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M-077 それぞれの思惑


 2日後、近づくガリナムをドックの外側にある作業台から眺める。

 周りを見ると、残念そうな表情をしている者もいれば、これからの買い物が楽しみでしょうがないという感じのネコ族のお姉さん達がいる。

 少なくともしばらくはリバイアサンに来ることは無い。この場で大きなランドマークとして役立って貰おう。


 接岸したガリナムに作業台が斜面を統べるように下りる。

 渡り板のような橋が延びて、その上を渡ってガリナムの甲板に乗ると、作業台がドックに向かって昇っていく。

 ドックに収容されると、開口部が閉じられた。リバイアサンの表面はどこにも開口部が無いから、内部に侵入することは不可能だし、戦艦のゼロ距離射撃を浴びても破壊口ができないだろう。


「さて、明日からは忙しいわよ」

「早く、報告書を見せて欲しいな」


「う~ん、軍の報告書を頂けないかしら。合体して最終報告書にするわ」

「導師の質疑も含めてくれるのであれば、お願いしたいところだ。10日は時間が欲しい」


 カテリナさんが頷いているから、しばらくは研究所に籠るんだろうな。

 何となく、ほっとした気分になるのは仕方がない。

 隠匿空間へと続く回廊が開かれたようで、ガリナムは曲がった回廊を奥へと進んでいった。


 ガリナムがヴィオラ騎士団の専用桟橋に停泊したところで、トランクを持ってヴィオラに向かう。

 祝杯は、今夜外で上げるようだ。

 それまでの数時間は自室で横になろう。マットが薄かったからなぁ……、体のあちこちが痛くなっている。


 熱いシャワーを浴びて、ベッドに入ると直ぐに睡魔が襲ってくる。

 このまま朝まで寝ていたい気分だな。


「ほら、ほら……、起きなさい!」


 体を揺すられた挙句、最後にはお腹を叩かれた感じだ。上手くみぞおちに入ったから、呻き声を上げながら目を開くと、フレイヤが腕を組んで俺を見下ろしていた。


「あれ、もう朝なのか?」

「寝ぼけてないで、さっさと起きる! フェダーン様主催で宴会があるみたい。もう30分も無いのよ」


 シーツを剥がされ、渋々体を起こすと、クローゼットから衣服を取り出してくれた。

 皮の上下はいらないみたいだな。綿の上下に軽い靴、これに装備ベルトをしておけばとりあえず問題ないとのフレイヤの判断らしい。

 堅苦しいのは嫌だから、フレイヤのコーディネートに任せておこう。


 2人で船室を出ると、甲板から桟橋に出る。桟橋の長辺に沿って2つのエレベーターが作られたから、かなり便利になった。

 地上から、桟橋の上までは3階建てほどの高さがあるからね。上り下りが大変だとネコ族のお姉さん達が不平を言ってたんだよなぁ。

 もっとも、お姉さん達は階段を駆け上るんだから、あれでは疲れるのは当たり前だろうけどね。


「あれ? 商業ギルドの区画でおこなうのか?」

「どうやら、商会の連中が発起人らしいわよ。フェダーン様の名前を借りてるんだろうけど、懐が痛まないならということで許可したんじゃないかしら」


 その辺りは色々と思惑があるんだろうけど、一介の俺達にとっては食べて飲めれば良い話だ。

 草原に大きなテントを張って、その下ですでに騒いでいる連中がいるようだ。たぶんアレク達もあの中に入っているに違いない。


「リオ! こっちだ!」

 

 アレクの大声に天との中をきょろきょろと眺めていると、フレイヤが両手を振っている人物を見付けたようだ。

 俺の肩を持ってグイッとその方向に向けてくれたんだが、急にやるから背中が痛かったんだよな。


「ベラスコだ。あそこだな!」


 フレイヤの腕を引いて、そのテーブルを目指す。かなり遠いけどよくもこれだけのテーブルを持ってたものだ。30卓以上あるんじゃないか? 


「遅かったな。とりあえず座ってくれ」

 

 アレクが指さした位置には椅子が2脚用意されていた。

 座りながらテーブルを眺めると、アレク達にベラスコとジェリル、寡黙なカリオンが揃っていた。さらに3つほど椅子が用意されているのはテーブルを訪ねてくる連中用ということになるんだろう。


 サンドラが渡してくれたカットグラスに並々と注がれたワインを受け取ると、アレクがグラスを掲げる。


「ヴィオラ騎士団旗艦リバイアサンに!」

「「リバイアサンに!」」


 抱えたグラスを左右のグラスとカチリと合わせて、先ずは一杯。

 中々良いワインじゃないか。少し甘口だからアレクには向かないかもしれないけどね。


「ここにいれば適当に料理が運ばれてくるらしい。空のグラスを掲げれば酒が用意される。俺達の騎士団もそうなれば良いんだがな」

「稼ぎ次第ってことでしょうね。商会がこれだけ大盤振る舞いをする裏もありそうですよ」

 

 俺の言葉に、アレクが小さく頷いた。

 やはり何らかの思惑があるってことなんだろう。その実現性が小さければ小さい程、宴会が豪華になるということになるのかな?


「軍が協賛しているってことは、狙いは私達騎士団ということなんでしょう? でも隠匿空間の利用は国王の裁可を得ているし、今更の話よ」

「リオが移動してきた方じゃないのか? リバイアサンは目立つからなぁ。商会なりに思惑があるってことに違いない。次の狩りを終えた頃にそれが分かるはずだ」


 先ずは餌を与えて……、ということなんだろうか?

