表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/391

M-300 お化け屋敷というより新築じゃないか


 館に入って驚いた。大きなホールの奥に回廊が伸びている。ホールの両側には2階にあるデッキに続いているようだ。


「1階が学生用にゃ。2階はリオ様の家族が住めるようになっているにゃ。私達の部屋は2階の奥にあるにゃ」

「2階を妻達に見せて上げてくれないかな? 1階は俺一人で良いよ。終わったら2階に向かえば良いかな?」

「2階の最初の部屋がリビングにゃ」


 さて、ちょっと怖い気もするけど、1階を探索してみるか。

 広い廊下に沿って部屋を1つずつ見ていく。

 大きな会議室と、少し小さな会議室。小さい方は流しも付いているから、実験室に使えそうだな。

 大きい方は20人どころか30人は座れそうな大きさだ。その真ん中に丸いテーブルがあり、十数脚の椅子が置いてある。予備の椅子が窓際に数脚置いてあるから少しぐらい学生が増えるのは想定内ということだな。

 それにしても、1つの壁全体が黒板になっている。十分な大きさには違いないが、大きすぎるのもねぇ……。

 チョークや黒板消しも準備されているようだな。これなら明日から始めても問題は無いだろう。

 学生の控室には3段ベッドが4台も置かれているし、ベンチとテーブルまでが置かれていた。これだと深夜まで議論が続くんじゃないか? それはそれで良いのかもしれないけどね。

 控室が2つあるのは男女別ということなんだろうな。サニタリーにはシャワーブースまでもが備えられている。

 風呂の方が良かったんじゃないかと思うけど、それは俺達で作れば良いか。

 結論としては、申し分ない。これでゼミを開けそうだ。


 ホールに戻って、2階に上がってみた。最初の部屋を開けると10m四方ほどのリビングがある。柔らかそうなソファーは丸くて低いテーブルの周りに4つも設けられていた。書棚にライティングデスク。ライティングデスクには、筆記用具まで用意されている。

 この改修にいったいどれぐらいお金を掛けたんだろう?

 ボロ屋敷を回収したのではなく、新築したんじゃないのか?


 そんな思いでリビングを眺めていると……、やはり視線を感じる。

 この部屋の中からではなく、屋形の外からのようだ。館の周囲を取り巻く広葉樹の枝からこの部屋を覗くような視線だな……。


『時空の歪を連続して感知しています。位置はマスターから仰角5度、距離150m付近。かなり小さなものですから、こちらへの干渉までは出来かねると推察します』

「しばらくアリスの方でも観察を続けてくれないかな?」

『了解しました。それにしてもメープル様の能力はかなり特化しているようですね。生身で歪を感知できるんですから』


 王宮の裏で働いていたと言うからなぁ。感覚が研ぎ澄まされているのだろう。

 とりあえず、俺達に直接害がなければ問題なさそうだ。


『王宮に、帝国時代の拠点があった場所ですが、どうやらこの位置らしいです。融合弾の爆発エネルギーで時空の歪が生じた可能性があります』

「王都にはもう1つあるらしいよ。多分、そっちも同じなんだろうね」


 魔石融合弾が時空にまで干渉したに違いない。

 それが今まで続いているのは、高次元の生命体が俺達を観察するのに都合が良いからだろうか?

 アリスの話では、時空の歪はゆっくりと縮小するとのことだからなぁ。5千年以上継続しているとなれば、何らかの力が作用しているに違いない。


 廊下から話声が聞こえてきた。どうやらエミー達が戻ってきたようだ。

 リビングに入ってくると、俺の座るソファーに腰を下ろす。


「今、お茶を用意するにゃ。リオ様はコーヒーで良いのかにゃ?」

「マグカップでお願いします!」


 俺の答えに、笑みを浮かべて頷いている。

 俺達のお姉さん的な感じもするんだが、裏の世界では有名な人なんだよなぁ。


「今夜から住めるわ。さすがはヒルダ様が手配してくれただけのことはあるわね。この部屋だって、壁の絵画は王宮の倉庫から持ってきてくれたみたい」

「リオ君のおかげで、倉庫1つが空になったかもしれないわ。王宮としては感謝しているんじゃないかしら?」


「立派な美術品ですから、王宮貴族に下賜するのが一番だと思うんですが?」

「それを行っても、倉庫に溜まるばかりなの。ある程度地位のある貴族でないと,製作者だって困るでしょうし……」


 名を高めるということなんだろうな。そうなると確かに倉庫には溜まる一方だったに違いない。

 捨てるわけにもいかず、かといって売り払うことも出来ないのは問題だと思う。やはり、ある程度年月が過ぎた美術品は売り払うのが一番だと思うけどねぇ……。


 若いネコ族のお嬢さん達が、俺達の飲み物を運んできてくれた。

 直ぐにリビングを出て行ったけど、奥でメープルさんからメイド修行を受けているんだろう。

 

