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M-083 エメラルダ王女


 ドミニク達がリビングに入ったその後に、ネコ族のお姉さん達が藤製のソファーを運んでくる。

 軽いからお姉さん達でも運べるんだろうな。

 部屋の中央近くに室内にあったソファーと一緒に並べると十数人が使えそうだ。

 随行者が多いのだろうか? 俺達はカテリナさんを含めて6人なんだけどねぇ。

 

 まだ時間があるとのことで、デッキでコーヒーを飲む。

 フレイヤ達はワインを飲み始めたけど、交渉前なんだからあまり飲まないで欲しいな。


「たぶん、リバイアサンに関わることだから、リオの一存で良いわよ」

「一応ヴィオラ騎士団の旗艦扱いですよ。良いんですか?」

「魔獣狩りにはあまり使えないようだし、アレクも狩りの方法を考えてるみたいだけど、良い案が浮かばないらしいの」


 あの大きさだからねぇ……。他国に威容を誇るのには都合が良さそうだけど、魔獣相手に見栄を張る必要は無いということだな。

 だが、本当にそうだろうか?

 駐機場にあった飛行機やドックでコクーン化されていた戦闘艦の仕様は、現在のものより高性能だ。

 飛行機を使って100km四方の状況が分かるなら、アリスによる選考偵察は必要ないんじゃないか?

 リバイアサンが視認できる場所で狩りをするなら、背後の魔獣に怯えることなく狩りが出来そうに思えるな。


「リオ君。知らせが来たわよ。10分も掛からずにやってくるわ」


 デッキの扉を開けて、クリスが教えてくれた。

 フレイヤ達と色違いの青地の水着だ。フレイヤは赤だし、ドミニク達は黒だったんだけど、カテリナさんは白なんだよね。普段から白衣を着ているからかな?


「ありがとう。そっちに行くよ」

「さて、誰が来るのかしら?」

「ヒルダ様とフェダーン様、それに副官辺りじゃないかな? あまり警戒するのも良くないよ。指揮権を俺達とすることで良いんだよね」


 ドミニクが真剣な表情で頷いてくれた。

 なら、流されやすい俺だけど、それだけを守ることに主眼を置けばいい。


 部屋に入ってソファーに腰を下ろす間もなく、扉を叩く音が室内に大きく響いた。

 緊張しているから、普段よりも大きな音に聞こえたんだろう。

 直ぐに、フレイヤが扉を開けると数人の男女が部屋に入ってきた。


「どうぞお掛け下さい。王宮の御好意により我等では想像できない休暇を過ごしております。挨拶の前に、先ずは我等一同感謝していることをお伝えいたします」

「うむ。何よりだ。ここは貴賤の区分けを無くした場所。敬語はいらんぞ」


 それでも頭を下げるのは俺達が先だろう。

 軽く礼をすると、向こうも応じてくれた。これで座れるな。


 適当にソファーに腰を下ろすと、ネコ族のお姉さんがワインのグラスを運んでくれた。小さなテーブルにグラスを置くと、先ずは相手の素性を確かめねばなるまい。

 やってきたのは7人だった。

 ヒルダ様とフェダーン様は分かるけど、その間に座った男性は国王陛下だ。一昨日あったばかりなんだけどねぇ。


「陛下が来られなくとも……」

「一応、父親ではあるからな。王女を降嫁させる相手となれば、1度見るだけで判断はできぬ。ヒルダ達が絶賛していても、それは妃達の意見に過ぎぬ」

 

 後ろの男性を振り返って小さく頷いている。

 国王の護衛ということなんだろう。長剣を下げてはいるが、国王と同年代のような感じに見えるな。


「それで、陛下のご感想は?」

「ワシを真っ向から見据える男だ。悪くはないぞ。強いて言えば、覇気が無いように思えるが、それは妃達が指導すれば良い」


 覇気がないと言われてもねぇ……。苦笑いを浮かべてしまった。


「ワシもヒルダ達の考えで良いと思う。リオ。第4王女のエメラルダだ。少し体が不自由ではあるが、ローザの姉になる。良い家庭を築いてくれよ」


 陛下の言葉を聞いて、顔を赤くした女性がエメラルダ王女になるのだろう。

 体が不自由と言っていたけど、病弱なんだろうか?

