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M-065 人数が多いと釣果も多い


 ソフィーのビキニはフレイヤのビキニよりも布地が多い。

 フレイヤもあれぐらいの品を買えば良いと思うんだけど、サンドラ達のはもっと布地が少ないんだよなぁ。

 あんな布と紐で銀貨3枚以上するんだから、絶対にお店が儲けているに違いないと思うのは俺だけなんだろうか?


 1階のリビング向かうと、ベラスコが初めて見る女性と一緒に座っていた。

 軽く互いに挨拶を交わす。

 このお嬢さんが、ベラスコのお母さんが見つけてくれた人物になるんだろう。


「アレクさんの御兄弟を連れてきたんですか?」

「たまには兄弟が一緒になっても良いんじゃないかと思ったんだ。ずっと農業区画で過ごしてきたみたいだからね」


 俺とベラスコの会話より、フレイヤはベラスコのお相手であるジェリルとおしゃべりに興じている。

 気さくな性格だから、合ってすぐに友達になれるのだろうけど、それにしてもねぇ……。ある意味、フレイヤに神が与えたスキルなのかもしれないな。

 ソフィー達はと見ると、遠くに見える漁村の夜景に見入っているようだ。


 そんな俺達のところに、サンドラがトレイを持って現れた。

 取りえずは1杯ということなんだろうな。ソフィー達にはジュースが用意されている。

 フレイヤが家から持って来たサンドイッチの包を広げたから、皆の手が一斉に伸びる。


「家から持って来たのか? ……やはり美味いな」

 

 シレインと一緒に現れたアレクが、テーブルの上のサンドイッチを1つ掴むと直ぐに食べ始めた。

 たっぷりと持たされたようだ。1人5つは食べられるんじゃないか?


「それで明日は何時からになるんですか?」

「明日ではなくて、今夜からだ。新たに1本釣竿を持って来たようだな。レイバン、お前の腕もここで試せるぞ!」


 詳しく聞くと、2時間後には始まるらしい。

 嬉しそうなベラスコの表情を見ると、まだここの恐ろしさを知らないようだ。


「ソフィー、お手伝いを頼めるかしら?」

「お魚を裁いたことが無いんです……」

「だいじょうぶ。私達のところに運んでくれるだけでいいわ。お手伝いの娘さんが1人残ってくれたから、いくら釣り上げても問題ないわよ」


 全員がやる気を出してるんだよあぁ……。

 俺が最低だったら、フレイヤに怒られそうだ。

 3つ目のサンドイッチを食べ終えたところで、部屋に戻り釣竿を持ってくる。使い始めだから、アレクに見て貰おう。

 アレクが笑みを浮かべて釣竿を受け取ると、直ぐに伸ばして重さとバランスを確認している。


「ほお、少し硬めの竿だな。リールも少し大きめにしたのか……。これなら、ちょっと待ってろよ」

 

 飲んでいたグラスを置くと、リビングを下りて行った。やがて戻って来たアレクが、2つの仕掛けを取り出した。


「こっちが上物で、こっちが根魚用だ。上物狙いで良いだろう。ウキ下は両手一杯と半分だ。漁師からコマセも手に入れたから思う存分釣ってみろ」

「コマセを少しずつ撒くと、群れが散らないの。いつもより長く釣ることができるのよ」


 それって、あの重労働が長く続くということになるんじゃないか?

 あまりありがたいことではないけど、クロネルさん達の為にも頑張るしかなさそうだ。


 これから10日間、酒浸りで釣りを行う日々が続くのかと思うと、隠匿空間が懐かしく思えてしまう。

 だが、ここまで来たなら後には引けまい。

 何とか、アレクに迫る釣果を目指してみよう。


 潮が動き始めたところで、皆でデッキに向かう。

 木箱とテーブルがすでに用意されているんだよなぁ。

 男達4人にフレイヤが釣竿を持ち、思い思いの場所に陣取り仕掛けを海に投げ込む。竿尻の組紐を柵に縛りつければ準備完了だ。


 お茶を沸かすための小さなコンロの周囲に、椅子を並べて自分の竿を見つめる。

 直ぐに掛かるとは思えないんだが、どうしても見てしまうのはどういう訳なんだろう?


 突然、何本かの釣竿が踊り出した。

 自分の竿に駆け寄って素早く両手に持つと、仰け反るように大きく合わせる。これでしっかりと針掛かりしたはずだから、後は体力勝負になる。


「下手なんです」と釣具屋に伝えたら道糸を太くしてくれたからね。

 力任せにリールを巻けと笑いながら教えてくれたんだよなぁ。


 前の竿は少し大きな魚が掛かると、竿の半分近くが大きく曲がったのだが、今度の竿は竿の三分の一ほどが曲がるだけだ。魚を誘導しやすいのもありがたい。


 フレイヤが持つタモ網に誘導すると、「エイ!」と声を上げてタモ網が引き上げられた。

 バタバタとデッキの床で暴れている魚をシレインが棍棒を振るっておとなしくさせている。


「良い形ねぇ。リオが2番目よ」


 シレインが魚の口を掴んで、テーブルに運んでいる。1人だけエプロンを付けている娘さんが持つ包丁がキラリと光った。アレク達の世話をしてくれる期間限定のメイドさんだろう。

 本職に鍛えられた娘さんだから、シレイン達も心強いに違いない。


 さて、次を狙うか。

 餌の切り身を付けて仕掛けを投げ入れる。

 直ぐに、浮きが海中に引き込まれた。かなりの大群がやってきてるんじゃないか!

