M-076 複製できるものとできないもの
フェダーン様から1個中隊の就職をお願いされてしまったが、その給与は毎月銀貨5枚程度で良いらしい。年間で銀貨1万枚を超えるが、魔石であれば色付きの中位魔石が200個程度で賄える。
クリス達と魔石を狩った時には3日程度で200個を超えたから、狩りの帰りにクリス達と魔石狩りを行うことで何とかなりそうだ。
3者で等分に分ければ、ドミニク達も満足してくれるんじゃないかな。
夕食後に、隣接した会議室にチームごとに分かれた後で、カテリナさんとワインを傾けながら、フェダーン様の申し出について話して見る。
話を始めると直ぐに笑みを浮かべたから、提案した張本人はカテリナさんかもしれないな。
「私は賛成よ。とはいえ受ける以上、人選はフェダーンに任せるべきね。問題行動を起こすような人物がいないとも限らないわよ。
それと、私からも提案があるの。トラ族の若者も使えるんじゃなくて。ネコ族の民政部門への進出は著しんだけど、トラ族はそれほどでもないのよ。力仕事や兵士には向いているんだけど」
「そう言われても、トラ族との接点を俺は持っていませんよ。カテリナさんに知り合いがいたらお願いしたいところです」
「そう言うと思って、手を回しているわ。ついでベルッドにも頼んであるわよ。もちろんクロネルにもね」
すでにドミニクが頼んでいたみたいだな。
ドックにはベルッド爺さんのようなドワーフ族も必要だろうし、大勢の乗組員に対する食事を作るのも大変な作業だ。
「たぶん、小隊規模にはなるんじゃないかしら? 後は……、次の休暇で探すことになりそうね」
「しばらくは狩りが続きそうですけど?」
「今の内に稼いでおかないとね」
隠匿空間の拠点作りもあるし、リバイアサンの調度類は全て新たにする必要があるからなぁ。年間、500個を目標とするか。
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調査日程が半分も過ぎると、各チームの調査区域が変わってきた。
ガネーシャ達は戦闘艦の解凍を終えたようで、現在は飛行機の解凍を始めたようだ。
軍の連中が今度はドックを調査しているが、戦闘艦内の調査はしていないようだ。桟橋や、付帯設備の機能を確認しているように見える。
夕方に戻って来ると、俺達に色々と質問が入るんだが、その都度アリスが答えを用意してくれるから助かっている。
「それにしても、巡洋艦クラスを停泊していたとは……。巡洋艦と飛行機の関係を、リバイアサンと巡洋艦で行っていたと考えるべきであろう」
「最大4隻というのが凄いですね。やはりリバイアサンを旗艦とした艦隊の運用を考えていたのでしょうか?」
『それでは、陸上艦隊とリバイアサンの速度差が問題になるじゃろう。この場所までの移動速度は輸送船より遅いぐらいじゃった。巡洋艦に近い速度を出せねば艦隊運用はできんぞ』
「たぶん、ここまでの航行が自動操船だったからだと思います。手動操船であれば、速度は上げられるはずです」
『手動操船では毎時15ケム(23km)程度の速度が可能です』
そんな会話がワインのカップを傾けながら深夜まで続く。
彼等の持つノートの書き込みがだんだんと多くなり、現在は2冊目のようだ。
かなり詳細な報告書が出来るに違いない。
ノートと言えば、ネコ族のお姉さん達も負けないぐらいに書き込みをしている。すでに3冊目なんだけど、衣食住に必要な家財の種類がそれだけあるということなんだろう。
「飾りは考えてないにゃ。後でリオ様が考えるにゃ」
そんな恐ろしいことを昨日言ってたんだよなぁ。
明日は、調査の最終日という昼下がり。
導師をアリスに任せて、3人でテラスに向かいコーヒーを頂く。
このテラスはかなりの頻度で俺が利用しているから、今ではテラスを張り出したままにして扉で直ぐに出られるようにしてある。
一服を楽しみながら、マグカップで頂くコーヒーは格別だ。
砂糖たっぷりのコーヒーを飲む俺を、何時も笑みを浮かべて2人が見てるんだけど、コーヒーは甘いものだと思うんだけどなぁ……。
「かなり詳細な報告書が出来そうよ。とはいえ動力源は不明のままだけど」
「私にも理解しかねる原理を使っている以上、手は出さない方が無難でしょうね。
それよりも、戦闘艦の動力の方が利用価値がありそうね。飛行機も原理は今とほとんど変わらないわ。異なるのは、魔方陣の種類と数だから、案外複製を早く作れそうよ」
「飛行時間が2時間を超えるとなれば、かなり利用範囲が広がる。隠匿空間に1機運んで進めてくれぬか?」
「買ってくれるんでしょう?」
「陛下は言い値で買い取ると言っておられたぞ」
そこで2人が笑みを浮かべるんだから、怪しい相談に思えてしまう。
だけど、飛行機が大きくなったら既存の艦船では収容できなくなるんじゃないかな?