「まだまだ王宮で働くのは無理でしょうね……」

「カップの持ち手がばらばらだわ。緊張したんでしょうね」


 エミーとユーリルさんの評価はかなり厳しいようだ。俺はこぼさずにテーブルに載せてくれるなら問題はないと思うんだけどなぁ。


「それで、リオ君の勘はどうなの?」


 興味深々の表情でカテリナさんが問いかけてきた。


「俺を見ていましたよ。やはりここは良い場所ですね」

「ええぇ! 本当に居るの?」

「俺達に害をなす存在ではないようだ。アリスが状況監視を継続してくれているから、何かあれば教えてくれると思う。それにフレイヤ達には何も感じられないんじゃない?」


 うんうんとフライヤとエミーが頷いているから、ユーリルさんが口元を押えて下を向いている。


「確かに私には何も感じないわ。そうなると、感じやすいという体質があるという神殿の神官達の考えは正しいのかもしれないわね」

「カテリナさん。それって科学してませんよ!」


 都市伝説や通説を信じるのはどうかと思う。でも、時空の歪を通して高次元の生命体が俺達を見ているということを感じられるのはどういう仕組みなんだろう?

 アリスや俺のようにある程度時空を操作できるものなら、それを知覚できるのは理解できるが、メープルさんはそんな能力は無いはずだ。

 裏の世界で長く暮らしたことから殺気に敏感になっているということになるのだろうが、そもそも殺気を捉えるという能力は人間の感覚器官には無いと思うんだけどなぁ。


「でも、リオ君には感じられるのよねぇ?」

「俺だけじゃなくて、メープルさんも感じているようです」


 ん? という感じで俺に顔を向ける。俺を見る目が、実験動物を見る目なのが気になるところだ。


「メープルはメイドを止めても、お祓いで暮らして行けそうですね。……でも、引き取る神殿はなさそうです」

「だいぶ神殿と裏で争ったみたいね。でもメープルは生き残ったという事かしら」


ユーリル様が小さく頷いている。狂信的な信者相手によくも立ち回ったものだ。それもカテリナさんでさえ確認するぐらいだから、誰にも知られずに王宮の闇に潜んでいたんだろうな。

 

「メープルが感心してたわよ。リオ君の奥が分からないって言ってたわ」

「メープルと同じってことですか? それは、それで……」


 言葉の続きは、カテリナさんがユーリル様の口を人差し指で抑えてしまったから分からないけど、後でユーリル様に聞いてみよう。

 たぶん、エミー達には知られないようにとのカテリナさんの配慮ということなんだろうな。


「森の奥だから、自走車を1台買い込んだ方が良いわね。私も使うから、2台買っておこうかしら。裏手に車庫があるのよ。数台なら問題なく止められそうだわ」

「結構するんじゃないですか? 俺達なら、アレクの農場で使ってる3輪車で十分な気がします」


荷台に色々載せられるからね。買い物にも都合が良いし、なんといってもスピードが出ないから安心だ。


「3輪車なら私が運転できるわよ。そうね、ヒルダ様の離宮に向かうにもその方が都合が良いわ」


 フレイヤは大賛成のようだ。エミーも多分運転できるんじゃないかな。

 待てよ……。メイドさん達だって、歩いてくるのは結構距離があるんじゃないか?

 4人ぐらいは楽に乗れるから、3輪車は2台買った方が良さそうだ。あの辺境伯はメイドを王宮から歩かせている……、なんて噂を立てたくないからね。


 恐る恐る提案してみると、皆が賛成してくれた。

 結局、4輪自走車と3輪自走車を2台ずつ購入することになったけど、4輪自走車の1台はトレーラー付きとなるみたいだ。

 牽引するトレーラーに座席を付ければ、学生達が1度に館まで来れるということらしい。

 その購入資金は俺の口座から出すらしいが、その口座を誰が管理してるんだろう?

 いくら残高があるのか、俺には全く分からないんだよなぁ。


「大丈夫よ。ちゃんとエミー達が管理してるわ。それにリオ君が自由に使える口座にもそれなりの金額が入ってるでしょう?」

「金貨数枚相当の金額がキープされてますから、まぁ、それで十分ではあるんですが……」


 貴族としての矜持を保つには十分だろう。

 フェダーン様は、市中に金を落とすことも貴族の務めと教えてくれるんだが、元が元だからなぁ。買い物をしてお釣りを確認する癖は直しようもない。

 おかげで、この頃は支払いをフレイヤ達が行っているぐらいだ。


「明日は、買い物でもしてきたら? これだけ揃ってるんだから、明後日から学生を呼ぼうと思うの」

「そうですね。ヒルダ様も色々と考えているようですし、フレイヤ達もそれなりの準備がありそうです」


 フレイヤ達の荷物持ち確定だが、お店巡りは結構楽しいからな。

 フレイヤ達のドレス選びの最中は、近くの店を巡ってみよう。

 せっかく森の中の館を貰ったんだから、ツリーハウスでも自作してみようかな。

 木立の上にハンモックを吊れば、しばらくは誰にも見つからずに昼寝ができるかもしれない。

 そのために必要な道具選びも、結構おもしろいんじゃないかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