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M-086 人で不足が拡大している


 どうやらバーベキュー会場は、アレク達の宿泊施設のある海岸らしい。

 俺達が泊まっているコテージは王族と王族に関わる一部の貴族専用ということだ。

 そんな施設に泊めて貰ってるんだけど、後で問題が出そうで怖くなる。

 カテリナさんは「気にせずに行為に甘えなさい」とは言ってくれるんだけどねぇ。


「アレク達が泊まってる施設だって、本来は貴族でないと利用できないのよ。過分の待遇だけど、リバイアサンの一件で十分に資格があると考えたんでしょうね」

「後が怖くなってきてるんですが?」


「上手く利用しなさい。エミーは元王女。降嫁して王族ではなくなったけど、親子であることに変わりは無いわ」


 耳元に口を寄せて小声で教えてくれたんだけど、水着のままだし自走車の曳く荷車の上だから、俺に抱き着いてるんだよね。

 正面に座っているフレイヤの表情がだんだんと変わってくるのが良く分かる。

 ちらりとフレイヤに顔を向けて直ぐに離れてくれたから良かったけど、もう少しそのままだったら、荷台から蹴落とされたんじゃないかな。


 そんなことがあったけど、やがて前方に大きな焚き火が見えてきた。

 あれが会場になるんだろう。さて、何が焼かれてるのかな?


「だいぶ人が多いわね。アレク達以外にもいるみたい」

「貴族ならあの施設に泊まれるからのう。騎士は貴族と同格。アレク達も気後れせずに過ごしておるはずじゃ」


 自走車からローザが振り返って教えてくれた。

 ローザが腕を伸ばして教えてくれた場所には3階建ての立派な建物がある。

 石とガラスで作られたような建物から明かりが漏れているので、ジャングルの中がそこだけ明るく照らされていた。


「あっちの方が良かったんじゃないか?」

「やっぱりリゾートなんだもの、水上コテージの方が良いわよ」


 クリスの言葉にフレイヤ達が頷いている。

 俺にはこっちの方が立派に見えてしまうんだよなぁ……。


 浜辺に沿って焚き火が3つ作られていた。その端近くに自走車が停まる。

 ここからは歩くとになりそうだけど、100mちょっとだからね。

 石組に炭火が入り、鉄板が乗せられている。

 すでにパーティは始まっているようだ。


「リオ! こっちだ」


 俺を見付けたんだろう、アレクの声がする。

 直ぐにアレク達が手を振っている姿が見えたので、フレイヤとエミーを連れてアレクのところに向かった。

 不思議なことに、エミーは焚き火や調理している鉄板等が見えるようだ。

 俺が手を引く前に、微妙に回避している。

 やはり何かの魔法を使っているに違いないな。


「あら、3人なの?」

「何人でも構わん。リオはこっちでフレイヤ達はサンドラ達のところだ」


「ほらここに座って!」と、丸太と板を組み合わせたような簡単なベンチにサンドラがエミー達を座らせる。

 アレクが隣の席を指差しているから、明日は二日酔い確定だな。

 腰を下ろしながら、ベラスコが大きなカップを手渡してくれた。泡が溢れているから、この世界のビールなんだろう。陸上艦では味わえない酒だ。


「だいぶ獲れたんですね?」

「まだまだたくさんあるぞ。この肉は俺んだからな」


 やはり魚はダメなようだ。でも分厚いステーキを焼いてるんだから本人はさぞかし満足に違いない。


「えぇ~、リオ君のお嫁さん?」

「エメラルダと言います。エミーとお呼びください」


「やはりやってきたか。貴族であれば仕方あるまい」

「申し訳ありません。フレイヤを頂いている上で……」


「上手くやらんと苦労するぞ。俺は2人で十分だな。カリオンは3人で苦労している。それを見るとなぁ……」


 嫁さんが増えると苦労するということだな。良く覚えておこう。


「それで、相手はどこの男爵だ? 場合によっては、ヴィオラ騎士団に特待を要求して来るぞ」

「それが……」


「王女様! ……ごめんなさいね。ついつい普段の言葉使いで」

「すでに王族を離れました。フレイヤ様と一緒ですから、お気遣いは必要ありません」


 サンドラの大声で、アレクも理解したみたいだ。

 しばらくエミーに視線を向けていたが、俺に視線を戻す。


「後が怖くなってくるな。当然王宮から要望があったんだろう?」

「ウエリントンから1個中隊、ナルビクとエルトニア王国から2個小隊が軍を離れてリバイアサンにやってきます。

 商会ギルドからも数十人は来るでしょうね。食堂と売店をお願いしました。後は……、軍の小さな工房が来るかもしれません」


「一気に人が増えるのか。だがリバイアサンを上手く動かすにはそれでも足りんのじゃないか?」

「それはドミニク達と相談します。できれば陸上艦を動かしている騎士団を丸ごと欲しいところですが、そうもいかないでしょうね」

 

