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M-040 古代帝国の遺産


 目の前に青銅の円柱が数十mの高さにそびえている。

 複雑な文様が刻まれているけど、摩耗した様子も見えないんだよなぁ。

 あの言葉は呪文なんだろうか? そうなると、反対側に刻まれた文字も気になるところだ。


『マスター。この柱の面は、別の土地と繋がっているようです』


 アリスの言葉に柱と柱の間を眺めた。

 茶褐色の岩山のような場所だったはずだが、青銅の柱の間から眺める尾根の谷間は緑が広がっている。

 さすがに谷底は砂利と砂が混じった地面だけど、両側の崖には緑の草花が茂っているから、まるで緑の回廊のような光景が先に続いている。


 どう見ても、この砂の海にはそぐわない。星の海からは200km以上離れた北の大地だ。本来なら、今にも枯れた草木がまばらに生えているような場所の筈なんだが……。


「先ずは、もう1本の柱を調べよう。現れた空間の調査は後でもいいだろう」


 俺に遺跡調査ができるとは思えないが、柱が2本あるんだから片方だけで良いわけがない。


『やはり、こちらにも文字が刻まれています』

「読めるのか?」


 アリスが教えてくれた文字を、同じように詠唱してみた。

 今度は逆に柱が地面に吸い込まれていった。音声認証ということか? 魔道科学は、かつては、これほどまでに発展していたということなんだろう。

 それにしても、アリスはなぜこの文字が読めたんだろう?


『マスターを使って実験をしていた魔道師の部屋にこの文字を使った写本がありました。少し変化していましたが、地球の古い言語の1つです』

「俺には記憶がないが、それでこの文字が読めるなら問題はないな」


 今度は、柱の間に出現した空間の方だ。再び最初の詠唱を行って柱を出すと、やはり先ほどと同じ空間が出現する。

後ろはどうなってるんだ? と北側に回り込んでみると鏡面のように輝いていた。アリスの姿が映るから、こちらからは向こう側の空間は見えないらしい。


『マスター、あれも出現したようです!』


 全周スクリーンに尾根の一角がまるで囲まれた。ブリンキングしているから直ぐに分かるな。

 それはどう見ても……。


「ピラミッド?」

『目まで付いてますね』

 

 確かに目だな。それも左目だと分かるほど精密な形に作られている。どういうことだろう?


『中を進んで行けば、少しは分かるかもしれません』

「危険じゃないのか?」

『私の中から出なければ、どうにでもなります』


 アリスは空間を操れるんだったな。

 それは高次元から物理法則を変えるようなことで行うらしいが、数学的な操作でそれを行うというのが俺には想像すらできない。

 ピラミッド自体は10mほどの小さなものだ。意図が分からないが、アリスの言う通りあの柱と何らかの関係を持つのだろう。

 

 ゆっくりと2本の円柱の間に移動する。最初に見た尾根の間の谷間と同じように奥へと続いていている。

 違っているのは、周囲が緑だということだ。

 大きくカーブを描いたその先には、一面の緑が広がっていた。


 位置的には尾根の中になっているんじゃないか?

 こんな空間があるとは信じられない。


『上空に上がってみます。何か分かるかもしれません』


 途端にアリスが1kmほど上昇して周囲の調査を始めた。

 ん? いつもならさらに高度を上げるんだが、どうしたんだろう。


『解放空間に見えますが、ここは閉鎖空間のようです。およそ5km四方、上空は1.2kmほどのドーム型が形成されているようです。その先は障壁で進めません』

「生物は?」

『植物はいくつかの群生が見られますが、動物は小型の齧歯類がいるようです』


 ネズミかな? 植物と昆虫、それに齧歯類がいるなら農業ぐらいはできそうだな。


『泉が1つ。泉から小川が流れてますね。おもしろいことに小川は障壁を越えて流れていきます。ある程度の大きさのものを排除する障壁だと考えられます』


 上空から小さな泉と、泉から流れる小川が南東と南西方向に流れているのが見える。

 少し高度を落として、障壁に沿って一巡りした時だ。土に半ば埋もれた戦機を数機見付けることができた。

 傍に寄って調べてみると、かなり損傷している。1機としてまともな機体がなく、機体のあちこちに砲弾の炸裂痕がある。


『修理不可能と判断された機体でしょうか? 今ならレストア用に引く手あまたでしょうけど』

「これも売れるってことか。ということは?」

『前線基地と考えられますね。こんな施設は今では作れないでしょうけど、利用価値はありそうです』


 ドミニクの探していたのはこれだったのか……。レイドラが念を押すはずだな。砂の海の遥か北に、花が咲く草原があるとは誰も信じられまい。

 青銅の柱を見たものはいたかもしれないが、柱の間から移動できるこの世界を見たものなどいないはずだ。

 そうなると、あのピラミッドが気になるな。


『マスター、あそこに建物があります』


 アリスが教えてくれた場所は、南に2つ並んだ尾根の片側にあった。

石作りの小さな平屋建て。フレイヤの実家のリビングほどの大きさだ。この空間を管理する場所としては小さく思える。

 

