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M-090 巡洋艦でリバイアサンへ


 少し遅い朝食を4人で頂く。

 結局カテリナさん達が帰ったのは深夜だった。

 小さなトランクを曳いてきただけなんだけど、近衛兵を使って輸送船に運んだらしい。

 

「ちゃんと頂いてきたわよ。ヒルダがすっかり準備してくれたわ。それより私達の分までこの服を用意してくれてありがとう」

「お揃いの方が、良いですからね。エミーの方はどうだったの?」


「了承してくれました。次の便で来てくれるそうですから、フェダーン様に話をしてあります。これを制服にするのなら、彼女達の分も準備させないといけませんね」

「お店と、品名、それに色をメモしてあげる。それを渡せるかしら?」


「だいじょうぶです」とエミーが頷いているから、フレイヤ達に任せておこう。


「ガネーシャ達は白衣で良いでしょう。私も白衣で良いんだけど、まだ研究室は作ってないからこのままで良いわ」


 朝食を終えると、ホテルのエントランスで迎えを待つことにした。

 そんな俺達のところに、トコトコと2人のネコ族のお姉さんが近付いてくる。


「彼女達がエミーの侍女をしていたマイネとミイネよ。何も無いところだと教えてあるから、とりあえずの調理器具は彼女達がまとめてくれたわ」

「マイネにゃ。よろしくお願いするにゃ」


 2人でこれからスポーツにでも出掛けるような出で立ちだ。

 俺達の衣服よりも立派に見えてしまうのは仕方がない。フレイヤが笑みを浮かべているのは、彼女達がいなければ調理をすることになりそうだと思っていたに違いない。

 

 ところで、フレイヤは料理を作ることが出来るのだろうか?

 付き合いは長いけど、いまだにフレイヤの手料理を食べたことが無いんだよな。

 アレクの別荘で、サンドラ達の手料理は食べたことがあるんだけど、フレイヤは何時も美味しそうに食べるばかりだった。


 強請ったら作ってくれるかもしれないけど、寝込むようでも困ってしまう。

 好奇心は猫を殺すとまで言われているから、黙っていた方が良いだろうな。


 マイネさんがホテルの食堂からコーヒーを運んできてくれた。

 今日の朝には出発と言っていたけど、少し遅れているのかもしれない。何と言っても急な話だったからなぁ……。


「リオ男爵閣下は、どこにおいででしょうか!」


 張りのある男性の声がエントランスに響く。

 どうやら迎えのようだ。

 フレイヤが手を振って応えてくれたから、足早に若い士官が数人の兵士を引き連れてやってきた。


「リオ殿ですね。お迎えに上がりました。お荷物は兵士が運びますから、こちらにどうぞ」

 

