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M-061 古代帝国と魔石


 3時間程の報告会が終わったところで、フェダーン様達が部屋を後にした。

 全員が立って見送ることになったのは仕方のないことなんだろう。何と言っても御妃様が2人なんだからね。

 会議室の扉が閉まった瞬間に、皆がホッとした顔で溜息を吐いた。


「さて、ヒルダの了承が得られたなら、機動要塞はヴィオラ騎士団の陸上艦として王宮に認知されたことになるでしょうね。ちゃんとギルドに登録するのよ!」


 カテリナさんの話に、ドミニクが渋々頷いている。

 大きいけれど、地上を動けるなら陸上艦というのはねぇ……。首を傾げたくもなるが、それが一番なんだろうな。


「機動要塞として登録するんですか?」

「そんなことをしたら大騒ぎになりそうだから……。大型艦で良いんじゃないかしら。名前はどうするの?」


 俺に話が振られてきた!

 俺のネーミングセンスが問われかねないから、ちょっと考える必要がありそうだ。

 山の名前でも良さそうだけど、彷徨う島にはそぐわないな。

 同じように伝説から名前を取るとなると……。

 大きい、湖にいる、強い……。連想ゲームで浮かんだ名前を口に出した。

 

「『リバイアサン』はどうでしょうか?」

『「水を統べる者」という訳じゃな。中々リオ殿は詩人よのう』


 思わず、導師に顔を向けてしまった。あんぐりと口を開けたままだから急いで閉じたんだが、そんな意味があるなんて俺は知らないぞ?


「神話から取ったのね。あれは恋人に会うために、星の海から風の海に向かう娘の願いを聞き届けた神の名前だったと思うわ。良い名前じゃない。それに機動要塞もそんな動きをするんだし」

「後々に問題になりませんか? あまりそぐわないような気もするんですが?」

「陸上艦の名前なんて、そんなものよ。ペットの名前を使っている騎士団だってあるんだから」


 カテリナさんの言葉が本当なら、案外適当な名前で良いということになる。

 同じ名前の陸上艦がいなければ、それで十分ということかな?


『次は、移動じゃな。リオ殿が動かせるなら、尾根の西側に隠すか、隠匿空間の道標として入り口付近に置くかのどちらかじゃろう』

「高さが200スタム(300m)を越えるんなら、隠そうとしない方が良いでしょう。リオ君の持ち物だと認定されるわけだし、ヴィオラ騎士団の陸上艦の登録が終われば誰も文句は付けられないわ」


 驚く人はいるだろうけどねぇ。とりあえず灯台代わりということにするらしい。


「内部の調査は、入り口が高い位置だから面倒ね。タラップぐらいありそうなんだけど?」

『可動式のタラップが外周部に4基存在します。現在リバイアサンの機能調査を継続中ですから、問題なければ使用できると推測します』


 あるということか。それも4基なら色々と使えそうだな。

 とりあえず、ドミニクの指定する場所にリバイアサンを移動すれば良いだろう。


 どうにか解放された時には、2時を過ぎていた。

 早めにベッドに入って眠らないと根不足になりそうだ。

 部屋に入ると、フレイヤがベッドの真ん中で大の字になって寝ている。

 壁に少し押しやって、布団に潜り込んだ。

                 ・

                 ・

                 ・

「おはよう!」

 

 フレイヤのキスで目が覚めた。

 今朝は蹴落とされることは無かったみたいだ。

 

「おはよう。ところで何時になるの?」

「まだ、9時前よ。早く食事に行きましょう」


 衣服を整え、フレイヤと食事に向かう。

 まだ桟橋工事の最中だから、相変わらず隠匿空間での食事は外で取ることが続いている。


 ネコ族のお姉さんから朝食のトレイを受け取ると、俺達に手を振っているベラスコが見えた。

 10個ほどにテーブルが増えているけど、何時も満席に近い状態だ。

 もっと数を増やせばいいのだろうが、俺達が狩りに向かえばここで食事を取る人数が半減するからだろう。


「しばらくでしたね。次の航海が終われば王都で15日程休暇があるそうですよ。アレクさんから別荘に誘われたんです」

「リオ達も来るか? 仲間が一緒なら楽しめそうだ」


 思わず、フレイヤと顔を合わせてしまった。あの漁が待っているということなのか!

 ベラスコは初めてだからなぁ。2、3日なら良いんだが、15日も続くと魔獣狩りの方が楽に思える。


「農場に寄ってからにするわ。伝言があれば伝えるけど」

「特にないな。リオと一緒にのんびりすればいい」


 思わずほっと胸をなでおろす。

 簡単な朝食を終えると、アレクがネコ族のお姉さんにワインを注文している。俺達は遠慮してコーヒーを頼むことにした。

 いくら休養中と言っても、朝からワインはねぇ……。


「ほう! 機動要塞を動かすのか。動かすのは次の休暇の帰りになるだろうな。直ぐに運んで来たら、中を探りたくなる者だって出てくるだろう」

「戦機のコクーンが2個ありました。騎士団の戦機が増えますよ」


「それは都合が良いわ。ベラスコと一緒に経験を積めば、私達だって安心できるもの」

「後継を育てるのが中規模騎士団では難しいんだ。ある程度戦機が揃っている騎士団ならすんなり行くんだが」


 2年後にはカリオンが戦機を下りることになる。その2年後にはアレク達3人だ。戦機を下りたアレク達は何をするんだろう?

 獣機に乗るのかな。それとも今までとは全く異なる仕事に就くんだろうか?


