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M-092 乗船手順も考えないと


 巡洋艦に乗船して3日目の午後。

 約束通り、ロベルが士官と共に現れた。

 部屋に入るなり、胸に拳を付ける礼を俺に取ってくれたけど、俺も答礼をした方が良いのかな?

 取りえず片手を軽く上げて応えておく。

 昨日と同じソファーセットに案内して、マイネさんにコーヒーをお願いする。


「昨日の編成を少し修正しました。能力はあるんですが、親の権威を直ぐに口にするような輩は、指揮所には向きません」

「上官の指示を常に肯定するようでも困るんだが……」

「それに、親の名を出すようでは問題です。王女様がおいでですから少しはましかと思ってはいるのですが、冒険をするなら余分な気遣いはしたくはありません」


 仕官候補生の多くは貴族の子弟だと思うんだが、親の地位を自分の地位と勘違いしてるってことかな?

 なら不要だな。できれば使いたくないところだが、ロープを引くぐらいはできるだろう。

 現場でいくら文句を言っても、俺達に聞こえなければそれで良い。


「これで部署が決まりました。輸送艦の乗組員はどうしましょう?」

「リバイアサンの中を自由に探索させるわけにはいかないな。乗員数は?」

「艦長以下40人になります。軍属の婆さん達が10人おりますが、婆さん達には食事の支度で大忙しでしょうな」


 外も見ることが出来ないから、退屈に違いない。

 さて、困ったな。


「良い場所があるじゃない。監視を頼んだらどう?」

 

 俺の隣に、カテリナさんが腰を下ろした。

 フレイヤ達とおしゃべりしてたんだけど、こっちの方が面白いとやってきたようだ。


「監視ですか。最上階の部屋ですよねぇ。……そう言うことですか!」

「ねぇ、丁度良い退屈しのぎになるでしょう? 測距離儀が動き出すと危ないけれど、あそこにも何人か配置するんでしょう? 動き出すときは注意できるし、感知器もあるようだけど、人間の目だって捨てたもんじゃないわよ」


 交代制を敷いてもらえば常に周囲を見張れるってことだな。周辺監視は陸上艦では責任のある仕事だ。輸送艦の乗員だって悪い気はしないだろうし、何と言っても眺めは最高だ。

 軍閥の小母さん達にもたまに見せてあげれば喜ばれそうだ。


「誇れそうな仕事を見付けました。リバイアサンに係留したところで、艦長に提案してみましょう。その他に、忘れているようなことはありませんか?」


 腕組みして考えているようなら、特に無いということになりそうだ。あったとしてもそれほど大きな課題ではないのだろう。


「制御室での役目は制御室のそれぞれの区画に配置してから教えることにします。問題は大砲への給弾方法と、各個射撃の方法です。これは現物を見ながらの手さぐりになりそうです。一応、取扱説明書はあるようですから、リバイアサンに到着後お渡しできると思います」


 笑みを浮かべているところを見ると、そんなことは度々あるようだな。

 軍の経験が長ければ、現物を見れば動かせるのかもしれない。


「ところで、現状はどうなってるのかしら? アリスはどこまで調べたの?」

『回廊の途中にある軍の中継拠点に機動艦隊を集結させているようです。フェダーン様が総指揮を執られているようです。西の同盟軍の状況を探るため、偵察隊が昨日出発しています』


「ほう! この艦には騎士団員6人の乗艦を確認しましたが、裏方を忍ばせていたのですか?」

「この部屋の住人だけよ。この通信は、試験的な試みなの。まだ実用化には程遠いけど、こんな時には役立つわね」


 俺達が常に軍の動きを知っていることを、実験で誤魔化してる。

 とはいえ、彼等の知りたい情報でもあったはずだ。

 俺達は死兵ではないと分かっただけでも安心できるだろうし、フェダーン様が偵察部隊を今頃動かしたということは、まだ敵対する同盟軍の終結が終わっていないということになりそうだ。

