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M-007 誘き寄せる


 アレク達に脅かされる日々が続いているが、陸上船はずっと北に進んでいる。

 すでに4日が経過した。周囲は見渡す限りの荒れ野原と言っても過言ではない。たまに遠くに茂みが見えるんだが、アレクによればあれは川に沿ったグリーンベルトの一部ということらしい。灌木もたまに見かけるけどそれほどの樹高にはならないようだ。


「この先も似たようなものだ。あの茂みの周囲には草食獣がいるはずなんだが、ここからでは見えないな」

「肉食獣や魔獣も近くにいるはずだが、日中は隠れているからな。奴らの狩は夜なんだ」


 ワインを飲みながら、狩の始まりの合図を待つことになる。

 俺が買い込んできたワインを飲み始めたんだけど、1日で3本のペースだから、今夜には無くなってしまうんじゃないかな。


 ギジェを出て5日目の朝。荒れ地の中の少し小高い場所を選んで陸上船が停船した。

 舷側の扉が外側に倒れるように開いて斜路を作る。4台の自走車が姿を現し、2台1組になって東西に離れていく。あまり速度が出ないから何とものんびりした偵察になりそうだ。

 パイプを組み合わせた屋根に獣機が持つ長銃が乗っている姿は、どう見てもバギー車だな。


「出掛けたな? 魔獣を見付けたら次は獣機の連中が下りるはずだ。俺達の出番はまだわからんな」

「イヌ族の人達はまじめだから偵察には一番よ。そうね……、前方に2時間程度の偵察を行うはずよ」


 とはいっても、あの速度だからねぇ。前方30km程度と考えれば良いのかな?

 陸上船の上でも動きがある。新たに数人の見張り員がマストを上って行ったし、舷側や船尾の楼閣の上にも何人かが望遠鏡を持って周囲を眺めている。


 船首の俺達にも監視の役目はあるんだろう。サンドラ達がワイングラス片手に双眼鏡を覗いているんだが、そんな監視で役に立つんだろうか?


「偵察や監視で見つけるのは、魔獣だけとは限らない。海賊の偵察車や獣の群れだっているからな。リオに伝えるのを忘れていたから、これを使え。俺のお古だが、騎士団に入った時に貰ったものだ」


 アレクが腰のバッグから小さな双眼鏡を取り出して渡してくれた。

 覗いてみると倍率は6倍ほどだ。遠くに見える茂みに双眼鏡を向けると、鹿のような姿をした獣が草を食んでいる。これは良い物を貰った感じだ。


「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」


 俺の答えに満足したのか、嬉しそうな表情をしながら腰のバッグから大型の双眼鏡を取り出して監視を始めている。あれなら遠くまで見通せそうだが、監視で一番大事なのは広い範囲を見ることにあるんじゃないか? あれだと視野がかなり狭いと思うんだけど……。


 常時双眼鏡を覗くわけではなく、気になるところがあると双眼鏡で確認するようだ。じっと双眼鏡を覗いてたら、サンドラが注意してくれた。

 とはいえ、俺には船首から眺める荒れ地の光景全てが気になるところだ。


「だいぶラビーが多いな」

「ああ、それを狙うウラーブがいくつか群れを作っている。探索の連中は気を抜けんな」


 シレインが教えてくれた話では、ラビーとは野ウサギの名前らしい。ウラーブとは狼のようにも思えるが体長が1.5mほどになるらしいから、結構物騒な相手に違いない。


「この辺りには結構多いのよ。偵察隊の連中がクロスボウを持って行ったから、ラビーのシチューが夕食に出るかもしれないわ」


 俺達の狩の余禄ということになるんだろうか? たくさん獲れた時には王都や工房都市に売ることもあるらしい。もっとも、その売り上げは偵察隊の連中の酒代に化けるということだから、偵察隊も張り切っているんじゃないかな。


「今度の狩を終えたら王都に戻るようだ。王都に行ったら、防寒着とマントを買うんだぞ。緯度が上がれば、たまに雪が降るからな」


 アレクの話では、今は秋ということだった。確かに買い込んだ綿の上下だけで過ごせるからね。これから寒くなるとなれば、靴下や手袋も買い込んどいたほうが良さそうだし、帽子だって暖かな物が必要になりそうだ。


