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M-070 降嫁の理由


 ジャグジー近くの金属板にカテリナさんが手をかざすと、ジャグジーにお湯が流れ込んできた。

 このお湯は5千年前のものなのだろうか?

 悩んでいる俺に、アリスが湖の水を使った物だと教えてくれた。

 前回、主動力炉を起動してから、リバイアサ内部の換気と水回りの入れ替えは何度か行われているらしい。


「それなら、一緒に入りましょう。風の海でお風呂に入れるとは思わなかったわ」

「【クリーネ】で済ませたいところですけど……」

「何言ってるの。操船はアリスがやってくれてるんだから、のんびりしましょう。出たら、デッキで夕食を作ってあげるわよ」


 フレイヤも一緒に連れてきた方が良かったんじゃないかな。

 ウキウキしながら衣服を脱ぐと、カテリナさんがジャグジーに入っていく。

 見てるわけにもいかないから、衣服を脱いで俺も入ることにした。ジャグジーの縁に肘を乗せて、外の景色を眺める。

 まだ夕暮れには早いけど、眺めは素晴らしいな。

 すでに星の海から50km以上離れているだろう。周囲はどこまでも続く荒れ地が広がっている。

 起伏が少ないのは風による浸食のせいなんだろうか?

 

 いきなりカテリナさんが俺の横に顔を出した。

 片手に持っているのはワインのボトルじゃないか?

 

「ここでワインを飲むのも良い感じね。何本か持って来たから、毎晩楽しめそうよ」

 

 そんなことを言いながら、カップ入ったワインを渡してくれた。

 互いのカップをカチンと合わせて一口飲む。

 二人で寄り添いながら、しばらくは荒地の光景を楽しむ。

                 ・

                 ・

                 ・

 やっと俺から体を離して、カテリナさんがタオルを体に巻く。

 魔法の袋から布包を取り出して、デッキに行くと小さなコンロを使ってお湯を沸かし始めた。

 デッキで夕食を取るのかな?

 傾き始めた太陽は地平線のすぐ上にある。

 お湯が沸くころには夕焼けが始まるに違いない。

 バッグからタオルを取り出して、俺もデッキに向かう。

 鏡のような金属の床なんだが、濡れた足でも滑らないんだよなぁ。バッグから持ち出したタバコをに火を点けると、カテリナさんに取られてしまった。

 もう1本取り出して火を点けると、携帯灰皿として使っている金属の箱を取り出した。


「もう直ぐコーヒーができるわよ」

「食事を作るんじゃないんですか?」

「お弁当を4つ持って来たの。明日の朝まではだいじょうぶよ」


 カテリナさんが食事を作れるとは思ってなかったからなぁ。こういうことだったんだ。

 ポットにコーヒーの粉を入れて待つこと数分。カップに注がれたコーヒーは良い香りがしている。

 砂糖をスプーンで2杯入れてかき混ぜていると、カテリナさんが大きな包みを持って来た。

 お弁当ということだが、少し量が多くないか?


「若いんだから2人分は食べられるでしょう?」

「お腹は減ってたんですが……」


 たっぷりと食べておこう。夜は長そうだ。

 夕暮れを見ながらの食事だったが、直ぐに周囲が真っ暗になる。

 満点の星空の下、大きなハムサンドを齧りながらコーヒーを飲む。

 半分ほどコーヒーを飲んだら、ポットからコーヒーを注いでくれた。少し苦くなってしまったけど、サンドイッチを食べながらだから、このままでも飲めそうだ。


「今まで見てきたところには、どこにも魔方陣が無かったわ。巧妙に隠しているのかと思っているんだけど、どうも違うみたい」

「通常区画の制御には必要なかったと考えるべきでしょう。戦機、飛行機にはあるんじゃないかと思いますよ。それに戦闘艦にもね」


 ただ興味本位で周囲を見ていたわけではないんだな。この世界の魔導師とは、科学者の親戚のような存在なんだろう。

 鋭い観察眼でも、その存在が分からないとなれば、リバイアサンのどこに使っているのか俺も興味があるな。


「表面だけでなく、裏を見てみますか?」

「そうねぇ……。となると、むき出しの装置がありそうなのは、ドックということかしら?」


「あれだけの大きさですからねぇ。それに床強度を上げないと戦闘艦は搭載できないと思いますよ」

「中々良い切り口ね。それなら明日はドックに向かいましょう」

 

 食事が終わると、【クリーネ】で包み紙まで消してしまった。

 魔法を使う人物が汚れと認識したものを消しさるとは聞いていたけど、どこまで拡大できるのか興味が出てきた。


「さて、冷えてきたわね」

 再びジャグジーに入ることになってしまった。


 翌日。目を開けると目の前に緑の山並みが迫っていた。

 思わず飛び起きたんだが、だんだんと自分のいる状況に気が付いた。

 大きなリビングの一角を【クリーネ】で簡単に掃除をして、毛布を敷いてカテリナさんと寝ていたんだよな。

 俺が飛び起きたから、毛布がはだけたカテリナさんの姿態が嫌でも目に入る。

 目の毒だから、そっと毛布を掛けてあげたんだけど壁一面の映像というのは、かなりの迫力だ。

 まるで山並の中の断崖で、夜を明かしたような錯覚を起こしてしまう。


 見事な風景を眺めながら、衣服を整えると大理石のようなテーブルに腰を下ろして一服を楽しむ。

 

「アリス。今どの辺りなんだ?」

『出発点から北北東に200kmほど進みました。ヴィオラ艦隊との速度差は6kmほどありますから、明日最接近するはずです。いつもの帰還コースと50kmほど距離が離れていますので、互いの視認はできないと思います』


