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M-074 調査隊の出発


 3日後に、導師を隊長とした調査隊がカテリナさんの研究室の会議室で顔を合わせることになった。

 出発前の会議ということで、軍が用意してくれた駆逐艦でリバイアサンへと向かうことになる。隠匿空間から3kmほど離れた場所に鎮座しているとはいえ、歩いて移動するわけにはいかない。

 ここは砂の海の北部であり、北の山岳地帯の一歩手前でもあるのだ。

 魔獣が跳梁跋扈する危険地帯そのものだからね。


「フェダーンまで参加するとは思わなかったわ」

「あの山が動くということは見なければ信じられなかった。そうなると、その操縦が気になるところだ。軍からは魔道機関の技術仕官を同行させる。ヴィオラ騎士団は?」


「私にリオ君とガネーシャ達。アリスはリオ君の副官ということで良いわね」

「その他に、ネコ族の娘を3人同行させます。参加者の名前を聞いただけで誰も食事を作れないでしょうから」

「それなら、リオ君のプライベート空間に必要な調度も調査できそうね」


 ドミニクの溜息混じりの呟きに、カテリナさんが賛成してる。フェダーン様も頷いているところを見ると、やはり食事を作るのはできないということに違いない。


『私は、制御室でアリスと会話を楽しむつもりじゃ。リオ殿もそれぐらいは許してくれるじゃろう?』


「アリス次第です」と答えたら、すかさず『了解です』とアリスの言葉が頭に聞こえてきた。思念という訳ではないのだろうが、老師が頷いているのを見ると、老師にもアリスの言葉が聞こえたに違いない。


「問題が1つ。この隠匿空間の開閉できなくなってしまいます」

『監視所にいるヴィオラ騎士団の娘さんに、呪文を教えてあるぞ。皆がこの隠匿空間に入った時にも、その娘さんが呪文を唱えて開けている。長い呪文で言葉の意味さえ分からぬが金属片に書いて渡してあるからだいじょうぶじゃろう』


 あの言葉を現在の言葉で発音するのか? 『扉を開け』という意味なんだが、何やら意味不明の発音の並びになってるんじゃないかな?

 理解不可能な『呪文』ということで皆に納得させたということか。


「あの開閉が可能だと!」

『まあ、盗まれても相手が人間であるなら何とでもなるじゃろう。それに、その時には呪文を変えるのは簡単じゃ』


 合言葉を変えるというとなんだろう。アリスなら簡単にできそうだし、そんなことを他者に託す老師にもできるということに違いない。


「なら、隠匿空間の出入りに支障はありませんね。かなり施設が出来てきたようですから、来年には開業したいと商人達が話していました」

「騎士団の利用については、商会の作った桟橋になるのでしょう? 最大でも4艦よ」


「桟橋を利用しなければ、その倍は停泊できるだろう。軍の専用桟橋とヴィオラ騎士団専用桟橋は利用できないことを最初から明確にすべきだろうな。

 ヒルダがこれを作った。問題が無ければ今年の秋に王宮から触れを出すそうだ」


 フェダーン様がバッグから封書を1つ取り出すと、ドミニクに手渡した。

 利用細目が書かれているのだろう。

 基本は場所を貸すだけだから、それほど手間にはならないと思うんだけどね。でも、この隠匿空間の利用料は気になるところだ。


「さて、話は以上で良いだろう。外に駆逐艦を待たせてある。乗艦してくれ」


 フェダーン様の言葉に頷いた俺達は席を立って荷物の入ったバッグやトランクを持ちながら会議室を出る。


「調査期間は10日間を予定しているわ。11日後に帰って来るから、その後は何時もの狩りができるわよ」


 心配そうな表情のドミニクにカテリナさんが説明しているけど、その後だってあるんじゃないかな?

 とりあえずしばらくは平穏ということになるんだろう。


 軍と言えども、勝手にヴィオラ騎士団の区画には艦船を入れることができないようだ。隠匿空間の共有区画となる一般用桟橋までの真っ直ぐな通りに駆逐艦が停泊し、舷側を開いている。

