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M-043 王国艦隊と共に


 王都に到着したのは、8日目の事だった。

 通常なら夜間は昼間の半分程度の速度で走行するのだが、周囲の魔獣の動きをアリスと俺で監視するから、安全にコースを取れたことが大きいのだろう。

 

 陸港に着いた途端に、ドミニクはカテリナさん達と出掛けたみたいだし、クリスもどこかに出掛けたようだ。

 アレクは陸港の酒場に出掛けたのは何となく理解できるが、一緒にベラスコを連れて行ったんだよな。だいじょうぶだろうか?


 俺はフレイヤに連れられて陸港の店を巡ってるんだが、特に何かを買う様子でもない。俗にいうウインドショッピングというやつなんだろう。

 

「臨時ボーナスを貰ったんでしょう?」

「中位の赤が2つだから銀貨100枚だ。あまり高いものはダメだよ」


 俺の言葉を嬉しそうな表情で聞いているフレイヤを見ると、少しぐらい高いものでもと考えてしまうのが男心というものだろう。

 さんざんお店回りをして、フレイヤが俺に強請ったのは赤い宝石の付いたイヤリングだった。それほど高くなかったから、フレイヤも俺と一緒で貧乏性なのかもしれないな。

 ついでに綿の上下とサンダルをお揃いで購入した。普段着ている服よりもゆったりしているから休んでいる時にはちょうどいいだろう。

 

「しばらく帰ってこれないかもしれないわよ」

「そうなると、嗜好品だね」


 フレイヤの一言で、酒とタバコにコーヒーを大人買いすることになった。フレイヤは紅茶のセットと葉も購入している。俺と違って紅茶党なのかな?

 各自に大型の魔法の袋が1つずつ配られたから、買い込んだ荷物を次々に入れていく。

 ギジェで購入したトランクなら5つ分は入るらしいから、かなり余裕を持って買物ができる。


 翌日はツマミと蒸留酒を買い込んだ。果物が原料の蒸留酒らしいから結構楽しめるんじゃないかな?

 3日目はヴィオラの船室でのんびりとくつろぐ。

 フレイヤはサンドラ達と買物に向かったけれど、これ以上何を買うんだろう?

 小さな船室なんだから、あまり買い込むとベッド以外の空間が埋まってしまいそうだ。


 その夜、俺達を会議室に集めたドミニクから王宮との交渉の結果が知らされた。

 やはりいろんな問題があったに違いない。


「巡洋艦を2隻に駆逐艦を6隻派遣するそうよ。補給船が3隻同伴するわ」

「一大艦隊じゃないか! そうなると、半数は残りそうだな」


 ドミニクの報告にアレクが頷いている。俺にはどういうことかわからないが、アレクが納得できるなら問題あるまい。


「獣機が1個小隊。戦機を5機派遣するそうです。ですが……」

「ウエリントン王国の戦姫がその内の1機になるの。長らく動かせなかった戦姫を動かせる王女が現れたみたい」


 レイドラの話に続けたドミニクの言葉に、俺達は顔を見合わせることになった。

 既存の戦姫が動くのか? アレクの話では王宮のお飾りになっているとのことだったんだが。


「動かせると言っても、戦機の機動にも到達していないそうよ。かろうじて動くと言った方がいいのかもしれない。でも、動く戦姫が王国に存在するとなれば周辺諸国はあまり良い気分にはなれないでしょうね」

「ある意味、放逐に見えなくもないが、向こう見ずな連中を牽制できそうだな」


 たぶん一石二鳥の考えなんじゃないか? となると、俺の場合はどうなるんだろう。かなり立ち位置が難しくなりそうだ。


「課題はそれだけになるわ。隠匿空間の三分の一をウエリントン王国の所属するブラウ同盟の軍港とするそうよ」

「となると、東のコリント同盟はなんとかなっても、西のハーネスと同盟とは睨み合いということになりかねないな」


 その辺りは、王国の問題であって、俺達騎士団には関わり合いが無いんじゃないかな? 


「これが、区割りになります。三分の一が王国で六分の一がギルド、二分の一が我等ヴィオラ騎士団になります」


 レイドラがテーブルに広げた地図を皆で眺める。出入り口から500スタム(750m)ほどのところに南北200スタム(300m)東西20スタム(30m)の桟橋を3基作るらしい。

 西側が軍用で、中央が騎士団も使える多目的桟橋だ。ヴィオラの桟橋は中央にある多目的桟橋から500スタムも南に離れている。

 軍用と多目的用が200Stほどの距離だからだいぶ離れている。つまらない諍いを避けるためなんだろうが、将来的にはヴィオラの版図だけでも桟橋を増やせそうだ。

 そういう意味では軍用桟橋の西もかなり余裕がある。新たな桟橋を作れば機動艦隊を丸々収容できるんじゃないかな。


「奥が住居用になるんだな。工房が3つに、商会の建物が6つは確定ということか。王宮からは男爵クラスということなんだろうが、武官として軍用区に来るなら問題はあるまい」


 アレクが軍の管轄区域の建物を指さして呟いた。

 

「王女の後見人であるウエリントン王国妃の1人、フェダーン様が指揮するとのことでした」

「フェダーン王妃はナルビク王国からの輿入れだったな。ウエリントン王国だけの話とはならなかったのか……」


 レイドラの話に、アレクが独り言のような呟きをもらした。

 ウエリントン王国だけでは後々の課題が対処できかねるということから、将来的には隣国の協力を得るということも視野に入れたということなんだろう。

 