 力任せにリールを巻く。

 フレイヤを探したら、ベラスコの釣り上げた魚を取りこもとしているようだ。

 ジェリルも一緒になって騒いでいるから、大物ということなんだろうか?

 こっちには来てくれそうもないから、竿の弾力を使ってゴボウ抜きにした。

 前回の成果が出ているかな? 

 タモ網に頼らない方が釣果が上がる、とアレクが教えてくれた。


「あら、タモを使わなかったの? だいぶ慣れたわね」

「前回の成果の1つです!」


 俺の言葉に笑みを浮かべながら、棍棒を振るっている。

 釣り針を外すと、サンドラが俺にウインクして魚を持って行く。

 もっと頑張れ! ということなんだろうか?

 

 ワイワイと騒がしく釣りをしていたのだが、突然誰の竿にも当たりが無くなった。

 群れが去ったということになるのだろう。

 竿を手にしてテーブルに皆が集まる。

 獲物を見分しながらワインを頂くのは、魔獣狩りに似ている気がするな。


「とりあえず1箱を越えたようだ。やはり人数が多いと釣果も上がるな」

「次は12時間後になるんですよね?」

「そうだ。明日の10時過ぎだな。のんびり寝ていてもだいじょうぶだぞ」


 レイバンが興奮気味の口調でアレクに問い掛けている。

 初めてだし、まだ面白味を失っていない感じだ。ちらりとベラスコを見るとジェリルとイチャイチャしている。

 ある意味新鮮だけど、それをジッと見ている俺の隣のフレイヤが膨れているんだよなぁ。


「ソフィー、どうだ? 俺の別荘は」

「おもしろそうだけど、お庭は無いの?」

「手入れができないの。普段は陸上艦で暮らしてるでしょう」


 ソフィーは小さくても良いから花壇が欲しかったみたいだな。シレインが慰めているけど、長くここで暮らせるわけではないからね。


「その代わりに、大きな海が目の前だ。明日は、海の中を見てごらん。地上では分からない豊穣の世界がそこにはあるからな」


 アレクの言葉にソフィーが笑みを浮かべている。

 中々の兄貴ぶりだな。確かに海の中は別世界でもある。深く潜ると色が分からなくなるとアレクが教えてくれたけど、デッキのある大きな穴ならそんなことはない。


 獲物を入れた木箱を俺達が別荘の倉庫に運んで、サンドラ達が後始末を始めた。

 また明日の朝に用意するんだろう。別荘から張り出したタープの下に運ぶだけのようだ。


 木箱を別荘の玄関近くに置いた大きな魔法の袋に納める。

 専用らしいけど、アレクにこの袋を渡したのはクロネルさんに違いない。


「さて、今夜はこれで終わりだ。明日も頑張ってくれよ!」


 アレクの言葉に全員が頷いたところで、リビングにいる女性達の下に向かう。

 ワインを飲んでいたフレイヤが俺を見付けて席を立った。

 女性達に小さく手を振ると、俺の腕を掴んで階段へと向かう。


「全く、来て早々なんだから……」

「でも、皆で楽しかったじゃないか。明日は午前中だけど時間が遅いし、午後はカヌーを楽しめそうだ」


「そうね。レイバンにもできるかしら? 友人にカヌーの話を聞いたらしく、楽しみにしているみたいなの」


 アレクも兄弟を大切にしているけど、フレイヤだって負けてないんじゃないかな?

 ベラスコのお相手に対しても、昔からの友人のように話しかけていたようだ。

 面倒見が良い性格なんだろう。世界を狙えるような肢体と顔を持っているのに、俺を相手にしてくれているのもそんな性格があってのことに違いない。

 そう思うことは度々あるんだが……。


「ほらほら、ちゃんとシャワーを浴びるのよ! 体中魚臭いんだから!」

「分かったよ。でも一緒に入らなくても良いんじゃないか?」

「その方がお湯が節約できるでしょう? 贅沢に甘えると陸上艦での生活が苦しくなるんだから!」


 ちょっと貧乏性のところもあるんだよなぁ。それに自分に合わせるように相手を強いることも度々だ。

 言ってることは、それなりに納得できることではあるんだが……。


 シャワーを浴びおえると、タオルを巻いただけの姿で窓際のベンチに腰を下ろす。フレイヤのきめの細かな金髪が乾くにはもうしばらく掛かるだろう。

 買い込んできた蒸留酒を小さなグラスに入れて楽しむ。

 デッキの上で動く人影はソフィーとレイバンに違いない。

 ソフィーが濡れた髪を夜風で乾かしているのだろう。レイバンはお付き合いというところかな。


「いつもならとっくに寝る時間なんだけど、まだ起きてたみたい」

「場所が変わったからじゃないかな。それに、来て早々、海釣りをしたんだ。レイバンは嬉しそうだったよ」

「興奮して眠れなくなりそうね」


 妹と弟の姿を眺めるフレイヤは、柔らか笑みを浮かべたままだ。

 その表情を俺にも向けて欲しいと思うのは、男のサガということなんだろう。


 そっとフレイヤの体を抱き上げてベッドに運ぶ。

 すでに髪は乾いているようだ。途中でタオルが取れてしまったけど、このまま寝るんだから問題はないだろう。


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