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M-008 最初の狩りは成功だ


 視界にヴィオラが見えてきた。俺を追う4本脚の巨大なサイに似た魔獣は、頭の上に前に鋭く伸びた1本角が生えている。

 大型バスの上に衝角を付けた感じに見えるから物騒な奴に間違いはないだろう。


「指示通りにヴィオラの手前450mで左に方向を変える!」

『了解です。仮想スクリーンにヴィオラまでの距離を表示しますから、450で左に操作してください』


 アリスの言葉が終わりと同時に、やや右上に5桁の数字が表れた。小数点が付いているからかなり精度が高いんだろうが、あいにくと右の2つの数字は目覚ましく変わって視認できないな。

 それでも、10m単位の切り替わりのタイミングを見計らって、左にジョイスティックを倒すと、足を空に投げ出すような姿勢とって、ほとんど90度の方向転換をアリスが行った。

 おかげでとんでもないGが体に掛かったけど、さらに高速でも同じような機動を取ることができるらしい。


『その時には、慣性を中和してGを軽減しますからだいじょうぶですよ』


 そんな話をしてくれても、俺には頷くことしかできない。できれば無茶な機動は避けてほしいところだ。

 

 大きく時計回りにアリスの進行方向を変えると、南東方向からヴィオラに接近する。

 ヴィオラの周囲が砲煙に包まれている。かなり派手に砲撃を行ったようだ。

 

「遅くなりました」


 カリオンのやや右後方にアリスを止めると、カリオンが右手で土塁に立てかけてあった銃を指さした。


「上手く誘導してくれたな。ほぼ終わりだが、一応銃は持っていてくれ」


 何があるかわからないということか?

 言われるままに銃を交換して、周囲に注意を払う。


『すでに息のある魔獣はいないようです。この後はどうするのでしょう?』

「まあ、見てるしかないだろうな。血の匂いで新たな魔獣がやってくるのを警戒してるのかもしれない。それに海賊だっているのだからな」


 海賊の活動は北緯30度から40度当りが活発らしい。

 すでに北緯35度を超えているから、いつ襲われても対処できるようにヴィオラは厳戒態勢を維持している。

 それが緩むのは、唯一狩りの時間だからだろう。

 

 硝煙が晴れると、獣機の連中が穴の中で何やら動いているのが見えてくる。どうやら、魔獣の解体を行っているみたいだ。薙刀のような得物を持った獣機が2機1組になって作業を行っている。


「獣機の連中が最後の面倒を行ってくれる。魔獣の心臓の周囲に魔石があるんだ。モノリーズなら2、3個だろうな」

「魔獣の種類で得られる魔石の数が違うんですか?」


「あまり知られていないが、草食種族より肉食種族の方が数が出る。それに小型魔獣よりも大型の方がやはり数が出るんだ。その内に分かってくる」


 カリオンが退屈凌ぎに教えてくれた話では、得られる魔石は6種類らしい。地、水、火、風、それに光と闇になるそうだ。それぞれ、茶、青、赤、緑、白、黒の色の種別があるそうだが、魔獣を倒して得られる魔石は地域によって偏りが出るらしい。


「この辺りなら、茶と緑が主流になるが、他の魔石が出ないわけではない。それに、今回のような小型種では魔石の質が低位でかなり濁っているはずだ。

 だが、中位が出ないわけではない。魔石を20個も得られればその内の1、2個は中位のはずだ」


 何が出て来るかお楽しみという感じに聞こえてくるなぁ。

 その場でしばらく見ていると、魔獣からの魔石採取が終わったらしく獣機が1体ずつヴィオラに帰っていく。搭乗タラップの前で1体ずつ立ち止まっているのは、どうやら獣機の汚れを魔法で落としているらしい。

 騎士団の魔導士は、攻撃のためにだけにいるのではないようだ。


 獣機が全てヴィオラに戻ると俺達の番になる。アレクの指示で1体ずつヴィオラに戻ることになったが、俺の順番はアレクの前だった。アレクが殿だから筆頭騎士が最後まで周囲の警戒をすることになるんだろう。


 カーゴの駐機台にアリスを固定したところで、ドワーフの若者が用意してくれた搭乗用タラップから降り立った。

「ありがとう」と礼を言って、いつもの待機場所へと向かう。


 やはり、ヴィオラの大きさと船内の大きさが合わないな。少なくとも高さで1.5倍はある感じだ。横幅も同じ何だろうか? この陸上船の設計図が見たいところだが、誰も気にはしてないように思える。魔道科学のおかげだと思ってるのかもしれないな。


 船首にある俺達の待機場所に向かうと、すでにワインを入れたカップが木箱の上に並べられていた。


「狩の成功を祝うのよ。全員が6本ずつ、用意してるの。リオは12本用意してくれたけど、次からは半分でいいわよ」

「最初に聞いておくんでした。了解です」


 毎日飲んでいるから差し入れたんだけど、本来は狩りの成功を祈るためだったようだ。

 だけどいつも飲んでいるように思えるんだけどねぇ……。


「準備できたようだな。それでは、リオの初任務の成功を祝って!」

「「乾杯」」


 アレクが姿を現したところで祝杯が上がる。甲板の方でも乾杯の声が上がっているから、ヴィオラ騎士団の習わしでもあるんだろう。


「魔石は18個だそうだ。その内2個が中位と言っていたぞ」

「だいぶ率が良いわね。モノリーズの大きさが中型に近かったせいかしら?」


 アレクの言葉にサンドラが疑問を呟いたが、俺が首を傾げているのをみたカリオンがその理由を話してくれた。

 魔獣の大きさと、心臓周辺に寄生するように存在する魔石の品質は、ある程度相関関係があるらしい。

 小型種と呼ばれる体長15m未満の魔獣の魔石はほとんどが低位であり、中位の出現率は1割にも満たないらしい。

 体長15mから20mほどの中型種であれば低位と中位の比率が4対6ほどになるようだ。まれに上位の魔石が見つかることもある。

 体長20mを超える魔獣であれば、9割が中位魔石で1割が上位になる。


「まあ、そんな感じになるかな。低位魔石の売値は銀貨10枚。中位なら50枚。上位は金貨2枚が相場だ。もっとも、これは4色と呼ばれる魔石で、白や黒ならさらに5倍の付加価値が加わる」

