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M-082 待遇が良いと色々と考えてしまう


 扉が叩かれ、「夕食の時間にゃ!」と教えてくれた。

 ローザ王女が何も言ってなかったから、とりあえずこのままで良いということなんだろう。

 小さなバッグを腰に下げて、フレイヤと桟橋を歩く。

 あの大きなロッジだから、案内は必要ない。ドミニク達は既に出掛けたんだろうか? 桟橋を歩くのは俺達2人だけだ。

 目的のコテージの玄関先には、イヌ族の少年が2人立っていた。


「リオ様ですね。ご案内します」

「ありがとう。そうだ、バッグを運んでもらってありがとう。仲間と分けてくれないか」


 ポケットから銀貨を取り出して扉を開けてくれた少年に手渡した。

 嬉しそうに、笑みを浮かべてくれたけど、ドミニク達も渡しているのかな? ここで来客の手伝いをすれば、大人よりも収入があるかもしれないな。


 やはりというか、このコテージも外見と室内空間に大きな開きがある。

 中央の大きなテーブルに、料理が山盛りになっているのは、好きなものを好きなだけということなんだろうな。

 いかにも美味しそうな料理を眺めながら少年に連れられて奥に行くと、10人程が座れるテーブルにドミニク達が席に着いていた。


「これで全員じゃな。明日は少し多くなりそうじゃが、それはそれじゃ。今夜は礼儀など忘れて好きなように頂こうぞ。でも、その前に……」


 ローザ王女がちらりと傍に控えていたネコ族のお姉さんに顔を向けると、ワインが各自に注がれていく。

 白ワインだな。泡が底から上がっていくからスパークリングと言われる種類のようだ。


「ウエリントン王国とヴィオラ騎士団の繁栄を祈って……、乾杯!」

「「乾杯!」」


 隣同士グラスをカチン! と合わせて口に含む。

 ほんのりと甘く、良い香りが鼻に抜ける。

 それほどアルコール濃度は高くなさそうだ。ローザ王女が飲めるのはこれぐらいまでと、リンダから注意されてるのかもしれない。


 さて、先ずは料理を取り分けて来るか。

 料理の乗ったテーブルに向かうと、ネコ族のお姉さんが、色々と取り分けてくれる。特に好き嫌いは無いんだが、キノコだけは避けて貰うことにした。


「好き嫌いはダメよ!」

「キノコだけは……、『食べてはいかん!』と遺言されたんだ」

「ほんとかなぁ?」


 たっぷりと皿にキノコを乗せられそうなフレイヤの言い方だけど、今夜は見逃してくれた。

 せっかく楽しい時を過ごすんだからねぇ。最初から拷問にかけるのは良くないと思ったに違いない。


 取り分けてきた料理を食べながら、ガールズトークが始まる。

 俺にはちょっと辛い時間が流れるけど、話を振られないなら問題は無い。

 ワインは美味しいし、料理も普段とは別格だ。

 こんな料理を毎日食べてると、直ぐにメタボになるんじゃないか?


「ローザ王女にも、王宮からやって来る人達は分からないということ?」

「母様とフェダーン様は確実じゃが、他は分からぬ。仕事に都合が付く王族はやって来ると思うのじゃが……。それと、我の友人達が来るはずじゃ。学院での友人達じゃが、貴族の子供でもある。とはいえ、この島では遠慮は無用じゃ。身分を云々する輩は、この島への立ち入りを父様は許可せんからのう」


 裸の付き合いってことか。それで島では水着で暮らすってことなのかな?

 肩ぐるしい王宮を少しでも忘れようとするための島に、俺達を招待するのはなぜかと考えてしまうな。


「ま、今夜はゆっくり致せ。島の周囲には危険な魚はおらんから、朝から泳ぐのも一興じゃ」


 うんうんとフレイヤ達が頷いている。

 だけど、全員そんなに早くに起きられるんだろうか?

 食後のコーヒーを頂いたところで、夕食が終わった。

 時計を取り出すと、まだ20時を過ぎたところだ。しばらくはデッキで夜空を楽しむことにするか。


「良い場所ね。兄さんの別荘から見た海越しの夜景も良かったけど、ここは海と星空以外何にもないんだもの」

「北の隠匿空間の周囲も何にもないところだけど、やはり潮の香がするのが良いね」


 俺のデッキチェアーのすぐ横に、コーヒーカップを置いてくれた。

 その隣にあるデッキチェアーにフレイヤが足を投げ出して座ると、コーヒーカップを手にする。

 熱いのは苦手だから、もう少ししてから頂こう。


「王族がやって来る理由は何かしら?」

「リバイアサンのことだと思うな。あの大きさで動くんだから、そこに利権が絡むんじゃないかな。表立っては俺に所有権があるんだろうけど、ウエリントン王国としては、それにある程度干渉したいと考えてるのかもしれない」


 ウエリントン王国に所有権を置いたなら、現在の同盟関係に亀裂が生じるだろうし、西の好戦的な同盟を組む王国がどんな動きをするか分かったものではない。

 総力戦を挑むようなことは無いだろうけど、テロ行為に走られたら手の施しようがないだろう。

 そういう意味で、騎士団が手に入れたものを王国が所有を認めたとしてるんだよな。ある意味、俺達をスケープゴートにした感じもしないではない。

 その見返りってことかな? 一応、男爵位を授けて貰ってるんだけどね。

 