 食事が終わると、フレイヤと小川沿いに散歩を楽しむ。

 何カ所かに東屋を作っても良いんじゃないかな。騎士団以外にも何組かの男女が散歩を楽しんでいるようだ。


 そんな中、自走車が走って来るのが見えた。

 相手がいないんで邪魔をしに来たんだろうか? 自走車の通る道をきちんと整備しないといけないかもしれないな。


「見付けた! リオ君を借りるわよ」


 俺の腕をむんずと掴んだのは、後部座席から身を乗り出したカテリナさんだった。

 フレイヤは諦めたように俺に手を振っている。

 そのまま車に引き込まれると、自走車が速度を上げてカテリナさんの研究所を目指して走り始めた。


「急に、何ですか?」

「昨夜の続きをしないといけないでしょう。参加者は3人……、アリスがいるから4人になるわ」


 記憶槽から得た情報をもっと教えろということかな?

 それならアリスが適任なんだろうけどね。


 会議室には導師が待っていた。

 端末を用意していると、カテリナさんがワインと灰皿を用意してくれた。


『あれからずっと、リオ殿の言葉が気になってのう。昨夜からずっと調べておったのじゃが……。魔法のブースト効果、反発する魔石の利用……。確かに帝国が滅んで後の魔法の利用は一気に花開いておる。

 それがなぜに帝国では使われなんだか。……帝国時代の魔道科学は現代よりも劣っておったとしか思えぬ」

「でも、魔道タービンは帝国の遺産でしょう? 戦機を動かせるのはそのおかげだし、獣機だってその恩恵を受けているわ」


『全く異質の技術が魔道科学を取り入れたということじゃろうな。なぜそのようなことが起こったのかは今では分からぬが……。魔石の数は時代を経るごとに多くなったようにも思える』


 さすがに導師だけのことはある。


「それは騎士団の活躍があったからでしょう? 毎年、この世界で取れる魔石の数は十万個を超えるはずだわ」

『それは知っておるが、果たしてそれだけであろうか……』


 魔獣の数はどれぐらいなんだろう。放っておけば頭打ちになるのだろうか?

 騎士団が活躍しても、低緯度地帯に侵入する魔獣は多いらしい。その為に王国がいくつかの機動艦隊を遊弋させているぐらいだからなぁ。


『それで、リオ殿は、どのように考えたのじゃ?』

「漠然としたもので考察も何もないのですが……。魔道大戦が起きる前までは、魔法は存在しなかったのではないかと」


 ガチっと音がした。

 導師のプレートヘルムが急に動いたのだろう。

 カテリナさんはワインのグラスをテーブルに落としている。それほど驚くことなんだろうか?


「とんでもない話ね。でも、帝国の力なら当然のごとく魔気を利用していたんじゃなくて?」

「その魔気そのものが帝国によって作られたと考えた次第です。なぜ作ることになったのか……」


『魔石じゃな。魔石を得るためにこの世界に魔気をもたらしたと?』

「それが一番つじつまが合うように思えました。リバイアサンは魔道大戦の後期に作られたものです。当然魔石が使われていますが、利用個所はそれほど多くはありません」


 どうやって作りだしたのかは分からない。

 だけど、今でも魔気を作り出すものが動いているに違いない。


『おもしろい学説じゃが、反論も出来ぬな。その考えで少し論文をまとめてみるのもおもしろそうじゃな。リオ殿と名を連ねれば問題は無かろう』

「異端と思われませんか?」

『何、異端こそ真実を知る者じゃよ。神学者共は反論するかもしれぬが、真実裁判で負けたならどうするつもりじゃろう』


「ということは、リオ君が動かしたというリバイアサンのメイン動力機関は魔石を使っていなかったということかしら?」

『魔石を使っています。上位魔石の火と水を確認しました』


 アリスが会話に加わってきた。

 メイン動力機関は説明しても理解できないだろうとアリスが言ってたけど、カテリナさん達には理解できるのかな?


「魔道タービンなんでしょう? それも巨大なものとなるはずよ。何て言ってもあの機動要塞を動かせるんですもの」

『メイン動力機関の数は2基ありますが、1基でも十分にリバイアサンを動かして余りがあります。戦機に搭載された魔道機関を10万基以上集めても、その出力を越えることは無いでしょう』


「それが分からないの。魔石を使う高出力の動力機関は現在のところ魔道タービンだけよ」

『カテリナ様は、対消滅を理解できますか?』


 カテリナさんが俺に向かってしばらく考えていたが、首を振った。次に導師に顔を向けると導師も同じように首を振っている。


「どういう理論なの?」

『相反する2つの物体を同時に重ね合わせることで対消滅を行うものです。その際に物質世界から消失する質量に比例して高いエネルギーを作り出すことができます』


 画像に単純な絵を描いてアリスが説明してくれるんだけど、これって核融合のことなんじゃないかな?


「核融合?」

『核融合による質量欠損は余り多くはありません。ですが対消滅機関では互いの魔石の持つ質量全てを理論的には消滅することができます』


『全く理解すらできぬ。じゃが、アリスという存在がそれを理解し制御できるなら問題は無かろう』


 そんな兵器を使って戦をしたから、帝国は滅びたに違いない。 

 ひょっとして、アリスが教えてくれなかった主砲の砲弾は融合弾だったかもしれないな。

 今では帝国の遺物はほとんど残っていないのも頷ける話だ。

 この世界では文明が1度滅びたということになるのだろう。

 かろうじて生き残った人達も、科学技術の恐ろしさを思い知ったに違いない。次の文明は、新たな技術である魔法の力に頼ったというのが真相なんじゃないかな。



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