 アリスから降りて、石作りの建物入ってみた。扉はすでに朽ち果てているから、入るのに苦労はない。

 中に入って思わず目を見開く。あの青銅の柱の周囲が1つの壁に映し出されていたのだ。映像が4面映し出されている。1面の映像の大きさだけで3m四方はありそうだ。

 映像の周囲の枠には、複雑な文様が描かれている。この映像を伝えるための魔方陣なんだろう。カテリナさんが喜びそうだな。


 アリスのコクピットに納まったところでアリスに中の様子を話し出すと、アリスの方からすでに分かっていると教えられた。

 俺の目を通してアリスには周囲の状況が分かるらしい。


『ほとんど本来の目的の通りに機能していると言って良いでしょう。この地の狩りの補給基地として理想的です』

「ドミニクの探していたのは、ここだということか……」


 小さな工房都市を作れるんじゃないか? それぐらいの大きさがある。問題はここまでの荷役をどうするかだろうな。

 外に出たところで周囲100kmほどを探索すると、真っ直ぐにヴィオラに向かって滑空していく。

 時速150kmほどの速度を出すと、さすがに地上数mでは砂塵ができるが、周囲に騎士団の動きが無いんだから問題はないだろう。


 2時間もかからずにヴィオラに戻ると直ぐに会議室へ向かう。魔石通信で符丁を使って知らせているから、扉を叩くと直ぐにレイドラが招き入れてくれた。


 コーヒーを味わいながら報告をしていると、扉を叩く音が聞こえてきた。アレクも呼ばれたのかなと扉を見ていたのだが、入って来たのはドミニクと同年代に見える金色の髪を背中で切りそろえた女性だった。


「急に話がしたいと連絡があったから、来たんだけど……。お邪魔だったかしら?」

「リオの報告を貴女にも聞いてほしくて呼んだのよ。途中まで聞いたけど、クリスがきたから最初からもう1度お願いしたいわ」

「いいですよ。でも、コーヒーのお代わりを貰ってもいいですか?」


 再び、先行偵察の様子を話し始めたのだが、青銅の円柱とその先に広がる別の世界に3人とも大きく目を見開いて聞いている。

 話を進めようとしたときに、通路を走る音がした。扉が乱暴に開き、息を切らしたカテリナさんが現れた。


「私にも聞かせてほしいわ。リオ君、おもしろいものを見付けたようね?」


 地獄耳なんだろうな。それともこの部屋に盗聴器を仕掛けているんだろうか?

 ドミニクが仕方なさそうな表情で頷いたことを見届けたところで、また最初から話しをすることになってしまった。


 報告を終えても、目の前の4人は呆然とした表情で俺を見ている。

 やはり自分の目で見ないと信じられないのだろうか?


「質問は私からでいいわよね。リオ君に先行偵察を行わせるのは分かるわ。でもなぜに、そんな先まで行かせたのかしら。方向まで指定して?」


 カテリナさんの質問は、俺にではなく娘のドミニクに向かっている。


「レイドラのお告げがあったのよ。私達の力になるものがあると。てっきり戦機だとばかり思ってたけど、まさか場所だとは思わなかったわ」


 ドミニクにも意外だったということだな。レイドラはいつもの表情で俺を見ている。美人なんだけど、表情があまりないんだよねぇ。


「だけど、その場所には魔獣も入れないんでしょう? なら、安心して団員を休ませることもできるし、陸上艦の修理だって行えるわ。小さな工房を呼び寄せれば獣機の修理だってできそうね」


 クリスと呼ばれた傭兵団長はおもしろそうな表情で俺を見ている。

 その言葉にカテリナさんが重々しく頷いた。


「たぶんリオ君の言う通りなんでしょうね。古代の魔道大戦にはそんな施設があったことは私も聞いたことがあるわ。

 全て破壊されたという話だったけど、稼働している施設があったということね。でも、その位置は竜神族の秘密ではなかったの?」

「位置を示す座標が記憶の中から浮かんできました。ということはその位置を目指せという我ら一族の意思と考えられます」


 未来視ということではないようだ。過去の記憶槽から浮かぶというのは、レイドラ達竜神族は意識を共有化しているのだろうか。


「竜神族の貴方が言うなら、確かに説得力があるわ。でも、面倒なことにならないかしら?」

「工房都市として登録すればいいんじゃない? 騎士団に利点はあるし、これだけ離れた場所を拠点化できるんですもの、ウエリントン王国は賛同してくれると思うわよ」

「その手があったわね。なら……」


 4人の女性体の密談が始まる。聞いていると悪役のセリフが次々と出てくる。

 ここは早めに抜け出すに限るな。


「報告は以上です。一応、アレク達には伝えようと思いますが」

「信じないかもしれないわね。古代帝国の遺産については神話に近いんですもの」


 言葉だけでは信じさせるのは無理だということなんだろう。

 だけど、案外神話を信じる人は多いと思うんだけどねぇ。

 4人の女性に軽く頭を下げて会議室を出ると、アレク達のいるデッキへと向かった。


 デッキに出た途端に目を見開いた。ヴィオラの舷側すれすれにガリナムが並走していたのだ。

 とはいえ、10mは離れているだろう。どうやって傭兵団長はヴィオラに乗り込んできたんだろう?


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