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M-084 明暗の区別


 どうにか難題に答えることができたけど、色々と宿題が出されたようにも思える。

 できれば、そんな難題を代わって考える人材が欲しいけれど、俺の周囲には生憎といないんだよなぁ。

 やはり、カテリナさんに相談ということになるんだろうか。


「長引くと思っていたのですが、リオ殿の即断に感謝します」

「こちらこそ、まだ考えが至らずに申し訳なく思っております。ところで、エメラルダ王女はこのままお預かりしてよろしいのでしょうか?」


「婚礼の無い降嫁ではありますが、例のないことではありません。後ほど、荷物を送りますが、リバイアサンの宮殿なら馬車の列を作ってもだいじょうぶでしょう?」

「トランク1つで十分です。必要があれば俺が揃えれば済むことですから」


 ヒルダ様が笑みを浮かべて頷いてくれた。

 よろしくお願いしますと言って部屋を出て行ったけど、しばらくはこの島で過ごすとローザ王女が教えてくれたんだよね。

 

 どんな暮らしになるのか分からないけど、エメラルダが俺達と暮らして行けることを確認するつもりなんだろう。


「さて、終わったわね。フレイヤ、ワインをお願い。少し整理してみましょう」


 カテリナさんの言葉に、ワインのボトルが数本テーブルに乗ってしまった。

 ソファーを自分達で移動して、小さなテーブルを囲む。


「先ずは、リバイアサンの住人ね。ウエリントン王国というよりも、ブラウ同盟軍として退役軍人を世話してくれる。それも甲板要員と操船要員が主体になるのは分かるでしょう? 2個中隊なら、士官を合わせれば500人程度になるわよ」


 さらに商会ギルドからの派遣となれば、50人以上になるらしい。2つの食堂に、酒場と商店が1つは確実だと話してくれた。

 

「どうにか600人というところでしょう。その他には?」

「ベルッドが10人は率いて来るでしょうね。軍船の整備はベルッドという訳には行かないでしょうから、別途工房ができるでしょうね」


 フレイヤの問いに、カテリナさんが数字を上げてくれた。

 

「カテリナさんも研究所を作るんでしょう?」

「私のところは、私を含めて数人だけよ。それよりも、将来は戦機と飛行機の数を増やしたいわね。先ずは飛行機が先になるでしょうけど」


 新たなパイロットということになるんだろうな。

 待てよ、もう1つあったはずだ。


「あの戦闘艇は、ヴィオラ騎士団所有ですよね。まだ詳細は分かりませんが、動かせる人材を確保しておかないと」

「私から1つ良いかしら? 私の姉夫婦が上官と諍いを起こして退役したらしいの。元は駆逐艦の艦長と操舵手だったんだけど……」


 クリスの姉さんで元駆逐艦を動かしていたなら都合が良いことは確かなんだけど、問題は上官との諍いだな。


「原因を聞いている?」

「大がかりな演習で、上官が判断に迷ってたらしいの。姉さんは1隻で飛び出して……、相手を散々攪乱した挙句、数隻に撃沈判定を与えたらしいわ。結果良しだけど、軍ではねぇ……。その後上官から注意を受けた時に、一発殴ってKOしたらしいわ」


