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M-298 魔獣は心臓は2つある


 砦建設を始めて2か月を少し過ぎた。

 そろそろ休暇ということで、ヴィオラ艦隊のドミニクとエミー達が調整して休暇を取ることになった。

 ヴィオラ艦隊が1か月。俺達は15日間になるようだ。休暇に合わせて陸上艦の精密点検を行うらしいから、休暇の長いアレク達が少し羨ましくなってしまう。

 

「それでいつ出掛けるんだい?」

「明日、第1陣が飛行船で出発するから、20日後になりそうね。飛行船を使って3回に分けて運ぶそうよ。王都ではなく隠匿空間でのんびり過ごそうという人達もいるみたい」

「隠匿空間も桟橋に大きな店を組み込んだらしい。軍の宿泊施設を利用するなら、宿代はタダだからな。王都で飲んでも隠匿空間で飲んでも酒の味は変わらんと言うことだろう」


 アレクが物言いを付けそうな、フェダーン様の話だけど、浮いた給料を貯金に回すのかな? それとも、その金で酒をさらに飲もうなんて考えているのだろうか?


「私も同行するつもりだ。国王陛下への状況報告をせねばなるまい」

「献上品を、俺も持って行かないといけないんですが……」


「それは、第2離宮で十分だろう。お忍びで国王陛下一行が訪れるはずだ。例の屋形の改修は終えているということだから、1度見ておく必要があるぞ。できれば休暇中に2、3日の日程で学生を集めるべきだろう」

「一応そのつもりで、カテリナさんに学生の自治会と調整をして貰っています。王宮の立ち入り許可証の発行を国王陛下にお願いすることになります」


 笑みを浮かべて頷いているところを見ると、俺の行動に過不足は無いようだ。

 エミーとフレイヤも連れて行かないといけないんだよなぁ。

 ヒルダ様達のサロンに参加して、優秀な人材を集めて貰わないといけない。

 新しいドレスも買わないといけないらしいから、明日の偵察時に魔獣を何頭か狩って来ようかな。


 翌朝。周囲の偵察状況をリバイアサンに送ったところで、ハーネスト同盟の調査隊の様子を探りに出掛けた。

 あの神殿の調査を早々と止めたようだから、次の行動が気になるところだ。


 調査艦隊は神殿の島から西に向かって航行していた。

 帝国時代と現在の地図を見比べて目的地を探ってみると、航行する先にオルネア軍の拠点がある。


「ハーネスト同盟軍は帝国時代の地図を持っているんだろうか?」

『可能性は高いですね。発掘したのかもしれませんが、紙の形では残るはずもありませんし、古代兵器の電脳から情報を取り出す手段は持っていないと推察します』


 となると、宝飾品に彫刻された地図のようなものかもしれないな。金なら劣化することなく残っているだろうが、それほど正確ではないはずだ。

 たまたま方向があっているということになるのだろうか?

 かつて撮影した空撮画像を見る限り、オルネア軍の拠点跡地には何も見当たらない。

 もっとも星の海を囲む深い森の中だから、見落としがないとも言い切れない。


「先行して、オルネア軍の拠点付近を赤外線と対地レーダーで調べてみようか?」

『レーザースキャニングも併用してみましょう。地中深く埋もれていても重力変異で見つけることが出来そうです』


 かつての探査も重力変異を調べていたはずだ。あの時の情報はどうなっているんだろう?


『何か所か合致するものがありました。全て湖底に埋もれています』


 そんな埋もれた場所をダウジングで探そうというんだからなぁ。おかしな世界だとつくづく考えてしまう。


 グリーンベルトに到着したところで、100km四方の精密調査を行うと北の回廊伝いにリバイアサンへと帰ることにした。

 途中で狩りが出来ればと考えていたんだが……。


『単独のチラノです。体高が戦鬼を超えていますよ』

「周囲に他の魔獣はいないようだね。1匹オオカミってことかな? あれなら都合が良さそうだ」


 仮想空間からレールガンを取り出して、チラノの頭部に狙いを付ける。

 秒速3kmを超える直径40mmの銃弾がチラノの頭部を粉砕した。


「解体したいけど、道具はあるかな?」

『スコーピオ戦で使ったハルバートを使います。少し使い出が良いように改良しましたから解体作業に問題はありません』


 亜空間にレールガンを戻してハルバートをアリスが取り出した。高度を下げて、頭部を失ったチラノの傍らに立つと、いきなり腹にハルバートを突き刺した。

 まるでスプーンでゼリーを掬い取るように胸部と腹部を大きく切り開くと、砂の上に臓物が広がる。

 少しずつ解体を進めながら、アリスが何度も作業を中断している。

 記録画像を残しているのかな?


「変わった内臓とも言えないようだけど?」

『消化器官は爬虫類より哺乳類に近いようです。血液サンプルの採取完了。心臓はまだ拍動しています。この嚢の中は魔石のようですね。嚢毎採取しました。嚢は心臓細胞の一部が変化したものかと……』


 それにしても大きな心臓だ。50cm四方もありそうな心臓がゆっくりと動いているのを見ていると、さらにもう1つの心臓をアリスが見つけ出した。

 腸の中に埋もれたような心臓だが、そっちの方が大きいようだ。


「動きが止まってるね。こっちは動いてるけど……」

『下の心臓は哺乳類に類似していますが、先に取り出した心臓は魚類と同じです。1つの体に2つの心臓は異常です』


 やはり作られた種ということになるんだろうな。DNAレベルで改変されているようだ。それにしても2つの心臓ねぇ……。

 アレク達は当然のように解体して魔石を取り出していたけど、もう1つの心臓があることを知っているんだろうか?