 陸上艦での暮らしに耐えられないとなれば、問題もありそうだけど……。


「陛下に感謝いたします。とはいえ、我等は陸上艦暮らしの日々。王宮のように安全ではありませんし、食事は劣ると思いますが、この身が動く限り努力を続けるつもりです」

「うむ。確かに安全とは言い難い。だが、リオであればそれを跳ね返す力があるはずだ。

 エメラルダ、神殿暮らしよりは人生を楽しめるであろう。リオと喜怒哀楽を共にするが良い」


 カテリナさんが俺の肩を叩いて席を立つように言った。

 陛下がヒルダ様の隣に座る王女の手を引いて立たせると、2人で俺のところに歩いてくる。

 

「リオ。娘を頼むぞ。……返却は却下だからな」

 

 最後の言葉は小さな声で言ったけど、皆に聞こえたんじゃないか?

 王女の手を握り、俺に伸ばしてくる。陛下から王女の手を受け取ると王女を傍に寄せようとしたら、王女様が一歩踏み出して俺の胸に飛び込んでくる。そのまま手を添えて抱きしめてしまった。


「……これで我も安心できるぞ。リオは男爵位を持っておることを忘れておるようだな。王都に来る時があれば王宮への出入りは自由だ。たまに顔を見せるが良い」

 

 そう言うと踵を返して、後ろの男性を伴って部屋を出ていく。

 慌てて席を立ったドミニク達にヒルダ様がそのままで良いと皆に伝えている。


「陛下は忙しいようです。飛行機を乗り継いで着岸前に合流したのですよ。この島の航路上に2隻を配置したようですね……」


 困った陛下です。という表情でヒルダ様が裏話をしてくれた。

 それだけ、王女の事を考えているに違いない。単なる政略結婚を強いることはしない御仁のようだ。

 それにしても、たった数分の顔見世に飛行甲板を持つ船を航路上に2隻配置するとはねぇ……。驚くよりも呆れてしまうな。

 リバイアサンの飛行機をカテリナさん達が解析してくれれば、そんな苦労はしないで済むんじゃないかな。

 フレイヤが俺とフレイヤの間を開けてくれたので、そこに王女を座らせたのだが、周囲の状況をある程度知っているように思えるのはどういうことなんだろう?


「姉様、一緒に暮らせるのう!」

「ローザも一緒なのですか?」


「我がヴィオラ騎士団の双璧の1人じゃ。何度も魔獣を狩ったのじゃ」

「リンダ。王女達をデッキにご案内してくれないかしら。久しぶりの姉妹の再会ですからつもり話もあるでしょう」


 ローザ王女の隣に座っていたリンダが俺達のところにやって来ると、エメラルダ王女の手を引いて立ち上がらせる。

 直ぐにローザがエメラルダに抱き着いているから、王宮では中の良い姉妹だったに違いない。

 王女の降嫁を一番喜んでいるのは、ローザ王女かもしれないな。


「さて、そろそろ本題に入りましょう。フェダーンの纏めてくれた報告書を読ませて頂きました。正直、驚く限りです」

「最終報告書と名を付けたけど、まだまだ秘密がありそうよ。私の研究室をリバイアサンに移動して、今後も調査を継続するわ」


「ウエリントン王国、同盟を組むナルビク王国、エルトリア王国共に機動要塞リバイアサンをヴィオラ騎士団の旗艦として認定します」


 フェダーン様の隣に座っていた2人のご婦人がそれぞれ王国の名が告げられた時、俺達に頭を下げていた。

 あの2人は、隣国の大使夫人ということになるのだろうか?


「さすがに一国が所持するとなれば同盟に亀裂が生じるでしょう。騎士団がウエリントン王国で登録されていることは些細な話ですし、武装が騎士団の規制に合致しなければ男爵位を授けることも容認できます。残念なことは、我が王国に年頃の王女がいなかっ

たということでしょうか?」

「そうですねぇ……。できれば我がエルトリアからからもと言いたいところですが、こればかりは急に年頃の王女が生まれるわけではありませんから」


 ひょっとして、3王国から降嫁を考えてたってことか?

