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M-062 やはり囮は俺の役目らしい


 実質10日以上の休暇を取ってしまったが、久しぶりにヴィオラに乗船しての狩りが始まった。

 危なげだったベラスコも今では立派な戦力になった様だ。

 仕込んだアレクも嬉しいに違いない。バディを組んでいるカリオンも、安心して隣を任せているようだ。

 だけど、魔撃槍の弾丸が3発はどうにかできないものなのだろうか?

 もう1発と、どの戦機を駆る騎士達が考えてるんだろうけどねぇ……。


「リオの思いは、確かに俺達が日頃思っていることでもある。だが、現状では難しい技術らしい。俺の乗る戦鬼の魔撃槍は5発なんだが、弾丸を入れたチャンバーの板バネは特注品だし、チャンバーの中にいくつもの魔方陣が描かれているぐらいだからなぁ」

「チャンバーが小さいから魔方陣を描けないらしいの。板バネだって標準品なのよ」


 特殊な構造のチャンバーを用いた魔撃槍を作るくらいなら、魔撃槍をもう1本用意した方がマシと考えたんだろうな。

 

「贅沢を言えば切りがない。与えられた物で対処するのが騎士でもあるんだ。魔撃槍が1丁しかない騎士団だって多いんだからな」

「騎士が6人いるんだから恵まれてますよ。それにガリナムは戦機2機に相当するかもしれませんよ」


 ガリナムはヴィオラの右に布陣するから、ベラスコにもその雄姿が見えるんだろう。一斉砲撃は迫力があるし、甲板の2連装砲塔は魔撃槍になっている。一斉砲撃を逃れた魔獣にも次弾を直ぐに放てるようだ。


「さて、もう直ぐにバルドン狩りが始まるぞ。動きはそれほど速くはないが、分厚い皮膚は装甲板だからな。尾に棘があって振り回すのも厄介だ。土手から少し下がって這いあがってくる奴を狙うんだぞ」

「腹を狙えってことですね?」


 ベラスコの確認するような問いに、アレクが笑みを浮かべて頷いた。


「リオに任せるから、間違いなく溝に誘ってくるはずだ。魔獣が見えるまではのんびりと腕の上で一服してるんだな」


 最後の言葉と共にアレクが俺に顔を向けた。

 小さく頷くと席を立つ。位置に着く前に周囲を探ってみるか。魔獣の動きは予想もつかない場合もある。

 周囲50kmに危険な魔獣と、狩りの邪魔になる騎士団がいないことをもう一度確かめておこう。


「久しいのう! 何時もの役目じゃな。その棚に置いてあるぞ」

「4発でしたね。装薬が増えたんで派手に爆発しますよ」

「爆発は派手じゃが、威力を期待するんじゃないぞ」


 そう言ってベルッド爺さんに尻を叩かれた。

 笑みを浮かべて片手を上げると、タラップを上りアリスのコクピットに納まった。

 全周スクリーンで周囲を確かめながら、棚の50mm砲を手にする。


『これの大型が欲しいですね。……出発します!』

 

 舷側が開かれたのを確認したアリスがカーゴ区域から軽くジャンプして滑空を始める。

 俺達を見ている騎士団員がたくさんいるから、30kmほど離れないと本来の機動を行えないんだよなぁ。


「貴族枠ということだから口径を上げられるんだろうけど、あまり上げると奇異に思われるよ」

『見えない場所で使えば良いんです』


 まあ、そうなんだろうけどねぇ……。どれぐらいの口径にするんだろう?

 75mmにすると戦鬼の持つ魔撃槍並になってしまうな。たぶん設計図を描くんだろうから出来るのを楽しみに待っていよう。


『ヴィオラの監視区域を抜けました。周囲の偵察を優先します!』

「了解だ。狩りが終われば夕暮れだろう。明日の獲物も探しといた方が良いかもしれない」


 今回は星の海の北150kmほどを西に向かって狩りをしている。

 北にはいくつもの尾根が南に指を伸ばしたような姿を見せているから、尾根に隠れた魔獣に気を付けねばならない。

 星の海に近ければあまり獰猛な魔獣はいないのだが、北に潜む魔獣のほとんどが肉食魔獣だ。


『150kmの範囲ではこの3つですね』

「一番近いのは今回の狩りの対象だけど、2番手は80km先だな。草食魔獣なら夜間の移動は余り無いだろう」


 明日は午前中に狩りができそうだ。

 ヴィオラに近い群れに進路を取ると、直ぐに獲物の姿が見えてきた。

 4本脚だからトリケラタイプではあるけど、角があるわけではない。嘴のような口を持つ草食魔獣の群れだ。12頭いるけど、2艦の一斉射撃で全数を倒し事は難しいだろうな。

 穴から這い上がろうとしたところを魔撃槍で倒すことが現実で起こりそうだ。


『ヴィオラの信号弾を確認。赤2つ「準備完了、誘導せよ!」です』

「始めるか! 先ずは群れの近くに1発だ」


 アリスが急角度で高度を落としながら群れの手前に向かう。

 両手には既に銃を抱えている。

 

 狩る対象の図鑑が小さな仮想スクリーンで表示される。厚い装甲を背負った平たいトカゲのような魔獣はバルドンという名前らしい。

 群れの手前に小さな爆発が起きると、群れが周囲を警戒する。

 ゆっくりと近付くと、直ぐにこちらに歩いてきた。さらに1発撃って、群れの中に盛大な炎を上げる。

 これぐらいの威力が適正じゃないのかな? あまり威力があってもいけないようなきがする。

 相手がこっちに気が付いて、怒りを増すぐらいが丁度良い。

 

