M-055 彷徨う島を探そう
彷徨う島の捜索をウエリントン王国でも行うことに話が流れるのは仕方がないのだろう。
その方法について導師が新たな船を作ると言い出した。
俺の提案した飛行船を作ることで、広範囲の探索を行うらしい。フェダーン王妃が同意したから、資材は次の補給艦が運んでくるのだろう。
だけど、出来上がるのが1年ほど先になると導師が言った途端に、ほぼ全員の視線が俺に集まってしまった。
「そうなるわよねぇ。リオ君、やってくれないかしら?」
「できそうな気もしますが、もしそれを見付けた場合はどのように?」
その質問に再び会議室が煩くなってしまった。俺を気の毒そうに見ていたレイドラが会議室の扉を開けてコーヒーを頼んでくれたようだ。
王国の話だから、のんびりとタバコを咥えてコーヒーを味わう。すでにアリスから捜索は可能との連絡を受けている。
見つけたとしても、その後が面倒だろう。領有を下手に宣言しようものなら、他国との厄介ごとが待っているからね。
2本目のタバコを灰皿で揉み消した時、先ほどまでの喧騒が納まっていることに気が付いた。結論が出たのかな?
「リオ君が見つけたなら、リオ君のものよ。貴方の島にしてしまいなさい!」
「えぇ?」
思わず大声を出してしまった。それって拾ったものが勝ちということなのか?
とりあえず、王国に報告するのが筋なんじゃないかな。その2割を拾った者の取り分にするのが俺の常識なんだけど……。
「それが一番ね。リオ殿の判断で使えそうなら、リオ殿の物にすれば良いし、使えないようだったら破壊すれば良いわ」
「使えるか使えないかは俺の判断で良いと?」
『生憎と伝承以上の情報がないのじゃ。ワシもそれで良いと思うぞ』
休暇が無くなったと思えばいいか。衣食住が保証されてるんだから、これもサービスの内と諦めるべきなんだろう。
「出発は明日でいいでしょうか? 捜索期間も確定できませんが」
「次の狩りは近場で行うわ。軍が飛行機を2機貸してくれるそうだから、それほど危険はないと思うの」
「まさか、見付けるまで帰ってくるなと?」
「そこまでは言わないけど、確定が欲しいところね。場合によっては捜索範囲を明確にして、その範囲内に彷徨う島が無いとの確認でも十分よ」
それなら10日も掛からずにできそうだ。何度かそんな捜索を繰り返して星の海全体の調査を行う気なんだろう。
俺が了承を告げると、直ぐに話題が変わる。今度は導師の提案した飛行船のことだ。やはり有効性は理解しているようだな。俺の最終案が乗員20名以上ということなんだが、フェダーン王妃は5人程度でも十分に役に立つと判断したようだ。
「今の飛行機の最大の課題は稼働時間にあるの。この飛行船にはそれを気にすることも無くなるのね。飛行高度と速度は?」
『設計推定値では上空1ケム(1500m)、時速は100ケム(150km)程度になるじゃろう。これは最低でもという言葉が付くぞ』
「なら、段階的に多くしていけばいいわ。最初は5人、次は10人という感じね」
「予算は軍から?」
「必要な機材と技師は確保するわ。導師の好きなように使ってください」
『一応、アイデアはリオ殿から貰っておる。パラメントの登録はリオ殿として欲しい』
「優秀な人材は王国としても優遇するわ。総建造費の1割がパラメントだけど、国王と相談した方が良さそうね」
ひょっとして、特許で食っていけるということなんだろうか?
それもおいしそうな暮らしだけど、暇を持て余しそうだな。やはり、たまの休みをどう過ごすか悩むぐらいが俺には合っていそうだ。
会議が終わると、皆で食事をとりにテントに向かう。歩いて20分はなんとかしたいところだ。荷台にベンチを乗せた三輪自走車を数台確保しなければ、あちこちからクレームが出てくるんじゃないかな?
