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M-071 調査の二陣がやってきた


 ドックに出掛けて、壁にむき出しの骨材を1本1本丁寧に調べると、直ぐに魔方陣を見付けることができた。

 だけど、これは魔方陣なんだろうか?

 俺には数式のようにも見えるんだが……。


「これが初期の魔方陣ということね。三重円で描かれているから、今の魔方陣から比べれば単純だけど、構文を探るには丁度良いわ」

 

 文字数は内側が3で次が5、外側が7になっている……。文字数には何らかの意味があるんだろうか?


『素数ではないでしょうか? ヴィオラのカーゴ区域の壁に描かれた魔方陣は四重円でした。文字数は3、5、7、11です』

「さすがね。その通りよ。でも、こっちの魔方陣の文字数は少し変よねぇ……」


 カテリナさんがじっと見つめる先に描かれた魔法陣の文字数は、2、8、18、その上は30を越えてるように見える。

 描き方は魔方陣そのものだが、その違いが分からないな。


『軌道電子数のようですね……』

「アリスにはこの数の意味が分かるの?」


 カテリナさんの顔には、良いことを聞いたという感じの笑みが浮かんでいる。

 魔方陣を見付けては、白衣のポケットから虫メガネのようなものを取り出して、呪文を呟いている。

 使い方がカメラを使うような感じに見えるから、映像を記録しているということになるのだろうか?

 魔方陣の描かれていた場所とその効能について、ゆっくりと導師と考えるつもりなのだろう。


 ドックでいくつかの魔方陣を探しあてることができたから、カテリナさんの機嫌がいい。

ハミングしながら、あちこちの魔方陣を見て回っている。


 ほとんど1日をドックで過ごしたようなものだ。

 夕暮れが始まる前に、ジャグジーの壁を開放してデッキを作り夕食を調理する。

 携帯コンロに炭を入れて小さな鍋に水筒の水を入れる。

 沸騰したら、乾燥野菜と干し肉をナイフで削って入れて15分ほど煮込めばスープになる。干し肉の塩と香辛料で味は付くんだが、少し薄めだからカテリナさんが味見をしながら塩を追加していた。


 取っ手の付いた深皿はシェラカップに似ている。その皿を2つ取り出してスープを分け、硬めのクラッカーのようなパンが2枚というのが、俺達の夕食になる。

 クラッカーを半分に割ってスープに入れる。

 こうしないと歯を折る兵士もいるらしい。ちょっと物騒なクラッカーなんだよな。


「ワインもあるわよ。それと干杏子もあるからね」

「明日も調査ですよね。これは慣れるしかありませんね」


 俺の返事を聞いて笑みを浮かべている。

 その理由を食事をしながら話してくれた。

 どうやら、騎士団創業時の食事は、これが主流だったらしい。

 航海中に食べるような食事は、それこそ1航海で数回出せたら皆が喜ぶほどだったということだ。


「空間拡張の魔方陣が改良されて、民生部門に解放されたの。試行錯誤の繰り返しだったらしいけど、20スタム(30m)四方の空間を5割増しにできた時の喜びようったら……」


 空間魔法の利用は比較的最近ということなんだな。

 それもかなり限定された物らしい。


「私達の使っている魔方陣のほとんどが書籍や金属板に掘られた構文を発展させたものなのよ。今ここに、実際に使われている魔方陣があるんですもの。今後の発展に期待してしまうわ」


 そんなものなのかな?

 とりあえず、飢えないように夕食を食べてしまおう。

 すでに夕日が落ちて、西の一角が少し白く見えるだけだ。

 星空が俺達を取り巻いている。明日はヴィオラとすれ違うイベントがあるんだが、誰かがやってこないとも限らない。

 カーゴ区域の離着陸台を、開いておいた方が良いのかもしれないな。


 よく朝は、カテリナさんに起こされてしまった。

 すでに朝食は出来ているとのことだから、ジャグジーのお湯で顔を洗っての朝食だ。

 朝は、だいぶ冷えるようになってきたのは、それだけ北に移動しているからなんだろう。

 ホットコーヒー付きの食事を簡単に済ませたところで、タバコの火を点けた。ここなら安心して楽しめる。

 リバイアサンの内部は、火気厳禁をカテリナさんが宣言してるし、アリスも肯定している。まだまだ空調システムの全容が解明できていないのかもしれない。


「まだヴィオラは見えないようですね?」

『最接近時刻は午後2時になります。2時間前には視認できるでしょう』

「なら、今日は駐機区域周辺を調査しましょうか。31階にあるんでしょう?」


 カテリナさんの問いに軽く頷いた。

 時計を見ると、まだ8時過ぎだからね。数時間は調査ができそうだ。その前に、もう1杯コーヒーを頂き、タバコを楽しんでおこう。

                 ・

                 ・

                 ・

 エレベーターが動いてくれたのは嬉しい限りだ。おかげで階段を歩かずに済むんだが、乗り換えが面倒ではあるんだよなぁ。

 直通のエレベーターを作らなかった理由があるんだろうが、当時の兵士達に不満は無かったんだろうか?


