表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/391

M-058 王国からの調査依頼


 魔獣狩りの出発を1日延期することになったのは、彷徨える島の概要を事前にカテリナさんに話したことが原因のようだ。

 研究所の会議室に集まった連中に、再度概要説明を行うことになってしまった。

 その性能に驚いているようで、説明を終えても誰も口を開こうとはしない。

 レイドラが運んでくれたコーヒーを飲む音だけが聞こえてくる。


「伝説でいて欲しかった。こんな島が動き出したら軍事バランスが根底から覆る」

『見付けたのがリオ殿で良かったとワシも思うぞ。先の取り決めを変えようなどと言い出さぬように注意するが良い』


 フェダーン様の呟きを聞いて導師が注意を促している。

 だけど、破壊するにしても大きすぎるし、下手に破壊すると何が起きるか分からないところもあるようだ。


「リオ君が部分的に動かしたようだけど、あの機動要塞を実際に動かすことができるかが、次の課題になりそうね。それに、島の中に陸上艦が収納できるとなれば、拠点化も可能なはずよ」

「この隠匿空間で手一杯です。そんなに余力はありません!」


 カテリナさんの話を、ドミニクが問題外と突き放している。

 この隠匿空間を拠点化する以上、もう1つ手に入れたら他の騎士団の横やりが入りそうだ。

 同じ騎士団ギルドの構成員なら波風を立てたくないのも頷ける。


「でも、動かすことができるなら理由が立つわ。ヴィオラ騎士団の旗艦として登録すれば文句は出ないんじゃなくて?」

『陸を進めるなら陸上艦と言いくるめるのか……。おもしろそうじゃな。だが1つ問題があるぞ』


 カテリナさんの提案に導師が答えた。

 騎士団の陸上艦や戦機の武装には制限がある。口径6セム(90mm)を超えてはならないのだ。


「貴族枠が欲しいわね……。隠匿空間の一部をブラウ同盟に譲渡した見返りを、まだ貰ってないんじゃない。それに彷徨える島を、ハーネスト同盟よりも先に見つけた功績は大きいのではなくて?」

「そういうことか! 陛下と調整する余地は十分だろう。となれば、リオ殿。あの島の主砲について聞かせて欲しいのだが?」


 ん? そんな話は聞いてないぞ。

 笑みを浮かべるフェダーン様から視線を外してカテリナさんを向くと、同じように笑みを浮かべて頷いてくれた。

 さっぱり分からないんだが?


「アリス。教えてくれない? あの島に主砲はあるはずよねぇ。8セム(120mm)連装カノン砲塔が72基。数から考えると副砲にしか思えないんだけど」

『私も同じ考えです。概要調査では生体電脳の記憶槽に、主砲の記録は断片的なものしかありませんでした。どこに、どのような物が、何基存在するか、操作システムを含めて現状は不明です』

「アリスの推測では?」

『たぶん決戦兵器級かと……。使用頻度がほとんどない主砲であることから、記憶が薄れていると推測します』


 皆が目を丸くして俺を見ているんだよなぁ。

 情報の出所はアリスであって、俺じゃないんだけどねぇ。


「戦艦を一撃で破壊できるとなると、かなり厄介な存在となるな」

「フェダーン。アリスの言葉を聞いてたの? 決戦兵器と言ってたわ。戦艦1隻ではなくて艦隊そのものを消し去るぐらいの威力を考えるべきよ」


 皆が改めて、壁に映し出された画像を眺め始めた。

 どう見てもピラミッドにしか見えないんだけど、この画像を見たカテリナさんはジグラッドと言っていた。

 アリスに意味を聞いてみたら、同じものだと答えてくれたんだけど、この世界にもピラミッドのような建造物があるのかもしれないな。


「ヒルダと相談せねばなるまい。国王が賛意を示しても貴族会議の同意も必要に思える」

「既存の権益を阻害するようでは、反感を受けるわよ。でも、領地はあるでしょう?」

「そうするしかなさそうだな。名誉貴族である準爵の上を考えないと……」

 

 カテリナさんとフェダーン様が顔を見合わせて笑みを浮かべている。

 絶対悪だくみをしているに違いない。それも自分には影響がないということを知った上でのことだろうな。


「最後に1つ聞きたい。彷徨う島の外殻は、島の主砲の直撃に耐えられるのだな?」

『要塞の基本は自らの主砲に耐えることですから、数発なら耐えられるのではないかと推測します。さすがに連続して受ければ破壊も可能だと推測します』


 カテリナさん達が顔を見合わせている。

 やはり王家に献上するのが一番だと思うんだけどねぇ……。


「ハーネスト同盟には見付けて欲しくないわね」

『リオ殿には申し訳ないが、再度の調査に行ってもらうべきじゃろうな』

「ドミニク殿。ウエリントン王国の依頼として受けて貰えぬか? リオ殿に更なる調査を」


 カテリナさんと導師の話に頷いたフェダーン様がドミニクにお願いしている。

 王国の名を冠した依頼となれば、騎士団は受ける外にないようだ。義に反するような依頼は却下できそうだけど、調査となれば断れないだろう。

 渋々ドミニクが頷いている。


「ついでに、各階層の図面を持って来てくれない? アリスの話しでは、あの島なら可能かもしれないと言ってたわ」

「了解です。調査の範囲は我々で動かせるか。それと更なる仕様の確認でよろしいですね」

「それで十分だろう。仕様の詳細が分かった段階で王都に向かい、ヒルダと調整することにしたい」


 数日は掛かりそうだな。

 荷作りを行って、直ぐに出掛けてみよう。


 ヴィオラに戻ると、アレク達の待つデッキに向かう。

 次の狩りに同行できないと断って、彷徨える島の再調査に向かうことを告げた。


「全く貧乏クジを引いたものだな。だが、王国の危惧も分かるつもりだ。万が一、向こうが先に動かしでもしたら、この大陸が戦乱に巻き込まれかねない。先に島を動かせば、向こうもおいそれとは攻めてこんだろう」