 まあ、明日になれば分かるだろう。

 フレイヤの手を取ってコテージに入る。大きなジャグジーで汗を流したところで、寝室に入ったのだが……。

 このベッドで3人は寝られるんじゃないか? 横幅が俺の身長ほどもある。

 フレイヤとベッドを共にして先ず思いついたのは、明日は蹴落とされることは無いだろうということだった。


 翌朝は、フレイヤに叩き起こされ朝食前にひと泳ぎ。

 ドミニク達も同じような考えでいたようだ。3人が俺達に近付いてきたんだけど、クリスは浮き輪での登場だ。やはり泳げなかったみたいだな。

 そんな俺達の中に、突然ローザ王女が浮かんできた。しっかりとマスクにシュノーケルを付けている。


「早速始めたようじゃな。コテージのクローゼットにこれが用意されておるぞ。水中散歩は、ここでないと出来ぬからのう」


 ローザ王女が再び海中に潜っていった。

 そうなると……。うん、思った通りの行動だな。皆、直ぐにコテージのデッキに続く、ハシゴに向かって泳いでいく。

 困った表情でクリスが見ていたから、クリスの手を引いてハシゴまで連れて行ってあげた。


「ありがとう。でも私は泳げないのよね」

「ここで覚えたら良いんじゃないか? それに、浮き輪に掴まっていても海中を眺めることは出来ると思うよ」


 笑みを浮かべて頷くと、ハシゴを上っていった。

 その後ろを俺も上る。

 コテージの中に入ると、フレイヤがクローゼットから色々と持ち出している。

 だけど、そろそろ朝食じゃないのかな? 8時を回っているからね。


「ちゃんと教えてくれても良かったと思うんだけどね」

「俺達を驚かせようとしたんじゃないかな。それよりそろそろ朝食だよ。シャワーを浴びて着替えたら?」


「あら、クリスも一緒ね。なら一緒に浴びましょう。着替えは……、ここは水着で良いんでしょう?」


 俺達の手を引くと、ジャグジールームに向かって行く。

 まあ、水着は着てるんだからクリスも一緒で構わないだろう。

 3人で天井から冷たいシャワーを浴びると、バスタオルで体を拭く。

 さすがにフレイヤ達は何かを羽織るようだな。クリスにフレイヤが渡したのは俺のシャツじゃないのか? 

 俺がゆったりと着られるTシャツのような品だから、クリスが着ると、丈の短いワンピースのようだ。

「お揃いね」なんてフレイヤも俺のシャツを着ているんだから困ったものだ。 

 どうやって取り返そうかと考えていると、お姉さんが朝食を告げてくれた。


 昨夜で大まかな間取りは覚えたけど、玄関先の少年達に案内されたテーブルには、カテリナさんがローザ王女の隣に座っていた。

 きっと面白そうだからと、やって来たに違いない。


「おはよう。あら、濡れたままなの?」

「泳いでたものですから。それよりカテリナさんもいらっしゃったのですか?」

「私だって、リオ君を巡る美女の1人だと思ってたけど」


 自分で美女というのもねぇ……。とはいっても美人であることには変わりは無い。それに老化を押さえる魔法を使っているから、ドミニクの姉と言っても通用するんじゃないかな?

 だけど、その水着はちょっと問題がありそうな気がするんだよなぁ。

 まるで紐じゃないか! フレイヤだってもう少し布地が多いぞ。

 

 俺の視線に気が付いて、笑みを浮かべてウインクしてくる。

 フレイヤが足で脛を蹴りつけてるんだけど、男のサガなんだからしょうがないんじゃないかな。


「昨夜遅く、やってきたのじゃ。昨夜はわらわのコテージじゃったが、今夜はリオのコテージにすると言っておったぞ。荷物は既に運んであるはずじゃ」

「そう言うことだから、フレイヤよろしくね」


 しょうがないなぁという表情でフレイヤが頷いている。

 波乱の休暇の始まりになってしまった。


 スープにサンドイッチと果物が朝食のようだ。

 直ぐに食べ終えたら、大きなマグカップでコーヒーが運ばれてきた。俺のコーヒー好きが分かってるのかな?


「ヒルダ達は昼前に来ると言ってたわ。ローザのお友達も一緒よ」

「特に準備するようなことは?」

「ない筈よ。どちらかと言うと、ヒルダ達が用意してくると思うんだけど」


 やはり利権の話し合いになりそうだ。

 王国の退役兵を1個中隊規模で派遣して貰えるんだから、それなりの利権は要求されそうだな。

 指揮権だけは何とかして騎士団のものにしておかないと、旗艦が名前だけになりそうだ。

 そうだ! 今回の休暇でドミニク達は友人の伝手を使って乗員募集を考えていたはずなんだが、それはどうするんだろう?