 アレクが無言で酒を注ぎ足してくれた。

 苦労するなぁ……、という目で俺を見ている。


 焼けた魚や貝、それにエビなんかをフレイヤ達がトングで自分達の皿に乗せて食べてるんだけど、俺達には取り分けてくれないんだよなぁ……。

 しばらくは酒でも飲んでなさい。という感じで俺達を無視しているようにも思える。

 賑やかにガールズトークをしながら、料理を食べられるんだから凄いと思ってしまう。


「リオさんはヴィオラに戻らないんですか?」

「とりあえずはヴィオラに乗るんじゃないかな。リバイアサンは大きいけど衣食住の設備が無いも同然なんだ。ヴィオラ騎士団の旗艦が本格運用されるのは、まだだいぶ先だと思うよ」


 ベラスコが心配そうに聞いてきた。

 俺も戻りたいんだけど、周りがそれを許してくれるかどうか……。


「周囲20カム(30km)を監視できると聞いたぞ。リバイアサンの足元なら、リオの周辺監視を受けずに安心して狩りができそうだ」


「今度はリバイアサンに獲物を誘うということになるんですか?」

「いや、リバイアサンはその威容を周辺に示すだけで十分だ。海賊も臨検も怖くないぞ」


 ベラスコの問い掛けに、アレクが答えている。

 確かに有効だ。さすがにリバイアサンに戦いを挑もうとする連中はいないだろう。


 1時間程過ぎても、まだ鉄板の上にはご馳走が乗っている。

 フレイヤ達も食べ飽きたみたいで、俺達の皿に料理を取り分けてくれた。

 フォークで料理を突き差して食べながらビールをあおる。

 冗談を言い合って、将来を語るんだが、酒の上の話だからねぇ。少しスケールが大きくなるのは仕方がない。

 

「いっそのこと、王国を作れ! 俺が漁業を取り仕切ってやる」

「その時は……、うん、将軍にしてくださいよ。戦機を並べて毎日閲兵しますから」


 全く、酔っ払いの相手は疲れるんだよなぁ。

 ちゃんと聞いてないと怒るんだから困ったものだ。

 とりあえず愛想笑いを浮かべて、うんうんと頷いておく。


 宴は深夜まで続き、フレイヤに体を抱き掛かられてどうにか自走車の荷台に乗ることができた。

 手を振るアレク達に、小さく手を振りながら自分達のコテージへと向かう。


「全く、兄さんに付き合うからよ!」

「申し訳ない。コーヒーを貰えるかな? だいぶ楽になってきたよ」


「おもしろい話よねぇ。毒物には耐性があるんだけど、お酒には酔うんだから」

「毒耐性は、初めて聞きましたけど?」


 思わずカテリナさんに顔を向けると、口が滑ったという感じに笑みを浮かべて口元を押さえている。

 俺を使って色々とテストをしてるんだろうか?

 一番怖いのは、王侯貴族ではなくてカテリナさんじゃないのかな。


「……普段の食事にも少し毒性のあるものがあるの。他の食材で中和されるんだけど、知らなかったの?」


 とりあえず頷いておく。直ぐに答えなかったから、かなり怪しい。

 困った表情をしていたカテリナさんは、コーヒーカップを運んできたフレイヤを捕まえてジャグジーに逃げて行った。

 フレイヤが慌てているけど、寝る前のジャグジーは必要だろう。海で魚を追い掛けてからシャワーだって浴びてないんだから。


「どうだい。朝と比べて?」

「明暗というらしいのですが、よりはっきりと分かるようになってきました。この部屋にも大きく違う場所が3つあるのが分かります。あそこと、あそこ。それにそこです」


 エミーが指さした先には、光球を入れた照明器具が置かれていた。

 やはり視力が改善しているのだろう。

 カテリナさんは危険だけど、その知識はこの世界でも指折りだ。見えるようになるのは本当かもしれないな。


「終わったわよ。リオ君も入ってきなさい」


 濡れた髪をタオルで拭き取りながらカテリナさん達がジャグジールームから出てきた。俺達の横を通り過ぎて寝室に入って行ったけど、裸で出て来ないで欲しいな。


「もう少し、待ってくれないか。このまま入ったら、ジャグジーでひっくり返りそうだ」

「良いですよ。それなら、騎士団のお話をしてくれませんか?」


 何から話したら良いんだろう?

