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M-041 カテリナさんと一緒に


「なんだと! では今回は狩りではなく、古代帝国の遺跡が目的だったのか!」

「だが、5千年以上前の代物だ。今でも使えるというのが信じられんぞ」


 アレクとカリオンが珍しくグラス片手に議論を重ねている。

 サンドラは笑顔で俺を見ているし、ベラスコは遠い目をして砂の海を眺めていた。


「でも、ドミニクがそれを知ったのは……。レイドラということね。やはり竜神族の先祖は古代帝国と関係するようね」

「砂の海の中にあっては、ちょっとした楽園に思えますね。大きさは3ケム(4.5km)を少し上回るぐらいですが、閉鎖空間のようです」


 シレインの言葉に重ねるように俺が言葉を繋げる。

 おもしろい場所だけど、問題が無くはない。その存在を他者が知ったらどうなるんだろう? 争奪戦が始まりそうだ。


「場所を確認したところで、早々に王国に帰ることになりそうだな。その情報を誰に売るかで俺達の存在が浮沈することも考えねばならん」

「誰でも良いということにはならないと思いますよ。たぶん、売り先は王国そのもの。しかもすべてを売ることはないと思います。案外騎士団の拠点になるんじゃないかと」


 星の海の北西、それは砂の海のかなり北に位置する。周辺には中型や大型魔獣が豊富だから、狩りの前線基地として申し分ない。

 王国の飛び地として位置付けたところで、魔石狩りの拠点としたいところだな。


「リオの言う通り、小さな工房都市としても使えそうだ。となれば他の騎士団への開放も視野に入れねばならんだろうし、他の王国にとってはおもしろくない話になるな」

「機動艦隊も来るということ?」

「足の速そうな軍艦が数隻というところだろう。確かにリオの考えも悪くない」


 確か3つの機動艦隊を持っているような話だった。1艦隊をこちらに派遣するのは、周辺王国との軍事バランス的に問題がありそうだが、各艦隊から1、2隻を引き抜いて臨時の艦隊を作ることは可能だろう。

 大型艦は足回りが遅いから、魔獣に襲われそうだな。ガリナムのような軽快な動きが可能な駆逐艦なら申し分ないんだが。


 就寝前には、フレイヤとワインを楽しむ。

 話題は、俺の偵察で見つけた不思議な空間の話だ。


「蝶が飛んで花が咲いてるなんて……、この砂の海では信じられない世界ね。農場を作っても良さそうに思えるわ」


 さすがは農家の長女だ。俺もそれには賛成だ。生鮮食品なら騎士団に売れそうだし、拠点で暮らす人達のサイドビジネスにもなるんじゃないか。


「明日には見ることができるよ。たぶん中の世界に、ヴィオラを進めることになるんじゃないかな」


 ワインの無くなったグラスを魔法で清浄にしたところで、俺達はベッドに入った。

                 ・

                 ・

                 ・

 朝早くに会議室に呼び出された。

 部屋の中には困った表情のドミニクの隣に、わくわくした表情で俺を見ているカテリナさんがいる。


「母さんが是非ともリオと先行偵察に向かうと言って……」

「アリスのコクピットは戦機並よねぇ。私をシートの後ろに乗せてほしいんだけど?」


 どっちが親なんだか分からなくなる会話だが、アリスに2人乗れるんだろうか?

 そんな疑問が脳裏に浮かんだ途端、アリスから『問題ありません』と返事が返ってきた。連れて行ってもいいけど、おとなしく乗っていてくれるかが心配だな。


「一応可能ですが、シートの後ろに長時間立つことになりますよ」

「構わないわ。疲れたら床に座ればいいだけでしょう」


 前向きな考え方だが、床も全周スクリーンだ。一応、靴の汚れは落としといてくださいとお願いしといた。


「それで先行偵察に出掛けるのは?」

「リオの告げた座標に到達するのは昼近くになるわ。先に出掛けて問題の青銅円柱を出現させてほしいの。ヴィオラは出現した空間にガリナムと一緒に入るわ」

「入ったことを確認したところで、門を閉じればいいですね。中の世界を確認しながら団員の休養を兼ねられます」


 レイドラがコーヒーと灰皿を運んでくれた。この会議室でタバコを楽しめるとは思わなかったが、舷側の窓と船尾の窓を開けると換気ができると考えたんだろう。

 カテリナさんが直ぐにタバコを取り出したから、今まで我慢してたのかな? 


「アリスのコクピットは禁煙だと思うけど、リオ君も愛煙家なのよね。ずっと我慢してるの?」

「たまにコクピットを出てアリスの手の中で休憩してます。タバコは外で吸うのが一番ですから」


 カテリナさんが途端に笑顔になったのは、自分もやってみたいと思ったのかな? まったく活動的な女性だ。ドミニクがおとなしいのは父親似なのかもしれない。


 目標地点に近づいたところで、カテリナさんに先行偵察に出掛けることを告げた。

「ちょっと待ってね」と言いながら急いで部屋を出て行ったけど、ここで待つことになるのかな?

