M-078 次の休暇は王家の島への御招待
俺達がどのように商会を選んでも、妬む連中は出るだろうし、ギルドに苦情も出て来るらしい。
全く面倒な話になってしまったな。
それを王宮に丸投げして解決してもらおうというんだから、俺達もかなりいい加減なところがあると思ってしまう。
とは言え、王宮が後押ししたとなれば妬まれることは無いだろうし、ギルドも助かるということに違いない。
「カテリナさんもかなり悪質だと思うんですけど……」
「あら? そうかしら。妥協策としては最善よ。それに王国に恩を売ることにもなるからヒルダが絵画の1つも贈ってくれるんじゃないかしら?」
王宮の裁量というところが微妙だな。まあ、使える者は親でも使えと言うぐらいだから、こっちにとっては良いことなんだろうけど。
「商会ギルドと王宮のパイプ作りということかな?」
「アレクはリオ君よりも状況が見えるみたいね。その通りよ。向こうも願ったり叶ったりというところだから協力してくれるし、その結果として選んだ商会は責任を持たされることになるわ」
「変な連中が入ってこれない、ということですね。さすがはカテリナさん!」
「そう言うこと。確かにリバイアサンに商会の支店は欲しいところね。クロネルに生活部の連中を増やせないか相談したんだけど、あまり良い顔をしてなかったもの」
リバイアサンの生活関連部門を商会に任せるということかな? 少なくとも運用開始時には500人近い乗員になりそうだ。
食事を作るだけでも大変だからねぇ……。
そんなことは狩りの時にでも考えれば良いだろう。
今は、目の前の御馳走を頂くことに全力を傾ければ良いはずだ。
3時間程の宴会を終えて、ヴィオラの船室に帰る。
2人で熱いシャワーを浴びると、火照った体をデッキで冷ましながらタバコに火を点けた。
フレイヤが淹れてくれたコーヒーを飲みながら満点の星空を眺める。
ここは安全だ。のんびりと過ごすことができる。
コーヒーを飲み終えたところで船室に入り、フレイヤとベッドに入る。明日は蹴飛ばされて起こされるに違いない。
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3日間の隠匿空間での休養を終えると、ガリナムを伴っての魔獣狩りが始まる。
これが本業だからだろう、ひさしぶりに狩に参加できるのが嬉しくて笑みがこぼれる。
「それで、どれから始めるんだ?」
「今朝方の偵察では、南東方向20ケム(30km)に大型のチラノタイプがいました。ゆっくりと西に向かっていましたから、このまま南進して罠を作ると思います。数は6頭です」
「いつも通りで良いな。ガリナムとヴィオラの間は、ローザ王女にお願いする」
「任せるのじゃ。とはいえ一斉砲撃の後じゃからのう……。果たしてヴィオラに近づく魔獣はおるのじゃろうか? そっちの方が心配じゃ」
「王女様。来ない方が良いんです。来た時の為に王女様がその場におられるのですから」
「そうじゃな。我等は領民を守るためにおるのじゃ。リンダも、一斉砲撃に加わらずに待つのじゃぞ」
自分の役目を理解してくれたようだ。リンダも苦労しているな。
アレクが、笑みを浮かべて頷いているから、今までの交戦でローザ王女の戦姫の性能を信頼しているのだろう。
「出撃は2時間後になりそうだ。最初からチラノタイプを狩るとは思わなかったが、昔とは違う。とはいえ油断は禁物だ」
良いことを言っているんだが、溢れるほどに注いだカップで酒を飲みながらの言葉だ。皆が苦笑いをしながら頷いているんだよなぁ。
2時間後に始まった狩りは、何時ものように俺とアリスで火点に誘き寄せたところを、2隻の艦砲で砲撃して6頭のイグナスを倒すことができた。
チラノよりは凶悪ではないとアレクが言ってたけど、肉食の大型魔獣だからねぇ。隠匿空間近くの魔獣は全て大型だ。
3mほどもある頭だから、口の大きさだけで2mを越える。空堀を掘った砂を積み上げて獣機の連中が隠れているんだが、噛みつかれたらそのままあの世に行きそうだ。
2頭が血まみれで獣機に襲いかかろうとしたらしいが、ローザ様とアレクが倒したらしい。
さすがは戦姫、そして戦鬼だな。
『6頭で100個近い魔石を得たようです。このまま狩りをすればかなりの魔石を手に入れられるでしょう』
「取らぬタヌキという言葉もあるよ。まだ始まったばかりだ」
1日に1、2回の狩りを行う形でドミニクが狩りの航路を選んでいるようだ。
あまり過労にはならないし、かといって全く獲物が無い日もない。そんな状態ならば、俺達戦機の出番は余りないからデッキで皆と酒盛りが続くことになる。
「無理はしないということだな。すでに拠点となる場所もあるし、とんでもない旗艦もあるぐらいだ。ドミニクとしては騎士団の充実に力を注ぐことを考えているんだろう」
「だけど旗艦の方の設備投資は、かなりの額になるみたい。隠匿空間に帰還時に何とかすると聞いたけど?」
