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M-091 先任伍長


 客室の寝室は3部屋だったから、俺とエミー、カテリナさんとフレイヤ、それにマイネさん達が使っている。

 さすがに浴室はシャワーだけだったけど、使用時間が制限されている。

 水不足は仕方のない話だ。陸上艦だからねぇ。


 朝食前のエミーの診断は、カテリナさんの朝の日課にもなってきている感じだな。

 フレイヤとコーヒーを飲みながら診断の様子を見ることにした。


「だいぶ良くなったわ。貴方がそれを望んでいるのも関係しているのかもしれない。できれば、私が施した施術を消したい気もするけど、それは諦めて欲しいわ」

「今まで助かったことは確かです。急に無くなっては……、寂しくなります」


 エミーの能力の1つだ。

 暗闇でも周囲を確認できるんだから凄いとしか言いようが無いんだけど、目でものを見ることができれば、必要が無くなるからね。

 

 診断が終わったのだろう。2人が俺達の座るソファーに歩いてくる。

 エミー達が席に着くと、マイネさんが2人に紅茶を運んできた。

 カテリナさんとエミーは紅茶党だったのか。コーヒーばかりで失礼だったかな。


「近眼状態ってところかしら。ぼんやりと周囲が見えて、色の区別も出来るまでになってるわ。リバイアサンに到着するころにはリオ君達と同じぐらいに改善するんじゃないかしら」


 思わず笑みが浮かんだ。

 これでエミーを艦長に出来るぞ。

 元王女なんだから、軍籍を離れた連中も指揮に従うことに違和感はないだろう。それに、反乱を起こすようなら即国賊としてフェダーン様がやってきそうだ。


「リオ君の考えてることは何となく分かるけど、大きな問題があることに気が付いてるかしら?」

「目が見えるのであれば状況を瞬時に理解できるはずです。何ら問題は無いように思えますけど?」


 これだから……、という感じで首を振っている。

 俺の考えが足りないんだろうか?


「エミーは今まで暗闇の中で生きてきた。どうにか周囲の状況を耳で見ることができたけど、一番大事なことが、出来ないでいたのよ?」


 何だろう? 今度は俺が首を傾げる番だった。


「ひょっとして、文字を読めない!」

「そうなの。点字は読めるんだけど、これからは本を読めるようにならないといけないわ。それに文字を書けるようにならないと」


 それって、重要なことなんじゃないか?

 指示書を作ったり、報告書へのサインだって必要だ。

 幼少時期の何でも吸収する時に読み書きを覚えるんだよなぁ。大人になって覚えるとなればかなり苦労するんじゃないか。


「本を読めるなら……、頑張ります。フレイヤ様、教えてくれませんか?」

「もちろんよ。たくさん本を持ってるし、一緒に読めるなら楽しそうだわ」


 もう一度、首を振る。

 フレイヤの読んでるのは、モード雑誌ばかりな気がする。それにこの頃はカタログが入ってきたんだよなぁ。

 やはり、学院の教科書を取り寄せた方が良いと思うのは、俺だけなんだろうか?


