台から前方に延びる板は15m程ありそうだから、ギリギリまで舷側を近づけて貰おう。

 巡洋艦のブリッジの左右に観測用のゲージが突き出し、兵士がメガホンで舷側とリバイアサンの距離を告げているようだ。

 数mの距離を取って、作業台の下に横付けして巡洋艦が動きを止めた。


 作業台の高さを調節して巡洋艦の甲板に合わせたところで、作業台から渡り板を延ばす。

 真っ先に渡ってきたのがフレイヤ達だ。エミーの手を引いて慎重に渡って来る。直ぐ後ろにマイネさん達がバッグ片手に跳ねるようにしてやってきた。

 ロベルと士官が魔石通信機を担いで、兵士5人と共に渡り終えると、甲板からトランクや船員バッグを兵士達がリレーして積み込んでくれた。


「これで全部です。さすがにドックの開口には時間が掛かるようですね」

「残り1時間というところだろう。先ずは先行しよう」


 作業台の上昇スイッチを押すと、ゆっくりと作業台が上昇し始めた。

 後は桟橋の外れに自動停止するからやることは無い。

 兵士達の顔を見るとかなり緊張してるのが分かる。これから補給船の誘導をして貰うんだから、あまり緊張して貰っても困るんだけどなぁ。


 ガタン! という音を立てて桟橋の外れに作業台が止まった。開口部を閉ざすスイッチを押せば、収容作業は終了になる。

 マイネさん達はバックの中から台車を取り出して、荷物を積み込み始めた。

 兵士達も同じように台車を取り出しているけど、マイネさんの物より大型のようだ。

 

「それじゃあ、エミー達を案内するわ。夕食は届けて頂戴ね」

「よろしくお願いします。マイネさん、大荷物ですね?」

「お掃除道具を追加したにゃ。【クリーネ】だけじゃ心配にゃ」


 メイドの仕事は大変だな。改めてマイネさんに頭を下げる。

 フレイヤ達が立ち去ったところで俺達も場所を変えることにした。ドックの開口作業が行われているのは、もう1つのドックの方だ。

 

 アリスにドック間のブリッジを下ろして貰う。

 2つのドックの間には入り口付近と真ん中近くに都合3つのブリッジが繋がるようになっている。

 便利だけれど、普段はブリッジ間を装甲板で塞いである。ドックの開口シーケンスの中に中央付近のブリッジ設置が含まれていたようだ。

 輸送艦の進入の妨げにならないよう、中央付近にブリッジを作ったようだ。ここからだと300m程歩くことになる。


「大きいですねぇ。中規模の工房都市並みですよ」

「自走車は運んできたかな? 獣機だけでは荷物運びが大変だぞ」

 

 後ろの方から、色々と話声が聞こえてきた。

 やはり獣機と自走車は早めに確保しないといけないだろうな。


 ドックを繋ぐブリッジの横幅は3mほどだが、かなりしっかりした骨組みで作られている。自走車と似た運搬台車を使っていたに違いない。

 ブリッジに柵があるから良いようなものの、無ければ立ち眩みを起こしそうな高さだ。

 どうにか渡り終えて、ドックの開口部に向かう。

 すでに装甲板の開口が終了して、地上に向かって斜路が延ばされているようだ。


「時間は1345時です。予定通りですな」

「工房都市の入港と基本は同じだろう。誘導は任せるよ」

「了解しました。後はお任せください」


 士官が慣れた口調で兵士を持ち場に付ける。

 兵士達の持つ小型の通信機を聞き取りながら、輸送船への指示を担いでき魔石通信機で行っているようだ。

 10分も掛からずに輸送艦が斜路を上り始めた。

 邪魔にならないように橋の上で見ていよう。


 横付けされた輸送船の甲板が開き、獣機が姿を現した。3機の獣機が手際よく梱包された荷物を桟橋に下ろし始める。

 専門屋だから手慣れているな。たちまち桟橋に梱包物が積み上げられた。

 1時間程の荷役作業を終えて輸送船が去っていく。

 次の輸送船に士官候補生が大勢乗船しているはずだ。

 獣機が3機残っているのは、梱包した機材を広げるためなんだろう。とりあえず横一列に並べている。


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