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M-299 メープルさんは戦闘メイド


 休暇中の砦建設の指揮はファネル様が取り仕切ることになる。リバイアサンの方は元選任伍長のロベルがエミーの代理を務めてくれる。

 これを機会に、副官という立場ではなく副艦長を任せることにしたんだが、当人はエミーの副官でいることを条件に受理してもらった経緯がある。

 フェダーン様の副官であるエルンストさんも同じ階級である同僚からは一目置かれた存在のようだから、階級が上がってもそれなりの人物の副官であることの方が大事なのかもしれない。


「それで私達は、飛行船を使わずに王都に向かうことになるのね?」

「マイネさん達は飛行船を使ってもらうけど、俺達はアリスに王都まで送ってもらうんだ。飛行するわけでは無いから、1度に2人ずつヒルダ様の住む第2離宮前の広場に移動するよ。昼過ぎには3回目の飛行船による移動が行われるから、俺達はその後で移動する」

「ヒルダが夕食を準備しているそうよ。フェダーンの方は国王陛下への状況報告を終えているはずだわ」


 フェダーン様が出発したのは2回目の船便だったから、到着してから3日目のはずだ。

 今のところ順調だから、計画通りと報告してくれたに違いない。

 展開していたデッキを収容して、仮想スクリーンを通して離着陸台に停泊した飛行船を眺めながら時間を過ごす。

 すでに全員乗り込んでいるようだ。飛行船が出発したらすぐに離着陸台が閉じられるはずだ。周辺偵察用の飛行機は砦側に広げた離着陸台を使うようだな。


「ファネル様の事だから、密に偵察を行わせるんだろうね」

「案外慎重な性格だから、そうなるでしょうね。多分リバイアサンの監視所の人員も増やすんじゃないかしら」


 やがて飛行船が飛び立ったのを見て、俺達も出発することにした。

 時刻は15時を過ぎたところだ。

 ファネル様に、出発することを知らせ、問題が発生したならいつでも連絡を入れてほしい旨を伝えておく。

 何事も無いのが一番だけど、ここは辺境も辺境だからなぁ。援助を要請しても隠匿空間の防衛艦隊が到着するまでに2日は掛かってしまう。


 各自がトランク1つ分の荷物を持っているようだけど、魔法の袋を2つは使っていそうだな。実質の荷物はトランク3つ分以上になるはずだ。お土産を入れるスペースは確保してあるんだろうか?


「さて、出掛けましょう。コーヒーカップはこのままで良いとマイネが言っていたわよ」


 カテリナさんがソファーから腰を上げたところで、俺達も後に続いてトランクを押しながらリビングを後にする。


 駐機場に向かうと、アリスの駐機台にタラップが横付けされていた。

 俺達をベルッド爺さんが出迎えてくれたんだが、ベルッド爺さんは今回の休暇はリバイアサンで過ごすらしい。


「年寄りは休暇など持て余すだけじゃからのう。若いもんで楽しんでくるがいいさ」

「お土産を楽しみに待っていてください!」


 そう言って、先ずはエミーとフレイヤをコクピットのシートの後ろへと乗せた。

 ベルッド爺さんが俺達のトランクをアリスの手の上に積み上げてくれたところで、アリスを使って亜空間移動を行う。


 さっきまでリバイアサンの駐機場にいたんだけど、俺達を取り巻く球体スクリーンに映る光景が一瞬歪んだかと思ったら、次の瞬間には見慣れた第2離宮前の景色に変わっている。

 ゆっくりとアリスが片膝を付いたところで、コクピットを開き2人を下ろす。

 パラパラと走ってきたのは王宮の警備兵達だったが、直ぐに俺達に気が付いて1人を第2離宮へとしれ背に走らせてくれた。


「連絡は受けていたんですが……」

「突然で申し訳ない。空間魔法の応用実験の成果だから、まだ一般的ではないんだよ」


 魔道科学の空間魔法実験という事であれば、そんなものかと納得してくれるんだよなぁ。試験運用であると言えば、カテリナさんの仕業に違いないと勝手に納得してくれるんだからありがたい。


「次の人間を運んでくるんで、荷物とエミー達を頼めるかい?」

「お任せください。それではお気を付けて!」


 再びアリスに乗り込んで、今度はカテリナさんとユーリル様を運んできた。

 いくら何でもアリスをこのままにしておくことは出来そうも無いから、一時的に亜空間に移動して貰う。

 2人を連れてメイドさんに案内されるまま、第2離宮のリビングへと向かった。


「お待ちしていましたよ。ごゆっくりお過ごしくださいな」

「休暇の度に厄介になってしまい、申し訳ありません」


 俺の返事に笑みを浮かべて、ヒルダ様が俺達をソファーに案内してくれた。

 エミー達の席の前には飲みかけの紅茶が置いてある。

 俺達が席に着いたのを見計らって、ネコ族のお姉さんが飲み物を運んできてくれた。


「リオ君の館が出来たと聞いたけど?」

「夕食まで眺めてきたら。専用のメイドは見習いになるけど、王宮付きのメイドが1人引退するの。引退後は一人暮らしだと言うから、彼女を館のメイド長にしたわ」


「そんな人物がいたんでしょうか? 長らく王宮で暮らしていましたが、この時期に王宮を離れるメイドに心当たりがありませんけど?」


 ユーリル様の話を聞いていると、ネコ族の女性達のあこがれの職業は大貴族のメイドらしい。その中でも王宮内のメイドともなれば花形職業ということのようだ。

 騎士団にもネコ族の人達はたくさんいるけど、命掛けの職業だからなぁ。メイドなら少なくとも命の心配は無いだろうし、大貴族ともなれば華やかな暮らしが少しは堪能できるということなんだろう。