「最低は4色の低位魔石で銀貨10枚。最大なら白や黒の上位魔石で金貨10枚ですか……。となると今回のヴィオラ騎士団の儲けは銀貨260枚ということですね」


「ちゃんと計算できたのね。その通りよ。幸先は良いんじゃない」


 シレインが笑顔で肯定してくれた。ついでに俺のカップにワインを注いでくれる。


「俺としては、風の海の北端部に中型に近い魔獣がいた方が気になるところだ。ヴィオラは更に数日北へと進む。次の獲物は間違いなく中型種になるぞ」

「北で異変があったのかもしれんな。確かにあの大きさのモノリーズは何度も狩ったが、さらに北の場所だったな」


 異変を知る方法がこの世界には無いのかもしれない。

 魔石を使った通信も行ってはいるが精々10km圏内だ。それ以上なら光を使ったモールス信号と信号弾だからなぁ。


「これまでの魔獣で一番厄介だったのは、体高20mのチラノだ。単体だが、一目散に逃げたことがあったな」

「あれは、かなりヤバかったな。交互に奴を牽制してどうにか陸上船を逃したんだが、危うく俺達が倒されるところだった」


 かなり足が速かったのだろうか? 戦機は自走車より早く動けると言っていたが、戦機の最大速度がどの程度化はアレク達に聞いてもあまり理解できる言葉が返ってこないんだよな。

 そんな奴が出てきたら、アリスで十分対処できるような気もするけどね。


『マスターの意思に従いますが、ヴィオラ騎士団の意思も尊重すべきだと思います。マスターと私の能力を必要としたときのみ、本来の力を使うべきでしょう』

 

 脳裏に俺の思考の中にアリスが語り掛けてきた。

 確かにそうだな。ワンマンアーミーは止めた方がいいだろう。今までも騎士団の皆が協力して魔獣を狩って来たんだからね。


 やがて、陸上船が動き出した。再び進路を北に目指して進んでいく。

 夕食を頂くと船首で再び周囲の監視を始めたが、ネコ族の若者がライトを運んできたところで、俺達は船室に戻り早めにハンモックで横になった。

 アレクが言うには、夜の狩りは行わないそうだ。だが、早朝と夕暮れ時の狩はあり得ると言っていたから、魔獣狩りは早寝早起きが基本になるのだろう。

 良い具合に、ハンモックが揺られる。

 弾力のある繊維で編んでいるらしく、振動が伝わらない優れものだ。これならすぐに眠りにつけるだろう。


 翌日は、まだ日が上がらない内に目が覚めた。

 一度目が覚めると二度寝ができない性格だ。船室を出て甲板に出ると、近くにあるオケに魔法でお湯を入れる。ちょうど良い湯加減なんだけど、出来れば冷たい水が欲しいところだ。

 温めの水で顔を洗うと、全身に【クリーネ】の魔法をかける。体の汚れだけでなく衣服の汚れも落ちる優れた魔法だ。この2つが主婦必携の魔法だとフレイヤが教えてくれたのが良く理解できる。


 さっぱりとしたところで、タバコに火を点ける。ライターはないが、マッチはあるんだよなぁ。

 甲板に灰を捨てられないから、バッグから真鍮でできた携帯灰皿を出す。

 

「早起きにゃ」


 ネコ族の娘さんが俺にお茶のカップを持ってきてくれた。両手に持っているから、俺を相手におしゃべりをしたいのかな?


「あの戦機はちょっと変わってるにゃ。あんなに素早く動けるなんてすごいにゃ」


 ちょっと驚いて娘さんの話を聞いていたが、どうやら昨日の狩の時にはマストの上にある監視台で周辺監視をしていたらしい。


「小さい機体だからね。それが原因かもしれないよ」

「あんな戦機が数機あれば、もっと安全に狩れるにゃ。でも戦機は中々見つからないにゃ」


 アリスが、この世界の魔道技術では戦機は作れないと教えてくれた。やはり、アレク達の駆る戦機は、すべて荒野で見つけたということになるのだろう。

 だが、地中に埋もれた戦機をどうやって発見するんだろう? 監視しながらアレク達に聞いてみるか。


 甲板から明るくなってきた荒野を眺める。

 この辺りは風の海と呼ばれる区域らしい。たまに藪や灌木も見えるのが特徴だとサンドラが教えてくれた。更に北に向かうと砂礫の世界が広がるそうだ。

 それが砂の海と呼ばれる区域らしい。

 中型魔獣が跋扈する場所だと教えてくれたけど、魔獣は何を食べてるんだろう?

 草食獣がいないんでは、砂でも食べるしかないように思えるんだけどねぇ……。

 何とも不思議な感じがするな。


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