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M-059 未来感が半端じゃない


 扉を開くと小部屋がある。15m四方の部屋の傍らにカウンターがあり、部屋は3つの小さな門によって2つに区分されている。

 左右にも小部屋があるようだ。こんな作りは、先に向かう人間の確認ということなんだろう。向こうにあるのは、この機動要塞の枢要区域ということになる。


「だいじょうぶなのか?」

『現在は機能停止していますから問題はありません。先に進んでください』


 横幅1m程のゲートを抜けて、次の扉の金属プレートに手を触れる。

 今までの扉と同じように横にスライドして、俺を部屋に受け入れてくれた。


 今まで見たことのない不思議な光景が広がっている。

 天井の淡い光に照らされた部屋の正面には、大きな3面の板を張り付けられている。その上に4面の小型の板が埋め込まれているのだが、ほとんど天井と言っていいぐらいの位置だ。

 全体として少し前方に傾斜しているのが分かる。

 扉を出ると、5m四方の空間があり、前方と左右に通路が作られている。


『そのまま前に歩いてください。指揮官専用区画があります』


 アリスの言う通りに前に歩いて行くと、10m四方の区画があった。

 中央に2m四方のテーブルが作られ、その前方には、据え置のテーブルと椅子があった。

 立派な椅子はクッションが張られていたのだろうが今は見る影もない。

 

『マスターの身体制御を委譲して頂けませんか?』

「ああ、許可する」


 俺の体が先ほどのテーブルに向かい、テーブルの上を指が踊り始めた。

 端末と一緒なのか?

 仮想スクリーンが3つ作られ、その上を文字列が次々と流れていく。


『補助動力装置を作動します。1号機作動……、異常なし。出力上昇を確認。機動要塞の休眠設備の一部を解除します』


 制御室の照明の明るさが増して、正面の金属板のようなものに周囲の光景が写し出せれた。


『制御室の設備機器の動作試験中……異常なしを確認。続いて生体電脳の記憶槽のサーベイを実施……、目録の作成を完了しました。続いて、各階の配置図をプリントします』


 どこからか機械の作動する音が聞こえてきた。

 

『身体制御をお返しします』

「いろいろやってたみたいだけど、これである程度機動要塞の状況が分かるのかい?」

『分かるというか……。マスターの指示でこの機動要塞を動かすことが可能です』


 何だと!

 思わずバングルを見たんだけど、そんなことができるのだろうか?

 とんでもない大きさだ。ヴィオラ騎士団の陸上艦であるヴィオラでさえ、指揮所にいる10人近くの人間が操船をしているのだろうし、魔道機関を制御している連中は別の部屋にいるはずだ。


『生体電脳が、各部の制御電脳を統括しています。ここで生体電脳に直接指示を与えれば機動要塞を動かすことも可能です』

「動かすのは後で良いだろう。ところで、補助動力を動かしたようだけど、魔道タービンなら燃料の魔気は十分なのか?」


『高圧縮されたシリンダーが4本ありました。20日は保てますが、主動力を動かしますか?』

「そちらが先だろうな。と言っても負荷追従が可能であることが前提だ」

『了解しました。再度マスターの身体制御以上の許可を下さい』

「委譲するよ」


 再び俺の指先がテーブルの上を踊るように動いていく。

 仮想スクリーンにブロック図のような物が映し出されて、ブロックの表示が赤から緑に次々と変わっていった。


 突然、足の下から振動が伝わっていたけど、唐突に収まる。

 一体何が起こってるんだろう……。


『主動力炉の稼働を確認。……状態変化を確認中……、異常無し。主動力炉は現在出力0.2%で可動しております。主動力炉の稼働に伴い、補助動力を停止。非常用動力システムを停止しました。マスターの身体制御をお返しします』

「ここまでは順調ということだね。ところで……」


 主動力炉はほとんどアイドリング状態のようだ。

 アリスが特に注意を促さないところをみると、アイドリング状態で動かしておいても問題はないのだろう。


 ならば、この場所から見える区画の役割が何かを教えて貰おう。

 見た目も凄いんだけど、凄いだけでは報告もできないからなぁ。

 階段状にこの場所から左右に2段ずつ作られている。同じような物にも見えるんだけど、機能別に分けているようにも思えるんだよね。

 