「早めに王族との打ち合わせを終えないと、私の予定が狂いそう。休暇の後半は、王都で過ごすわ。実家はそのままなんでしょう?」

「メイド達がいるからだいじょうぶよ。すると、今回の休暇は?」

「2週間を予定していますから、10日後に陸港のヴィオラに集合です」


 レイドラがカテリナさんに教えている。すると、ドミニク達は5日後には帰ってしまうんだな。

 俺達だけのんびりしているのは申し訳ない話だけど、俺達が手伝えることではないからねぇ。管理職は辛いところだ。


「ヒルダ達も休暇が目的だから、リオ君達もそのままで良いわよ。ここは構える場所ではないようだから」

「とは言っても、礼儀は必要なんでしょう?」

「いつものリオ君でだいじょうぶよ。あまり心配することは無いと思うんだけど」


 とりあえず安心しておくか。カテリナさんの言葉だから、どんでん返しもありそうだけど、ローザ王女も上を羽織らずに水着姿だから問題はないんだろう。


 桟橋を歩くだけなのに、俺の腕をフレイヤだけでなくカテリナさんまで組んでいるんだよなぁ。

 後ろからクスクスと笑い声を上げてるのが聞こえてくる。

 そんな笑い声が聞こえなくなったのは、ドミニク達のコテージを過ぎてからだ。

 ようやく自分達のコテージに着くと、カテリナさんにそのままジャグジーに連行されてしまった。

 そのままジャグジーに入っていると、フレイヤが乱入してくる。

 昼にはヒルダ様達がやってくるはずなんだが、その前に2人のお相手をしないといけないのかな?

 裸の2人をベッドに連れて行くと直ぐにカテリナさんが体を合わせてきた。

 

 何とか静かになった2人にシーツを掛けると、新しいサーフパンツをバッグから取り出す。

 サングラスを掛けて、リビングの冷蔵庫から冷えたワインをグラスに注ぐと、デッキへと向かう。

 デッキチェアーの隣に置かれた小さなテーブルには灰皿がある。

 ここなら、一服できるということだな。

 一服を楽しみながら、ワインを飲んでいると遠くに帆船が見えた。

 あれに乗って来るんだろう。昼頃と言っていたけど少し遅れそうだ。


 2本目に火を点けたら、タバコをカテリナさんに取り上げられてしまった。

 水着も付けないで隣の椅子に寝転んでいる。

 

「どうやらやってきたみたいですね」

「これで、リオ君を取り巻く女性が増えることになるわね」


「ドミニクに怒られますよ?」

「あら、ドミニクは気にしないからだいじょうぶよ。そうそう、一応ドミニク達もリオ君を取り巻く美女の中に入るけど、リオ君は気にしないでもだいじょうぶよ。あの子達は2人でずっと暮らすみたいだから……」


 ドミニクとレイドラはそういう関係ということか。俺を上手く使って隠すつもりなのかな?

 まあ、それはそれということなんだろう。実害が無ければ問題ない。


「ということで、私はドミニクの代わりということになるのかしら? フレイヤは納得してくれたから、問題ないでしょう?」

「でも、良いんですか?」


 そんな俺の問いに、笑いながら教えてくれた。

 王侯貴族の中では日常茶飯事らしい。そんな乱れた生活をしているのかと思うと考えてしまうな。


「昔は酷かったらしいけど、この頃は世間を気にするようになったみたい。取り巻きの女性達は一生変わらないわ。だからリオ君が気にすることは無いのよ」

「でも良いんですか? 俺達は騎士団員ですし、カテリナさんは研究暮らしでは?」

「私も、リバイアサンの住人になるから問題なし。ガネーシャ達を連れてくることになりそうね。王都の学院生達は導師が指導してくれるはずよ」


 カテリナさんがいれば、リバイアサンの魔方陣を使ったギミックの解読も進むに違いない。

 そうなると、ベルッド爺さんを引き抜きたいところだ。


「工房のマイスタークラスも欲しいですね」

「ベルッドの弟を引きこめそうよ。バルターと言うんだけど、バルター達をヴィオラに乗せて、ベルッドはリバイアサンに乗って貰おうと思ってるの。これはドミニクとの交渉次第だけど」


 灰皿に吸い殻を入れると、コテージに入っていった。

 周囲に誰もいないんだけど、いつまでも裸でいるわけにもいかないだろう。それより、あの紐水着以外の水着は持ってないのかな?

 いくら何でも、あれでお妃様の前に出るのは問題だと思うぞ。


 残ったワインを飲み干してコテージに入る。

 カテリナさんとフレイヤがソファーに座ってワインを飲んでいた。カテリナさんも今度はフレイヤと同じような水着だから少し安心する。

 

「そっちのテーブルのポットにコーヒーがあるわよ。1時間もしないでヒルダ達が来るはずだから」

「ここにいて良いんですか? やはり出迎えた方が……」


「ここにいて欲しいと、ヒルダに念を押されてるの。そうそう、フレイヤ。ドミニクとローザを呼んできてくれない?」


 直ぐにフレイヤが出掛けて行った。

 ここで御一行を迎えるということになるのかな?

 椅子は足りるんだろうかと辺りを見渡す俺を見て、カテリナさんが笑みを浮かべている。


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