 士官の後に続いて、エントランスを抜けると豪華な馬車が停まっていた。

 エミー達を先に乗せると、俺の後に士官が乗車する。

 対面式のソファーには6人が余裕で座れる大きさだ。


「さすがにリオ殿を輸送船には乗せられません。高速巡洋艦と駆逐艦が同行しますので、リオ殿には巡洋艦に乗船して頂きます」

「エミーは元王女だから、王族としての矜持もあるのだろう。あまり気にせずに表面を取り繕ってくれればこちらも助かる」


「本来なら、歓迎式典をせねばならないのですが……」

「巡洋艦の艦長がお茶に招いてくれればそれで十分だと思うな。王宮への報告には、艦長以下で歓待したと言えるだろう?」


 俺の言葉に士官が笑みを浮かべる。

 本音と建前を使い分けてくれと言うことが理解できたみたいだ。


「ありがとうございます。ところで……、本当に機動要塞なのですか?」

「一緒に行くんだろう? 驚くと思うな。あの大きさが動くんだからねぇ」


 軍人の中でも半信半疑というところなんだろう。

 俺の隣に腰を下ろした仕官が、俺達の世話係を仰せつかったようだ。カリスとお呼びくださいと言ってくれたが、貴族の子弟なんだろうな。


 陸港の外れが軍港になっているらしい。道理で長く馬車に乗ると思っていたんだが、到着した桟橋に停泊していたのはいかにもスピードが出そうな巡洋艦だった。

 2連装砲塔が船首に3つ背負い式に配置され、船尾甲板はフラットだから飛行機の離着陸を考慮しているようだ。4階建てのブリッジはやや後方に傾斜した形状だ。


 馬車を下りると兵士達がずらりと並んでいる。

 ちょっとこっちが恐縮してしまいそうだ。

 兵士達が銃を掲げる中、巡洋艦に掛けられた木製のタラップを渡り、船内に入った。

 通路を進み、エレベーターで上階に向かう。

 案内された部屋は、ヴィオラの船室の3倍ほど広い。


「この部屋をお使いください。寝室は3つありますし、侍女の待機室もあります」

「ありがとう。貴族専用の客室ね」


「それでは、失礼します。御用がある時には、壁の紐を引いてください。1時間もせずに出港します。艦隊の隊列が整い次第、艦長がご挨拶に伺う予定です」

「目的を最優先にしてくれ。俺達は荷物の1つぐらいに考えて貰って構わない」

「艦長にお伝えします。 それでは……」


 胸に拳を打ち付けるような礼を取ると士官が部屋を出て行った。

 さて6日はここで暮らすことになりそうだな。

 窓際のソファーに腰を下ろして、出港の様子を眺めることにしよう。


 王都の大通りを数隻の艦列が進んでいく。

 俺達の乗船した巡洋艦の前に駆逐艦、後方に2隻の輸送船が続いている。

 ちょっとした補給艦隊ということなんだろうが、先ほど顔を見せてくれた艦長の話では、巡洋艦が輸送艦の護衛をすることは稀らしい。

 艦長の経歴に傷をつけることにならないかと、心配して聞いてみたら笑って答えてくれた。

 リバイアサンに最初に荷を届けるのであれば艦長仲間に自慢できるということらしい。


「何と言っても王女様を送り届けるのでありますからな。貴族の乗船は何度か経験しましたが王族は初めてです」


 そう言って愉快そうな表情を見せてくれた。

 それなら良いんだけどねぇ……。


「明日は練習艦の先任伍長殿が是非ともお会いしたいとの事でしたよ。下士官ではありますが、退役前の最後の大仕事だと張り切っております」

「こちらも相談したかった。仕官候補生の名簿を持参して欲しいと伝えてくれないか」


 俺の言葉に大きく頷いて、部屋を出て行った。

 王都の大通りを進んいるとはいえ、民間の大型自走車もたまにすれ違うことがある。

 ブリッジはさぞや忙しいと思うんだけどね。

 それもあるから、短時間のお茶会となったに違いない。

 そして、世間体もこれで問題ないはずだ。


「士官候補生の名簿なんてどうするの?」

「やって来る先任伍長と配置場所の相談をしたいんだ。万能な人間なんていないはずだ。得手不得手を上手く考えないとリバイアサンの動きに制限が出てくるからね」


 3千人以上を必要とする運用を100人程度で行うんだからねぇ。適材適所を考えないといけないだろう。

 リバイアサンの大砲は後装式の大砲で、火薬を使って打ち出すものだ。だが、魔撃槍に似た機構が組み合わせてあるようだ。

 滑空砲のような砲身で放つ弾丸に回転を加えるだけなのだろうけど、それだけなのかはマニュアルを詳しく調べないと分からない状況だ。

 そんな武器の取扱いを現場で行う連中と、指揮所に詰める連中に先ずは区分けすることになりそうだ。

 軍属の乗船員はそのまま補給船に乗っていてもらっても問題は無さそうだけど、リバイアサンの食堂を使えるようにしてくれればありがたい。


 アリスに貰った端末を使い、空中に仮想スクリーンを作る。

 アリスが解析したリバイアサンの指揮系統は、ヴィオラの艦船指揮とかなり似ているようだ。

 これを手本にしておけばそれほど無理がない運用体制を構築できるだろう。

 手動操作はさすがに無理がありそうだから、半自動操作ということになるんだろうな。

 制御室で現場の制御システムを遠隔操作することになるから、細かい制御は初めから諦めれば良い。


 ある程度詰めたところで、アリスの監修を受けることにした。

 俺よりも諸事情に詳しいから、上手く修正案を作ってくれるだろう。

 デッキに出ると、いつの間にか王都を過ぎていたらしい。荒れ地に夕暮れが訪れるのはそれほど先ではない。


「纏まったの?」

「アリスに監修を依頼しました。人数を変えながら運用シミュレーションをするとのことです」

「最適化ってことね。アリスならではの仕事よねぇ。それを人の手で行うとしたら、いったいどれぐらい掛かるのかしら?」


 カテリナさんが一服に付き合ってくれるみたいだな。

 今度は自分のタバコを持って来たようだ。白衣のポケットから直ぐに出てきたけど、あのポケットの中にどんな品が収納されているのか一度見てみたい気がする。

 アリスに頼んだのは良いんだけど、俺の要求もあいまいだから苦労すると思うな。

 どんな数式を作るのか分からないが、アリスにはそれが出来るらしい。変数をいくつ作るか想像すらできないけど。


「ところで、エミーの目が改善しているということは確かなんでしょうけど、俺達並みに視力を得られるのは何時になるんでしょう?」

「そうねぇ……。ある意味、リオ君次第ではあるようなんだけど、今朝の診断では大まかな形が分かるまでになってるみたい。アリスと相談したかったんだけど、リオ君の先約が終わってからでもいいかな」


 カテリナさんにしても予想が付かないってことか……。

 できればエミーをリバイアサンの艦長にしたかった。

 その予定が立たなければ俺がやることになるんだろうな。だけど、俺はアリスと一緒に攻撃部隊に参加したい希望がある。

 あれだけ大きいんだから敏捷な動きは到底無理だろう。


「輸送艦をドックに入れることは可能なんでしょう?」

「アリスに確認しました。俺の指示で動くとは言ってくれたんですが、準備に時間が掛かりそうですね。ドックに入るまでに2時間程度見ておく必要がありそうです」

 

 ドッグへの収容と荷下ろし作業を含めると、ほとんど1日作業になりそうだ。

 夜に入ればアリスで周辺監視をしないと魔獣に襲われかねない。

 急な話だからなぁ……。何とか短時間で済ませたいところだ。

 ん! 待てよ。リバイアサンを遠隔でこちらに動かすことが出来るんじゃないか?

 ゆっくりした移動であっても、距離が短くなれば都合が良さそうだ。


「どうかした? 急に笑みを浮かべて」

「リバイアサンをこちらに呼び寄せるのも、方法の1つではないかと。1日以上時間を短縮できるんじゃないですか?」


 今度はカテリナさんが笑みを浮かべた。

 利点に気が付いたのかな?


「でも、今回は止しましょう。それが出来るということをリオ君が知っていることで良いんじゃない。せっかくフェダーンが動いてくれたんだから」


 そういうものかな?

 王宮内の事情もあるのかもしれない。このままのんびり過ごすことにするか。


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