 1個分隊ほどの獣機を搭載できるだけのカーゴ区画を持っているから、そこに俺達は乗艦するみたいだ。

 自走車に荷物を積み込むと、トラ族の男が自走車を駆逐艦に向かって走らせる。

 10台ほど用意されているようだから、歩いて移動する者はいないみたいだな。


 全員がカーゴ区域に乗り込んだところで舷側の扉が閉まる。

 椅子やテーブルも無い、船倉のような空間だが、天井照明が明るく俺達を照らしてくれるから閉塞感はそれほどでもないな。

 トランクを椅子代わりにして座り込むと、カテリナさん達が俺の周りに集まってきた。


「30分も掛からないはずよ。飛行機を用意していなけど、どうやって乗り込むの?」

「ドックからラダーを下せるようです。リバイアサンの東側面に駆逐艦を横付けして頂ければ、アリスに遠隔でラダーを操作してもらいます」


 カテリナさんの疑問が皆の疑問なんだろう。ほっとしたような表情をしていたが、やがてフェダーン様が問題点に気が付いたようだ。


「ラダーを上るのか? 荷物を持って上るのはかなり危険に思えるが?」

「荷台のような代物を上下させる仕掛けがあるようです。適当な言葉が無かったのでラダーと言いましたが」

「ハシゴではなく、人員用の移動式小型桟橋ということか。それなら問題なかろう」


 実際には貨物も運べるから人荷用移動式小型桟橋ということになるのだが、さすがにその名前は長いだろう。このままラダーということにしよう。


 フェダーン様が後ろを振り向いて副官に小さく頷くと、副官が立ち上がって俺達から離れていく。

 駆逐艦の艦長のところに向かったに違いない。

 出発はしたけれど、リバイアサンのどこに近付くか艦長も知らされてなかったんだろうな。


「ドックから、会議室に向かうわ。何に使う部屋か分からないんだけど、変わった構造なのよねぇ」

『それでも会議室というのがおもしろいところじゃな』


 カテリナさんの話に、おもしろそうな思念を導師が送っている。戦機達のデッキとも言うべき駐機場に隣接した区画で見つけた部屋の事だろう。

 あれは、ブリーフィング室だと思うんだけどねぇ。階段式の座席はクッションが朽ちて無くなっていた。

 一番前に、200インチはあろうかという大型の画像装置らしきものがあったから、それで作戦を戦機や飛行機のパイロットに説明していたに違いない。

 駐機場なら、待機室もあるし離着陸台を展開すれば、火も焚けるから都合が良いだろう。軍の飛行機も隠匿空間からなら容易にやって来れそうだ。


 艦の振動がゆっくりとしたものになり、やがて停止した。

 どうやら到着したらしい。カーゴ区域に待機していた連中が一斉に立ち上がったけど、直ぐに出掛けられるわけではないんだよな。


「私達の荷物は艦の若者が運んでくれる。先ずはラダーを下ろしてくれ。一度にどれほど乗れるか分からんぞ」

「そうですね。アリスに頼んでみます」


『ラダー展開シーケンスの作動確認。ドッグの壁の一部が開きます』


 直ぐにアリスから返事が返ってきた。いつも俺を通して状況を見てくれているようだ。

 すでにヴィオラのカーゴ区域から、リバイアサンの駐機場に移動を終えたのだろう。


「どうやら順調に作動しているようです。甲板で確認したいのですが?」

「それなら、一緒に行きましょう。連絡は……」

「私と副官も同行しよう。調査隊への連絡は副官に任せられる」


 フェダーン様が先頭になり、その後を俺とカテリナさんが続く。殿はフェダーン様の副官だけど、アレクより少し年上に見える。フェダーン様の我儘に耐えられる人物ということだから、軍人には珍しくおとなしい人のようだ。


 カーゴ区域から甲板までは3階へ階段を上るような感じだ。金属製のタラップを軽快な足取りで前を行く女性2人を見ながら、良く疲れないものだと感心してしまう。

 数分も掛からずに甲板に出ると、左舷にリバイアサンがそびえ立っていた。


「近くで見ても大きいわね。これだけの構築物は他の王国を探してもないはずよ」

「しかも表面は金属製だ。リバイアサンを作るためにどれだけの工房が動員されたのか見当もつかぬ」


 確かに大きい。威容と言うより畏怖すら感じられる。

 こんな代物が戦場に投入されたんだから、帝国が滅びるのは必然だったんだろうな。


「あれがラダーかしら?」

「人荷用のエレベーターを想像していたけど、どちらかと言うとドッグの作業台にようね」


 駆逐艦の甲板より30m程の高さの場所から、横幅10m程もある足場がゆっくりと下りてくる。

 奥行きは5m程はあるんじゃないかな? 車輪が付いているらしく、金属製のリバイアサンの表面を統べるような形で下りてくる。


『アリス。耐荷重はどれぐらいありそうだ?』

『仕様では、10tとなっています。全員が一度に乗っても問題はないと推測します』


 10tだからねぇ。調査隊の総員は、軍が5人にカテリナさん達4人、それにネコ族のお姉さん達が3人に俺と導師の14人だ。荷物込みで100kgとしても2tにも届かない。


「かなり重量物を乗せられそうですよ。獣機のような機体を上げ下ろししていたのかもしれませんね」

「全員を乗せても余裕があるということだな」


 俺の話に、フェダーン様が決断したようだ。副官に軽く頷くと副官が甲板から艦内に駆けて行った。

 しばらくすると、調査隊の連中が続々と甲板に現れる。兵士がバッグやトランクを運んでくれたから、甲板はかなり窮屈になってきた。


 下りてきた作業台のようなものから、横幅3m程の足場が延びて甲板に届いている。素早く兵士が作業台に乗り移り、作業台の周囲の周囲の金属製の柵と、甲板の周囲の柵の間にロープを張る。

 足場がそれなりに広いから落ちることはないだろうけど、安全帯のような形にロープと結んでおけば、安心できるということだろう。


 先ずは俺と導師が先行して乗り込むと、簡単に作業台を確認する。

 特に問題は無さそうだから、調査隊の連中を次々と作業台に乗せることにした。全員が乗り込むと、兵士がバッグをリレー式に運び込んでくれる。

 最後にロープをほどき兵士が駆逐艦に戻ると、駆逐艦と作業台を結んだ渡り板が作業台に引き込まれた。


『アリス、全員乗り込んだ。ドッグに移動してくれ』

『了解しました。振動はありますが、あまり柵から身を乗り出さないようにしてください』


 調査隊の連中を見渡して問題が無いことを確認すると、アリスに連絡することなくゆっくりと作業台が上昇していく。


「このボックスでも制御できそうね。今は操作できないようだけど」

「その辺りもゆっくりと調査すべきでしょうね。まだまだ知らない機構がたくさんありそうです」


 このラダーシステムも独立連動システムの一環なんだろう。単独でも、遠隔でも可能なようだ。

 色々な設備がありそうだ。それが現場単独で動くのか、それとも上位から制御できるのかも調べる必要があるんじゃないかな。


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