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M-032 アレク達のコテージ


 王都を出てから、一カ月半。

 俺達を乗せたヴィオラは再び王都に戻って来た。

 前回は、アレクの実家で厄介になったけど、今回は王都に行けるということでのんびりと羽根を伸ばせそうだ。

 

「兄さん達は戦鬼の慣熟操作ということで私達の半分しか休めないけど、私達はのんびりとコテージで過ごすことにするわ」


 ベッドの中のフレイヤがそう告げたけど、俺も一緒ということなんだろうな。

 そんな場所をどこで見つけたのかも知りたいが、アレク達はどこに行くんだろうか?


「兄さん達も一緒よ。というか、兄さん達のコテージだからね」

「フレイヤに任せるよ。必要な物は事前に買えるんだろう?」

「水着ぐらいなものかな? 兄さんが色々と揃えてるから身一つでもだいじょうぶよ」


 水辺の別荘地を買い込んだんだろうか?

 そんな物件が安いとは思えないんだけどね。サンドラ達と3人で購入したのかな。

 またしてもアレクのお世話になるとなれば、たっぷりと酒を買い込んでおいた方が良さそうだ。それに10日以上もありそうな休暇中の食事だって馬鹿にはならないだろう。


 王都の長城を越えたところで、アレクにありがたく世話になることを告げると、3人で笑っている。


「ワインを12本用意しといてくれれば十分だ。途中で俺達は先にヴィオラに戻るが、そのまま過ごしてほしい。3日おきにクロネルさんの使いがくるからな」

「まったく、兄さんはそんなことには手間を惜しまないんだから」


 フレイヤが呆れているけど、クロネルさんはヴィオラ騎士団のネコ族を束ねる生活部長だ。いったい何の用事があるんだ?


「コテージの前でたくさん魚が釣れるの。クロネルさんが買い取ってくれるんだけど、市場を通さないから安いって喜んでくれてるわ」


 サンドラが教えてくれたけど、アレクは実家での養魚場での釣りを趣味にしたってことなんだろう。

 俺にも釣れたけど、果たして海ではどうなるんだろう? 道具1セットを出掛ける前に揃えた方が良いかもしれない。


「そうなると役目は重要じゃないですか! 騎士団の士気にも関わりそうです」

「リオにも期待してるぞ」


 ということで、俺達の休暇の過ごし方が決まった。

 アリスはアレクの実家で行ったように、王都の陸港に入る前に亜空間に移動することにした。

 ベルッド爺さんが驚いてたけど、直ぐに戦鬼の方に向かったから、カーゴ区域の保全担当をしているドワーフ族には休暇が無いかもしれない。


 陸港に接岸する前に、ネコ族のお姉さん達が俺達に給与を渡してくれた。もっとも支払い明細だけだが、カードで現金を引き出せれば問題はないだろう。


「私の5倍!」

「戦鬼のボーナスじゃないかな。フレイヤに新しい水着をプレゼントするよ。だから俺の水着も選んでほしいな。それと、俺も釣り竿を用意したいところだ」

「なら、コテージまでは私が案内するわ。兄さん達は直ぐに出掛けるんでしょうけど、私達はお店を回ることになりそうね」


 王都なんて来たこともないから、フレイヤの後ろに付いていれば問題ないだろう。

 少し散財することになるけど、宿に泊まることを考えればそれほどの出費とも思えない。

 

 陸港に接岸したところで、俺達は港に向かう。どうやら15日の長期休暇になりそうだ。

 俺達が港から町に向かう通りを歩いていると、アレク達が馬車を呼び止めていた。

 コテージには馬車で向かうらしい。俺とフレイヤに馬車から手を振ると雑踏の中に消えていった。

 

 すぐにフレイヤが俺の手を握ると、人込みを掻き分けるようにして先を急ぐ。

 先ずは洋品店らしい。

 ここで水着を買うらしいのだが、店内のマネキンが着ているのはどう見てもビキニだぞ。この世界ならワンピースだって浮いていそうな感じがするんだが、どうもそうではないようだ。

 男性の方はサーフパンツのような形だ。これなら俺にも違和感がない。

 

 その店で水着を2着ずつ、それにTシャツのような上着とグルカショーツを買い込んだ。帽子とサングラスも王都で流行している品らしい。

 そんなものまで買い込んだおかげで、銀貨20枚が無くなってしまった。

 