「宝石を見付けたら見せて頂戴。きっと大きなのがあると思うの」


 サンドラの言葉に、シレインまでもが頷いている。夢見る年頃は過ぎてると思うんだけどなぁ。


「おもしろそうなものがあれば持ち帰りますよ。それでアレク達の次の狩場は?」

「星の海に近付くそうだ。水の魔石が値上がりしているようだと聞いたぞ」


 魔石は単体でも組み合わせても活用ができるらしい。

 水の魔石だけではないのだろうが、値上がりしているなら星の海周辺は良い狩場だ。


 アレク達に別れを告げると、部屋に戻って支度を整える。

 と言っても、腰のバッグに入った魔法の袋の中身を確認するだけなんだけどね。

 旅行用のトランク3個分ほどの収容能力があるから、ブランケットまで入れられる。

 水と携帯食料、ジェル状の燃料を使うコンロに食器が2つあれば十分だろう。

 着替えは【クリーネ】を使えるから持つ必要もない。

 リボルバーと20発ほどの弾丸を確認して、準備を終える。


「出掛けるんですって!」

 

 扉が乱暴に開きフレイヤが飛び込んできた。


「できれば3日程度にしたいけど、4日目には帰ってくるよ。島は無人だから心配はない。フレイヤの方こそ気を付けてくれよ」

「軍の飛行機が同行してくれるから助かるわ。でも1時間も飛行できないのよね」


 おかげで偵察が主要な任務になっているらしい。2時間は欲しいところだな。そうすれば狩りにだって使えそうだ。


 互いにハグをしてキスをする。部屋を出る俺にフレイヤが軽く手を振ってくれる。

 片手を上げて応えると、カーゴ区画へと急いだ。


「全く、人使いが荒いのう。まあ、若い時分には稼いだ方が良い」


 ベルッド爺さんが出発の用意をしてくれる。

 苦笑いで応じたけれど、ボーナスを期待して良いのかな? 取らぬ何とかだけど、少しは前向きに考えてみるか。


 アリスのコクピットに納まると、舷側が開くと同時にヴィオラを後にした。

 滑るように緑の回廊を抜けて砂の海を滑空していく。


「場所は覚えてるんだろう?」

『もちろんです。尾根の監視装置の範囲外に出たところで亜空間移動を行います』


 20km四方は見通せるからなぁ。中継点には無くてはならないシステムだと感心してしまう。できれば、魔獣に対する防衛装置も欲しかったが、軍の陸上艦が魔獣を処置してくれるだろう。隠匿空間内は安全だ。


『尾根より30km離れました。亜空間移動を行います』

 

 砂の海の光景がぐにゃりと変わったかと思ったら、広い空間が目の前に広がった。

 どうやら、機動要塞の戦機を収容したカーゴ区画に出たらしい。


『シートの収納庫よりバングルを出してください。右腕のバングルを似せて作ってありますから、装飾品として見てくれるはずです』

「これだな? 何に使うんだ」


『小さな仮想スクリーンを作り出せます。【オープン】で開き、【クローズ】で閉じます。その後の表示内容は口頭で指示して頂くことになります』

「調査記録は、アリスにお願いするよ。カテリナさん達に説明しなければいけないだろうからね」


『了解しました。それでは、最初に制御室に向かいましょう。仮想スクリーンを開いてください。ここからのルートを表示します』


【オープン】と声を出すと、目の前に半透明の仮想スクリーンが現れた。3Dで現在地から目的地までのルートが点滅する破線で示されている。

 ちょっとしたナビだな。これなら俺でも迷うことは無いだろう。


 区画の奥に見える扉を、前と同じように手を触れることで開く。長い回廊が目の前に伸びている。

 ここを歩いて行けばいいのか。回廊の明かりは暗いけれど、照明を必要とするほどでもない。

 最低限の機能維持は部屋の照明を暗くするまでなんだろう。


 どんどん奥へと進む。たまに回廊の左右に扉があるけど、調査は後回しだ。

 やっと、この階の終点に着いた。壁の一部が窪んだ場所にあったのは階段だった。エレベーターもあるんだろうが、電力不足では動かせないということなんだろう。


「ここは何階になるんだろう?」

『31階です。制御室は45階ですよ』


 思わず、がくりと首を落とした。14階も階段を上るのか?

 早くエレベーターだけでも使えるようにしないと……。


 一歩ずつ階段を歩く。階段の横幅は2mにも満たない。非常用階段と考えるべきだな。階段の横壁に埋め込まれた照明が弱い光を放っているから、階段を踏み外すことは無さそうだ。


 それにしても、他の連中なら途中で一休みしたくなるような階段なんだが、息を切らすことなく俺は上り続けている。

 埋め込まれた魔石の影響なのかもしれないな。疲れがあまり出ない体になったということだろう。


 途中にある踊り場に扉があり、その扉に階高が表示されている。いつの間にか読めるようになった文字で示された階高を頼りに階段を上り続けた。


「ようやく45階だ。この扉を出れば良いんだね」

『仮想スクリーンで確認しながら制御室に向かってください』


 回廊に出ると左手に進む。やがて左手に新たな回廊が現れた。

 ここを曲がるのか……、この回廊の突き当りが制御室になるらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