 とりあえず、荒野でのヴィオラ騎士団との出会いから話を始めた。

 俺に過去の記憶が無いこと。体に魔石が6個あるらしいこと……。

 エミーは時々頷きながら俺の話を聞いてくれる。

 信じているのだろうか? 自分でも信じられないようなこともあったんだけど。


 どうにか楽になったところで、話を切り上げエミーを抱き上げる。

 そのままジャグジーに入って水着をとれば良いだろう。

 

 ジャグジーから出て体をタオルで拭き取ったところで寝室に向かう。

 とりあえずエミーを寝かせよう。今日は疲れたんじゃないかな。

 新しいサーフパンツを出して身に着け、ジャグジーに水着をとりに行こうと寝室を出たらカテリナさんと目が合った。

 フレイヤはもう寝たのかな?


「少しお話しない?」

「ちょっと待ってくださいね。先ずは用事を済ませときます」


 2人の水着を回収して、寝室のテーブルに乗せておく。明日には乾くだろう。

 カテリナさんが座るソファーに行く前に、コーヒーをマグカップに入れてテーブルに乗せた。

 カテリナさんだってかなり飲んでるはずだから、コーヒーが欲しいに違いない。


「ありがとう。1つお願いしていいかしら?」

「変な実験は嫌ですよ」


「うふふ……。そうじゃなくて、今夜もエミーを抱いて欲しいの。それで明日に変化が現れれば、私の仮説は証明できるわ」

「もう寝てますけど……」

「それなら、明日の朝かな? がんばってね」


 変な話だな。

 一所に寝てるんだから、そんな流れになればそうなるんだろうけど……。


「ところでカテリナさんは泳げるんですか?」

「泳げるわよ。今日だって、2匹突いたぐらいだもの」


 人は見掛けによらないってことなんだろうな。水着姿をそのままグラビアにしたら大人気になりそうな容姿なんだけど。


「誰もいませんし、見ているのは空の星だけです」


 カテリナさんの手を引いてデッキに向かう。その前に水着を脱いでカテリナさんを抱き上げるとデッキを走り抜け海にダイブした。

 さすがにエミーと一緒にダイブした時よりも深く潜った感じだ。

 抱き着いているカテリナさんン押せに腕を回して、海上に顔を出す。


「びっくりさせないで頂戴。でも、気持ちが良いわね。今ならリオ君を独り占めできるわ」

「たまには良いでしょう。でも内緒ですよ」

「そうね。内緒にしときましょう」


 薄々は分かってると思うけど、表面に出なければそれでいい。

 しばらく海で時を過ごし、コテージのジャグジーで再び体を合わせる。

 

 ジャグジーを出たところで、マグカップにコーヒーを注ぎ足してデッキのチェアーに足を延ばして一服を楽しんだ。


「私も、ドミニクと一緒に王都に向かうわ。リオ君達は最後まで楽しみなさい」

「仕事ですか?」


「導師の弟子を選ばなくちゃならないの。数十人程いるんだからその中から数人を選ぶのは面倒以外の何ものでもないわ。さすがに学院の研修生だけあって、いずれも秀才揃いだし……」


 愚痴めいた話し方だけど、天才はいないということなんだろう。

 秀才は努力すればなれるけど、天才はそうではない。1を知って10を知るのではなく、全く別の発想が出来るのだ。


「能力が同じであれば、リオ君ならどうする? 女性だけを選ぶとしても二十人以上になってしまうわよ」


 笑みを浮かべて問い掛けてきたけど、それも1つの方法だろうな。その上に容姿端麗と続ければ10人ぐらいには絞れそうだけど、そんな基準で選んだら落とされた連中の恨みを買いそうだ。


「そうですね。能力が同じなら……、俺なら、周囲から浮いた存在を選ぶかもしれません。周囲から疎んじられる原因が普段の生活ぶりからなら排除しますけど、変わった発想を持った人物がいるかもしれませんよ。

 研究を同じように続けるのではなく、その研究を別な観点から見ることができる人物、この論文を書いた奴は誰だ! と問題になる人物、そんな人物なら導師も喜びそうです」


「変わった人間ということね。なるほどねぇ……、おもしろそうね」


 うんうんと頷いているのは、そんな人物がいるってことなんだろうか?

 でも……、そんな基準で本当に選んでいいのかな?


「ありがとう!」と言いながら、頬にキスしてくれた。そのまま部屋に入って行ったから、寝室に向かうに違いない。

 そろそろ俺もベッドに入ろうかな。


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