 朝食が終わり、食後のコーヒーをデッキで一服しながら楽しんでいると、フレイヤが扉から顔を出した。


「お客さんよ。案内してくれた士官さんとごつい体格の人」

「分かった。直ぐに行くよ」


 早速来てくれたか。

 向こうも俺達を早めに知りたかったんだろうな。

 タバコの火を消して灰皿に投げ込むと、カップを手に船室へと戻った。


 船室に2つあるソファーセットに、士官と体格の良い壮年の男性が立っていた。

 俺と視線が合うと、胸に拳を当てる特徴的な礼をしてくれた。

 俺は軍人ではないから、片手を軽く上げて答礼をして彼等の元に歩く。


「練習艦で先任伍長を務めているロベルタです。閣下に合うことができたこと、光栄であります」

「こちらこそ、呼びだてしてしまい申しわけない。少し相談をしたかったんだ。先ずは座ってくれ。話が長くなりそうだ」


 俺がソファーに座るのを待って、2人が腰を下ろす。

 一緒に座れば良いんだろうけど、これが礼儀とかいう奴なんだろうな。

 装備ベルトのバッグから投影装置を取り出すと、壁に映像を映し出す。白い壁だから丁度良い。

 3人分のコーヒーをマイネさんが運んでくれた。

 彼等に飲むように手で促したところで、角砂糖を2個放り込みスプーンでかき混ぜる。


「先ずは、この映像を見て欲しい。リバイアサンの調査をした時に写したものだ。それを見てからが相談になる」


 映像と言っても、スナップ写真のようなものだ。それでもリバイアサンの隣に停泊した巡洋艦と大きさの比較はできる。

 思わず息飲み込んだのだろう。喉を鳴らす音が聞こえてきた。


「これがドックだ。2つあるが、桟橋に巡洋艦なら4隻余裕で停泊できるだろう」


 ドックの次は駐機場と外に広げた離着陸台だ。

 やはり驚いた表情で画像を見つめている。


 何も無い、兵委員室や食堂、砲塔がずらりと並ぶ区画は想像できなかっただろうな。

 最上階の測距離儀の大きさを呆れた表情で見ていたのだが、最後に制御室の全景を見せた時には驚きを通り越して席を立って画像に近付こうとしていた。


「リバイアサンはこんな代物だ。まさしく機動要塞の名にふさわしい存在でもある。

 記録を調べて、本格的な運用を行うには3千~5千人は必要だということは分かっている。それを100人程で動かすというんだから、面倒を掛けてしまいそうだ。

 リバイアサンの動力は、説明しても分かって貰えないだろう。カテリナ博士でさえ理解不可能な品らしい。

 あの大きさだが、魔道科学の力により地上6ステム(9m)ほどの高さを1時間に10カム(15km)ほどの速度で移動可能だ。

 機動要塞運用のかなりなところは、先ほどの制御室で行える。西の同盟王国との争いが起こるのを防ぐ目的で、彼等の目の前にリバイアサンを移動するつもりだ。

 ここまでは良いかな?」


「あの巨体が浮いて動くと……」

「そうだ。元々は星の海にあったのだが、北の隠匿空間近くまで移動させた。俺一人での制御だから結構苦労したぞ。

 今回はその動きをもう少しマシなものにしたい。それと、当然攻撃されるだろうから、威嚇射撃は必要だろう。まだ砲弾を撃ったことは無いが、原理は後装式の火薬を使った大砲に似た構造だ。練習艦ならその操作は行ったと思うが?」


「前装式、後装式それに魔激槍、一応学ばせました」

「なら何とかなるだろう。リバイアサンの外部装甲板は1スタム(1.5m)以上ありそうだ。中にいるなら安全だろう」


「敵に威容を見せて、先ずは砲弾を受ける。何事も無い姿を見せて威嚇射撃ですか! おもしろそうな作戦ですな「民間の船の運航を手助けしろ」と言われた時には、仲間から笑い者になりましたが、こんな任務だと知ったら仲間達の残念がる表情が思い浮かびますぞ」


 いかにもやりがいがあるという表情を俺に見せてくれた。巡洋艦の士官が残念そうな表情を見せてるのは仕方がないよな。


「そこで相談だ。リバイアサンの制御は独立連動制御システム。現場での制御が可能であると同時に、それらを統括する制御装置がある。

 先ほどの制御室が、その統括制御を担う場所だ。そこでリバイアサンの制御は出来るのだが、弾薬装填は半自動、人の手が必要になる。また、射撃は最上階の測距離儀等と連動するから、それらの操作も必要になる。

 練習艦で訓練を受けた士官候補生の能力、性格、勤務態度等を考慮して、配置せねばなるまい。

 その選択を先任伍長としての経験をもとにロベルタ殿にお願いしたい」


 ロベルタがジッと俺の顔に視線を向ける。

 しばらくそのままだったが、冷えたコーヒーを一気に飲み干して再び俺を見つめた。


「私に任せると?」

「適材適所の判断は俺には出来ない。軍人であればその役目に慣れるということなんだろうが、今回の場合は慣熟航海さえまともにできない状況だ。

 となれば、練習艦で士官候補生を実質訓練していたロベルタ殿の意見が一番適切だと判断するが?」


「ロベルとお呼びください。階級、敬称も必要ありません。よろしいでしょう。そこまで頼りにされるのは初めてですが、確かに人間には個性があります。軍の訓練は横並びを目指すのですが、リオ閣下は各人の特徴を生かすということですな?

 訓練生の名簿を持参せよ、との意味がようやく分かりました。早速始めましょう……」


 指揮系統の話をして、それぞれの役割を話すと、直ぐに名前が帰ってくる。

 2年間の訓練生活で各人の性格や能力を熟知しているようだ。名簿は誰が残っているかを確認しているに過ぎない。


「大まかこんなところでしょう。この配置は持ち帰りたいと思います。再度見直しを行い、明日の午後には持参いたします」

「そうしてくれるとありがたい。よろしく頼むよ」


 ソファーから立ちあがると、改めて礼をして2人が部屋を出て行った。

 ほっと溜息を吐く。

 どんな人間かと警戒してたんだが、フェダーン様が統括するだけあって、中々話が分かる人物だったな。


「終わったの? 昼食が冷めちゃったけど、頂きましょう」


 昼食はまたしてもサンドイッチだった。コーンポタージュはかなり温かい。魔法で再加熱したんだろうな。


「かなりやる気のある伍長だったよ」

「先任伍長でしょう? やる気が無かったら直ぐに退役よ。彼等は後がないの。下士官の最上職だからね」


 退役したら、リバイアサンに来て欲しいくらいだ。

 フェダーン様と相談してみようかな。案外やってきてくれるかもしれないぞ。


「エミーを艦長にしようと考えてるんだ。だけどしばらくはフレイヤが補佐してくれないか?」

「良いけど、リオはどうするの?」


「騎士だからねぇ。アリスと共にリバイアサンを守護するよ」

「エミーの友人達が来るまでは私も賛成よ。フレイヤを本当は別の任務に付けたいんでしょう?」


「火器部門の統括だ。だけど今回は警告射撃だけだからね」

「偵察部門じゃないの?」


「偵察は飛行機が使えるから独立させたい。それにあの性能だとしたら武装しているはずだ。戦機に近い運用ができるよ」


 戦艦に搭載したとしても1個小隊4機というところだろう。リバイアサンなら数十機を運用できる。

 こんな代物が動いていたことを考えると、古代戦争のし烈さが想像できる。

 そのうえ、最終兵器とも言える融合弾まであるんだからねぇ。この荒野は、そんな兵器の応酬で出来たに違いないだろうな。


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