 安心してリバイアサンに乗り込めそうだな。上手く行けば1週間遅れて出発する次の補給船も十分に間に合いそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 何事も無く5日が過ぎた。さすが高速輸送艦だけのことはある。

 明日にはリバイアサンが見える距離まで近付いていると、士官がやって来て教えてくれた。

 あの大きさだし高さもあるから、見えても傍に到着するには数時間は掛かるかもしれないな。


「艦長から確認して欲しいとの指示を受けました。機動要塞の傍に寄ることは可能だが、乗船方法はどのように行うかということです」

「俺が先行して乗船し、ドックを開口します。とはいえ、初めて行いますから、時間が掛かるでしょう。開口できない場合は作業用の架台のようなものがありますから、それで乗員と荷物を運ぶことになります」


「どちらにしても機動要塞の内部に入る必要がありそうですが……」

「明日、貴方達は初めて見る魔法を見ることになるわ。私とリオ君が先行する方法を見ることになるはずよ」


 カテリナさんが士官に説明してるけど、それじゃあ、何のことかわからないんじゃないかな。

 だけど急にアリスが現れたら驚くだろうから、その布石を打ってくれたということになるんだろう。

 首を傾げながら士官が部屋を出ていくと、フレイヤが笑い出した。

 エミーがキョトンとした表情をしているけど、今ではかなり見えるようになってきている。

 友人達と再会したら、相手が驚くんじゃないか?


「これで、リオ君と先行できるわね」

「よろしくお願いしますよ。フレイヤ達は……」

「やはり、あの作業台を使うことになるかしら……、軍の方からも何人か先に乗船させた方が良いでしょうね」


 早めに俺達のプライベート区画に連れて行った方が良いだろう。

 広いからまごつきそうだけど、早めになんとかしたいところだ。

 乗船した士官候補生達にも、一度大きな部屋に集めてブリーフィングも必要になるんだろうな。


 デッキに出て、タバコに火を点ける。


「アリス。リバイアサンまでの距離はどれぐらい?」

『約310kmです。この速度を維持するなら明け方には到着するのですが……』


「夜間の速度は半減するだろう。確かに明日には姿が見えるということになるな。

 到着後は俺とカテリナさんを運んでほしい。離着陸デッキから俺達はデッキに向かう。アリスは駐機場に待機となるけど、それは我慢して欲しいな」

『了解しました。ドックの開口部の制御は、指示して頂ければ遠隔で操作します。それに前に使った作業台ということですね。そちらも可能です』


 アリスと生態電脳で、ドッグへの進入は可能ということなんだろう。

 再度アリスに礼を言うと、部屋に入ることにした。もう直ぐ夕食になるだろう。

 料理はヴィオラの方が美味しいけど、軍の食事は量が多いことが嬉しいところだ。

 フレイヤ達は文句を言ってるけど、食べられるんだからねぇ。贅沢を言えば切りがないと思うんだけど……。


 翌日目を覚ましたら、隣にいたエミーが消えていた。

 慌てて部屋の中を探すと、デッキにいたから驚いてしまった。


「どうしたんだい?」

「リオ様! 起こしてしまいましたか、申し訳ありません。はっきりと見えるんです。リオ様がここに良く出ていましたから、どんな景色を見ていたのかと……」


 そう言うことか。見てみたいのは分かるけど、タオルに包まったままなのは問題だな。

 急いで部屋に戻って着替えをさせた。

 