 カーゴ区域周辺部とカーゴ区域の上下階の調査を行っていたら、アリスがヴィオラの接近を知らせてくれた。

 カーゴ区域から続く離着陸台を開き、カテリナさんと一緒に双眼鏡でヴィオラを探す。

 アリスの話では20kmほど離れた場所をこちらに向かって進んでいるらしいのだが……。


「見えたわよ。小さな点にしか見えないけど、3つあるからヴィオラで間違いなさそうね」

「小さいですねぇ。向こうからは見えてるんでしょうか?」

「見えてるはずよ。信号を送ってみるわ」


 白衣から小さな箱を取り出した。

 1辺が20cm四方の立方体の箱だ。丸い筒を取り出してその箱に取り付けている。

 筒の片側にレバーが付いているし、筒には数枚のレンズが取り付けられていた。


【シャイン】と魔法を呟くと、ヴィオラに筒先を向けてかちゃかちゃとレバーを動かしている。

 光を使ったモールス信号ということなんだろう。

 何度か送信を繰り返していると、少し大きくなった船影から光が瞬き始めた。


「どうやら、人を送ってくるみたいね」

「円盤機を搭載したようですから、可能でしょうけど何人やって来るんでしょう? それとお弁当を送って欲しいですね」

「頼んでみるわ」


 カテリナさんも、携帯食に飽きてきたみたいだな。直ぐに送信を始めた。

 ヴィオラの信号を読み取って笑みを浮かべているから、俺達の要求は叶えてくれるらしい。


 1時間程過ぎると、3隻の陸上艦の形まで明確に分かるようになってきた。

 カテリナさんとヴィオラ間で光通信がいつまでも続いている。

 内容は、こちらにやって来る人選についてのようだ。こちらの調査に加えるのだろうか?


「ガネーシャが来てくれるみたいね。2人程研究員も連れてくるみたいだから、飛行機が何度か往復することになるわ」

「てっきり、ベルッド爺さん達が来るのかと思ってました。それよりガネーシャさんとは?」

「私の弟子よ。ちゃんとリオ君については釘をさしてあるから心配はいらないわ」


 魔導士ということだな。

 アレクが注意してくれるのも分かる気がしてきた。

 溜息を吐いている俺に、カテリナさんがコーヒーを渡してくれた。

 甘いコーヒーだけが俺の心を癒してくれる感じがする。


 30分も経つと、リバイアサンと3隻の陸上艦が、1kmほど離れて併進する形になってきた。

 旧ヴィオラの後部から飛行機が飛び立って、こちらに向かってくる。

 飛行時間が30分程度らしいから、リバイアサンの離着陸台に人と荷物を下した途端に飛び立っていく。

 往復3回の飛行で、3人の客とトランク3つ分の荷物が届けられた。

 やがて3隻の陸上艦がリバイアサンを追い越していく。

 ここからなら、4日も掛からないんじゃないかな? リバイアサンの到着はそれより1日は遅れるに違いない。


 トランクをガラガラと押して、3人の男女が俺達に近付いてきた。

 俺より年上に見える容姿だが、魔法で肉体年齢を固定できる世界だから、実年齢はさっぱり分からない。


「どう? 凄いでしょう。こちらが、この機動要塞リバイアサンの持ち主、リオ君よ」


 カテリナさんの紹介に、とりあえず3人に頭を下げておく。


「初めまして、私がガネーシャです。隣はガルムにナリゼール。私の弟子になります」

「学院の奥で燻ってるよりも、こっちの方が楽しいわよ。昨日は古代の魔方陣を見付けたわよ。目録を作って導師の見解が得られると思うと、毎日が充実している感じだわ」


 うんうんと、3人が頷きながらカテリナさんの話を聞いている。

 明日から、あちこちに出掛けるんだろうけど、迷子にならないか心配になってしまう。


「39階に士官室があるから、適当に場所を決めなさい。食事は、厨房が使えるかどうか分からないし、私達には料理なんて出来ないから、ここで携帯食を食べることにするわ」

「了解しました。とりあえず、今夜と明日の朝食は運んできました」


 ちゃんと持って来てくれたみたいだ。

 しかし、皆が興味を持つとなれば、隠匿空間の南西に移動した後にどれだけやって来るか分からないな。

 俺の所有物ということになってるんだから、その辺りを調整しておく必要があるんじゃないか?


「ガネーシャ、このリバイアサンは帝国で作られている以上、私達にその原理を知るすべは余り無いの。

 扉は取っ手のあるべき位置に金属板があるから、それに手をかざせば開くわ。自由に移動して調査は可能だけど、44階の制御区画から上階は入室禁止とします。

 現在リバイアサンは自動航行しているわ。制御室でちょっとした手違いがあればリバイアサンが暴走しかねない。5階より下には未知の動力源があるみたい。私達が手を出したら、破損しかねない代物よ」


「了解しました。それで飛行機の解凍は行ってもよろしいでしょうか? 工房の責任者を呼ぶとしても、事前の解凍までは可能に思えます」

「そうねぇ……。それなら、戦機2機とドックの戦闘艦もお願いできるかしら?」

「戦闘艦があるんですか!」


 かなり驚いているな。確かに俺達も見た時には驚いた。

 あれが動けば、ヴィオラ騎士団の魔石狩りの安全性がかなり増すんじゃないかな。


 カーゴ区域の隣にある待機所のテーブルを使って、カテリナさんが現在までに分かったことをガネーシャ達にレクチャーを始めた。

 だけど椅子が無いんだよね。テーブルに腰を掛けての会議は見ていて吹き出しそうになってしまった。

 早めに椅子を揃えた方が良いのかもしれないな。

 どんな椅子が使われていたかをある程度しらべておくのは、俺の仕事に丁度良さそうだ。


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