 素朴な質問だけど、アリスは丁寧に教えてくれる。

 どうやら俺の思った通り、移動要塞の機能を5つに区分しているらしい。4つだと思っていたんだが、右手奥にもう1つあったようだ。

 この場所からすぐ下にある区画は左手が通信と周辺監視を管制する区画らしい。右手は動力炉の管制のようだ。

 前にある3つは、左から火器管制、運行管制、桟橋の管制となるようだ。

 管制を区分するのは、個々の区画で生体電脳や現場の兵士達に指示を行うためなんだろう。

 アリスは俺一人でもできると言っていたけど、戦闘機ならまだしも機動要塞となるとさすがに2人で運用することはできないんじゃないかな。

 機動要塞を前後左右に動かすぐらいなら、ということに違いない。


「アリス。ここから外に出られる場所は無いのかい?」

『46階にデッキがあるようです。ここから直接行けますから、仮想スクリーンにルートを表示します』


 この区画から制御室の入り口に戻ると、入り口手前に、左右に通路が延びている。

 2人がすれ違えるほどの通路にいくつかの扉があった。

 制御室に詰める連中の休憩所かもしれないな。


 仮想スクリーンのルートに従って歩くと、壁に突き当たる。扉が壁に組み込まれているようだ。金属板に手を触れて扉を開くと、2m四方の小部屋が現れた。

 壁の一部に階層を現す表示が出ているから、これはエレベーターということになるのだろう。

 46階の表示を押すと壁が閉じて軽いGを感じる。

 46階の表示が点滅して扉が開く。エレベーターを出た場所から左右に回廊が延びている。右手に向かって歩いて行くと行き止まりだが扉がある。

 ナビだとこの先にデッキがあるらしい。扉の金属に手を触れると……。


 ギリギリ……と足元から音が聞こえてくる。

 何か起こるんだろうか? それにいつもなら直ぐに開く扉が、今回は動かないのも気になるところだ。

 突然、足元から聞こえてきた音が止まると、扉が開いた。

 目の前に、霧が広がった。

 デッキは本体に格納されていたんだろう。20m四方のデッキの周囲には柵まで作られていたから、霧の中でも落ちることは無さそうだ。


 斜めの壁に背中を預けてデッキに座ると、バッグから携帯コンロを取り出してコーヒーを作る。何故かお腹は空かないんだよなぁ。

 機動要塞の中でタバコが楽しめるか分からない。ここで少し休憩しよう。


「アリス。カテリナさんへのお土産は?」

『全階層の平面図をプリントしました。仮想空間に保管してあります』


「これで終了なのかな?」

「詳細な情報ということであれば、もう少し記憶槽を調べておいた方が良いと推測します。マスターの希望があれば優先します」


 優先事項か……。そう言えば、機動要塞に戦闘艦を収容できると言ってたけど、ヴィオラを収容できるんだろうか?


『横幅35m、全長250m、高さ40m以内であれば可能です。ヴィオラの全高はマストを含めて35mですから収容は可能です』

「過去の戦闘艦はどんな形だったんだろう?」

『資料を調査してみます』


 俺に調査ができるとも思えないからなぁ……。アリスに任せて探検でもしてみるか。


『探検でしたら、この区画を調査してください。もう1つのカーゴ区画です』


 アリスの示した区画は最初の駐機場と反対の位置にあるようだ。

 ちょっと距離があるけど、ナビを持っている以上迷子になることは無いだろう。


 携帯灰皿に吸い殻を投げ入れて機動要塞の中に入った。

 扉を閉めると、足元から再び音が聞こえてきた。やはり普段は格納されたデッキだったようだ。


 ナビの示す方向に歩いて行く。今度は階段ではなく、エレベーターを使えるみたいだ。

 回廊も来た時には薄暗い回廊だったが、今は明るい回廊だ。

 5千年の歳月を経たはずなのに、まるで新造艦の中を歩いている錯覚に陥るが、足元には塵が積もっている。

 後ろを見ると、俺の足跡がくっきり見ることができるほどだ。


 どうにか、目的地の場所に着いたみたいだが、通路側からカーゴ区画に入る感じだ。

 扉を開けると、明るい照明が床に届いている。

 この場所で整備や修理も行ったに違いない。

 そんな感慨に耽っていた時だ。カーゴ区域の戦機の駐機台にコクーン化した2体の戦機を見付けた。さらに周りを見てみると、かなり大きな機体が駐機台の反対側に置かれている。

 

 戦機と同様にコクーン化しているけど、どう見ても飛行機だな。座布団型の機体は二回りほど大きいようだ。

 動くんだろうか?

 

「アリス。こっちのカーゴ区域に戦機と飛行機があるんだが……」

『確認しました。可動するかどうか不明ですが、サンドラ様が搭乗している戦機と同形式と推測します。飛行機はスペックを記憶槽から取り出し済みです。王国軍の使用している飛行機よりもかなり性能が高いようですね。飛行時間が2時間となっています』

 

 戦機よりも飛行機をフェダーン様は欲しがるかもしれないな。3倍以上の飛行時間なら、偵察だけでなく攻撃も可能の筈だ。


「映像記録は撮ってあるのかな?」

『マスターを通して記録してあります。戦機駐機台と、飛行機のコクーンを収容している棚の周囲を一巡りして頂けませんか?』


 アリスのお願いを聞くのは俺の役目でもある。

 カーゴ区域内を一巡りしたところで、次の目的地を見繕う。


 ふと、目の前を塵が流れていくのに気が付いた。

 空調が復活したのだろうか? かなり塵が積もっているから直ぐにフィルターが詰まってしまいそうな気もするんだが……。


『フィルターの前に2段のスクラバーが設置されています。細かなミストを叩きつけるようですから、塵は除去できると推測します。タバコもだいじょうぶですよ。でも吸い殻を捨てないでください』

「ありがとう。最低限のエチケットだからね」


 塵の除去はシャワーよりも微細な水滴ってことなんだろう。霧を高圧で吹き付けているような感じなのかな?

 機動要塞を包み込む霧を作れるような技術があるんだから、その応用範囲なのかもしれない。


 戦機の駐機台に腰を下ろして一服を始めた。

 ヴィオラでやったらベルッド爺さんに怒鳴られそうだ。

 ここには俺1人だけだからね。これぐらいは許して欲しいな。



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