『食い付いたみたいですね』

「あの尾はかなり危険だな。それじゃあ、誘導開始だ!」


 ヴィオラでも、こっちの砲弾の炸裂が見えたはずだ。やたらと煙と炎が大きくなるようにベルッド爺さんが工夫してくれた砲弾だからな。


『かなり速いです。トリケラ並みかもしれません』

「方向転換は何時もの通りかな?」

『450mで左に回避します。魔獣との距離は2秒程度離れていますから、十分に一斉砲撃を回避できます』


 何時もこのタイミングは冷や汗ものだ。数十mほどコースを変えた時に後方から砲弾の炸裂する音が聞こえてくる。

 大きく回り込んで、カリオンの後方に付いた。


「いつも済まんな。だが、リオの役はベラスコが代わってくれたぞ」

 

 銃を構えた俺にカリオンが魔石通信を送って来る。

 時代が変わったということになるんだろう。だけどアレクはこの位置に付けといってくれる。

 慣れても2人では力不足と考えているのかもしれない。普段は飲兵衛だけど、慎重派で仲間思いだ。

 

 魔獣の解体を獣機に任せて、周辺を探索する。

 50km周辺の探索を終えたところで、ヴィオラに戻りアレク達がたむろするデッキに向かった。


「ご苦労! 先ずは一杯だ」

 

 サンドラが並々と注いだグラスを渡してくれた。

 こぼれないように一口飲んだところで、タバコに火を点ける。


「バルドンは水の近くにいるんだ。水の魔石が多く取れるだろう。草食だから、中位止まりなのがたまに傷だな」

「でも魔石の数は50個以上よ。明日はアウロスだから上位も期待で来るんじゃないかしら」

 

 取らぬタヌキの話をするんだから酔いが回ってるのかもしれないな。


「今回の休暇だが、どうやら陸上艦を変えるらしい。一回り大きくなると聞いたから巡洋艦クラスになるんだろうな」

「この艦は試作巡洋艦と聞きましたが?」


 ベラスコの言葉に、うんうんと俺達が相槌を打つ。

 

「この船は、試作だから軽巡洋艦を少し大きくしたぐらいだ。今回は本物の巡洋艦の艤装前の物を改造したらしい。全長が10スタム(15m)長くなって、横幅が2スタム(3m)増えると聞いたから一回り大きくなる感じだな。

 武装は同じだが、内部空間を広げたようだ。戦機8機を収容できるらしい」


 ローザ達の戦機を考慮したのかな?

 だけど、せっかく慣れたところなんだよなぁ。


「引っ越しが大変そうですね。部屋が大きいと良いんですが」

「少しは期待できそうだ。だが、1つ気になるのは見張り用のマストが無いらしい」


 ネコ族のお姉さん達を乗せられなくなると、食事に困るんじゃないか?


「監視はブリッジの最上階だけということかしら?」

「軍の場合は飛行機を持っているから、それで十分なんだろう。艤装がそろそろ終わるということなんだろうから、いまさらマストも付けられんだろうな」


 俺の役目が多くなりそうだな。

 少なくとも周囲100km以上の偵察ができるならマストは必要ないのかもしれないけど……。


 その夜にフレイヤと話をすると、やはりマストが無いのが気になっているようだ。

 デッキでワインを飲みながら、仕入れてきた話を教えてくれた。


「一番高い露天監視台で地上25スタム(37.5m)と聞いたから、この船よりは高い位置での監視になるわ。獣機の持つ大砲を4門装備してるのよ。空の心配はかなり無くなるわ」

「監視部の連中はそこに集中するの?」

「そうなると思うわ。30mm砲の使い方をネコ族の人達が勉強してたもの」


 総人数は変らないということになるのかな? それなら心配は無いんだけどね。

 

 10日間の狩りを終えると、ウエリントン王国の王都に向かってヴィオラが進んでいく。ガリナムの先導だから、海賊も手を出すのは控えてくれるだろう。

 1隻の陸上艦では容易でも、2隻となれば途端に襲撃は難しくなるのを分かっているようだ。

 船尾のデッキで周辺監視をしてはいるんだが、何時ものように酒盛りをしながらだからねぇ。

 海賊の襲撃に怯えていたのは、それほど前ではないんだが……。


「それで、リオは10日後に来るんだな?」

「フレイヤが10日は実家で暮らすと言ってました。アリスと一緒に行きますから、アレクの別荘にそのままお邪魔するつもりです」


 うんうんとアレクが頷いている。


「俺達は王都で2泊してからだ。サンドラ達が買い物をしたいらしいからな」

「俺も、実家に寄ってからの合流なんです。母が絶対来るようにと手紙を送ってきたんです」


 思わずベラスコに全員が視線を向けると、ニヤリと微笑んでしまった。

 たぶん、そういうことになるのだろう。新進の騎士団に所属する騎士であればのことだ。親心もあるんだろうけどね。


「まあ、親を安心させるのは息子の勤めだろうな。人数が増えても構わんぞ」

「今回も、2日3箱が目標ですか?」

「人数が増えれば、獲物も多いはずだ。リオ達も早くやって来るんだぞ」


 あの厳しい漁師生活が始まるのか……。

 だけどたくさん獲れればクロネルさんも喜んでくれるだろう。隠匿空間の仲間達も、肉料理だけでは飽きてしまいそうだからね。

 チームワークを作る訓練だと思って頑張るしかなさそうだな。


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[気になる点] >だが、リオの役は素でのベラスコが代わってくれたぞ 素での? すでに の誤字?
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