 そんなことで王宮内で暮らしたメイドの多くは大貴族がこぞって引き取るらしい。それは王宮内で働いている段階で次の就職先が決まっているぐらいだということだ。


「名前は、メープル。ユーリル様なら名前を聞いたこともあるでしょう?」

「彼女が引退するの? 引き取る貴族はいないでしょうね。家族や親せきもいないと聞いたことがあるけど……。でも、メープルならお化け屋敷も問題なさそうね」


 ん? 俺の方が気になってきたぞ。

 メープルならお化けも怖くないということか……。突然、ゾクリ! と寒気がした。

 俺に殺気を送る人物など、第2離宮にはいないはずだが……。

 マグカップのコーヒーを口元に運びながら、辺りをうかがう。誰かがこのリビングにいるということなんだろう……。どこにいる?

 明るいカーテンの近くにぼんやりと人影が浮かび上がる。

 両手を腰近くで結んでいるから、少なくとも攻撃の意思はなさそうだ。だが、誰を狙っているんだろう?

 さすがにこの場で拳銃を抜くわけにはいくまい。動作が大きいから直ぐに相手に知れ渡ってしまう。

 となれば……、出されたケーキの乗った皿を手元に引いて、皿に添えられたフォークを手の内に隠す……。


「合格にゃ! 少なくとも最初の一撃を避けられるにゃ」


 先ほどまで人影だけだった人物が、一歩前に足を踏み出して姿を現した。


「待機してたの?」

「ずっと待ってたにゃ。でも、リオ様は直ぐに私に気付いたにゃ。動いた途端に、フォークが私に飛んできたにゃ」


 分かっていたのか……。軽く握っていた手を開いて、フォークを皿に戻した。

 

「呆れた! ここで遣り合うつもりだったのかしら?」

「一瞬殺気を感じましたので……。王族が3人いるんですから、盾になるのは騎士の矜持だと考えました」


 うんうんと笑みを浮かべながら頷いているスレンダーな小母さんが、メープルさんのようだ。

 それにしても、暗部に特化したメイドってことか。なるほど引き取り手はいないだろうな。

 自分から引き取りを願い出たら誰かを暗殺するのかと勘繰られるだろうし、王宮側から引き取りように申し出たら暗殺予告と思われそうだ。


「彼がリオ殿なの。上手く助けてあげて欲しいんだけど」

「私がいなくても大丈夫にゃ。でもいつもいるわけでは無いなら、その間は私が責任を持つにゃ」


 ユーリル様が笑みをうかべているぐらいだから、任せて安心ということなのかな?

 それにしても……、とんでも無い人物がメイド長になったものだ。


 コーヒーを頂いたところで、メープルさんの案内で頂いた館に出掛けてみることにした。すでに家具が運び込まれているということだから、俺達が頷けば正式に国王陛下から恩賜の書状と共に正式に下げ渡されるらしい。


「気に入らないものを送るわけにはいかないにゃ」


 自走車を運転しながら俺達にそう言ってくれたけど、王宮内に自分の館を持つなんてことは、本来許されることじゃないと思うんだけどなぁ。


王宮に向かって真っすぐに伸びる広い石畳の道を横切り、芝生の中に点在する花壇を眺めていると、森の中に自走車が入っていく。すぐに石畳が無くなり砂利道に変わった。道幅もだいぶ細くなっているようだ。何か所か道幅が広がっているのは、自走車がすれ違うために設けたのだろう。緩やかなS字カーブで前方の見通しが付かないな。

 

「あれが館にゃ!」


 突然森が切り開かれた広場のような場所に出た。

 その奥にある立派な建物が、元警備兵の臨時詰所ってことなんだろうか?


「本当にこれなんですか?」

「そうにゃ。リオ様が欲しがったと聞いて、王様が大急ぎで改修を命じたにゃ」


 あまり立派だと気後れしてしまうんだよなぁ……。

 話を聞く限りでは、会議室に控室が2つだけのはずだが、どう見てもそんな風には見えない。


「会議室が2つに、学生の控室が2つ。リオ様ご家族の部屋が3つあるにゃ。それ以外には……、学生用のサニタリーとリオ様ご家族のサニタリー、最後に私達の控室が2つにゃ」


 聞いているだけで、最初の建物が3倍になった気がする。

 まあ、よくなっているんだから問題はないと思うけど……、これではお化けを期待することができないなぁ。


 さて、とりあえず中に入ろうかと思ったその時だった。

 誰かに視線を感じる……。自走車に乗ってきたのは6人だけだし、俺以外の連中はフレイヤを先頭に館の中に入ろうとしている。


「気が付いたにゃ? いるにゃ……。中々楽しい職場にゃ!」


 王宮の裏で長らく活躍してきた御仁だけあって、気配には敏感らしい。


「本当だったんですね? それで、何か気を付けることはありませんか」

「いつも見てるだけにゃ。この先動くかもしれないけど、他の連中は分からないみたいにゃ。分からなければ向こうも悪さをしないはずにゃ」


 それって、俺とメープルさんには何かするかもしれないってことじゃないか!

 科学を説きながら、お化け退治をすることになるとは思わなかったぞ。

 やはり高次元からの干渉かもしれないから、アリスとよくよく考えないといけないな。

 


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