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M-051 積極的に狩ろう


 ヴィオラが大きく進路を変えた。

 待ち伏せ地点を見付けたのかもしれない。アレクも今ではコーヒーを飲んでいる。ほろ酔い気分で出撃するんじゃないかと心配してたんだけどね。

 カリオンはジッと目を閉じて時を待っているようだ。ベラスコはジッと荒れ地を眺めているが、手がガタガタと震えているのが俺にも分かる。

 一度狩りをすればそんなことは起きないんだろうが、期待と不安が葛藤してるんだろうな。


 やがて進路を微調整しながらヴィオラが停船した。

 下から聞こえる物音は、獣機の出動する物音だろう。これから1時間ほどが一番長く感じる時間だ。


「リオ殿はいるかにゃ? 先行偵察の指示が出たにゃ」

「了解。直ぐに出るよ。通信はいつも通りでいいんだろう?」

「何も言ってなかったにゃ。いつも通りとレイドラ殿に伝えるにゃ」


 周辺の探索後に連絡すればいいだろう。符丁で通信を送って、問題があれば新たな通信回線の連絡をしてくるはずだ。

 俺がベンチを立ってデッキの扉を見た時には、すでにネコ族のお姉さんの姿は無かった。相変わらずの素早さだ。


「上手く誘導してくれよ」

「頑張ってみます。ベルッド爺さんに少し砲弾の炸薬を増やしてくれと頼んでましたから、少しはマシかもしれません」


 アレクに騎士の礼を取ると、アレクが立ち上がって答礼してくれた。互いに小さく頷いたところデッキを後にした。


 小走りにカーゴ区域に向かうと、すでに搭乗タラップがアリスに設けられている。ベルッド爺さんに軽く手を振ると、ベルッド爺さんが大声で俺の名を呼びながら舷側の武器棚に置いてある銃を指さす。


「あれを持っていけ。装薬は5割増しだぞ。弾は前と同じ4発だからな!」


 タラップに途中で舷側を見ると、確かに前の銃より少し太めのバレルを持つ銃が置かれていた。形は一緒だが、少し武骨に見えるのは弾丸を一回り大きくしたためのようだ。

 もう1度、ベルッド爺さんに手を振ってアリスのコクピットに入り込む。


「さて、しばらくぶりだ」

『私達だけで狩った方が効率的ですが、騎士団の運営を考えると問題もあるようですね』

「騎士団はチームプレーだからね。俺達が入ったことで乱さないようにしないと」


 それを知っているからこそ、ドミニクは俺に囮をやらせてるんだろう。周囲を俺達が監視していれば、余分なことを考えずに狩りに全神経を向けられる。トリケラを狩ろうという決心はそこにあるのかもしれないな。


『周囲100kmに魔獣の群れは2つです。どちらも草食魔獣ですから、こちらから手を出さない限り安心できます』

「その群れを狙う肉食魔獣はいないのかい?」

『今のところはありません。符丁でヴィオラに通信を送りました。1020時を持って作戦開始とのことです』


 結構早く穴掘りを終わりにしたみたいだ。ちょっと高度を取って様子を見てみると、落とし穴が2段に作られている。少し考えたのかな?

 最初の落とし穴で一斉射撃を行うのかもしれない。魔撃槍をヴィオラが新たに装備しているし、アレクの戦鬼の装備した魔撃槍の違いも考慮しているはずだ。


 時間が迫るまでアリスの手に乗って一服を楽しむ。次に一服できるのは狩りが終わってからになりそうだ。

 作戦開始5分前にコクピットに移動して、南に向かってアリスを移動した。

 

