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M-031 星の海


 目の前にたくさんの湖沼が広がる。

 それが星の海ということなんだろうが、砂の海の中にこんな場所があるとは思わなかったな。

 

『最大でも直径30kmに満たないようです。それに水深は100mもありませんよ』

「魚はいるみたいだ。ちょっと変わってるけどね」


 湖と湖の間の湿地帯を体長1mほどの魚が歩いていたからなぁ。肺魚というよりは両生類に分類されそうな立派な足を持ってたけど、見た目は魚としか言いようがない。


『ドミニク様の狙いは、あれになるんでしょうか?』


 全周スクリーンの一部にドーナツ型の明るい表示が現れた。その中にいたのは、横に長い角を持った4つ足の生物だ。

 魔獣なんだろうが、かなり変わっている。胴の長いカモシカの体とワニが合体したような感じだ。頭はワニだけど姿はカモシカに似ている。10頭ほどの群れで、湖の岸辺をうろついているのは、先ほど見た歩く魚を探しているのかもしれない。

 体長は10mもなさそうだし、ワニのような硬い皮膚とも思えないから、獣機の持つ銃でも何とかなるんじゃないか?


「ドミニクは20頭以上の群れを探してくれと言ってたけれど、そんな群れは見当たらないね」

『すでに狩られたのかもしれませんね。少し北に移動します』


 それも考えられるな。あんな魔獣なら容易く狩れるんじゃないか? となれば、この辺りを縄張りにしている騎士団も多いに違いない。

 地上を滑走しながら、動態センサーを使って群れを探す。

 どうにか、ドミニクの満足する群れを見付けたのは、それから1時間も経ってからだった。


 狩りの主役は、やはり獣機のようだ。いつものように溝を掘ることなく、ヴィオラから南北に分かれて移動を始めた。

 1方向から狩るのではなく、群れに対して十字砲火を浴びせるのだろう。とは言っても獣機の持つ銃は、2連装の猟銃のような代物だ。射程は100mというところじゃないのかな。


『アレク様達も降りています。参加するつもりなのでしょうか?』

「どちらかというと周辺への備えじゃないかな。あのおかしな魔獣だけではないだろうし、この間みたいに他の騎士団が攻撃してこないとも限らないからね」


 俺達は周辺の監視を継続すれば良いらしい。移動したヴィオラから少し距離を離れて周回していると、同じように陸上艦を止めて狩りをしている騎士団を確認した。

 周囲に戦機や偵察車まで出して獣機の狩りを支援しているようだ。

 俺達と同じ善良な騎士団なんだろう。彼らの狩りが上手く行くことを願いながら再び周回半径を小さく取る。


「どうやら、あの騎士団だけのようだ。一応、ドミニクにも連絡してくれないか?」

『了解です。それと、この動きが少し気にはなるんですが』


 アリスの告げた場所は動態反応が見え隠れしている。距離は30kmほど離れている小さな湖の岸辺らしい。


「大型の水生魔獣ということか?」

『反応が断続しているのを見ると、そう推測した方が良いかと。……連絡終了です。ヴィオラの方も狩りを終えて魔獣の解体をしているそうです』


 慌てる必要はなさそうだ。だが、湖沼地帯で一夜を過ごすのは、かなり問題がありそうだ。

 引き続き、次の移動に向けての先行偵察を継続する。


 2時間後に帰還を指示する連絡が入った。

 やはり湖沼地帯から離れるようだ。少し南に向かっている。

 単純に後ろに下がると思っていたが、湖沼地帯の端に沿って南へ向かうということは帰還することを前提に進路を定めたのかもしれない。

 一度、ヴィオラの進行方向に50kmほど進んで左右100kmほどの範囲を調査する。

 砂漠地帯と異なり、かなり魔獣が多い。これは帰ってからアリスに耳打ちしてもらって報告することになりそうだ。

 それでも、大型魔獣や他の騎士団の存在は確認できなかったから、明日も同じように狩りをすることができるだろう。


 いつものようにアリスから降りると船尾のブリッジに向かう。

 会議室の扉を叩き、レイドラの入れてくれたコーヒーを飲みながらの状況報告だ。


「騎士団は北に1つだけだったのね。これから2時間は何もないということが分かるだけでもありがたいわ」

「ヴィオラは南に下がってますね。このまま下がればガルトス王国の西になりますよ?」

「ラゼール川を越えたら急いで東に向かうわ。先の私掠船の事もあるし、ガルトス王国の機動部隊には接触したくないわね」


 各国の機動艦隊の遊弋する範囲が領土ということになるんだろうか? 荒れ地に目印となる物もないから、互いの領地がオーバーラップしている感じにも思える。

 となると、互いの機動艦隊が接触したら戦いを始めそうだな。


 報告が終わると、アレク達のいるデッキに向かう。

 狩りの成功を祝って飲んでるはずだが、失敗しても残念だと言いながら飲んでいそうに思える。


 アレク達の飲んでいるベンチの端に腰を下ろすと、直ぐにシレインがカップを渡してくれた。


「ご苦労だったな。おかげで獣機の連中が群れを仕留めてくれた。魔石の数は少ないんだが、水の魔石が纏まって取れるのが良い」

「北にヴィオラと同じような騎士団が狩りをしてました。距離は40カム(60km)ほど離れていますから、接触することはないでしょう。それと20カム(30km)ほど西に大きな反応がありました。反応が断続することから水生魔獣だとは思うんですが」


 サンドラがバッグから図鑑を取り出して調べている。俺が話した内容で相手が分かるんだろうか?