 そんなことになったら、まさしくハーレムになってしまいそうだ。


「ウエリントンは1個中隊をリバイアサンに送るのでしょう? 本国と調整しましたの。2個小隊は可能ではないかと陛下が言っておられたそうですわ」


 エルトニアのご婦人の言葉に、ナルビクのご婦人が相槌を言っている。


「ちょっと待ってください。ウエリントン王国から退役する兵士の斡旋を受けた話はありますが、正規兵ではありませんよ」

「退役と言っても、早期退役と聞きましたよ。事実上の正規兵ではありませんの?」


 同盟を組む王国同士のせめぎ合いということかな? ここでしなくても良さそうに思えるんだけどねぇ。


「派遣する兵士については王宮で再度調整しましょう。それで良いですね?」

「陸上艦勤務が前提とは思いますが、ヴィオラ騎士団からの要望はありますか?」


 3王国のご婦人から質問が飛んできた。ドミニクが俺に視線を向けているから、ここは俺の要望で良いということなんだろう。先ほども、俺に全権を渡してくれると言ってくれたからね。


「出来れば、火器部門とブリッジ勤務を中心にして頂きたい。飛行機と戦機は騎士団での運用ができるでしょうが、大砲の数が多いですからね。操船を手動で行えるなら機動力がかなり向上するはずです」

「ドックと言うか、桟橋周辺にも人手が欲しいのではないか? 巡洋艦なら2隻同時に入港できる桟橋を持っているからな」


 フェダーン様が追加の要求をしてくれた。

 ひょっとして、フェダーン様は自分の指揮する陸上艦を常駐させるつもりかもしれない。


「2個中隊を3王国で調整しましょう。リオ殿は、いつごろまでに乗員を必要とするのですか?」

「正直な話、まだ全体の調整が出来ておりません。とりあえずは衣食住の環境が整い次第ということになりますが、半年程度で何とかしたいと考えています」


 うんうんと3王国の御婦人方が頷いているところを見ると、ヒルダ様達の計画と相違は無いようだ。


「そうそう、リオ殿の宮殿はさっぱりしすぎているようですね。王宮の倉庫から調度を見繕って上げましょう。エメラルダの降嫁のお祝いは不足でしょうけど、品数は多いですよ」

「歴代お妃の装束をいくつか贈ってはどうだ? 倉庫で錆びさせるのは忍びない物が多すぎる」


「それはフェダーンに任せましょう。リオ殿の宮殿を見ているのですから」

「私共もお祝いしないといけませんね。陛下と相談してみます」

「被るのも問題でしょう。フェダーン殿と相談すればよろしいですね」


 貰えるのは嬉しいけど、貴重品が倉庫に山積みになっているような気がしてきた。

 あまり高価な品では、触るのも怖くなるからほどほどの品にしてくれと、フェダーン様に伝えておこう。


「次は、商会ギルドからの要望です。大型であれば乗組員の数も多いはず。必要な品の調達について打診がありました。ギルドの参加は可能でしょうか?」

「かつてのリバイアサンの運用人数は3千人以上5千人以下というところでしょう。何とか千人以下で運用したいと考えているのですが、その人数に見合った娯楽と食事を何とかしないといけません。見付けた食堂は、兵士用が2つに士官用が1つでした。2カ所の食堂運営と、小さな店を作って頂ければ大助かりです」


「伝えましょう。たぶん商会ギルドの責任で運用が可能だと思いますよ。3王国ではどうしても身贔屓になりかねませんが、ギルドであればそれも回避できます」


 そんな話が延々と続く。昼食は取りやめになるんじゃないかと思っていたら、ネコ族のお姉さんが大きなバスケットに大量のサンドイッチを運んできてくれた。

 朝もサンドイッチだったんだけど、贅沢は言っていられない。


 食事をしながらの会談が、そろそろ終わりになろうとした時だった。


「リバイアサンへの軍船の立ち寄りを許可して頂けますか?」


 これが一番の曲者だ。

 リバイアサンを、移動する工房都市として利用することを考えているに違いない。

 あまり軍船が出入りすると、王国内の機動部隊の運行に合わせてリバイアサンの動きに制限が掛かりそうだ。


「騎士団の利用を考えていました。あまり出入りされるようでは機動艦隊との連携を考えなくてはなりません」

「リバイアサンに2つのドックがある。片方に優先権を持たせてくれるぐらいは問題あるまい。滞在は最大でも3日程度。工房を誘致するのであれば簡単な陸上艦の修理も可能だ」


 占有ではなく、優先権ということか……。あのドックの桟橋には巡洋艦クラスになら2隻は接岸できそうだ。

 ここは優先権を認めることで、詳細を詰めることにした方が良さそうだな。


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