ヴィオラでの食事に比べると、新鮮な野菜や果物が混じるから嬉しくなる。やはり小さくてもいいから農場を早めに軌道に乗せなくてはなるまい。
アレクが戦鬼で手伝うような話をしていたが、果たしてどうなったんだろうか? 酔って畝が波をうっているようでも困ると思うんだけどね。
食事が終わったところで、ヴィオラの4階にあるデッキに向かう。
まだフレイヤは帰ってこないだろうし、一応アレクには報告しといた方が良さそうだ。
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「何だと! 今度は宝さがしってことか?」
「一応、10日を予定していますから、次の狩りには同行できませんが、軍が飛行機を貸してくれるそうです」
「リオがいるから安全に狩りができるようなものよ。飛行機で代替えできるのかしら?」
「周辺監視がどうにかだろうな。となると囮役は偵察車を使うことになりそうだ。昔の俺達のやり方だが、危険でもある。王女様に期待したいところだ」
囮役の車が途中でトラブったら危険では済まされないな。
近場で小さな群れを狩ることになるんだろう。それでも、ここなら魔石が多く手に入るに違いない。
「でも本当にあるのかしら? おとぎ話で母さんが話してくれたけど」
「それを探す西の王国の陸上艦を、リオが見たのなら信憑性が高まる。だが、本当にあるかは誰にも分からん話だ。
俺もフェダーン王妃の判断は正しいと思う。確かに軍事バランスが瓦解しかねない。だが、見付けたらリオの物とするのはおもしろい判断だ。お前の島になったなら俺達を招待するんだぞ」
「どうやってその島に渡るかの問題も出てきます。アリスなら容易ですけど、アリスが無ければ水面を進める陸上艦を作らねばなりません」
俺の話がおもしろかったのかアレクがワインを飲みながら大声で笑い声を上げた。たとえ見つけても、すぐに利用価値が無いことが分かったんだろう。
翌日。フレイヤの見送りを受けながらアリスと共に閉鎖空間を後にした。
果たして、上手く見つけることができるだろうか? 島というよりは機動要塞に近いようなことをカテリナさんが言っていたんだが……。
「先ずは星の海に向かって、上空から見てみよう」
『了解しました。高度2000、音速の2倍で急行します!』
音より早く飛べるんだから凄いものだ。フレイヤの持つ護身銃の弾速よりも速いんじゃないか?
一気に加速したアリスだけどコクピット内での加速感は余りない。それだけ軽減措置が上手く働いているということなんだろう。
30分も経たないうちに、眼下に星の海が現れた。湖沼地帯の水面がキラキラと光っている。
さて、どうやって探索したものか……。
『東西100kmを南北1000kmの帯で探索します。画像記録を取って数日後に画像を比較すれば彷徨う島なら発見できるのではないでしょうか?』
「了解した。狩りと一緒だな。時間差が大きいだけの話になる」
狩りの先行偵察では動体センサーが有効だ。今回も相手が動くならそれが一番に違いない。
「それと、人工物とのことだろうから金属反応も確認しといた方がいいだろうな」
『重力変異の異常の有無を合わせて確認します。発熱反応もです』
いろんな方法でアプローチしてくれるんだろう。俺も、周囲を見てないといけないだろうな。画像記録はアリスが撮ってくれていても、水面を動く島が肉眼で見つかるならそれが一番だ。
あの水陸両用艦でもマストや舷側に多数の見張りを配置して、島の発見に努めてるに違いない。
『それにしてもたくさんの湖沼がありますね。島も大小含めると千を超すかもしれません』
「水上での探索は時間が掛かりそうだね。だが、あの1隻だけではないんじゃないかな? その内に別の水陸両用艦を見付けられると思うんだ」
別の水陸両用艦を見付けたのは昼過ぎの事だった。同じく水中に潜れる艦を数隻引き連れて探索をしているように思える。この辺りは星の海の東端に近い場所だから、中央に向かうにつれてまだまだ見つかるかもしれないな。
夕暮れが近づいたところで、大きな島に降り立った。岩だらけの島には雑木があるだけだ。島の大きさは直径1kmにも満たない。獣すら住んでいないようだが、ハトほどの大きさの鳥があちこちに巣を作っている。
睡眠はアリスのコクピットの中でするとしても、コクピットで火を使うことはできないからね。
焚き火を作って乾燥野菜と干し肉でスープを作る。パンは10日ぐらいは魔法の袋に入れておけば悪くなることもない。
薄いパンをシェラカップのスープに浸しながら食べる。
周囲は真っ暗闇だ。陸上艦との距離も200km上離れているから、焚き火を見付けられることはないだろう。
心配なのは水棲魔獣だけだが、この島は大きな湖の中にある。さすがに両声類に近い魔獣はいないはずだ。この辺りなら魚竜に近い形態をとっているんじゃないかな。
食事を終えるとコーヒーとタバコを楽しむ。
やはりこんな場所ではコーヒーが一番だ。たまに小さな物音がして銃を手にするんだけれど、魔獣が接近したならアリスが教えてくれる。問題は無いのが分かっていても身構えてしまう。
コクピットに戻ったところで、現在までの調査範囲を確認する。東西600km、南北100kmの範囲だ。これまでに見付けた島は大小合わせて300を超えているらしい。このまま星の海を西に向かうとなれば、島の数が千を超えるのは時間の問題になりそうだ。この中に、本当に彷徨う島があるんだろうか?
4日目で星の海の西岸にたどり着いた、
島の数は、すでに千を越えている。最後の島の位置を撮影したところで、一気に東に向かってアリスを移動させた。
これで、明日からは移動した島の存在を探す画像の確認作業が主体になるはずだ。
『それにしても6隻が捜索に投入されていたんですね』
「やはり、在ると考えての行動だろうな。だけど2隻は破壊されていた。星の海の水棲魔獣に対するためには、あの船が1艘では手に余るってことになるんだろうね」
残骸が浮かんでいただけだった。乗員はどうなったんだろうか? 近くに島も無かったから、食べられてしまったに違いない。悲惨な話だ。