「たぶん、この辺りかしら? 『グラモート』大きな蛇よ」

「グラモートがいるなら、クロカリムの群れは散ってしまうぞ。なるほど、そういうことか」


 アレクとカリオンが頷いている。まったくわけがわからないからアレクに教えてもらうことにした。

 グラモートは胴体の太さが1スタム(1.5m)以上あるヘビらしい。確かにあのワニモドキなら飲み込まれてしまいそうだ。


「リオがドミニクに報告しているなら、明日の狩りはかなり離れた場所で行うことになるな。そんな情報が俺達には分かるんだから、狩りが楽になることは確かだ」

「前なら、明日もこの辺りを探すことになるんだろうな。万が一にもグラモートが現れたりすれば、俺達が牽制しながらヴィオラと獣機を下げることになったはずだ」


 犠牲者を出しかねないとカリオンの顔が語っている。となると、北で狩りをしていた騎士団は厳戒態勢だったに違いない。

 距離があるから、グラモードがあの騎士団を襲うとは思えないが、砂漠のオアシスのような星の海であっても、その景色の美しさに見とれていてはいけないということなんだろう。


「ところで工房都市ではなく、王都に向かうと聞いたぞ。やはりファンデル騎士団からのダメージは大きいようだ」

「そうなると、まとまった休日ということになるのかしら?」


 サンドラは嬉しそうに問いかけている。だけど、前の休暇から1カ月程度で再び長期の休暇というのもねぇ。


「リオが見つけた戦鬼もある。ベルッド爺さんとカテリナ博士がコクーンを破ったそうだが、騎士を乗せる前にはいろいろとやることがあるそうだからなぁ。王都の神殿工房に運ぶことになるだろう」


 神殿に工房があるのは、古代の魔方陣を解析して現代の魔方陣に書き換えるためらしい。制御プログラムの更新のようなものなんだろう。

 古代の魔道科学や技術が、大戦で全て失われたわけではなさそうだな。

 6柱を祭る神殿組織が、長い年月にわたってその一部を伝えているのだろう。


 星の海の周囲を5日程かけて狩りを行い。その後は一路ラザール川を目指す。砂の海に向かった時よりも下流になるから、いつものように先行偵察に向かい状況を確認することになった。


 ヴィオラとラザール川の距離は150kmほどだ。時速20kmほどで進んでいるから7時間ほどで川に出ることになるのだが……。


『どこの機動艦隊でしょうか?』

「魔石通信を傍受できないか。敵対関係にある王国となるとかなり面倒なことになるぞ」


 この近くにある浅瀬となると場所が限られている。ドミニクに教えられた場所はここでいいのだが、10隻近い大型の陸上艦が並んで舷側を浅瀬に向けている。

 どう見ても浅瀬にやって来た騎士団の進行を止めて、活動状況を確認するだけとは思えないな。


「機動艦隊の周囲を巡って状況を探るぞ。アリスは機動艦隊の属する王国と目的を探ってくれ」

『了解です。どうやら連合艦隊のようですよ』


 複数の王国が絡んでるのか? もっと面倒なことになりそうだ。

 艦隊の周囲を探ったところで、川の上流部に浅瀬が無いかを確認することにした。


 ある程度状況が分かったところで、ヴィオラに符丁を使って通信を送る。

 中型魔獣の群れが進行方向にいるとの通信だから、発信場所を特定しても向かってくることはないだろう。帰還するヴィオラが東に進行方向を変えたのが動態センサーで確認できた。

 

 報告をするために会議室に向かうと、ドミニク達以外にアレクとカテリナさんまでテーブルに着いていた。

 地図を広げて、ラザール川の南に展開する機動艦隊の概要を伝える。


「巡洋艦が4隻に駆逐艦が8隻だと! 臨検というよりも俺達騎士団の上前を撥ねるつもりか?」

「過去にも何度かあったけど、自分達の王国の版図をそのまま北に伸ばして領有を主張するのよ。王国に申告しない狩りということで、重税を課すのが狙いね。8割は持って行くわよ」


 カテリナさんの話では、そんなことが何年かおきに発生しているということになるんだろう。

 風の海に各国の機動艦隊が遊弋しているのは、他国が自国の騎士団にそのような対応を取ることを防ぐことも目的なのかもしれない。


「連合艦隊となると、ガルトスとウエルバン王国の艦隊ということになるな」

「ウエリントンとガルトスは敵対関係。ガルトスとウエルバンは同盟国だから、あのまま浅瀬を渡ったらろくなことにはならないわ。リオに感謝したいけど、この浅瀬を渡ることになるのよね」


 艦隊が待ち伏せしている上流30kmほどのところに小さな浅瀬がある。浅瀬の幅は300m程度で、前に渡河した浅瀬の三分の一程度になるのだが、浅瀬の前後はかなりの水深がありそうだ。川幅はおよそ2kmだから10分程度で渡り切るだろう。だが、どんな水生魔獣が出て来るか予想ができない。


「やはり、もっと上流に向かいましょう。街道に向かう浅瀬なら騎士団も多く利用するから安全だわ」


 石橋を叩くということになるのかな。

 一時の冒険を選ぶのではなく、俺達団員の安全を優先するということなんだろう。アレクが苦笑いをしているのは、ひょっとしての期待があったのかもしれない。

 


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