「なら、北東に進路を変えてあげたら? 今日1日進めば、交差はしなくとも10km以下に接近するはずよ」


 いつの間にかカテリナさんが起きてきた。


『5kmほどになります。マスター、進路を変更しますか?』

「見せてあげても良さそうだ。進路変更に伴う予定帰還時刻の遅れはどれぐらいになるんだい?」

『3時間程度と推測します』


 なら、問題はないはずだ。アリスに進路の変更を依頼したところで、朝食を作りに再びジャグジーの先に向かう。


「今日はドックに向かうんでしょう?」

「むき出しの魔方陣ともなれば、壁や天井の骨材がむき出しの場所が一番ですからね。駐機区域には天井がありましたから参考にはならないでしょう」


「壁板の裏も怪しいのよねぇ……。それは、もっと多くの調査団を使えば分かるでしょうけど」

「あまり分解すると、元に戻らなくなりますよ」

「それぐらい心得てるわ。でも導師にも一言、言っておく必要があるかもしれないわね」


 お弁当の残りはこれで最後だから、今夜は携帯食を使うことになりそうだな。

 食後のコーヒーをゆっくりと味わいながら、あまり変化の見えない荒れ地に目を向けた。


「魔獣がいたの?」

「いや、そうじゃなくてあまり変化がないと思いまして……」


 俺の視線に気が付いたカテリナさんに問い掛けられたけど、高度があるからだろうな。あまり動いている気がしない。


「それだけ広大な荒れ地なの。これも魔道大戦の遺物なのかもしれないわ」


 カテリナさんの話では、かつての帝国は中緯度付近に居を構えていたらしい。四季のある穏やかな暮らしがあったと伝説の一部を話してくれた。

 

「それがこの大地に変わったのだから、とんでもない戦をしたものだわ。自らの文明を滅ぼすだけで足りずに自然界までも巻き込んだのよ」

「でも、一部の者は生き残った……。こうして再び文明を築けたんですから、同じ過ちは起こさないで欲しいですね」


「人間の好奇心には際限がないのも知ってるつもり。導師や私が、王族や軍の一部と接触があるのは、止めて欲しいからでもあるのよ」

「暴走しないように安全弁の役目を期待していると?」


 俺の問いに笑みを返してくれた。

 王国側としては、首に縄を付けておきたいというところなんだろう。フェダーン様の役目はカテリナさんと導師の監視の意味もあるということなんだろうな。


 待てよ……。そうなると、パラケラスの知識を全て手に入れたアリスはどうなるんだろう?


「気が付いた? リオ君が別荘で過ごしている間、私は王宮にいたの。ヒルダ達と何度も話し合い、最終的には国王陛下の裁可を頂いたんだけど……。リオ君に王女を降嫁させることで落ち着いたわ」


 思わず飲みかけていたコーヒーを吐き出すところだった。

 咳き込みながらも粋を整え、残ったコーヒーをゆっくりと飲み込む。


「すでにフレイヤがいますよ。ちょっと問題じゃないですか?」

「その辺りは、おおらかだからだいじょうぶよ。アレクだってお相手が2人いるでしょう? それにフレイヤの実家にもお母さんが2人いたはずよ」


 確かにいたし、驚いたんだよな。

 だけど、どこの生まれかも分からない俺に、王女を降嫁させる王族というのも問題だと思うんだけどねぇ。


「国王陛下の裁可だから、誰も反対できないはずよ。それに良いこともいくつかあるわ」


 持参金代わりにリバイアサンの調度を強請るというんだから、カテリナさんの神経はかなり太いに違いない。

 そのうえ、侍女まで連れて来るらしい。

 自分の世話をしていた侍女ということなんだろうか?

 王侯貴族の暮らしに文句を言いたくはないけど、自分のことは自分でするぐらいの教育は必要だと思うんだけどねぇ。


「通常なら乳母と身の回りの世話をする若い侍女数人なんでしょうけど……、今回は3人でやってくるわよ」

「とんでもない暴れん坊とか?」

「そうじゃないの……。降嫁する王女は、ローザの姉、エメラルダ王女、今年で18歳の才媛なんだけど……。光を失っているの」


 光を失う……、ひょっとして盲目ということなんだろうか?


「盲目ではあるけど、母親はヒルダだから美人よ。リオ君も気に入ると思うんだけど?」

「俺達は騎士団員ですよ。かなり危険な暮らしでもあります」


「その点は、問題ないわ。彼女の世話をする侍女達は皆優秀だから」

「答えになってないように思えるんですが、その話をドミニク達は知っているんですか?」


 カテリナさんの話では、何度か王宮に招いたらしい。

 渋々ながらも了承したらしいけど、フレイヤにはまだ話をしていなんだろうな?


「ドミニクに頼んであるわ。フレイヤはリオ君よりも分別はあるでしょうから、問題は無いと思うけど?」

「当人の意思が反映されないのは問題のように思えるんですが?」

 

 俺の少しばかりの皮肉をカテリナさんが笑いとばしている。


「それは庶民の感情ね。王侯貴族ともなれば、保身のための婚姻がほとんどよ。ヴィオラ騎士団はウエリントン王国に属する騎士団でもあるのだから、ある程度の制約は受けねばならないわ」


 何か誤魔化されている気がするんだよなぁ。

 ここは気を取り直して、魔方陣を探しに出掛けよう。

 このまま流されるのも問題だから、何かをしながら考えてみるのも悪くはないんじゃないかな?



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