「フェダーン王妃は公平な方だと、ヒルダから聞いたことがあるわ。とりあえずは問題なさそうに思えるけど」

 

 カテリナさんの言うヒルダという人物がどんな人かが問題だな。後でアレクに聞いてみよう。


「出発は10日後。陸港の外に軍の艦隊が集結するから、ヴィオラとガリナムが先導することになるわ」

「それまでは休暇でいいのか?」

「陸港から出ることを禁じます。一応のかん口令がフェダーン王妃から出されたわ」


 10日もじっとしてるのは退屈だな。まだ見ていないお店もありそうだからそれを回ったとしても、2日ぐらい潰せるだけだ。

 アレク達とデッキで宴会をすることになりそうだ。適当に飲んだとしても……、もう少し酒を買い込んでおくか。


 翌日は、再びフレイヤとお店を巡る。今度は雑貨屋や武器屋も見てみることにした。

 花の種があったから、小さなスコップとジョウロを一緒に買い込む。野草が咲いていたけど、花畑を作っても良さそうだ。

 武器屋ではいろんな剣や拳銃を売っていたが、俺の持つようなリボルバーはまだ作られていないようだ。

 バレルが上下に並んだデリンジャーのような拳銃が並んでいた。簡単なカートリッジを使用する後装式だから再装填の時間を節約できそうだけど、2発毎に再装填ではねぇ。

 フレイヤの銃はどれなんだろう?

 騎士ではないから陸港ではホルスターごと外しているんだよな。


「フレイヤの銃はどれぐらいなの?」

「私のはこれぐらいかな」


 棚に並んだ銃の1つをフレイヤが指さした。

 たぶん護身用なんだろう、バレルの長さが俺の中指ほどだ。万が一を考えるとちょっと問題だな。


「これをプレゼントするよ」

「良いの? ほとんど1カ月のお給料よ」


 フレイヤがこれで身を守れるなら安いものだ。バレル長はおよそ20cmはあるから命中率が格段に上がるし、口径も少し大型になる。上手く行けば1発で相手を倒せるに違いない。

 ホルスターの外側に弾丸ポーチも付いているから、弾丸を30発ほど買い込んでおく。

 にこにこしながらフレイヤが店員から包を受け取り、次の店に向かうことになった。


 いつの間にか俺達の部屋が荷物で溢れてしまった。

 毎日お店を回っていたからなんだろうが、少しは計画性を持った方がいいのかもしれない。魔法の袋2つではやはり足りなかったみたいだな。

 とりあえず、壁の隅に積み上げたが、振動で荷崩れが起きないか心配になってしまう。

 

 そんな休日が続いて、いよいよ俺達が陸港を出発する時がやって来た。

 だいぶ待ったからね。皆の顔が輝いて見える。

 ヴィオラがゆっくりと陸港を離れ、歩く程度の速さで大通りを目指すと、その後ろにピタリとガリナムがついてくる。


 陸港の外側に広がる広大な空き地には、軍用艦がずらりと並んでいた。大型の輸送船が5隻も揃っている。ドミニクの話では3隻だったが、搭載貨物の関係で増えたのかもしれないな。


 通りを進むと、屋上に大勢の人達が集まって手を振っている。これだけの艦隊を見るのは久しぶりなんだろう。

 いつの間にか速度が上がって、時速10km近くになっている。都の北を守る長城に到達するのは明日の夜近くになるのだろう。

 フレイヤ達の部署も、人数を半減してそれまでは休息を取るらしい。


 長城を抜けて街道を進むころになると、艦隊は2列縦隊に陣形を変えた。ヴィオラとガリナムは併進して先陣を切り、俺達のすぐ後ろには巡洋艦がその威容を見せていた。

 船尾のデッキでその姿を眺めながらワインをフレイヤと眺めているのだが、ヴィオラが元巡洋艦だということが少し信じられないところだ。

 形がまるで違ってるんだよな。ヴィオラはどちらかといえば船体断面が台形なんだが、後ろの巡洋艦は楕円だ。ヴィオラの方が底面積が広い気がする。

 舷側砲も持って入るんだろうが、背負い式の2連装砲塔は初めて見るものだ。

 この世界の大砲は全て前装式だと思っていたんだが、あれだと後装式に見えるんだよな。後装式の大砲は軍が独占してるんだろうか?


「あの大砲は凄いな」

「軍だからねぇ。あれは魔撃槍なのよ。短時間に3連射ができるわ」


 それなら可能だろうが、そうなると駆逐艦も同じように装備している可能性もありそうだ。ガリナムでさえ搭載しているぐらいだ。

 ヴィオラも魔撃槍をいくつか艦砲として装備したらしいけど、全て換装しないのはかなり高価な品だからだろう。


 ギジェの工房都市近くを通り過ぎると、俺達の艦隊の上空を複数の飛行体がたまに進行方向へ向かって飛んでいく。

 座布団のような形をしているが1辺の長さが俺の身長の2倍以上ありそうだ。

 3階の後部デッキでくつろいでいたアレクに聞いてみると、軍の飛行機らしい。


「200スタム(300m)ほどに上昇できるらしいから艦隊周囲の状況観測をしているんだろう。アリスと比べると性能は段違いに低いが、それでも10カム(15km)四方は十分に偵察できる。だが稼働時間が半時間に満たないらしい」


 それでもマストから周囲を眺めるより、広範囲を探ることができる。軍は恵まれているようだな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] リオのボーナスで得た魔石が総価値の0.5%未満って 討伐は全てリオなのに 中抜きがガルトスの臨検よりエゲツない
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