「次は、釣り竿ってことになるんだけど。リオって釣りができるの?」

「フレイヤの家の養魚場で毎日釣りをしていた。ネコ族の少年が喜んでたよ」


 アレクに釣れるならと考えてはいるんだが、果たしてそうなのかはやってみないとわからない。

 ダメ元でやってみる価値はあるだろう。ダメでもアレクのコテージに釣り竿が増えるから、誰かが使ってくれるに違いない。


 釣り具屋で、カウンターの親父が見繕ってくれたものをとりあえず購入する。2セットで銀貨5枚はそれほどの出費ではないな。

 趣味には金をいくらでも掛けられる、と聞いたことがある。カウンターの親父も、最初から高価な品を勧めることはないようだ。


 最後に向かったのは酒屋だった。

 ワインを20本に、お姉さんお勧めのブランディーを3本。まだヴィオラの自室には酒が残っているから、ベルッド爺さんの土産を含めてこれで十分だろう。


「もう、無いでしょう? 馬車を呼ぶわね」

 俺の魔法の袋は酒がたくさん入ってるし、フレイヤの方は買い込んだ衣服で一杯らしい。2人分のサンダルは紙袋に入ってフレイヤが抱えている。

 俺の方は2セットの釣り竿を担いでいるからね。これ以上の買い物はできないだろう。


 止まったのは、屋根の無い馬車だった。

 荷物を後ろに乗せて、フレイヤが御者に行先を告げて値段を交渉している。

 料金が一定じゃないようだな。乗ってから交渉というのもおもしろいところだ。


「それじゃあ、お願い。先に仲間が向かっているから、寄り道はしなくともだいじょうぶよ」

 色々と突っ込みたいところだが、後で聞けば良いだろう。

 王都の通りは車道と歩道を区別していないようだ。人込みを避けるようにして馬車が進んでいく。


 大通りの横幅は俺達が乗っている荷馬車が数台並んで進めるほど広かった。その両側にたくさんの石作りの店が並んでいるが、3階建てまでのようだ。

 ここが王都の中央になるんだろうな。と思っていたら、どうやらそうではないらしい。王宮に続く通りともなると、陸上艦がすれ違えるほどの横幅らしい。そんなに広くする必要があるんだろうか?

 意外と、各国が競って広くしたのかもしれないな。


 どうやら馬車は南に向かっているらしい。すでに1時間ほど揺られているんだが、いまだに通りはにぎやかだ。さすが王都というだけのことはあるな。数十万人が住んでいるんじゃないか。


 遠くに海が見えた時、大きな十字路を右に馬車が曲がった。

 きれいに区画された街並みだが、通りの両側には商店よりも住宅が多くなっている。家の高さも2階建てで屋根の高さが揃っている。

 郊外の住宅地と言った感じがする。静かに暮らせる良い場所に違いない。

 たまに小さな塔が遠くに見えるのは、あそこに地区ごとの祠があるとフレイヤが教えてくれた。


 やがて通りの両側に庭付きの家が見えだし、その家もまばらになってきた。すでに2時間近く馬車に揺られているんだが、どうにか王都の繁華街から遠ざかったということになるのだろう。

 途中の店で馬車を止め、御者と一緒にコーヒーを飲む。

 フレイヤの話では、ここから2時間はかかるらしい。かなり辺鄙な場所にアレクはコテージを作ったようだ。


「スカジナル岬には小さな漁村があるだけなんだがねぇ。あそこにコテージを作るのは王都の流行かも知れねえなぁ」

 御者がそんな話をしてくれた。要するに、今一番の別荘地ということになるんだろう。よくもアレクが手に入れたものだ。


 やがて、南に向かって足を投げ出すような形の半島が見えてきた。あれがスカジナル岬ということになるんだろう。

 ちょっとアレクのコテージが楽しみになってきた。

 通りから、岬に向かう小道に入る。道幅は馬車が1台通れるほどだが、至る所にすれ違えるように道を広げてある。

 小さな漁村があると言っていたから、王都に魚を運ぶための道なんだろう。


 漁村までの道は整備されていたが、そこから岬の先に延びる道はそれほどでも無いようだ。

 馬車はここまでということになる。フレイヤが御者に銀貨1枚を手渡すと恐縮したようにお辞儀を繰り返しているから、チップが多めということなんだろう。

 だけど、ここからどこに行くんだろう?


 フレイヤが漁村の中を歩いて、宿屋に入って行く。

 カウンターの娘さんと何やら話をしていたが、どうにか意見が一致したらしく握手をしているようだ。

 

「ここで待てばいいらしいんだけど」

「何か頼んだのかい?」

 

 フレイヤが頷いた時だ。宿屋の裏手から現れたのは三輪自走車じゃないのか? 小さな荷台を引いているから、フレイヤの実家でソフィーが運転していたものと尾内代物だ。


「乗って頂戴! 私が連れてって上げるわ」


 フレイヤと思わず顔を見合わせてしまったが、確かに三輪自走車は頑丈な代物だし、運転するのも容易らしい。


 とりあえず荷台に乗ると、娘さんが岬の向かう道に向かって車を進ませる。

 馬車には狭い道だが三輪自走車には丁度いい感じだ。

 それにしても、アレク達はどこにコテージを作ったんだ?


 岬は尾根がそのまま落ち込んだような形だから、尾根の形状に合わせて曲がりくねった道が続いている。途中にいくつかすれ違い用の場所があったけど、ちょっと考えてしまう場所だな。


「あの白いコテージで止めて頂戴」

「アレクさんのコテージですね。お得意様なんですよ。私も明日からお邪魔するんです」


 今度もフレイヤと顔を見合わせて首をひねる。

 とりあえずはアレク達に合えば分かるだろう。荷台から降りて娘さんに頭を下げる。フレイヤが手渡しているのはここまでの運賃だろうな。今度は銅貨で済ませられるらしい。


 白いコテージは道の海側にある。手前が広くなっているのは、馬車が止められるようにとの配慮なんだろう。

 小さな広場を横切り、石をつみあげた背の低い石塀の先にあるコテージの扉をフレイヤが叩いた。

 石塀から俺の身長ほどもない短い小道の両側には花壇が作られている。雑草のような花だが、白い漆喰のコテージと緑の小道に黄色の花はしゃれた感じだ。


「は~い。フレイヤ達ね。待ってたのよ!」


 扉を開けてくれたのはシレインだった。すでに水着に着替えてるんだが、フレイヤが買ったビキニよりも布の面積が小さいんじゃないか? その上にアレクのシャツを羽織っている。


「お邪魔するわね。ほら、リオも見とれてないで入るのよ!」


 何も足を蹴らなくてもいいんじゃないか。シレインが笑って見てるんだよなぁ。

 ここまで半日近く掛かったようにも思える。だいぶ田舎にアレクはコテージを作ったんだな。


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