「本来の心臓には魔石は無いんだね?」

『ありません。種を変えていくつか解剖してみませんと……』


 とりあえず最初だからなぁ。少し分かっただけでも十分だろう。

 魔石を回収すると、上魔石が1つ混じっていた。全部で12個も手に入ったから、ドミニクに中位魔石7個を渡しておこう。


 昼食前にリバイアサンへと帰ると、直ぐにプライベート区画のリビングに向かう。

 そこにいたのは、カテリナさんだけだった。

 いつもならユーリルさんもいるんだけど……。


「だいぶ遅かったわね。今日は、私1人なの。ユーリルは怪我人が出たとかで、現場に向ったわ」

「大怪我なんでしょうか?」


 ソファーに腰を下ろしながら聞いてみると、急いでたらしく駆けていた時に転んだらしい。転んだ拍子に腕を追ったというんだから、運が悪いとしか言いようがないな。


「さすがに『サフロ』1回で治ることは無いわ。それに、1日に何度も掛けると腫瘍ができる場合があるの。とはいえ、3日ほど安静にしていれば腕を動かせるようになるわよ」


 科学技術の発展で医学が高度化したとしても、『サフロ』を超える治療ができるまでにはかなりの年月が掛かりそうだ。

 幸いに『サフロ』は生活魔法に近く、比較的容易に覚えられるようだから、魔気の濃度が下がっても、使える魔導士をある程度確保することができるだろう。


「それは何よりです。カテリナさんの方は、系統図の見直しですか?」

「学府の学生達よりは、一歩進めないとね。彼らの系統樹より見劣りするなんて私の矜持が許さないわ」


 魔導士でなく魔導師だからねぇ……。博士号もいくつか持っているということだ。ある意味、学生達が目指す先にいるのがカテリナさんになるわけだから、カテリナさんも苦労しているようだ。


「それで、遅かった理由は何かしら?」

「途中で狩りをしてきました。北の回廊の西の出口付近で大型のチラノ1頭を見付けましたので」

「チラノの大型ともなれば上級魔石もあったんじゃない? エミーが喜びそうだけど、アリスで狩るならそれほど時間もかからないわよね」


 ここは早めに真実を話しておいた方が良さそうだ。

 コーヒーを飲みながら、「実は……」とチラノの解剖を行ってきたことを説明した。


「アレクが魔石は心臓にあると教えてくれました。実際に魔石を取り出すことが無かったのでどのような形で心臓にあるのかとずっと考えていたのですが」

「魔石は心臓近くに被膜のようなもので包まれていると聞いたことがあるけど? 事実は違った、という事かしら」


「疑問が深まり、少し分かってきたこともある。ということですね。ところでカテリナさんは心臓の役目をご存じですか?」

「全身に血液を送り出すポンプのような存在よ。心臓付近には太い血管があるから、左胸下の怪我は、命を左右する場合もあるわよ」


「俺達人間の臓器についてカテリナさんがどれほどの知識を持っているか分かりませんが、大きく分ければ消化器系と循環器系に区分されるはずです。

 食べ物を消化して栄養素を取り込むのが消化器系ですし、栄養素を血液の流れを通して全身の細胞に供給するのが循環器系ですね。その外にもあるようですけど、ここでは血液の流れについて少し説明します……」


 全身から心臓に流れ込んだ血液は肺に送られる。肺から戻ってきた血液が再び全身に送り出されるのだ。

 簡単な図を描いて説明したから分かってくれたかな?


「この血流を効果的に行うために俺達の心臓は2つのポンプがあるようなものです。心臓を2つに切り取れば分かると思いますよ。魔獣の心臓も基本的には同じものでした。ところがカテリナさんは知っているかもしれませんが俺が解剖したチラノにはもう1つ心臓が付いていたんです。この図で言うと、この位置になります。

肺から出た血管部が2つに分かれて、その吐出先は肺に流入する血管に流れ込んでいます。このおかしな心臓に魔石がありました」


「待って! それはおかしな話ね。魔獣にはこの心臓だけのはずよ。もう1つは、どこにあるの?」

「ここにあったんです。腰の位置ですから腸の中に埋もれていました。切り開いてみると俺達と構造がさほど変わりません。先ほど魔石があった心臓は、人間や獣、トカゲやカエルでさえ持っていない構造です。一番近い形は魚の心臓ですね」


 カテリナさんがソファーに体を預けながら、タバコ取り出して火を点ける。

 天井に向かって煙を出しているけど、頭の中では思考が渦巻いているに違いない。


 温くなったコーヒーを一口飲んだところで、俺もタバコに火を点けた。

 カテリナさんはしばらくは思考の海を泳いでいるだろう。


「やはり、この系統樹には当てはまらないという事かしら?」

「作られた生物という考えが、正しいかと……。とはいえ、たまたま奇形種を解剖したということになるかもしれませんから、魔獣狩りを名目に数頭解剖してみるつもりです」


 それにしても心臓が2つあったとはなぁ。位置的に見れば肺を使った呼吸で魔気を血液に取り入れ、バイパス装置的な循環器を付属させることによって魔石を作ったということになるんだろう。

 


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