『作戦開始、1分前です!』

「了解。いつものようにトリケラの近くまで接近して銃弾を放つ。ゆっくり後退しながら再度放って後退だ」

『作戦開始します!』


 アリスの合図で、ジョイスティックを倒す。素早くアリスがトリケラの手前200m付近に移動したところでトリガーを引いた。

 銃弾の炸裂は前よりは華やかだけど、あれが当たっても転倒することはないだろうな。

 砂塵が去った後には、こちらに頭を低くした姿でゆっくりと移動を始めたトリケラの姿が見えた。

 体高は10mほどだが、全長は20mを越えているだろう。目に伸びた3本角は3m近くあるんじゃないか。

 傍で見たら、誰もが後ろも見ずに逃げ出すに違いない。

 そんな事を考えながら、アリスを少しずつ罠に向かって後退していった。


『食いつきましたね。次弾発射、いつでも行けます』

「なら、さっさと誘導するか」


 ゆっくりとした動作で、再びトリケラの手前に銃弾を放つ。

 炸裂と同時に砂塵からトリケラが飛び出してきた。慌てて後退したが、ジョイスティックの動きよりもアリスの行動が早かった。

 アリスがトリケラに背を向けて、罠に向かって滑走する。砂塵が後ろになびいているから、地上すれすれを滑走しているに違いない。

 悠々逃げることができるけど、ここはトリケラが追い付けそうで追い付けない微妙な速度が要求されるのだ。

 トリケラから100mほどの距離を保ったまま、俺達は罠へと近付いていく。


『ヴィオラから通信。「迎撃準備完了。ヴィオラから300スタム(450m)で右に回避せよ」以上です』

「そうなると、残り2kmほどだな。ヴィオラのマストが肉眼でも視認できる」


 改めて後ろに1発銃弾を放つ。当たろうが外れようが問題はない。少し相手をすることで確実に食いつかせるのだ。


『右転回まで、残り200m。……100m。……今です!』


 今度もジョイスティックよりもアリスの動きの方が早かったぞ。足を蹴りだすような感じで体全体が右に向くと同時に移動速度が上がった。


 後ろに大きな砂塵ができたかと思ったら、砲弾の炸裂がその中で始まった。

 狩場を大きく迂回して、ガリナムの船首部分にいるカリオンのところに向かう。カリオンの後ろに着いたところで、傍に置いてあるアリス専用の銃を握ったところで、再び艦砲の一斉射撃が行われた。