 何時もなら俺の隣に座るのだが、今朝はテーブル越しに座って俺の顔をジッと見ている。美人に見つめられるとちょっと恥ずかしくなるな。


「想像通りのお姿でした。だんだんと周囲の形が分かるようになって、リオ様の顔を想像していたんです」

「がっかりさせて申し訳ない。だけどこれが俺の顔なんだ」

「いいえ。そうではありません。私を降嫁させていただいてありがとうございます」


 礼を言うなら両親にして欲しいな。

 俺の方は聞いた時には乗り気じゃなかったんだから。でも、今では感謝している。


「昼前には到着するんじゃないかな。かなり近付いているはずだ。フレイヤと一緒に行動して欲しい。もちろんマイネさん達も一緒だ。

 今夜から暮らす場所は大きな区画だけど、何も無いんだ。フレイヤやマイネさん達と何が必要かを良く相談して欲しい」

「王宮の倉庫から、何を持ち出しても良い、と聞いております。でも、そう言われて色々と持ち出すようではリオ様の矜持を疑われかねません」


 しがらみが色々ありそうだ。

 カテリナさんなら、倉庫を空っぽにするんじゃないかな?

 やはり、地道に魔獣を狩って得た魔石を使うべきだろう。


 朝食を終えてデッキで一服をしていると、遠くにピラミッドが見えてきた。

 あれがリバイアサンだ。

 かなり距離がありそうだけど、やはりランドマークそのものだ。


 部屋に戻り、「リバイアサンが見えてきたよ」と言ったら、全員がデッキに出てしまった。

 1人でコーヒーを入れて、作業手順を頭の中で繰り返す。


 コンコンと扉を叩く音がする。皆はデッキに出ているから、席を立って扉を開けると、士官が入ってきた。

 何時ものように俺に礼を取ると、用件を話してくれた。

 

 到着時間は1300時を予定しているらしい。それなら色々と都合が良さそうだ。


「全員分の夕食をこの艦で作ることにしました。王女様達が乗船するまでは、周囲の警戒をこの艦と駆逐艦で行います。戦機を2機搭載していますから開口部の警戒は戦機が行います」

「早めにサンドイッチを届けてくれないか。1200時に俺とカテリナ博士で先行する。ドックの開口はリバイアサンの中から行うが、輸送船がドックに入れるのは1400時前後になるだろう。その前に巡洋艦からエミー達を下ろしてくれ。ドックにある作業台のようなラダーで先にプライベート区画に向かってもらう。士官候補生達は輸送船に詰め込んでほしい。甲板上でも構わないだろう。輸送船で一気に運ぶつもりだ」


「先にもう1隻の荷物を下した方が良さそうですね。先任伍長と10名ほどを乗せて向わせれば、3機の獣機を使って荷下ろしが出来ます」


 輸送船は2隻だったな。1隻はそのまま残すけど、もう1隻は荷物の運搬だった。

 

「その辺りは軍に任せたいな。何なら、先行する連中をエミー達と一緒に先にドックに入れてしまおうか?」

「その方が良いかもしれません。魔石通信機を持たせて連携を取れるようにします。王女様達の御案内は私が行います。私も1度は足を踏み入れたいですからね」


「よろしく頼む」と言って士官と握手をする。

 彼なら任せても安心できそうだ。カテリナさんと先行するから、エミー達の案内はカテリナさんに任せられるだろう。


 士官が部屋を出たところで、寝室に戻り着替えをしておく。

 綿の上下に装備ベルトを付ける。トランクは兵士達が運んでくれるだろう。

 寝室を出ると、カテリナさんが似た服装でコーヒーを飲んでいた。何時の間に着替えたんだろう?


「そろそろ出掛けるの?」

「サンドイッチを早めに運んでほしいと頼んでおきました。食べてからでもだいじょうぶでしょう。エミー達が先行して乗船してきますから、プライベート区画への案内を頼みます」


 うんうんと頷いている。コーヒーが口の中に入ってたのかな?

 さて、しばらくは一服できそうも無いから、今の内に楽しんでおこう。

 デッキに出てタバコに火を点ける。

 左右のデッキにも人が出ているようだ。皆同じ方向を向いている。

 リバイアサンがますます大きくなってきた。最後には視界を遮るほどの大きさになるんだろうな。


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