「以前、ガリナムと組んで狩りをしたことがありましたよね。あの再現です。ガリナムなら移動速度に無理が効きますから。隠匿空間、ガリナム傭兵団、それとリバイアサンの設備投資費に分割すると聞きました」
サンドラの問いに答えると、そんなことだろうと皆が頷いている。
目標は2日間で魔石100個以上というところだ。
中級魔石がそれだけ揃えば、3者で金貨を十数枚ずつ分けることができるだろう。
調度類が朽ち果ててしまっているから、早めに揃えておかねばなるまい。乗員を集めても、そこで暮らせるようにしなければならないのだ。
アリスと一緒に先行偵察をしながらの狩りは、傍から見ると贅沢以外の何ものでもない。
とはいえ、最終的に狩りを行うのは、陸上艦と獣機、戦機になる。
危険が完全に取り除かれていないことを、ドミニク達はきちんと理解しているようだ。
「リオがいるから、狩りの後も周囲を気にすることも無くなった。だが、中には地中に潜む魔獣もいるんだからな」
ラプターと呼ばれる小型の魔獣を狩った後の祝杯時に、アレクがそんなことをベラスコ達に話している。
ラプターは獣機よりも少し大きいチラノタイプの魔獣なんだが、群れるという習性があるようだ。今回も20頭以上だったからね。
艦砲で半減した残りを獣機と戦機で倒したらしい。
「普段なら相手にしないんだけど、これからはあの数ぐらいなら狩れるということが分かっただけでも良かったんじゃない? 1頭当たり魔石が数個出たらしいわよ」
「半数は低級だと聞いたぞ。まぁ、あの大きさだからなぁ。10頭以下なら中規模騎士団に手が届こうとする騎士団には良い獲物になりそうだ」
何時も通りの狩りを終えての酒宴は俺達の楽しみでもある。
他の騎士団でもそれなりに狩りの成功を祝うに違いないけど、ヴィオラ騎士団にはアレクがいるからなぁ……。いつでも酒宴を開いているように思えて仕方がない。
「明日からリオが別行動になる。このまま隠匿空間に真っ直ぐ向かうことになるが、途中に魔獣の群れがいないとも限らない。偵察車が先行してはくれるがリオのようにはいかないだろう。直ぐに出撃できるようにここで待機だ」
「申し訳ありません。2日間ですから、朝夕には周辺状況を知らせるつもりです」
「たいへんだけど、お願いね。ガリナムが同伴してくれるなら良いんだけど……」
隠匿空間周辺で狩りを行うためにガリナム傭兵団と同盟を結んだようなものだ。資金稼ぎの別行動は本来あってはならないことだが、背に腹は代えられないからなぁ。
翌日からの2日間で、どうにか100個近くの魔石を得たところで、ヴィオラの隠匿空間到着より少し遅れて帰ることができた。
一番嬉しそうなのはガリナム傭兵団のクリスのようだな。
アリスが倒した魔獣の解体だけで30個を超える魔石を手にしている。
このまま続けるなら、ガリナム傭兵団が騎士団に変わるのもそれほど時間を要しないのかもしれない。
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10日間の狩りの航海を終えると、3日の休養を隠匿空間で取り再び出撃する。
そんな航海を3回続けたところで、長期の休暇を取ることになった。
隠匿空間で暮らす元騎士団員の三分の一を同時期に休暇と取らせることになったから、商業ギルドの貨物船を1隻レンタルして王都に向かう。
「フェダーン様も一緒じゃな。軍の方も兵士に長期休暇を与えたらしいぞ」
「王族のプライベートアイランドに招待してくれると聞いたけど?」
「貴族向けに半ば開放している島じゃ。一般人が来ることは滅多にないぞ」
ローザ様の話では、寂れた雰囲気を演出している島らしい。
ヤシの木にハンモックを吊ってのんびりと昼寝ができそうだ。あまり人が来ないということを聞いてアレクが嬉しそうな表情をしているのは、釣りが楽しみなんだろうな。
「お小遣いが1人銀貨20枚というのも、すごい待遇よね」
「招待するのじゃ。それぐらい出さねばならんだろう。普段着というのも問題があるしのう」
要するに、これで良いものを着てこい、ということらしい。
だけど、南の島で着るものと言ったら、水着ぐらいしか思い浮かばないんだよなぁ。
「南の島じゃ! 水着で十分じゃろう。その上にシャツを羽織れば十分じゃ」
「袖が付いたシャツであれば十分です。エリは必要ありませんし、靴はサンダルで問題ありません」
リンダがローザ様の補足をしてくれた。
要するに、アレクの別荘に行くような格好で十分ということなんだろう。
その支度に、銀貨20枚ねぇ……。貯金しといた方が良いんだろうか?
「王都のホテルに1泊して翌日に買い物をすれば良い。王都の陸港に到着した翌日の夕暮れに船を出すと聞いておるぞ」
あまりのんびりと買物をしてたら置いて行かれそうだな。
素早く店を巡りたいけど、フレイヤ達がそれを許してくれるかどうか、ちょっと心配になってきた。