「遅れました。加勢します!」

「なんの、ベラスコがいるとだいぶ違うな。ベラスコも1頭を倒しているぞ」


 俺が到着する時点で、ほとんど狩りが終わっているからねぇ。今回も似たり寄ったりというところなんだろう。

 素早く魔撃槍で砲弾を3発放てば、交換した魔撃槍は落ち武者狩りを行うようなものだ。

 艦砲にも狙われているはずだし、ゼロ距離射撃的な運用で放つ獣機の2連装の銃だって馬鹿にはできない。


 それでも落とし穴を作ってできた土塁の一角でしばらく銃を構えていたら、ヴィオラから狩りの終了を告げる通信が入って来た。

 そうなると、俺の任務は周囲の監視になる。

 カリオンに、周囲の索敵を行うと告げて、その場を後にした。


『周囲は静かですね。50km範囲の探索を継続します』

「それぐらいで十分だろう。何かあっても1時間は余裕を持てる」


 それでも間に合わないような事態なら、俺達が介入すればいい。

 帰ったら、さぞかし王女様の自慢話が聞かされそうだな。その後はベラスコの話が続くのだろう。

 そんな自慢話に相槌を打ちながらワインを飲むのは、さぞかし美味しく感じるに違いない。


 2時間ほど過ぎたところで、ヴィオラより帰還指示が出された。帰投する前に一回り大きくヴィオラの周囲を探索する。

                 ・

                 ・

                 ・

「今度は、この群れになるのね」

「距離はおよそ20カム(30km)にも満たない。2時間はかからないんじゃないかな」


「肉食獣が狙っているようですが?」

「まさか、襲わせた後で肉食獣を?」


 ドミニクの驚く顔を見ながら頷いた。

 少しリスクは高いが基本的に先ほどのトリケラ狩りと同じことだ。胃を解体すれば草食獣の魔石だって得られると思う。


「おもしろい狩りになりそうね。基本はいつもと同じということで納得してもらいましょう。でも、狩りは3時間後になりそうよ。砲弾の装填は意外と面倒らしいわ」


 レイドラがメモを書いているのは、ネコ族のお姉さん達が各部署の責任者に伝えるための伝言なんだろう。


「俺もアレクのところで待機しますよ。王女様とベラスコの初陣でしたから、今頃は酒盛りの最中でしょう」

「あまり飲まないように伝えてほしいわ。3時間後に再び狩りなんだから」


 それはそれというやつだろう。少なくともボトル2本は確実だと思うな。

 軽くドミニクに頭を下げて、アレク達のいるデッキに向かった。


「遅くなりました」

「おぉ、待ってたぞ。全員揃ったところで再び乾杯だ!」

 

 サンドラが渡してくれたグラスにリンダがワインを注いでくれた。残り少ないグラスにワインを注いで回ってる。


「ローザ王女とベラスコの倒したトリケラに!」

「「乾杯!!」」


 テーブルの下にはすでに2本のボトルが転がっていた。少し来るのが遅かったかな?


「上手く狩れましたね」

「中々手ごわい相手じゃったが、格の違いを見せてやったぞ」

「模型では散々相手にしたんですが、本物となると迫力が違いました」


 王女様とベラスコの感想を聞いてアレクが頷いている。少し酔ってるのかな? 次も同じと思うんじゃないぐらいは言うんじゃないかと思ってたけど。


「そうそう、次の狩りは3時間後になるそうです。今度はチラノですよ」

「チラノだと! 数は?」


「数頭です。10にはなりません。トリケラを襲った後で狩ることを考えてました」

「手負いが相手か……。ベラスコ、油断するなよ。魔撃槍の弾丸が無くなったら、ぶんなぐっても構わん。だが絶対に噛みつかれるな」


「戦機の胴さえかみ砕く。魔撃槍を前に出したところを、隣の奴が魔撃槍で殴るのが基本だ」

 

 カリオンがグラスを口から話して呟くように言った。

 やはり肉食魔獣は鬼門なんだろうな。少し離れたところからレールガンを構えていた方が良さそうだ。


「そうなると、1日で得られた魔石のレコードを作りそうね」

「まったく退屈はせんな。リンダも心して獣機を守るのじゃぞ」


 確かに退屈はしないだろう。

 でも、今この場では2人の初陣を祝ってあげよう。


 作戦開始前に、コーヒーを飲んで酔いを醒ます。

 もっとも、アレクは少し酔わせといた方がいいのかもしれないけど、俺達はそうはいかないからね。

 定刻の30分前にヴィオラから発進して再び状況を確認する。どうやら肉食獣の狩りは終わったようだ。

 さすがに無傷とはいかないようであちこちに傷を負っている。トリケラの群れは11頭だったようだ。腹から内臓を食べているけど、骨を残してちゃんと食べるのかな?


 ヴィオラからの作戦開始の合図と共に、食事中のチラノの真ん中に銃弾を炸裂させた。

 獲物から顔を上げて俺達を睨んでるから、食いつきは良いようだ。


「アリス始めるぞ!」

『了解!』


 再び狩りが始まる。

 同じように右に迂回して銃を構えたんだが、最初の一斉砲撃でどうやら片付いたらしい。やはり手負いの傷が深かったんだろう。


 狩りが終わってからが夕食だから、俺達が夕食を取ったのはほとんど深夜に近い時刻だった。チラノの胃からはトリケラからも魔石が取れたし、チラノはこの辺りの肉食魔獣の頂点を極めているような奴だ。得られる魔石も1頭辺り10個近いそうだ。それに上位魔石が混じるんだから、ドミニク達の笑いが止まらないだろうな。


 最後の偵察では周囲100km内の群れは1つだけ、西に動いていたから今夜は安心して眠れるだろう。

 フレイヤも監視で気疲れしたんだろうな。ベッドに入るなり寝息を立てている。

 今日の狩りを思い浮かべながら俺も眠ることにした。


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