 タバコを1本吸う間もなく、バタバタと足音を立ててカテリナさんが現れたけど、艦内でいつも着ている綿のワンピースではなく、綿の上下に革のワンピースを着ている。ベルトには拳銃まで下げてるけど、アリスの中なら安全なんだけどなぁ。

 真新しいブーツは、俺の注意をちゃんと聞いていたんだろう。


「これでいいわね。さぁ、出掛けましょう」


 カテリナさんは、早く行かないと誰かに取られてしまうというような感じだ。

 椅子から腰を上げて、ドミニクに出発することを告げる。


 ともすれば俺を追い抜いていきそうな勢いで、カテリナさんがカーゴ区域に向かって通路を走る。

 アリスは逃げないからだいじょうぶなんだけどね。それに目標物も魔獣じゃないから急ぐ必要はさらさらない。

 カーゴ区域でアリスに搭乗タラップを移動していたベルッド爺さんもカテリナさんを見て口を大きく開いていた。たぶん呆れてるんだろう。


「カテリナ。リオと出掛けるんか?」

「そうよ。噂の戦姫の機動は一度体験したかったの」

「ちゃんと掴まっとるんじゃぞ。それと、あんまりリオをからかうんじゃないぞ!」


 ベルッド爺さんとカテリナさんは知り合いなのかな? 

 アリスに乗るのを止めなかったのは、カテリナさんがかつて同じように戦機に乗ったことが何度もあるということなんだろうか?


 とりあえずカテリナさんを先にコクピットに乗せて、その後にシートに納まる。胸部装甲板が閉じ始めると、全周スクリーンが周囲を映し出す。その光景はカテリナさんにとっては初めての出来事なのかもしれない。何も言わずに俺の肩を握った力が増した。


「素晴らしいわ。戦機では前方方向が限定的に映し出されるの。でもアリスは違うのね」

『必要に応じて仮想スクリーンを作ることもできます』

 

 後ろから「へぇ……、凄いわね」なんて声がするから、仮想スクリーンをカテリナさんの近くに作ったのかもしれない。


「お客さんがいるから、少しゆっくり行くぞ。アリス、発進だ!」


 ジョイスティックを前方に倒すと、ゆっくりとアリスが動き出した。カーゴ区域の通路を歩き、舷側の開口部から真横に飛び出す。

 ヴィオラの進行に合わせた滑空状態を少しずつ早めると、たちまちヴィオラが後方に消えていく。


『ヴィオラからの距離5km。周囲30kmの脅威は、南西方向の巨獣の群れだけです』

「ヴィオラと接触する可能性は?」

『移動方向が南東ですから離れていく一方です。進路変更をしない限り問題はないと推測します』


 とりあえずは、目標地点に向かえばいいだろう。時速80kmほどの速度で円柱のあった地点に急ぐ。


「アリスとリオ君の会話は人間同士の会話に聞こえるわ。戦機の操縦は孤独なものと言われてるけど、リオ君達は違うのね」

「アリスは俺にとって友人以上の存在です。俺にとっては人間と変わりがありません」


 たぶん後ろでは面白そうな表情で俺の言葉を聞いてるんだろうな。

 目標に到達したところで、周囲を旋回しながら広域の探査を行う。俺達をジッと見ている騎士団なんて存在があったなら、かなり厄介な問題が出てきそうだ。

 幸いというか、やはりというかこの近くで狩りを行っているような酔狂な騎士団はいないようだ。


 円柱に戻ったところで、コクピットからアリスの手に乗ると、カテリナさんもコクピットから出てきた。

 用意したポットのコーヒーをカップに注いでカテリナさんに渡すと、タバコを楽しみながらコーヒーを飲んでいる。

 その辺りは俺と趣味が一致するが、コーヒーに砂糖を入れないのはどうかと思うな。


「あれが青銅の円柱ね。向こうの尾根に見える三角錐が、リオ君の言う目玉があるピラミッドということかしら」

「円柱は書かれた文字を詠唱することで地中より高く伸びていきます。あの眼玉で見たものが、中の空間にある建物の壁に投影されるようです。建物の中からでも青銅の円柱の制御が可能なように思えます」


「やはり、古代魔道文字だわ。これを読める人間は世界にも限られているでしょうね。ある意味鍵として使えるけど、邪道のパラケルスも少しは役に立ったということになりそうだわ」


 それも運命ということになるんだろうな。だが、パラケルスの研究成果は全てアリスが継承しているのかもしれない。

 

『ヴィオラが10kmまで接近しています。そろそろ隠匿空間を出現させてもよろしいのではないでしょうか?』

「そうだね。では右の円柱までこのまま移動してくれ。コクピットの中で詠唱するよりはいいんじゃないかな」


 アリスが数十m離れた円柱にゆっくりと移動を始めた。俺達は手に乗ったままだけど、ほとんど揺れを感じない。それでもカテリナさんは俺にしがみ付いてるんだけど、俺よりはアリスの指にしがみ付くべきだと思うな。


「ここでいいだろう。では始めるぞ!」

 

 俺の詠唱が終わると同時に振動が伝わる。益々カテリナさんがしがみ付いてくるけど、目はしっかりと前方の光景を見据えていた。

 振動が終わると2つの円柱の間に、別の世界が現れる。その光景を呆然とした表情でカテリナさんが見ていた。


「アリスが閉鎖空間といったわけが分かったわ。確かに失われた魔道技術に違いないけど、私に再現できるかしら……」

「調査もほどほどにしないと閉鎖空間に閉じ込められそうですよ。問題はこの円柱の強度です。場合によっては破壊されてしまいかねません」


 他者の利点は別な者にとっての欠点にもなりかねない。王国間の関係では破壊を考えるものが出てこないとも限らない。それをどうやって防ぐかが問題だろうな。

 周囲の警戒をどんなに厳重にしたとしても、テロ行為を全て防ぐことは困難だ。


 やがて東の方角からヴィオラが見えてきた。

 アリスのコクピットに再び納まったところで、閉鎖空間に入るための進路をヴィオラに伝える。


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