その辺りもちゃんと考えているんだろうか。
「飛行機は小隊規模で購入したい……」
「他国にも供与するの?」
「何らかの措置は必要であろうな。同盟を結んでいる以上、供与は考えねばなるまい」
現状の飛行機運用を拡大することは考えていないようだ。
偵察だけではもったいない気がするな。爆弾でも積めば違った運用もできるだろうし、30mmの銃を搭載すれば、危険な魔獣を追い払えるかもしれない。
一段落したところで、カテリナさんと相談した方が良さそうだ。
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アリスを使って、ヴィオラ周辺の魔獣の状況を1日おきに確認してドミニクに伝えていたのだが、俺達を迎えに来るのは狩りを終えたヴィオラ騎士団に随行したガリナムが来てくれるらしい。
その到着が、リバイアサンの調査期間の1日後になるということが分かった途端、調査隊が嬉しそうに笑みを浮かべている。
やはり、全てを調査できなかったようだな。とはいえ、伸びた1日で残りを消化できるとも思えないから、グループごとに集まって調査個所の相談を始めたようだ。
「普段なら遅れるのは嫌いだけど、今回は特別ね」
「技官達は嬉しそうだな。まあ、分からなくはないが……」
カテリナさん達も、疑問をアリスに伝えて生体電脳の答えを聞いているのだが、中々終わることがないようだ。
アリスの回答や、スクリーン表示された映像等を見る度に、新たな疑問が生じるようだ。
科学技術をどこかに忘れてきたような文化だからなぁ。疑似科学のような魔道科学の権威者ではあるが、理解できるとはとても思えない。
『ところで、空気よりも軽い気体を作れるかな? 容易に爆発する物ではなく、もう1つの方じゃが……』
思わず、導師に顔を向けてしまった。カテリナさんも視線を導師に向けている。
俺が言った話を確認しているのだろう。
『製造は可能との答えを得ました。ガス田のガスより抽出するそうです』
『出来るということか……。どのような設備になるんじゃろう?』
スクリーンに複雑な化学設備の絵が描かれた。化学プラントの概念図というところだろう。
『かなり複雑じゃな。作れるじゃろうが、何時になるかは見当もつかん』
『すでにリバイアサンに設置されています。小規模ですが、ガス田の真上にリバイアサンを停泊すれば日産100㎥以上を得ることが出来るでしょう』
『となるとリオ殿の考える乗り物はどのような形に?』
新たな画像がスクリーンに現れた。
直径20m、全長は80m近い。乗員が15名というのは最大積載量が2tというところから来てるのだろう。
自走車の動力でプロペラを4つ回すようだ。それによって得られる速度は時速150km前後……。ん!航続距離ではなく時間が表示されているな。24時間以上となっているから王都までの往復も可能だ。
だが、やはり積載量が少ないなぁ……。
アリスが、要目を告げるのをカテリナさんがメモしている。積載量を知ってし少しがっかりしているようだ。
「不思議なガスをかなり使うということか。生産は同一個所に最低でも3カ月は停泊することになるのだな」
「だけど、王都と隠匿空間をこの船は結べるのよ。しかも空を飛ぶ魔獣よりも速ければ、襲われる可能性はほとんど無いわ」
「大型の魔法の袋を使えば、生鮮物の移送も可能じゃな。作るべきじゃとワシは思うぞ。カテリナはリバイアサンで暮らすのじゃろう? あの研究所に王都の学院生を呼び、これを作ってみるつもりじゃ」
フェダーン様とカテリナさんが顔を見合わせて頷いているから、これは導師に任せるということなんだろう。
まだ軍事利用が可能だということに気が付いていないようだな。精々偵察に仕えそうだ、ぐらいに考えているのかもしれないけどね。
「ところで、発見できた砲弾は使えるのか?」
「無理でしょうね。1つを分解したんだけど……、薬莢の装薬や砲弾の炸薬は未知の物質。火薬なんでしょうけど私達の使う火薬ではないわ。組成比率を調べたんだけど炭も硫黄も使っていないの。窒素化合物のようだけど、肥料ではなさそうね」
成分が分解してたってことかな? 安定化していたわけではなさそうだ。
「それに、信管部分に魔石が無かったわ。全く異なる技術ということね。構造から、間違いなく榴弾なんでしょうけど……」
「アリス。やはり無煙火薬ということかな?」
『反跳中性子分析による成分分析と成分の比率から、「ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン」と推測します。これを用いたなら、射程20kmを越えられるでしょう』
「その何とか言う火薬はリバイアサンで作れるの?」
『可能です。数個作れば、複製魔法が使えますね?』
「面倒だからあまり使わないんだけど、この場合は仕方が無いわね。ガネーシャ達も使えるから、1日10本は行けるんじゃないかしら?」
単純なものなら複製できる魔法は、重量制限と構造で数が制限されるらしい。
それに食料は無理だと教えてくれた。
食料が複製できるなら、農業は必要ないからね。分かったような分からないような魔法だな。
「かなり古くから使われている魔法だ。その延長上に、治癒魔法である【サフロ】がある」
治癒魔法もある意味欠損部分の複製に当たるってことなんだろう。
とは言え、問題は信管だな。
「この砲弾の信管部分を取り去って、既存の信管を取り付けてみるしかなさそうです。試射して爆発するなら使えますし、爆発しない時には既存の火薬を炸薬にすれば良いんじゃないですか?」
「それしかなさそうね。せっかく高性能砲弾が手に入ると思っていたのに……」
残念そうな表情でカテリナさんが呟いているけど、俺は爆発すると思うんだけどなぁ。結果が楽しみという表情で、フェダーン様が俺達を見ているのが気になるところだ。