 翌日も、俺達は船首で周囲に目を光らせる。

 とはいっても、俺にとっては野生動物の観察そのものだ。

だけど、1日中周囲を見張るのも飽きてくるんだよね。カップに残ったワインに手を伸ばそうとしたとき、大きなドラの鳴る音が聞こえてきた。早鐘のようにドラが鳴らされる。


「見つけたようだ。どれ行ってくるぞ!」


 アレクが立ち上がると、甲板を船尾に向かって歩いていく。あれだけ飲んでいるのに振らつかないんだからたいしたものだな。


「さて、一応装備は整えているな。リオは初めてだろうが、アレクの指示に従えばいい。魔撃槍を使わないと聞いているが、口径3セム(45mm)の銃でも至近距離ならそれなりの威力があるだろう」


 言外に、逃げるんじゃないぞと言っているように思える。

 いざとなればレールガンという手もあるから、とりあえずはダミーの銃で頑張ることになりそうだ。


「相手は何かしら?」

「この辺りなら、トリケラでしょう? チラノはもっと北に向かわないとね」


 物騒な名前をサンドラが言っているけど、どちらも恐竜じゃないのか?

 俺が驚いているのを知ったのだろうか。脳裏にその姿が浮かんできたから、アリスが2つの情報を送ってくれたんだろう。

 どうやら、四つ足の魔獣をまとめてトリケラと呼んでいるらしい。チラノは2足歩行の魔獣の通称だな。

 たぶん遠くから見たおおよその姿で分類をしているのだろう。外にもいろいろと分類名称があるだろうから、図鑑でもあればおもしろそうだ。王都に行ったら探してみよう。


「この前狩ったのは、グレドンだったわよねぇ。大きな群れだから、3回も誘き出せたけど」

「あれは滅多にないだろうな。1日で魔石が50個を越えたそうだ」


 アレクの話では誘い込んで狩ると言ってたから、今回も同じ方法を取るんだろう。

 囮役は自走車ということだが、俺の役目はどうなるんだろうな……。

 サンドラ達が狩の話をすればするほど、俺の頭の上に疑問符が並んでいく。

 一体どんな狩になるんだか想像ができなくなってきたころに、アレクが戻ってきた。


「トリケラタイプを見付けたらしい。まだそれほど北上していないから、モノリーズの可能性が高い。この先の起伏を利用して狩ることになったぞ。そこで囮だが……。リオ、出来るな?」