 クリスが大きなため息をついている。

 分からなくもない。規律違反とかいうやつだな。

 軍は集団で行動する。確かに功績はあるだろうけど、全体の動きが乱れるのは上官から嫌われそうだ。


「就職に困っているなら、呼んでくれないかな。騎士団で暮らしてくれるなら、戦闘艦を預けられそうだ」

「周辺監視の範囲を広げられそうね。だけど、車輪ではなく多脚式の走行よ。速度は駆逐艦を軽く凌駕する値らしいけど」


「姉も喜ぶと思いますよ。駆逐艦より速いと聞けば」


 何となく、クリスの姉さんの性格が分かってきた。

 かなり勝気な性格に違いない。それなら、ちんたらしている上官を殴りつけるぐらいはするだろうね。


 ほとんど1日をそんな会話で過ごしてしまった。

 休暇に来たんだから、明日からはのんびり遊ぼうと、ドミニクが散会を告げる。


「長い会議じゃったな。リオを今度は、兄様と呼ばねばならん。我のことはローザで良いぞ」

「そうなるんだろうね。それで、明日はローザ達は何をするんだい?」

「せっかく海に来たのじゃ。コテージの下で魚を突くつもりじゃ。兄様もどうじゃ? アレクの漁しだいでは、明日の夜は浜でバーベキューをしても良さそうじゃ」


 ほう。おもしろそうなことを考えてたみたいだ。

 釣りはやったけど、銛は使ったことが無い。ローザに突けるのなら、俺にも突けるんじゃないかな。

 フレイヤ達はリンダと一緒にエビを獲るらしい。かなり大きな奴がいるらしいから、明日の夜は期待が持てそうだ。


 エメラルダが席を離れている間にと、フレイヤにエメラルダの世話を頼むことにした。

 何と言っても、目が不自由だ。桟橋から落ちたりしたら大変だからなぁ。


「そうね。だいじょうぶ、私に任せなさい」


 ちょっと驚いていたけど、元々が世話好きな性格だ。

 フレイヤが傍にいるなら安心できる。


 俺の隣に腰を下ろしたエメラルダに、騎士団の生活をレイドラが説明している。

 どんな情景かが分からないはずだが、頷いたりたまに問い掛けたりしているから、ある程度理解しているのだろうか。

                 ・

                 ・

                 ・


「今夜はエメラルダ王女と過ごしなさい。私はカテリナさんの部屋に泊まるわ」

「良いのかい? でも、フレイヤは寝相が悪いからなぁ」

「そんなことは無いわ。未だかつて、ベッドから落ちたことが無いもの」


 確かに落ちたことは無い。落としたことは数知れずだ。

 ちょっとカテリナさんが気の毒になるけど、たまにはいいかもしれないな。


 フレイヤ達が寝室に去ったところで、エメラルダを連れてジャグジーに向かった。

 先ずは汚れを落とそう。朝方、泳いでいたからな。

 ちょっと顔を赤らめながら水着を脱いでジャグジーに入る。

 カテリナさんのような成熟した体型ではないけれど、かなりの美形だ。フレイヤがややスレンダーに見えてしまう。

 体を引き寄せてしばらく過ごしたところでベッドに運ぶ。

 明日は蹴落とされる心配はないだろう。ローザも寝相が悪いとは一言も言ってなかったからね。


 シーツの衣擦れの音で目が覚めた。

 窓の外は明るい。時計を見ると、6時を回ったところだ。まだ皆は寝てるんじゃないかな?

 それよりも、さっきから隣で寝ているエメラルダの様子がおかしい。

 シーツを顔に駆けたかと思うと直ぐに取り除く。それを延々繰り返してる。


「おはよう。起きたのかい?」

「おはようございます。起こしてしまいましたか?」


 直ぐに気になっていたエメラルダの行動を聞いてみた。


「これですか? ……シーツを顔に掛けた時と、掛けない時が分かるんです。何故か分かるんです」


 自分でもやってみた。

 どうやら明暗の違いということになるようだな。


「カテリナさんが起きたら、聞いてみた方が良いと思うな。それより、一緒に顔を洗わないか?」


 小さく頷いたから、エメラルダを抱いてそのまま部屋を出た。デッキに向かい、ちょっと息を止めるように言うと、そのまま海に飛び込んだ。

 ぎゅっと俺にしがみ付いているから、立ち泳ぎで水面に出ると、ハシゴに向かって泳ぎ始める。


「目が覚めたろう? 後はシャワーを浴びれば良い」

「もう、びっくりしましたわ。それより、ここはまた違った感覚があります」


 やはり明暗の区別に違いない。

 何かのきっかけで、エメラルダの目は治るかもしれないな。

 階段を先に上らせて、デッキで太陽を見つめていたエメラルダを急いでジャグジーに連れて行く。

 いくら何でも太陽を直視するのは問題だし、そろそろ2人が起きだしてきそうだ。


 バスタオルに包んだエメラルダを寝室に運んだところで着替えを済ます。

 エメラルダがバックの中から自分で水着を取り出して身に着けている。ある程度は何でも自分で出来るみたいだな。

 だけど、バッグの位置が良く分かったものだ。

 俺達とは異なる感覚が、研ぎ澄まされている、ということなんだろうか?


 エメラルダの手を引いてソファーに座せると、テーブルの上のポットからカップにコーヒーを入れる。

 このポットも魔方陣がいくつか彫られている。

 いまだに淹れたてのコーヒーが飲めるんだから、俺も1つ欲しくなる品だ。


「まだ朝食には早いようだ。コーヒーを飲んで待つことになるね」

「ありがとうございます。殿方の手を煩わせて申し訳ありません」


「気にしないでいいよ。それより、エミーと呼んでいいかな? エメラルダと呼ぶのは正式な時にしたい」

「王宮ではエミーと呼ばれていました。そう呼んでいただけるなら幸いです」


 やはり愛称はエミーだった。

 うんうんと頷いていると、もう1つの寝室の扉が開く。起きてきたのはカテリナさんだったけど、裸で俺達の傍を通り過ぎるとジャグジーに向かって行く。

 俺の目の前で、水着をフルフルと見せないで欲しいな。ネコのように飛び付くと思っているのだろうか?

 ジャグジーからハミングが聞こえてくる頃になって、眠そうなフレイヤが現れた。

 フレイヤはちゃんと水着を着ているようだ。

 少なくともそれぐらいのつつましさは欲しいんだけど、カテリナさんの場合は今更なんだろうな。


 水着を着て出てきたカテリナさんが俺の隣に腰を下ろす。


「昨夜はお楽しみできたかしら?」

 

 俺にしなだれ掛かりながら耳元で言うんだから、困った人で間違いはない。

 エミーなんか耳まで赤くしているぞ。


「ちょっと相談がありまして……、エミーを診断して貰えませんか? 明暗が分かるのではないかと思うんですが」


 俺の言葉を聞くなり、カテリナさんが寝室に駆けだして行った。あの虫メガネの大きい奴を片手に持って、俺を無理やりどかしてエミーの診断を始める。

 ここはカテリナさんに任せておこう。困った人ではあるけれど、この世界の名医の1人ということは間違いなさそうだ。


 コーヒーを新たに注いで、デッキに出る。

 今日はいい天気だから、魚を突くには絶好だろう。海も穏やかだ。

 デッキチェアーに腰を下ろして、一服を楽しみながらコーヒーを頂く。

 朝食は8時だから、もうしばらく時間がありそうだ。


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