 商会と騎士団の関係は深いはずだ。ヴィオラ騎士団だって、魔石を売り、資材を購入する商会とは長い付き合いに違いない。

 その付き合いに参加したいということかもしれないけど、それは俺達の預かり知らない世界だ。ドミニク達に任せておけば良いだろう。


 ネコ族のお姉さんが、大きな皿を運んでテーブルに乗せてくれた。片手に1皿ずつ持って来たんだけど、あの人混みの中を落とさないで持ってくるんだから、そっちの方に感心してしまう。


「どんどん運ぶにゃ。たくさん食べて欲しいにゃ」

 

 並べ終えると笑顔を向けて去って行ったけど、ヴィオラ騎士団の生活部のお姉さん達といい勝負だな。やはり種族の特徴なんだろうか、何時も前向きで明るい連中のようだ。


「さて、頂くわよ! リオ、しばらくは食べられないんだからたっぷり食べるのよ!」

「分かってるよ。とはいえ、このグラスを空にしてからだ」


 俺達の会話に、サンドラが噴き出しそうな表情を見せているし、困った奴だとアレクが見てるんだよなぁ。

 どんな風に見られても、所詮俺達は平民なんだから、自分の食欲には忠実に従おう。

 グイッとグラスを空にしたところで、フレイヤが取り分けてくれた皿の料理を頂くことにした。


「ここにいたのか。探してしまったぞ」


 聞き覚えのある声にテーブルの先を見ると、フェダーン様とローザ王女が座っている。ローザ王女の隣にいるのは護衛騎士のリンダだ。いつも元気な王女様に振り回されているから気の毒に思えてしまう。


「大きいのう。隠匿空間の良い飾りじゃな」

 

 ローザ王女の言葉に、フェダーン様がローザ王女を見て笑みを浮かべる。

 子供らしい表現だと思ったに違いない。


「ドミニクと調整を終えた。1か月後の休養は、プライベートの島にリオ達を招待する」

「俺達って……、具体的には?」


「我が世話になっておる騎士達と上級士官達ということじゃな。フレイヤも入っておるぞ」


 このテーブルにいる連中全て、ということらしい。それにドミニク達が入るんだろうけど、カテリナさんはどうなんだろう? 導師は微妙だな。


「南の島じゃ。アレクも思う存分釣りを楽しむが良い。カリオンは王都に向かうのじゃろうが、その代替えはするつもりじゃ」


 金銭的な補償ということなんだろう。カリオンが小さく頷いている。

 サンドラ達のところにフレイヤが足を運んで何やら相談を始めたようだ。きっと王都で買いものを……、なんて考えているに違いない。


「詳細はドミニクに伝える。とりあえずは知らせておくぞ。それよりもだ。商会が動き始めたようだな」

「リバイアサンの利権ということでしょうか?」

「あの大きさだ。概要は王宮から広く知らせておるからな。乗員が数千人というところに、彼等の思惑があるようだ」


 おもしろそうな顔を俺に向けて来るんだけど、俺にはさっぱりだな。


「大規模艦隊と同じように、資材の売買のチャンスがあるということか?」

「さらに、魔石の買い取りも出来ると考えたようだな。最終報告書の機密部分以外は広く知られることになる。私が思うに大規模艦隊ではなく、移動する工房都市として考えた方が良さそうに思える。そうなると、商会としても動き出さざるをえまい?」


 先を見る目をどれだけ持っているかが、商人として大成するポイントらしい。

 機を見て先を制す……、そんな言葉があったな。まさしく今がその時ということなんだろう。


「だが、将来を考える良い機会でもある。できれば1つの商会に拘ることが無いようにした方が良いだろう。それは王国を越えることもあり得る話でもある」


 他の王国、とは言っても同盟関係を結んだ王国なんだろうけど、そんな王国の商会も取引先とするってことかな?

 だけど、それを決めるのは俺ではなくてドミニクの方だと思うんだけどなぁ。


「リオはウエリントン王国の男爵じゃ。騎士団に属しているとは言え、閉鎖空間に領地を持ち、さらにリバイアサンを所有している。ドミニクよりもリオに話が行くぞ。上手くあしらうのじゃな」


 年甲斐もない話をしてくれたけど、本人は意味を分かってるんだろうか? 

 フェダーン様が「ちゃんと話せましたね!」という感じでローザ王女に視線を向けている。

 やらせかな? 何度も練習させたんだろうか。


「あら、もう来てたの?」


 俺の隣に無理やり座ったのはカテリナさんだ。

 他にも椅子はあるんだけどねぇ。俺の膝に腰を掛けようとしてるから、フレイヤが睨んでるんだよなぁ。


「これからの注意点を話しておいた。人手不足の解決法ではあるが、どんな連中が紛れ込まないとも限らない」

「あれを見ればねぇ……。でも、窓口は必要かもしれないわよ。それで手を打ってくれれば良いんだけど」


「1つでは妬まれるぞ。複数とすべきだろうし、他国も参入したかろう」

「ヒルダに任せた方が良いかもしれないわね」


 カテリナさんの言葉にフェダーン様が大きく頷いた。

 ヒルダ様はフェダーン様と同じウエリントンの王妃なんだけど、政治の方向に特化しているようだ。

 駆け引きなら十分に任せられるだろうけど、中規模騎士団の運営方法に手を貸すことを問題とは言わないんだろうか?


「さて、私はこの辺りで失礼する。ローザ達はたくさん食べて次の狩りに備えるのだぞ」

「魔獣をかなり狩っておるぞ。リンダでさえ王国軍の騎士の中ではトップではないか?」


 ローザ王女に話を振られたリンダが小さく頷きながら照れ隠しにグラスのワインを飲んでいる。

 そんな様子をジッとフェダーン様が見ているのは、後で何かあるってことかな?

 上手く行けば、リンダの階級が少し上がるのかもしれない。だから嬉しそうにも見えるのかな。


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