「相手に向けて適当に撃って、こちらに逃げ帰ればいいんですよね?」

「それでいい。合図はヴィオラから赤の信号弾だ。それが見えたら、すぐに始めてくれ。戻る時は、東に向かうんだ。カリオンと一緒に牽制してくれれば十分だ」


 アレクに頷いて、カップに残ったワインを飲んで立ち上がった。

 いよいよ魔獣狩の始まりだ。


「頼むぞ。北北西に4カム(6km)だ。魔獣が来るまでに船の左舷に溝が掘られているはずだ」


 アレクに片手を上げて了承を伝えると、甲板に下りてカーゴ区域へと階段を下りる。

 すでに左舷を北に向けて扉が開かれているから、アリスの駐機台へと駆けていく。


「やって来たな。そこの長銃が得物じゃ。使い方は分かっとるな?」

「4発をボルト操作で装填できるんですよね。だいじょうぶです!」


 アリスが胸部装甲板を開いてくれたから、搭乗用のハシゴを上りながらベルッド爺さんに答えた。

「頑張れよ!」の声援を聞きながらコクピットに乗り込み胸部装甲板を閉じる。

 アリスを拘束していた金具が外れたところで、駐機台に立て掛けてある銃を手にした。

 カーゴ区域の中央を歩きだし、外側に開いた斜路から陸上船を出る。


 下りた先には獣機の連中が穴掘りをしていた。スコップを器用に使っているなぁ。あれなら、早くに魔獣を落とす溝を掘ることができるだろう。


「アリス、北北西4カム(6km)と言っていたぞ」

『了解です。倒すこともできますが、計画通りということで良いのですね?』

「騎士団の意向は尊重しておこう」


 命令を無視するか否かは相手次第だろう。アレクが俺を囮に使うというなら、それほどの相手とも思えない。

 ゆっくりと西に向かって歩いていき、500mほど船から離れたところで目的地に向かって速足で進む。船から見える間はアリスの性能をあまり見せるのも問題だ。

 3kmほど離れたところで、滑走モードに移行し、50km/hほどに速度を上げる。


 数分もせずに目標の魔獣が姿を現わしたが、確かに恐竜の姿をしている。

 4足歩行でゆっくりと南西方向に移動している。群れの数は8頭のようだ。アレクがモノリーズと言っていたけど、角が1本だから『モノ』を付けてるんだろうか?

 ディリーズやトリーズもいるのかもしれないな。

 だけど、あの姿で3本角なら『トリケラ』そのものに思えるんだけどね。


「合図は赤の信号弾と言っていた。確認したら近場に1発撃ってみるか。注意を引かないとね」

『それなら、かなり近づいた方が良さそうです。この銃の弾丸は炸裂弾ですが、カートリッジの装薬は黒色火薬です。装薬量から推定した有効射程は500mもありません』


「かなり寄らないとダメってことか?」

『かなり初歩的なカートリッジです。銃身の強度が低いのであまり装薬を使えないのではないかと推察します』


 そういえば、最初に1発撃ってから行動するように言ってくれたっけ。先ずはここから撃って近づくことにするか。囮役だから、魔獣を倒すことではなく奴らの注意を引くことが大事だ。


『ヴィオラ方向、赤の信号弾を確認しました!』


 アリスの言葉に後ろを振り向くと、南方に赤の信号弾がふわふわと漂っている。いよいよ狩りの始まりのようだ。

 群れの上方に狙いを定めて1発を発射した。

 発射した銃弾は目で追える感じもするな。火の粉を散らした銃弾が、群れ目がけて飛んで行った。

 

『初速が200m/sですから……。あの大きさの魔獣を倒すのは困難と推察します』


 アリスの呆れたようなつぶやきが終わったところで、群れのかなり手前に小さな炸裂光が見えた。

 炸裂弾とは言っていたけど、人間にはともかく魔獣相手には使えないんじゃないか?


『群れが周囲を警戒しています。あれでも少しは役に立つみたいですよ』

「次は当ててみるか? 出るぞ!」


 ジョイスティックを前に倒すと、身を屈めていたアリスが高く飛び上がった。そのまま滑空モードで群れに近づいたところで、2弾目を放つ。

 巨体の体表面で炸裂したから、当たった魔獣が叫び声を上げ俺達に頭を向けている。


「このままもう1撃するぞ」


 1kmほど離れた場所で大きく時計周りに回転して向きを変え、再び群れに接近する。


『群れ全部がこちらを見ていますね』

「少し近づいてみるか? だけど動き出したら、相手に合わせて南に下がってくれよ」


『だいじょうぶです。100mほどの距離を取ります』


 ゆっくりと魔獣の群れに近づいていく。俺達の動きに合わせて頭が動くから、確実にアリスの姿を認識しているはずだ。

 まだ動きはしないが、それも時間の問題だな。次の攻撃の前か後か……。


 3発目を撃った途端に奴らが動き出した。足元で炸裂する銃弾なんか気にも留めない。

 アリスが魔獣の動きに合わせて後ろに下がってくれる。とはいえ、体高10mを超す巨体がこっちに向かってるんだから気が気じゃない。

 それに、少しずつ奴らの歩みが早くなっているようにも思える。


「だいぶ速度を上げてきたようだ」

『現在、25km/hほどです。体重は10tを超えるようですから、ヴィオラに体当たりでもしたら、ちょっと困ったことになりそうですね」


「それで陸上船の横に穴を掘ったんだな。そろそろドミニク達に魔獣がやってくると知らせてくれ」

『了解です。……送信完了。ヴィオラから300スタム(450m)まで近づいたら東に向かえと指示がありました』



 味方の砲撃に巻き込まれないようにとのことだろう。

 4発目の銃弾を魔獣の群れのすぐ前に放ったところで、俺達はまっすぐにヴィオラに向けて進んでいった。


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